魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
『シンセリー!このままじゃまずい!……こうなったら俺のリミッターを外して……』
「ダメッ!……まだ、何か……何か方法があるはず……」
シンセリーとエクスマインは、双方動けない状態でエネルギーを削られ続けるというピンチに陥っていた。そんな中エクスマインは、自身のリミッターを外して状況を打開することを提案する。
魔法と科学、2つの技術体系の結晶と言える勇者は、その気になれば鋼魔を瞬時に制圧しうる火力を行使可能であった。しかし、それでは人命救助という本懐が果たせなくなるため、それを解放する状況は限られている。
しかし、自身の命を守るため、あるいはさらなる脅威の出現を防ぐためなら、その解放を選択できる裁量が魔法少女には与えられている。管制室の指示を仰ぐこともできないこの状況……理屈で考えれば、それもやむなしと思える。しかし、シンセリーはそれを選択しない。
(分かってる……ここでもし私が死んだり、こいつらを逃してしまうようなことがあればもっとたくさんの人たちの命が危なくなってしまう。……でも、でも……!)
“バリバリバシュシュッ!”
“ガシュンガシュン!”
シンセリーは、バリアを張ってガルナーガの電撃とフェレンゼルの突撃、二重の攻撃に耐えながら葛藤していた。電撃は継続的に、彼女の周りを跳ね回るフェレンゼルの突撃は波状攻撃の圧力を与えてくる。魔力障壁によって直接的なダメージは防げても、彼女の受ける負荷は相当なものだった。彼女のような特に優秀な魔法少女でなければ、すでに押しつぶされているかもしれない。それでも彼女は必死に耐えて考えていた。鋼魔に取り込まれている人々を犠牲にせずに、この状況を打開する方法を。
彼女は賢い人間だ。だから、自分が切り捨てないことが生むリスクを理解している。彼女は優しい人間である。だから、簡単に人の命を奪うような真似はできない。誰かが殺されてしまうこと。それを何よりも忌避していることが、彼女が今まで魔法少女を続けてきた理由だった。
しかし、彼女の数年にわたる戦いの中では、救えなかったものも多くある。すべてを救うことは、魔法少女だとしてもできない。ならば、救えるものを確実に守るための選択をしなければならない。彼女の理性がそう叫び、その心は激しい葛藤によって軋む。
(私が倒れたら、この国を守る人がいなくなってしまう……!)
日本という国にとって、シンセリーが最後の砦だった。その事実が彼女に安易な選択を許さない。
吸収された人々を見捨てるしかないのか……そんな選択にシンセリーの心が傾きかけていたその時。
(これは……!?)
“ドシュン!!”
シンセリーが後方から近づいてくる大きな魔力を感知した直後、彼女の正面にピンクの閃光が弾けた。それは近くにいたフェレンゼルごと、ガルナーガの触手たちを吹き飛ばしたのである。
「何!?……!?」
シンセリーが目の前で起こっていることを理解する前に、彼女の頭の中にエクスマインの目撃したビジョンが飛び込んでくる。それは、現れた黒い影がオーバグルを吹き飛ばす光景だった。パートナーの心はその影の正体を察知して、ひどく揺れているようだった。
(まさか……ノクストス!? ということは……さっきの魔法攻撃は……)
鋼魔を退かせるほどの性能をノクストスが発揮しているということは、魔法少女とともに戦っているということだ。
「シンセリー、無事ですか?」
シンセリーは背後に気配を感じて振り返る。そこには……青白い顔の女の子がいた。
「け……けがとか、あ、ありませんか!?……おえっ……おっぷ……」
心配する言葉をかけてくるその少女を見たシンセリーは、それはこっちの台詞だ、と言いかけてしまった。本来なら、その少女が着ているピンクのドレスが目に入るはずが、今にも嘔吐しそうになっている顔が印象に残ってしまった。
「み、碧乃さん?ど、どうして!?」
シンセリーは、敵の目の前だということを忘れてしまうほど、この状況が分からなくなった。その経緯は分からないが、自分のピンチに碧乃一実とノクストスが助けに来てくれたのだろうということは分かる。しかし、助けに来た相手の方が死にそうになっているのはどういうことなのだろうか?
「シンセリー!……大丈夫か!?……一旦距離を取るぞ!」
大混乱のシンセリーを、こちらにジャンプしてきたエクスマインの声が現実に引き戻す。
「……マーシー、シンセリー……目を閉じて!」
エクスマインのすぐ後ろには、それに追従するノクストスがいた。
「うっ……」
「碧乃さん!目を閉じて……!?」
ノクストスは、腰に携えている2本のうち、刀の一振りを構える。シンセリーは彼が何をしようとしているか理解できたが、気分の悪そうな碧乃一実はうまく対応できていなさそうだったので、覆いかぶさるように庇った。
瞼を閉じて、顔を伏せても感じてしまうような閃光が発生したことを、2人の少女は感じた。
「ガァァァアアアッ!!」
「ギャァァァアアアッス!」
呻くような鳴き声が聞こえてくる。ノクストスは光魔法を利用した攪乱が得意だったと、シンセリーは記憶している。彼女はそれが成功したのだと察した。
「行くぞっ!」
「うんっ!」
「少し、揺れるよ!」
「わ、分かった……」
2人の勇者は、各々のパートナーをスマートに抱き上げて、鋼魔たちから距離を取る方向へ飛び去った。
※
移動した4人は鋼魔たちの位置からそれなりに離れたビルの影に身を隠していた。
「よし……しばらくは大丈夫そうだ……欺瞞用のフィールドを張ってるけど、あの蛇型が厄介だ……長くはもたないだろうね……」
通信が途絶していたことで、ここに到着した時点でのノクストスはガルナーガに関する情報を得られていなかったが、エクスマインとのデータリンクで大枠を理解することができた。そこから隠蔽用のフィールドを張っても、張り巡らされた触手の結界によって、長く身を隠すことはできないだろうと推測することができた。
そんな中、とりあえずシンセリーの救出に成功した碧乃一実、改めマーシー・リブラは、たった1つのことを考えていた。
(吐きたくない!吐きたくない!……シンセリーの前でやることが、いきなりのゲーとか絶対あり得ないからっ!)
マーシーは込み上げる吐き気を必死に抑えていた。吐いているところを他人に見られたところで、それだけならまだしも、相手がシンセリーなら話は別だ。しかも今の自分は曲がりなりにも魔法少女姿だ。せっかく憧れのヒーローの隣にいられるのに、やることが這いつくばって吐くことだなんて、死んでも受け入れられない。
正直、戦場で考えることではなかったが、そんなことしか考えられなくなるほどマーシーは追い詰められているのであった。
「ノクストス……ごめん、なさい……やっぱり私、しばらく動けそうにない……」
四つん這いになった状態で、意地で嘔吐感を呑み込んだマーシーは、なんとかその言葉を言った。
「うん。君のことは、僕が何があっても守るから、ゆっくり休んで。さっきの牽制の一撃、すごかったよ。あとは、僕の役目だ」
「ちょっとっ……どういうことか、さすがに説明してくれない……?あなたたちが来たこともそうだし、碧乃さんのこの状態も……」
マーシーとノクストスが自分たちを助けに来てくれたのだとやんわり察することができたが、感謝よりも先にマーシーへの心配や、困惑が先に来てしまっていた。
「端的に言うと、2人のピンチを受けて、日本支部から、ここにいるマーシーに救援要請が入ったんだ。それを承諾した彼女は“僕という戦力”をここに届けてくれたんだ」
「い、いきなり……!? 碧乃さんはそれでよかったの?」
「はい、たまたまですけど魔法少女になろうって決めたところだったんです。あなたみたいな誰かを助ける存在になりたいから……」
シンセリーは自分のために無理やり来させられたのではと心配したが、マーシーは明確に自分の意思だと否定した。
「それで調子に乗ってノクストスにスピード出してもらったら、このざまですよ……ふふ……でも間に合って本当によかった」
彼女はグロッキーになりながらも、顔を上げて笑ってみせた。
「碧乃さん……ううん、マーシー……私、あなたに助けられたんだ……」
マーシーの様子を見て、シンセリーは自分がやるべきことを悟った。
「今度は私の番だね。マーシーはここで休んでて……」
マーシーは小さくうなずいて、言われたことの意味を噛みしめた。
「ノクストス、戦力として当てにさせてもらうけど、あなたの本懐はマーシーを守ることだって忘れないで。いざってときはそれを最優先しないとだよ」
ノクストスはシンセリーが言外で伝えていることを理解し、深くうなずいた。
「エクスマイン、イケるよね」
「おうよ!」
最後にシンセリーは、答えの分かり切った問答をして少し微笑んだ。
「じゃあ、反撃開始と行こう」
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