魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
「ひゅー、ひゅー……!」
次の日、一実と悠夜の2人は目的地に向かって道路を走っていた。
肺から響く一実の苦しそうな息。傍から見れば、そこまで速い速度で走っているわけでも、長い距離を走っているわけでもなかった。それでも彼女はひどく追い詰められている。
土曜日、まだ涼しく、空に暗さが残る春の朝方、一実と悠夜は共にジャージ姿になって走っていた。早朝のランニング。これから空中登下校で浮いた時間を利用して毎日行うトレーニングの1つだ。今日は休日なのでこの後、学校に行くことはない。
「頑張って!もう少しだよ!」
理論に基づいたトレーニング内容、スキャン機能を用いた一実の状態確認。その2つによってこのトレーニングが適切であると分かっている悠夜は、彼女をただ元気づけるだけだった。
昨晩、ビシバシ鍛えると約束したこともあり、今の彼に甘さはなかった。
「ひゅー、ひゅー……!」
一実は声を出すこともできず、荒い息を吐いて、何とか手足を動かすことしかできない。すでに視界が白くなり始めている気がする。その中に、汗1つかかず(そういう機能はないので当たり前)、涼しい顔でこちらの様子を見ている悠夜が見える。トレードマークなのか、よくかけているサイバーグラスがよく似合っていて、憎らしいとも感じてしまう。
なぜ彼はこんなに自分を追い詰めるのか、などと彼女は考えてしまう。彼女は元来、運動神経が悪く、体力もない方だ。現に少し走っただけで疲労困憊している。
こんな調子でこれからやっていけるのかと不安になっていたところで……。
「おはよう。一実、悠夜」
「頑張ってるみたいだな!」
後ろの方から、2人に声がかかる。1つは闇夜を照らす月のようで、もう1つは今まさに高く昇っている太陽のような、聞くだけで人を元気づける声。
「かひゅ……!ひゅー!?」
「おはようございます。今日も精が出ますね」
悠夜はにこやかに追い付いてきた翼と朝陽に挨拶を返す。しかし、一実は息を吐くことしかできなかった。
「走ってたら後ろ姿が見えたから来ちゃった。……辛そうだけど大丈夫?」
「結構、マンションから離れてるが大丈夫なのか?」
今にも力尽きそうになっている一実を見て2人は心配する。
「今日から教練センターで講義が始まるから、そこに行くついでに走ってる。だから今すぐ帰るわけじゃないんだ」
「なるほど、座学が始まる大事な日なんだね。朝陽、今日は何も予定なかったよね?」
「ああ、そうだな。何かやりたいことでも思いついたか?」
「うん。どうせここまで来たし、私も一実の座学に付き合おうかなって。私ならできる補足とかアドバイスとかもあるだろうし」
「ほんとでしゅか!?」
翼の言葉を聞いた瞬間、HP1みたいな状態だった一実が明らかにしゃきっとする。その声に振り返った一実の視界に、トレーニングウェアの翼の姿が見える。
(大人っぽー!?)
出かけるときに確認した自分の姿と同じ生き物とは思えない、そんなことを思った。長い髪をポニーテールにして、ボディラインが出ている服の上にスウェットを着ている。その脚やお腹が引き締まっていて、なんというか芸術的なランニング姿だった。フォームも軽やかで、へたれかけている自分とは天地の差だ。
その隣には朝陽の姿も見える。翼と似たような服装の彼は、同じく身体のラインがよく見える服装をしているので、悠夜との違いが分かりやすい。朝陽と悠夜は同じぐらいの背をしているが、体の線が太く、朝陽の方が体格がいいという印象だ。基礎フレームは一緒だと言うが、外装の違いが反映されていたりするのだろうか?一実はそんなことを考えていた。
「え、ええ……邪魔じゃないなら付き合うよ」
「じぇ、ぜ、ぜひお願いします!」
明らかに息を吹き返した一実に困惑しつつ、翼は一実たちの目的地までついて行った。
「や、やっと着いたー……」
目的の施設に到着した一実は、ロビーにあった椅子にへたり込んだ。
「お疲れ。がんばったね」
激しく息をしている一実に、悠夜が用意していた飲み物を差し出した。
「ありが、とう……はーっ、はーっ……今、予想よりポンコツだなこいつ……って思ったでしょ……?」
「……!?」
一実が飲み物を受け取る。そのとき、汗で濡れた前髪の中から、悪戯っぽい視線が悠夜を捉えた。図星を突かれた彼は、思いがけない出来事に表情を石のように固くしてしまう。
「…………やっぱりか……でも、わたし……諦めないよ?できないなりに、やりきるから……見捨てないで、見てほしいな……んぐっ、んぐっ……!」
肉体的には限界そうに見えたが、一実は消えない闘志を示した。
「一実……」
「悠夜ってロボットなのにすぐに気持ちが顔に出ちゃうんだね。すごく分かりやすい」
「……!そ、そうだよ?それだけママの技術がすごいってことさ」
一実は言ったこととは裏腹に、自分の言葉を聞いた悠夜が一瞬顔をしかめたことには気づくことができない。
「なーに、パートナーに気を使わせてんだ。勇者ってのは、魔法少女がいつだって身を委ねられるような存在じゃなくちゃいけないんだよ!」
“ドンッ!”
フリーズしていた悠夜の背中を朝陽が叩いて再起動させる。
「朝陽、それは私とあなたの話……それを他のペアに押し付けちゃダメ。勇者と魔法少女の関係は、それぞれあっていいと思う」
さらに後ろからついてきた翼が釘を刺す。
(やっぱり2人、仲いいんだ。……私と悠夜はどんなふうになるんだろう!メリットやデメリット、利害だけじゃなくて、本当のパートナーになれたら……)
翼の言葉を聞いた一実は、ある種抽象的に2人の展望を妄想するような前向きな捉え方をした。
「なんだ?聞いていたより頭数が倍も多いじゃないか……」
「来た来た……」
一同が一息つけたところで、玄関ロビーに明らかに威圧感を感じる声が響く。それは女性的な高さを持っていたが、腹に響いてくるような重苦しさも持ち合わせている声だった。
一実は得体の知れない声に本能的な震えが来たが、翼の反応を見ると顔見知りではあるようだ。
「本当に予定にないぞ。なぜいる?」
その声は明らかに近づいてきていた。
「いえ、この子があなたの教導を受けると聞いたので、かわいい後輩がいじめられないか心配で見に来たんです」
「……!?」
翼が向き直った方向、声のした方向に一実が目を向ける。そこにはひたすら背が高い女性が、こちらを睨んでいた。
彼女は翼と会話しているはずだが、確実に一実の方に気迫のような見えない圧を送ってきて、下手なことをしないように見張っているようだった。
「これは、これは……お前もずいぶんと言うようになったじゃないか……」
銀色の長髪を伸ばしたその女性は、翼と何やら言葉で戯れているようであった。服は、一実も支給されたOIDOの制服だったが、なぜか一実にはそれが軍服を着ているように錯覚させられた。
(ひょっとして私を鍛えるのって、学校の先生とかじゃなくて、鬼軍曹な感じ!?)
一実はそんな苛烈なのはさすがに想定外だったため、1人で縮み上がってしまった。
「お前もアドバイザー役で教導に参加したいということか。まあ、よかろう。魔法少女同士にしか分からないこともあるだろうからな」
(よかった~翼さんも一緒なんだ……)
1人であの威圧感の塊のような女性に立ち向かう必要はないと、一実は内心で喜んだ。
「一実、紹介するよ。こちらOIDOのまほ……」
「魔法少女教官のミサト・ローゼリンデだ!新入り!私のことはローゼリンデ教官と呼べ!」
「…………」
「復唱しろ!碧乃一実!」
「は、はい!ローゼリンデ教官!」
急に名前を呼ばれた一実は、跳ね飛ぶようにして立ち上がり、気を付けの姿勢でローゼリンデの名を呼んだ。
「お前もだ!前園悠夜!勇者は一蓮托生だろう!」
「……!?……は、はい!」
飛んでくると思っていなかった会話のボールが飛んできて驚いた悠夜は、一実と同じような動きで姿勢を正す。
「この人はね、私を含めたアジア周辺の魔法少女を育て上げた教官だよ。怖いけど、由緒正しい魔法使いの家系の人で、従軍経験もあるから、教えるのもうまいよ。怖いけどね……」
対岸の火事として地獄へ向かう一実をほほえましそうに眺めている翼は、呑気に説明する。一実は魔法使いの家系などと気になるワードが聞こえたものの、やたら強調される“怖い”という単語で気が気ではなかった。
「本当なら学校を休学させてみっちりと扱いてやるところだが、学業と両立させるのが上層部の方針だから仕方がない。……その分、濃密な時間を過ごさせてやるから、覚悟しておけ!」
鬼教官は、声の風圧を感じるほどドスの利いた声で一実に心の準備を促す。
「……返事は!?」
「は、はい……!」
「了解です……!」
「声が小さい!」
「“はい……ッ!!”」
「了解です!!」
早くも2人は教官に主導権を握られて、威圧されるままに命令に従ってしまう。
(私、どうなっちゃうの!?……でも、わたしにはこれぐらいきついのがちょうどいいのかもな……)
キラキラした魔法少女の世界。その中にあるとは想像もしていなかった苛烈で厳しそうな世界。その中に放り込まれそうなことを恐ろしく思う一実だったが、同時に己の殻を破り切れない自分を変えるには、これくらいの荒療治が必要なのかもしれないとも、どこか冷静に考えてもいた。ただ、それで厳しさについていけるかというのは別の話であるが。
「まずは、お前のしゃばっ気の抜けてないそのへたれ根性を叩き直すために、グラウンド10周!」
「……!?」
早くも、一実の覚悟が崩れかける。肉体的にはすでに限界が近いところでそんなことをさせられると、早くも死が見える。彼女は両親との約束もあり、そのような最期はごめん被ると思っていたが……。
「と、言いたいところだが、お前は何もかもを知らなすぎる。まずは、お前の飛び込んでいく地獄についてよく知っておくんだな!」
「へ……?」
教官の声のトーンが急変して、一実は困惑してしまう。意外にも、彼女が立ち向かう最初の鍛錬は座学だった。
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