魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
リラクト・コメット、名前だけならマーシーも知っていた。魔法少女が自分の固有魔法を使うために、ステッキを変化させた武器である。ちょうど、シンセリーが使っている弓がそれにあたる。魔法少女にとって、必殺技ともいえる固有魔法。それが使えれば、マーシーの魔法少女としての戦闘力は飛躍的に向上することになる。
「マーシー、僕が躱して持ちこたえるから、焦らずにイメージするんだ!君にとっての戦いを!」
もともと持っていた知識から、マーシーのやるべきことを彼女よりも先に認識したノクストスは、自分のリソースをバリアの強化と、回避しながらの速度維持に回して、彼女が目的のものを手に入れるのを待つ。
「私にとっての戦い……」
マーシーは、指示の通りに己の心の中を見つめてみる。頭の上を稲妻がかすめていくような状況のはずなのに、なぜか彼女は落ち着くことができた。何があっても自分の勇者が守ってくれると、彼女が信頼できているからだろうか。
(私の戦い、魔法少女になりたい理由……)
マーシーは、自分の戦う理由を改めて考えてみる。それは碧乃一実が憧れた魔法少女になって、役に立てない自分から成長すること。今までどうしても破れなかった自分の殻を越え、越えられなかった壁を壊すための行動。
(……!?)
彼女の中に、イメージが浮かび上がってくる。自分の前にそびえる壁と、それを打ち壊そうと手に持った1つのハンマー。
“キーン!”
鐘が鳴るような音が、彼女の中から響く。虚空に収納されていたステッキが彼女の前に出現し、さらに光を放ちながら変形していく。
「これ、これが、私の、私の武器……!?」
マーシーは動揺してしまった。魔法少女のリラクト・コメットは、個人差があるとはいえ総じて優美かつ勇ましい造形をしている。少なくとも一実はそう思っている。
しかし、目の前にあるものはどうだ。T字型のハンマーではないか!? 武器になりそうではあるが、いささか武骨すぎる類の道具ではなかろうか。しかも問題は二重になっている。武骨で泥くさくても、岩でも砕けそうなら、それはそれでいい。結局、武器とは攻撃のための道具。強そうであることには価値がある。
だが、目の前にあるものはどうだ!? 頭の部分はひだひだになっていて、プラスチックのような安っぽい材質が使われているように見える。それは武器でも、ましてや工具でもない。おもちゃだった。“ピコピコハンマー”。それ以外に彼女のリラクト・コメットを言い表す言葉はないだろう。
柄や頭の大部分がピンク色で、全体を引き締めるように黄色いパーツがアクセントに取り付けられている。美しいでもなく、強そうでもない。ファニーとかファンキーとか、そう言うべき見た目をしている。
はっきり言ってがっかりだと、彼女は自分のセンスに幻滅した。
「あ~、ああ~、いい感じに重力で叩き潰せそうな見た目してるね!」
「~~~!?」
何かすごく言葉を選んだフォローをされて、マーシーはいっそ殺してほしいとまで思いかけた。
「…………」
その刹那、友人の顔と言葉を思い出した。
(そうだった……かっこいいとかかわいいとかを気にするのもいいけど、すべては人を助けてからだ。それができないとなんにもならない!)
「やってやる!」
(私はこのファニーでファンキーな武器で、すべての鋼魔を叩き潰してやるんだ!)
「その意気だよ、マーシー!! この先の高架下は無人地帯だ。そこに一旦叩き落とそう!」
奮起したパートナーに応えるようにノクストスは戦い方を提案する。
「わ、分かった!……多分これで叩けば、魔法が使える感じだよね?」
「じゃあ、敵に近づくのが僕の仕事だね!……ギリギリを攻めるから、バリアを全開にして僕に密着して!」
重力の魔法というのがどんなものなのかはっきりとは分からなくても、まずはこのハンマーでピコン♪とやらないと何も起きないのだろうということが、マーシーには分かった。それは魔法少女の本能のようなものだろうか。
「うん、信じる!」
マーシーは前かがみになって、ノクストスの機体を抱きしめるようにする。攻撃魔法以外ならリラクト・コメットの状態でも使えるようだ。彼女は、電磁フィールドと自らの魔力障壁、2つの障壁の中に入って、あとはパートナーにすべてを委ねた。
(私1人ならあんな怪物とは戦えないんだろうな……)
マーシーは不思議な落ち着きと安心感の中でそんなことを考えていた。
「行くよ!」
“ブォン!”
ノクストスの声と一緒に、背後で何かが爆発する音がマーシーの耳に聞こえてくる。そしてその音すら置き去りにするような速度で、彼らは敵に肉薄していく。
「ギジャァァァアアア!!」
自らの息の根を止めようとする存在を感知して、フェレンゼルは怯えるように大量の電撃を後方へ吐き出した。
“バチバチッ!バシュン!!”
「…………」
マーシーはタイトに展開されたバリアと機体の間で息をひそめるようにして、そのときを待つ。かわし切れない衝撃が感じられても、彼女は動かずにじっとしている。
ノクストスは、電撃の網目に滑り込むようにして進んでいる。マーシーには一生かかっても習得できそうにない技術だ。
(でも戦えてる……この人がいるから……)
落ちこぼれの自分でも誰かを救える存在になれる。自分の未熟さを補ってくれる存在がいる。そんな自信につながる安心感を、彼女は肌に触れる機体の感触から得ていた。それは金属のはずなのに、人肌のような柔らかさを持っているような気がする。
(だから、私もできることをやるんだ!)
決意とともに、マーシーがハンマーを握り直したとき……。
「マーシー、今だ!」
ノクストスの声でマーシーは、フェレンゼルの胴体が手の届くほど近くにあることを認識する。
「ええい!」
電撃を恐れずに腕を伸ばし、すぐ右にあるその白い身体に鉄槌を下……
“パコン♪”
すことはできず、ファニーでファンキーな効果音がマーシーの腕を伝ってきた。極限状況で引き延ばされた時間感覚の中で、彼女が最初に感じたことはそれだけだった。打撃そのものが鋼魔を潰したり、傷つけたりはしなかった。
(やっぱり、私じゃダメなの……?)
そんな絶望が一実の胸の中で湧き上がろうとしていたとき……。
“ガリガリッ!ドドドドドッ!”
何かが落ちる音と衝撃が、マーシーの足元から伝わってきた。それと同時にフェレンゼルの身体が、吹き上がった土煙の中に消えた。
「え!?」
それはマーシー本人が起こした現象だったが、煙で見えなくなる視界、鳴り続ける地響き、そして何かが焦げる臭い。様々な情報が彼女の五感を覆っていたので、状況がつかめなかった。
(ああ、うまくいったんだ)
しかし、一瞬遅れてマーシーは確信を抱く。何かが見えたりしたわけではない。ただ、今の彼女の情報源は己の感覚だけではなかった。
「成功だ!マーシー!凄いよ!」
ノクストスの声が聞こえる。マーシーは、彼がそう思ってくれているということを、声を聞く前から分かっていた。あるいは、その声すらも実際には耳に入っていないのかもしれなかった。ノクストスに備えられた様々なセンサーで得られる情報が、精神リンクを通して彼女に伝わってきていたからだ。
(以心伝心ってこういうことかな?)
マーシーはそんなことを呑気に思えるほどの勝利の確信を得られていた。
フェレンゼルは、高速移動の慣性と、普通の重力に加え、第3の力であるマーシーの作り出した斜め方向にかかる強力な重力によって、高速道路にめり込み、路面を削り取りながら高架下へ落ちていったのだった。
「すごい……下についても抑え続けてる……!大丈夫、疲れてない?」
「……!なんか、そう言われると、現在進行形で力が抜けていってるような……でも、我慢しちゃいけないよね?止めると逃げられちゃうし……」
作戦通り、敵を下に落とすことに成功した2人は足を止めて、状況を分析する。
土煙が収まっても、街灯の光が届かない高架下は夜の闇に包まれている。変身の効果で多少視覚が強化されているとはいえ、人間であるマーシーでは見ることができない。しかし、自分から放出される力が敵の存在を捉えていることが、彼女には体感的に分かった。それは具体的に言葉で言い表すことの難しい、未知の感覚だった。それゆえの疲労感も蓄積しているが、逃がすわけにはいかない。そう思った彼女は、正解かは分からないが、魔法が止まらないように力の放出を止めないようにする。
「もう少しだけ耐えてくれ、マーシー。僕が拘束を変わろう。変形するから降りて」
“ウィーン!”
マーシーは魔法が途切れないように気を張りながら、巡航形態のノクストスから降りた。
「ソルガクス!」
ノクストスがそんな呪文を唱えると、掲げた刀から、辺りを照らすほど眩しい小さな太陽のようなものが出現する。
「すごい……眩しい!」
マーシーがそう反射的に言ってしまうほど眩しいが、逆にはるか下の高架下まで照らせるようになっている。
「グゥ……」
「見えた……!」
そこには、小さなクレーターの中に横倒しになってうめき声を上げるフェレンゼルがいた。ビクビクと四肢をもがくように動かしているが、どうにも立ち上がれていないようだ。
「次はこれだ!【影縫い】アンブラキュス!」
先ほどとは別の黒い刀を取り出し、呪文とともに振り下ろす。そこに宿った黒いオーラが、針状になって飛んでいく。
“ガガガッ!”
複数の針がフェレンゼルの影にまんべんなく刺さる。横倒しになっているとはいえ、もともとの肩幅が大きいのでその影は長く広い。マーシーからでも、黒く光るという異様な様子の針がその影を捉えたのが見えた。
「……っ!? ……っ!?」
その瞬間、フェレンゼルは身じろぎすらできなくなる。
「よし、もういいよ」
「……ッ!?ふーっ!?……すごい……忍者っぽい技!……うっ……くぅ……」
マーシーは全身の力を抜いて、重力干渉を解除する。ただ、緊張が緩んだことで意識していなかった疲労感が一挙に襲ってくる。彼女は膝を折って、腕で何とか身体を支える。
「……っ!? 大丈夫?……強力な魔法だからやっぱりエネルギーの消費も激しいのか……ただ、もうひと絞りがんばれる?」
ノクストスは一瞬焦るが、ダメージではないと分かって、“もうひと頑張り”を彼女に求める。
「うん!分かってる!……ここからが魔法少女の本番だもんね!」
ノクストスが厳しいことを言う理由が分かるマーシーは、膝を叩いて立ち上がり、ハンマーからちょうど戻ったステッキを構える。
「全部……吐き出せーーっ!」
それは自分への言葉であり、鋼魔への言葉でもあった。彼女は、そうしなければいけないという自分の中の使命感をエネルギーに変えて打ち出す。
“ゴゴッ、ゴゴゴゴーーーッ!”
ステッキのシンボルの先で魔法陣が展開し、ピンク色の光の束が噴出してくる。デカい的は動いていない。これで当てられなければ自分は無能だ。そんな思いで自分を追い詰め、彼女は攻撃を敵へ届ける。エネルギーを通して、手応えを感じる。だが、まだ足りない。敵の命を削り切るには……。
「頑張れ……マーシー……!」
「うん……!」
限界の近づくマーシーに、ノクストスは声援をかける。
魔法少女の本懐は人命救助であり、それをなすことこそ、碧乃一実のやりたいことなのだ。だから、多少無理をする。1分1秒が取り込まれている人の生死にかかわるから、ノクストスは休めとは言わない。自分自身もそうありたいと願っている。その願いに共鳴したからこそ、彼はこの無茶に付き合ってくれている。
(今度は私が答える番だ)
敵を倒し、求めているヒーローに近づく。その意思のもと1つになった心が、マーシーに限界を超えた力を与えた。
「うおぉぉぉ……!!」
力む声と一緒に、魔力砲が何倍にも太くなる。
“ドンッ!”
完全にフェレンゼルの肉体が崩壊し、蓄積した魔力エネルギーが爆発する。腹に響くような衝撃が、空気を介して伝わってくる。
「やっ……!」
“キューッ……ドゥーーーム!!!”
今度こそつかんだ勝利の確信。それに釣られてマーシーが声を上げようとしたとき、それをかき消す閃光が爆ぜた。
「何!?」
「あれは……!?」
閃光から少し遅れて、轟音と衝撃が2人の全身を襲う。
「何が……起こってるの?……!?」
そのとき彼女が見たのは遠方……シンセリーたちがいるであろう摩天楼から天へと伸びる光の柱。その鮮烈な白い光は、夜の闇に隠れていた雲をあらわにして、空を青く染める。“夜中の夜明け”、そんな不吉な形容詞が浮かんでくるような異様な景色……。
「2人は!?」
とんでもないことが起こっているその間近にいるシンセリーは、エクスマインは無事なのか?マーシーは心臓を掴まれるような不安に襲われる。
「大丈夫……あれは“2人”の攻撃だ……」
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