魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
「また2体……今度は同じ場所……」
一実は自分のスマホを取り出して、通知された内容を確認する。今回の避難指示範囲はこの家から遠く、何か身構える必要はなさそうだった。
「とにかく、魔法少女になんてなっちゃダメだ。今だってシンセリーがいるし、新しくなるのだって一実でなくたっていいはずだ!」
「私じゃなきゃダメなの!」
「なんでなんだ!」
一実は、父の言い分のすべてに逐一反論できた。シンセリーは、星原翼は碧乃一実を待っていると言ってくれた。あの子どもと約束したのも彼女だ。そして、勇者には彼女しかいない。
「他人との約束なんてどうだっていいだろう! それに勇者って言ったって、たかがロボットじゃないか! 物が壊れたところで気にすることじゃない!!」
「あの人には心がある! 人間と同じ!」
「何を言ってるんだ! 変身して変になったのかっ!?」
「あなた!?」
やはり、父には一実の勇者に対する考えは受け入れてもらえなかった。それでも今は、魔法少女になるということだけ認めてもらえればいいと、彼女は話題を絞った。
一実と父の口論はヒートアップしていき、母がいさめに入るほどになった。
「正直に言えばなぁ……心配なんだよ。お前は、ここまで育つまでに、つまずいてしまうことも多かった。他の子と比べても出来がいいとは言えない……!」
「ちょっと、そんなこと言わなくてもいいでしょ!」
「いいや、大事なことだ。だから最後まで言わせてもらう! ……正直、お前に魔法少女なんて大役が務まるとは思えない! お前は、ただ生きていくだけでも他人を頼らないといけない。そんな奴が、他人様を助けられるわけがない!」
「あなた、もうやめて!!」
「……!?」
ついに、言われてしまった。それが決定的な言葉の刃になってしまうと思ったのか、母は声を張り上げて止める。しかし、最後まで言い切る覚悟を決めた父は止まらない。
父も母も、一実に優しかった。正直、出来がいいとは言えない彼女を、よくも根気強く見てくれたと、彼女自身考えていた。
だからこそ、彼女には劣等感があった。人と人は、助け合って生きるものだと考えている。しかし、彼女は助けられるばかりで、助ける側になれたことがない。一実は、そんな自分が嫌いだった。助けてくれる両親や、周りの人間が大好きだからこそ、恩を返せないことが歯がゆかった。
そんな自分は生きていく価値がないとすら考えてしまうこともあった。
「だからだよ!!!」
一実は涙を流しながら絶叫した。
「私、わたしは、助けられてばっかりで、みんなに迷惑かけてばっかりで……申し訳ないって思ってた」
「一実……」
言った側だった父も、彼女がそこまで思い詰めているとは考えておらず、気勢をそがれてしまう。
「だから、誰かの役に立ちたいの! 誰かに私がいてくれてよかったって思ってもらいたいの!」
マイナスだけを生み続ける存在。それが碧乃一実という人間……自分のことをそう考えてしまったからこそ、彼女は憧れた。他者にプラスを与え続ける存在……魔法少女に憧れた。その存在が、彼女が世界に開けてしまった穴を埋めてくれるような気がした。
「だから、私は魔法少女になりたい! お母さんとお父さん、他のみんなに助けてもらった恩を返すために!」
「一実……!」
「一実……」
父は、彼女が背負い込んでいるものに動揺し、母は自分たちの想いを受け止めた娘の姿に言葉を失っていた。
「やりたいから、やるの!」
求められている、自分にしか救えない人がいる、才能があると言われた。魔法少女になる理由はいろいろある。それでも彼女が今日まで覚悟を決められなかったのは、自分という存在の身の程を誰よりも低く見積もっているからだ。その感覚が、彼女を後ろ向きの方向に押し出してしまっていた。
しかし今日、やっとできた友人から、ヒーローになりたいと思う意思を肯定してもらった。重要なのは完璧さではなく、人を助けられた結果だと教えてくれた。そしてこの手の中にある贈り物、1人でも人を助けられたという証……ここまでくればもう、なるしかない。なりたいという思いを止められない。
「これは私の人生をかけた夢なの! ……だから、やらせてください!」
そう言って一実は頭を下げた。これまで、夢という夢を持つことができていなかった彼女。今は身を焦がすほどに、この夢へ進みたいと願っている。だから彼女は一歩も退かなかった。
「一実……」
父もそこまで言われて動揺する。これまでこのように叱ったとき、娘は反抗することなく言うことを聞いてきた。こんなふうに力強く反論されたことは初めてだった。
少しの時間、沈黙が流れていく。
“ピロンピロン♪”
それを終わらせたのは、一実のスマホの着信音だった。
「OIDOからだ……」
一実は着信先を見て、一瞬だけ父に目配せしてから、電話を取る。父が了承したかは気にしていなかった。
「もしもし……」
『碧乃一実さんですね。OIDO日本支部の岩崎です……』
「岩崎司令ですか……!?」
「えっ……?」
電話の相手が分かって、両親も動揺する。
『時間がありませんので、単刀直入に言います。3体目の鋼魔が出現しました。このままではシンセリーが危ない……急ですが、あなたに現場へ向かってほしいのです』
「シンセリーが……」
一実も、3対1なら、確かに最強のシンセリーでも数の優位に押されることがあるかもしれないと思った。
『あなたが戦う必要はありません。現場に向かってさえくれれば、ノクストスが参戦できるようになります。それだけでもシンセリーたちの助けになるのです。だから、お願いします!』
「……分かりました。行きます……!」
(いるだけでいいなら、さすがの私でもできる! ……はず)
本当に急な話だったが、シンセリーが傷ついているかもしれない。その言葉は、彼女の心を奮い立たせるには十分な理由だった。愛する存在のため、瞬時に覚悟を決めた一実は、どこにどうやって行けばいいかを聞こうとしたが……。
「ダメだっ!」
「お父さんっ!?」
そんな大声と一緒に、父は娘のスマホを奪い取った。そしてその勢いのまま、マイクへ怒鳴る。
「娘は行かせない! 魔法少女にもさせない! いいな! 大切な1人娘なんだ!」
父はこれまで見たこともない剣幕で、電話越しの相手に怒鳴っていた。それは、娘への愛ゆえの行為だったのかもしれない。
「ごめんなさい、お父さん。私、行ってくる!」
父がスマホに夢中になっている間に決心した彼女は、踵を返して玄関へ駆け出した。
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