魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
今日は3話投稿します。
「はっ、はっ……!」
一実は道路の上を走っていた。ぴっちりとしたスーツを着て、ステッキだけを持ってひた走る。ボディラインの出ている服を着るというのは恥ずかしいと感じたが、今の全力疾走に比べれば些細な障害だと言えた。それに彼女には街の中を走っているように思えても、ここは実際の街ではなく、人っ子一人おらず、他人の視線を感じることはない。そんな街を一実は珍妙な格好で疾走する。
彼女は悪夢を見ているようだと感じる。街並みの中途半端な現実感と、自分の格好や天井の存在がもたらす非現実感。そもそもこの街には空さえもなかった。そこを逃げるように走る自分の姿が、いつも見る悪夢と重なった。逃れたい恐怖もちゃんと存在している。
“バシュッ!バシュッ!”
「いひぃっ……!」
熱を孕んだ衝撃と光を背後に感じる。この訓練で彼女を狙う疑似的な攻撃だ。彼女もあらかじめ喰らってみたが、痛みこそないものの痺れるような不快感が全身を襲った。間違っても進んで喰らいたいものではない。彼女の側面や後方から飛んでくる、光弾のような疑似攻撃を躱すため、身をよじったりジグザグで動いたりする。
ゴム質のウェットスーツのようなそれは魔力の通りを良くして運動機能を補助する機能があり、通気性も良く着心地もいい。さらに着用者の身体の状況をモニタリングする機能もある優れものだった。総じて、強化の倍率こそ違うものの変身している時に近い状況が再現されている。
“バキュンッ!”
「うぐぅっ!」
でたらめに動くようでは躱し切れるわけもなく、疑似攻撃は彼女に当たってしまう。
“ボンッ!”
一実は再現された視覚情報から、身体がアスファルトに当たってしまう痛みを覚悟するが、実際のところ床はクッションのように柔らかく一実を受け止めてくれた。そこはOIDOの地下施設に設けられた巨大な空間、実戦的な市街地戦の訓練を行うトレーニングルームであった。
『止まるな!碧乃!……躱せないのも致命的だが止まれば確実に死ぬぞ、動き続けることを体の芯に叩きこめ!』
「はいぃっ!」
倒れ込んだ一実にスピーカーから部屋中に響く怒号が降りかかってくる。一実という少女は、怒鳴られることに慣れていない。その圧力に、彼女の体は反射的に動いた。彼女自身もこのまま疑似攻撃に袋叩きにされたくはなく、跳ね起きて走り出す。普段の彼女ならできるはずのない運動能力。彼女はスーツ及びステッキの魔力による強化が確かに効いていると実感できた。
『躱せないなら、どこから撃ち抜かれるかを掴めるようになれ!』
「はいぃっ!」
“バシュッ!バシュッ!”
「うっ、うぐぅ……!?」
そこからの一実は、ある程度の被弾を前提に走り続けていく。回避をするには、とにもかくにもある程度攻撃方向を予測しなければいけない。音は辛うじて参考になるが、それ以上……後ろに目を付けるようなことは彼女にはできない。
(せめて、あたっちゃう前に、どこから来るか分かるようにしないと……)
しかし、彼女には疑似攻撃に帯びた魔力を感じ取る第六感がある。それを意識すれば対処できることもある。彼女は歯を食いしばって、意識を集中する。
※
「さすがに躱せるようになるにはまだかかるな……」
一実の訓練の様子を監視するモニタールームで、一実の映る画面を見つめるミサト・ローゼリンデはため息をつきながらそう言った。育ててきた魔法少女たちから鬼教官と恐れられるその女も、命じていることが無茶なことであるという認識ぐらいはある。
普通は、今一実に課しているような訓練も、段階を踏んで基礎を積ませ、身体能力と魔力に対する認識を深めてから行うものであった。
しかし今回はマーシー・リブラを最速で最低限のラインまで成長させるため、訓練内容を圧縮し、基礎訓練と実戦訓練を並行して行うことになっている。
「当たり前です。他の子がもっと順序を経てからやることをショートカットしようとしてるんです。今までみたいにいかないからって怒鳴らないでくださいよ」
同じ部屋で一実を見守っていた悠夜が釘をさす。変身すると問答無用で勇者のサポートが入り一実本人の成長度合いが分からなくなってしまう。彼女はあえて非変身状態で、勇者との隔離状態で訓練をしているのだ。
「分かっている。しかし、あいつは無理をしてでも成長を求められているんだ。圧力をかけていくしかない。お前の役割はあいつが壊れないようにサポートしてやることだ」
「…………」
壊れないように、その言葉は普通なら壊れるような負荷を一実にかけようとしていることを意味している。表面的には悠夜も理解している。魔法少女と勇者の究極の目標は、鋼魔の打倒。そのためにパートナーを傷つける必要があるとしても、それは使命にはかなうことであるし、彼女自身が望んでいることでもある。
しかし、悠夜の奥深くに刻まれた、本能とも言うべきコードがそれを拒んでもいる。使命の前に魔法少女を守ることが、勇者の行動原理とされているからだ。それは勇者の根幹である魔法術式と深く結びつくもので、気の持ちようで処理できない矛盾だった。
魔法少女として使命を果たそうとしているパートナーを応援したい、しかしそれは彼女に重大なプレッシャーをかけてしまう行為でもある。それこそ、鋼魔のような物理的な脅威ならば間に立ってかばうこともできるかもしれないが、今はそうはいかない。
ただでさえ危うい少女を実戦投入するというある種の禁忌。だからこそ通常は、長い時間をかけた準備が行われるのだが、今の彼女にも、彼女を取り巻く環境にも、それを与えてあげる余裕がない。そんな状況で自分はどうするべきなのか……。
「…………」
悠夜は自分自身も、CPUに負荷を感じながら黙ってモニターを睨んでいた。
「そう重く考えることばかりではないかもしれない」
場の暗い空気を察したのか、観測を行っている1人が口を開いた。
「どういうことです?」
悠夜が訊き返した相手は神名誠也。前回の戦いの折に通信を入れてきた男である。魔法技師長の肩書を持ち、OIDO内で扱われる魔法技術を統括する人間だ。技術屋らしい白衣を着てメガネをかけている。日本支部での科学の柱が前園真理なら、それと双璧をなす魔法の柱が彼だと言えるだろう。つまりは、神名という人間は組織の中で指折りの魔法の見識を持っているということである。
「これを見てくれ」
神名は手元のコンソールを操作して、部屋の中の大きなモニターの表示を切り替えた。
そこに表示されたのは、スーツから得られた一実の各種データである。
「軸のブレが少なくなってるな」
ミサトが注目したのは、疑似攻撃を受けたときの体幹の動きが小さくなっている点だった。
「攻撃が直撃する直前に身構えているということだろう」
「体はついてこられないけど、攻撃そのものは感知してるってことですか?」
「ああ、あいつは魔力に関する才能が特に突出している。攻撃が発生するときの魔力を感じられているんだろうな」
ミサトは、そのデータから読み取れる一実の成長を悠夜に説明した。
「ちょっとアプローチを変えてみるか……2人ともいったん止まれ!」
ミサトはトレーニングルームにいる“2人”に一時停止を指示する。それを聞いた途端床にへたり込む一実の姿がモニターに映っている。
「翼、次は攻撃のギアを上げろ」
ミサトは一実から見えない位置にいる翼に個別に連絡を入れる。一実に疑似攻撃を仕掛ける役目を担当していたのは、一実と同じスーツを着た翼だったのだ。
『いいんですか?』
今の一実は、翼からの攻撃に対応できているとは言えず、このまま攻撃を激しくしても意味がないのではと疑問を呈する。
「ああ、もちろんそのままやらせるわけじゃないさ。……碧乃!」
『は、はいぃ……!』
ミサトは続けて一実にも指示を飛ばす。開いた回線から聞こえる一実の声は、どう考えても追い詰められたものだった。
「再開したときは、走らなくていいぞ。回避のことは忘れるんだ」
『ほ、ホントですかぁ!』
走らなければいけないことがよほど辛かったのだろう。天の助けが来たかのような声を一実は出してしまった。
「ああ、だが次はシールドを張って攻撃を防ぐんだ」
『バリア……ですか……』
魔力障壁は一実が初めて使った魔法であり、2度の実戦でも多用した防御手段でもあった。ドのつく魔法初心者の彼女でもコツを掴めている魔法だと言えた。
「ただもう一つお前に課題を課す。魔力を感じて翼の居場所を探り、一撃でいいから反撃するんだ」
『え、ええ……!?そんなことできません!』
「泣き言を言うな!攻撃も探知も、実戦の中でこなしたという報告が上がっているぞ。やってやれんことはない!」
攻撃を回避するということも碌にこなせない状態で反撃というタスクまで追加された一実は無理だと進言するも、ミサトは一実の実績という根拠を持ってその意見をきっぱり却下した。
『そんな……』
一実の口から不安のにじむ声が漏れる。攻撃はともかく、彼女にとって魔力を感じ取るというのは、溺れる者がわらをもつかむように、戦場の危機的な状況でもがきながらつかんだ、おぼろげな感覚でしかなかった。
「一実ならきっとできる。落ち着いて自分の中の感じ方を分析するんだ。きっと、必要な技術はもう一実の中に備わってると思う。だから、頑張って!」
『悠夜……』
悠夜が一実に励ましの言葉をかけた。それは応援の言葉でもあったが彼が一実の魔法の才能を高く評価していることを示す言葉でもあった。
「翼、碧乃が反撃してこないようなら、疑似攻撃で押しつぶせ……」
『それが一実の成長につながるなら……』
『そ、そんなぁ……』
最後にミサトは、圧を掛けるために翼と一実にも聞こえるようにして翼へ指示を飛ばす。
翼にとって一実は可愛い後輩であり、いじめるような真似なんて本当はしたくないが、それ以上に戦いで死なないように成長してほしいとも考えているので、時には心を鬼にする。
『反撃できたら、今日の訓練は終わりでいい。気張ってみせろ。……それでは、訓練再開!』
※
“ドゥム!……バァン!”
「く、あぁっ!?」
スピーカーからミサトの号令が響き、間髪入れずに一実へ攻撃が飛んでくる。動揺する彼女はすぐにバリアを張ることができず、初撃を防げなかった。
“ドゥム!ドゥム!ドゥム!”
そんな一実の様子を気にすることもなく、翼は一定間隔で攻撃を加えてくる。一実はなんとか2撃目からはシールドで防ぐことができた。シールドは彼女を包むようにドーム状に展開され、全方位からの攻撃を防ぐことができている。
(すごい……これが先輩の力……)
バリアの内側で、一実はそんなことを考えていた。
先ほどから、周囲を敵に囲まれているような錯覚に陥るほど、多彩な方向から攻撃が一実を襲っていた。彼女はバリア越しにもその圧力を感じていた。その圧力は翼から発せられる強烈な意思の針のようにも感じられた。
息つく間もないほど高密度の攻撃は正確なリズムで飛んでくる。受ける一実にはそれは魔法からくる超常な力というよりは、鍛えられ、刃のように研ぎ澄まされた技術のように感じられた。乱れ打ちのように思えるその攻撃には、1つのルールが貫かれているような整然としたものがあると感じられたからだ。
きっと血のにじむような努力の果てに手に入れたものなのだろう、やはりシンセリー・テルスは希望の星と呼ばれるにふさわしい強さを持つ魔法少女なのだ。一実はそう実感する。
(私は、そんな風になれそうにないよ)
一実は、シンセリーに並ぶ力を手に入れなければいけないことに重圧を感じる。そんなすごい存在になれるわけがないと思ってしまう。時間がないのだからなおさらだ。
そんな一実の下降する精神は、バリアにも反映されて薄くなり、ヒビすら入ってくる。
『どうした……動かなければそのまま潰されるだけだぞ!!』
ミサトの怒号が、スピーカーを通して空間全体に響き渡る。
勝手なことを言ってくれる、余裕のない一実は内心でそう愚痴る。翼は攻撃だけではなく、彼女自身が一実の周囲を動き回っており、隠ぺい魔法も併用しているらしいため、今、彼女がどこにいるのか、見当もつけられなかった。
やはり無能な自分は求められる存在になれない。そしてそんな力不足な存在では守るべきものを守ることはできず、シンセリーにも迷惑をかけてしまう。
そんな絶望が一実の心を覆いかけた。
感想・評価よろしくお願いいたします。
Skebなんかもやってるのでそちらもよろしくお願いします。
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