魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
帰り道を歩いていく間、一実は心の中を整理していた。魔法少女というヒーローになるのに、動機なんて関係ない。流された結果でも、自分の欲望を満たすための選択だったとしても、それで人が助けられるかがすべてなのだ。
彼女は、自分の中の理想のヒーロー像に囚われ過ぎていたと反省する。清廉潔白で、無欲で、自分のすべてを他人に捧げるような人間なんて、それこそ夢物語だ。しかし、そうではないと言っていたシンセリーも、一実にとっては人生を照らしてくれたヒーローであるという事実に揺るぎはない。だとしたら、自分が完璧でなくても、動機が自分のためのものであろうと『なれる』余地はあるはずだ。シンセリーがそうしてくれたように、誰かの道を照らせるような存在に……。
ならば、なりたい。一実は強くそう思った。正確にはそう願っている自分を受け入れることができた。
周りの願い、悠夜の未来、シンセリーの隣にいられるかもしれないという期待。彼女を魔法少女にするように背中を押す理由はいろいろある。
でも、最後に道を決めさせるのは、この願いだ。一実の中にはそんな確信があった。そうあるなら、こんな出来の悪い自分でも憧れる存在になれるかもしれないとも。
このときの一実は、熱い決意を抱いていたのだった……。
「お父さんたちにどう話そう……」
家までの道が残り半分になったぐらいのとき、一実が抱いた熱い決意は冷えて、しぼみ始めていた。
両親をどう説得するのか、悩んでいる。さすがに親にまで秘密にして魔法少女をやれるような器用さも、そうできるような図太さも彼女にはなかった。
「うう……お腹がキリキリする……」
常識の外にいる化け物と戦う存在になるための最初の関門は、親と向き合うことになりそうだった。想像の及ばない強大な脅威よりも、もっと身近な存在の方が恐ろしいということはままあることだろう。
彼女が直面している現実とはそういうものだった。
※
「ただいま~」
「おかえり、一実。友達んちはどうだった」
「え!?う、うん!めっちゃ楽しかったよ。永見さんとも仲良くなれたし……!」
「……一実、何かあった?ひょっとしていきなりケンカしちゃったとか?」
「いやいや、そんなことないって……」
親のことを考えながらの緊張状態に陥っていた一実は、出迎えた母相手に敵を前にしたような状態になってしまう。おかげであらぬ疑いをかけられてしまう始末だった。
「そう……じゃあ、どんなこと話したの?」
「うん……勇者と魔法少女の話……あ……」
一実は魔法少女という名前を聞いた瞬間、母の顔が強張るのを見た。デリケートな話題だったと何か取り繕おうとしたが、変に反応するのもまた不自然に思えて、いい言葉が見つからない。
「そう……いい“マニア”友達が見つかったみたいね」
母は、すぐに表情を緩ませて笑った。しかし、一実自身は気が気ではなかった。母の強調したマニアという言葉に、あなたはマニア以外にはならないわよね、そんなニュアンスを感じ取ってしまったからだ。
「うん、ホントそんな感じ……」
「ご飯できてるから着替える前にもう食べちゃいなさい」
「うん」
母の指示を受けて、一実はそのままリビングの食卓へと向かう。居間にはすでに父がいて、母としたのと似たようなやり取りをすることになった。
抱いた決意と、家族に話さなければならないこと。その2つが吹き飛ぶような緊張に包まれながら、一実は夕飯を食べることになった。そんな彼女の気分を感じ取ったのか、いつもより会話の少ない夕飯になってしまった。
※
「ああ~~!!」
結局一実は、夕食中何も言い出すことができず、自室に戻ってしまった。
「こんな初歩的なことでつまずくんじゃ、魔法少女なんて……」
自分への失望に近い感情が胸を包んで、彼女の気分を沈ませた。それと一緒に、彼女は身体をベッドに沈み込ませる。
(これじゃいつもと変わらないよ)
これまで彼女は、幾度となく自分を変えようと『決意』してきた。それでも、結局目の前の現実を処理しきれなくなって、昨日の自分から成長できないなとがっかりした経験が幾度もある。シンセリーに待っているとまで言われたのに、今回もそれと同じなのか。
「…………」
彼女はいつものように力をもらおうと、視線をマットレスから壁に向けた。しかし、そのときに彼女の目に留まったのは、シンセリーではなかった。
「約束……したもんね……」
目に入ったのは、あの男の子の絵。これからもがんばって、という言葉とともに贈られた、彼女自身が頑張った証……。それは彼女にとって、生涯の宝になるように思うほど大事な品だった。壁に貼るために画びょうを通すことも、テープで貼り付けることもはばかられて、使っていなかったマグネットボードを引っ張り出して壁に飾っている。後でこっそりと額縁を買い、それに入れて飾っておこうと目論んでいるほどだった。
あの子とのやり取りを思い出したとき、一実の中に恐怖にも似た使命感が湧き上がってきた。あの子が一実を見たときのキラキラした目。きっと彼女がシンセリーに向けたものと同じものだろう。それを裏切るというのか? 彼女には想像できる。裏切られたときの彼の絶望を。しかも、彼はヒーローという存在に勝手な幻想を抱いているわけではない。
一実は、彼の声援に応えてしまった。それは、その場を波風立てずに切り抜けたいという思いも含まれていたが、その思いに応えたいと考えていたこともまた事実だった。それを裏切ってしまったなら、どれだけ幼い心を傷つけてしまうだろうか? 逆に、約束を果たせたならどれだけの光を浴びてもらえるだろうか?
未来の想像が彼女の心を押し上げて、彼女を奮起させる。
“ガバッ!!”
彼女は跳び起きて、机に保管した『もう1枚』を取り出し、お守り代わりにして、下の階に戻った。
※
「お父さん!お母さん!話があるの!」
一実は、いまだに食卓でくつろいでいた両親に声をかけた。普段彼女が出さないような大きな声もあって、2人は驚きの視線を彼女へ向けた。
「一実、どうしたんだ?」
父は何事かと声を返してくる。母はまだ何を言うべきか分からないのか、はたまたこれから彼女が何を言うのか察していたのか、黙り込んでいた。
「私、魔法少女やりたい!……ううん、やるって決めたから!」
「なんだって!?」
「一実……!」
彼女の両親は動揺を隠せないようだった。
「そんなのダメに決まっているだろう!危険すぎる!死ぬかもしれないんだぞ!」
一実が生活の中で父に怒られることは珍しくない。今回の父はいつもより怒り……というより感情のエネルギーに満ちていた。その圧力が悪感情ではなく、彼女への心配からくる思いなことは彼女にも分かった。
「分かってる……正直怖いとも思ってるよ。でも、それでもやりたいの!!」
だからこそ彼女は、怯むことなく話し続ける。自分の死の恐怖、他者の命を背負う責任……それらは確かに重い。でも、それでも手を伸ばしたい光が、彼女にはあった。
「いいや、お父さんは許さない!……もしも一実が怪我をしたり、下手すれば死んだりしてしまったとき、お母さんやお父さんがどれだけ悲しむと思う? 親として、子供を戦場へ送るようなことはできない。だから、止めなさい!」
父の方も退く様子はなかった。冷静に理由を並べて、一実の主張を一蹴しようとする。
「私は……」
“ビィーッ!! ビィーッ!!”
再反論を一実がしようとしたところで、リビング中に警報音が鳴り響く。それはほかでもない鋼魔の出現を知らせるもので、2人は口論を中断せざるを得なくなった。
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