魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
「あれを……2人が?」
マーシーはノクストスの言うことをすぐには信じられなかった。その光柱は、上方向へ流れているようだった。彼女はそれに、ただただ圧倒されていた。彼女は無自覚ながら、魔力というものを五感に続く第六感として感知できるようになり始めていた。だからこそ、目の前で起こっている事象の壮大さが、嫌でも分かってしまう。
魔法少女が常識を超えた力を持っていることは、現在進行形でマーシーが体感していることだった。しかし、その事象が2つの人型の存在によって起こされているとは思えなかった。
「あれは、テラ・ドミネイター・ノヴァだね」
「テラ・ドミネイター・ノヴァ!?……都市伝説じゃなかったんだ」
あの事象を起こした攻撃の名前を、ノクストスはマーシーに教える。『テラ・ドミネイター・ノヴァ』。彼女も名前だけは知っていた存在だ。エクスマインの十八番ともいえる必殺技『テラ・ドミネイター』は使用頻度も多く、知名度も高い。ただ、テラ・ドミネイターには使用頻度が少なく、実在性すら疑われている上位技が存在しているという話があった。
映像などもないため、眉唾物のほら話とマーシーは考えていたが、どうやら実在する技らしかった。
「さぁ、こっちも残った仕事を終わらせよう!」
光柱が消えるか消えないかのタイミングで、ノクストスがマーシーの意識を目の前のことに引き戻す。
「う、うん」
夜空を明るく染めるほどの光。その幻想的な光景と、感覚で捉えた目の前の出来事の壮大さに圧倒されて、彼女は呆けかけていた。しかし、救うべき人たちのことを思い出し、我に返る。
幸いにも、討伐も分離も成功しているようだった。
クレーターの中心に核があり、その周りに分離された人々が円状に倒れていた。
「ゼロ化しないとだけど、魔力は足りそう?」
「うん、絞り出してみる!」
「じゃあ、行こう……!」
ノクストスはマーシーをお姫様抱っこで抱き上げて高架下に降りる。
「…………」
(近くで見ると、ますますかっこいいな……)
こんなときに考えることではないと自分でも思ったが、マーシーは直感的にそう思ってしまった。人の顔の美醜の基準も人それぞれなのだから、ロボットの頭部のかっこよさなど、個人の主観でしかないのだろうが、マーシー本人がそう思ったことは確かだった。ノクストスの頭部パーツには、縁取りのように光る線が各所に走っていた。それは白く、鋭角的で、シャープとかスマートとかいうような印象をマーシーに与えていた。直線的で武骨なシルエットの顔つきよりも、彼女にとって好みの雰囲気だった。
「よっ……!」
そんな大量の思考が、彼女の脳内で走り抜ける間にノクストスはふんわり優しく着地した。
「じゃあ、行くよ!……プラッテ・アドハック・アクア」
マーシーはゼロ化の呪文を諳んじられるか不安であったが、ノクストスが補助的に思い浮かべてくれていた。マーシーは、自分が魔法少女として振る舞うには、運動神経や精神状態だけではなく、思考の面でもノクストスの存在が不可欠だと再認識させられる。
“キィーーーン!!”
核が光った後、マーシーが核に感じていた邪気が消えていることに気づいた。
「成功だね……おっと……!」
「今度は寝ないよ……!」
ゼロ化が終わったことを告げられたとき、マーシーはふらついてしまった。しかし初陣のときと違い、ノクストスが受け止めてくれたし、彼女自身も倒れまいと踏ん張った。
「すごいよ……また成し遂げたね!」
「えへへ……!シンセリーの役に立てたかな……」
もともとシンセリーを助けに来た彼女にとって、その評価は気になるところであった。
「褒めてあげたいけど、そうはいかないかな……」
突然、空の方からシンセリーの声が聞こえた。
「シンセリー、エクスマイン!」
マーシーに向けてかけられた言葉は不穏だったが、それを差し引いても視界に入ったシンセリーの姿は、彼女のことを心底安心させた。
「……とりあえず、こっちの仕事は熟した。あなたの方も……大丈夫みたいだね」
シンセリーは下に降りながら、手に持った2つの核を掲げて見せる。
「シンセリーも無事でよかったです!」
全身に強い倦怠感がのしかかっていたマーシーだったが、シンセリーに関することなら、軽々しく限界を超えることができる。彼女は無意識のうちに、ふらふらと憧れの人の方へ近寄っていく。
それを、シンセリーは……
「調子に乗らないで……」
“パチンッ!”
「痛っ!」
……デコピンで迎えた。そこまで強いものではなく、おでこが赤くなる程度のものだったが、その小さな拒絶はマーシーの精神に壮絶なダメージを与えてしまった。
(……え?…………え?)
マーシーはおでこを抑えて呆然としてしまう。
「今回の判断は結果的に間違っていなかったかもしれない。でも、あなたは全くと言っていいほど訓練もしてないし、経験もない。成功する確率はすごく低かった」
感情のこもっていないクールな声で、シンセリーはこんこんと言葉を紡いで説く。
「あなたのため、助けるべき命のため、一瞬立ち止まって考える時間を持つことは、無駄じゃないと思う。意思疎通とかをやっておく時間を持っておくことも大切だと思う」
精神的動揺が大きいマーシーは、シンセリーの言っていることの半分も汲み取れていない気がしていた。後先考えず突っ込むな、相談しろ!ということだろうか?
しかし、そんな彼女に残った思考まで吹き飛ばすほどの衝撃の出来事が襲った。
“スッ…………ポフッ!”
「…………??????????」
マーシーの首から背中にかけてと顔先に、何か温かいものがあたり、そのぬくもりは彼女の全身へ広がっていった。
あまりの出来事に、自分がシンセリーに抱きしめられていると認識するのに数秒を要した。そしてその後の数秒間、引き伸ばされた彼女の時間感覚の中で壮絶な戦いが巻き起こった。
強く強く、抱きしめ返したい! 顔を強く押し付けて、その匂いを肺いっぱいに吸い込みたい! その柔肌の感触を堪能したい! そんなエロスと言って差し支えない下劣な愛着と、シンセリーという愛する存在をそんな下品な欲求の中にさらすことを許さない純粋なアガペーが、彼女の中で殴り合う壮絶な戦いが起こった!
「―――――」
結果、勝ったのはアガペー! マーシー・リブラは純粋な愛情のもと、ノーリアクションを貫いたのだった! その代わり彼女の脳は完全に焼き焦げてしまったのだが。
「助けてくれたのに、頑張ってくれたのに、こんなことを言ってしまってごめんなさい。……でも、あなたが優しい人だって、素敵な魔法少女になるって嫌でも分かったから、だから死んでほしくないって思ったの。他人を大切にできるあなたは、同じくらい自分のことも大切にしてほしい」
耳元で語りかけてくるシンセリーの声は、教えを説くようなものから、願い請うような切実なものに変わっていた。
「私は、鋼魔に人間が殺されるのが嫌で魔法少女をやってるの。それは同じ魔法少女の仲間でも変わらない。だから、お願い……」
いつの間にかマーシーの頬には涙が流れていた。それは後から後から勢いを増しながら流れていき、やがて声も漏れるようになっていく。
「う、うぅ……ごめ、ん……なさい、ごめんなさい。シンセリー……私……わたしぃ……」
脅威が去った安堵、なりたいものになってやりたいことができた達成感、シンセリーに抱かれている多幸感……そして、そんなシンセリーを心配させてしまった罪悪感。それでも湧き上がってくる、仲間扱いしてもらえた喜び……これまでの人生で感じたあらゆる感情がごちゃ混ぜになって一気に溢れてきたような激情にかられ、とめどなく涙を流してしまう。
「こちらこそ、ごめんなさい……。そしてありがとう、助けに来てくれて、前と同じようにあなたが来てくれたおかげで、私自身も助かったし、たくさんの人を助けられた……あなたはとってもすごいことをした……でもだからこそね?」
シンセリーの言ってくれた言葉。それからマーシーは自分自身を見つめ直す。自分自身が死ぬかもしれなかったこと、たくさんの人の命の行方が自分の行動にかかっていたこと。
振り返ってみれば、自分は薄い氷の上をどすどすと考えなしに踏んで歩いていたと気づく。それはとても恐ろしいことだ。大切な人の喪失も、自分自身の喪失も、彼女は経験したことがなかった。それでも想像することができる。それだけでも彼女の背筋を凍らせるには十分な事実だった。
(私が生きていること、勝てたこと、取り込まれた人を助けられたこと、全部奇跡なんだ……)
魔法少女になれたという“錯覚”で、ブレーキとして感じるべき恐怖が麻痺してしまっていたような気がする。マーシーはそんなふうに自分の心情を振り返る。本当はきっとそれと向き合っていなければいけないように思った。それが、シンセリーの指摘するような必要な躊躇いをもたらすものにもなるだろうと思うから。
マーシーはシンセリーが心の中に刺してきたくさびを、絶対に無くさないように深く受け入れておく。その途中で彼女の心が感じる冷たい痛みも、必要だと信じて……。
「新しい魔法少女……マーシー・リブラ、これからよろしくね!」
シンセリーは、マーシーから少し離れて、微笑みながら言った。
それがマーシーには、春の日の太陽のように感じた。だから彼女は1つ大きな深呼吸をして、答えた。
「はい!シンセリー・テルス!精一杯がんばります!」
その日、日本を守る魔法少女は2人になった。
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