魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
『一実……!君ならできる……!魔力は意志そのものだ。攻撃の前にはその前兆になる意志がある、それを掴めれば攻撃の根元も分かる!!』
閉じかけた一実の心に、相棒の声援が響いてくる。できるかどうかは別として、その声に応えたいという想いが立ち上がってくる。
(そうだ……これは私の命を懸けた夢。こんなところで折れていられない!)
再び浮き上がった一実の心が、割れかけたバリアを辛うじて補強する。
しかし蓄積したダメージを完全に補うことはできずに、一実が押しつぶされるのも時間の問題だと言えた。
(私の感じているこのチクチクした圧力が、魔力で翼さんの意志でもあるとしたら)
悠夜がくれたヒントを受けて、一実の中に一つの手だてが浮かんできた。
リズムを刻むような攻撃、それがリズムだと分かるのは実際の攻撃の圧力とは違う、何かを感じたからだ。その何かが攻撃の前兆で、それが意志であるのなら……。
「…………」
一実は目を閉じて、バリアに刺さる攻撃の感覚に意識を集中する。四方から飛んでくるように思えるその攻撃の針を分析すると、その攻撃には一実の周りを時計回りに回るようなルールがあるように思えた。
(この回転が先輩の動きといっしょなら、大まかな位置の見当がつけられるかもしれない!)
攻撃の回転の速度から、先輩の移動先を一歩早く掴む。そして……。
「そこ……っ!!」
一実は、予測して身構えた方向から来る、攻撃の前の敵意の針を掴んだ。そしてそのもとに魔力弾を飛ばす。
“パァンッ!”
「おっと……」
がむしゃらになって飛ばした光弾の軌跡は偶然か、必然か、疑似攻撃の射線に完全に重なって、それを弾きながら、その根元に突き刺さった。
着弾の音といっしょに、声が聞こえてきた。
そして一実が目を開けて、声の方向を見るとビルの谷間に立つ翼の姿が見えた。翼は左手をこちらに翳しており、そこからは煙が上がっているように見えた。
(当たったんだ!)
最初に一実が感じたのはそんな歓喜。そして次に湧いてきたのは大いなる焦りだった。
「あああっ!?つばささん゛~~~~~!!」
一実は余裕がなかったため、手加減とか攻撃が翼に当たった場合について全く考えていなかった。翼の大切な身体に傷をつけてしまったかもしれない。もしそうなら切腹物の現実に、一実は胃がひっくり返るぐらい動揺しながら全力で翼の方に走って行った。
「だ、だだだだだ大丈夫ですかーーー!――――!?!?!?」
世界の終わりにおびえるような一実の叫びは文字通り優しく受け止められた。翼は逆に一実の方に歩み寄って抱きしめた。
「すごい!よくできたね」
一実にとってその抱擁は、天使に抱きしめられるのと同じで脳をバグらせるのに十分な極楽空間を発生させたがさすがにそのときは心配が勝った。
「翼さん、腕……」
「大丈夫……まだまだあの程度じゃ傷つかないよ。そういう意味じゃ伸びしろかな」
翼はにっと、一実の鼻先で笑った。むしろ傷をつけるくらいでないと、とでも言わんばかりの挑発的な笑顔だった。
「目、閉じてたよね?魔力を正確にとらえて私に攻撃できた。……実戦でも役に立つ技術だと思うよ!」
魔力を感じる魔法使いとしての能力を一実は確かに使えている。様々な未熟さに苦しむ彼女には戦士として戦う糸口になるものだった。
「やっぱり一実は魔法の才能がある感じだな~!たぶん私よりもずっとある!」
「そ、そんな、そんな……」
一方的に褒めちぎってくる翼に対する一実の反応は、謙遜ではなく本気の困惑だった。彼女はとにかく褒められることに慣れていないのだ。単純にあこがれの人本人よりも才能があると言われても否定することも誇ることもしにくい。さらに今できたことがどう戦いにいかせるのか、彼女にはピンときていなかった。
『お前たちー!訓練が終わったからってイチャイチャするな!……今の訓練の反省会をやる。モニタールームまで来い!』
「ひ、ひぃ……!?」
「もう、頑張った後輩を労う時間ぐらい待ってくれればいいのに……」
翼は怒号を飛ばす教官に愚痴を言っていた。その間一実は頭を撫でてもらっていたが、その幸福感を余すところなく受け取るには、彼女は幸福に慣れておらず、頭をショートさせていた。
※
「お疲れ、さっきの動きすごかったよ!」
2人がモニタールームに行くと、悠夜が翼と同じような褒め言葉を一実にかけてきた。
「う、うん。ありがとう。でも、何がすごかったのか自分じゃよく分かってないんだけど……」
「それについては、私が説明する」
一実のこぼした疑問に答えようとしたのは待ち構えていたミサトだった。
「はっきり言って、お前の身体能力はクソだ!」
「ひぃぃっ!?」
出鼻をくじくようにミサトは残酷に告げた。しかし言われたことそのものは、一実が毎分毎秒思っていることなのでそこまでダメージはない。問題は、だからお前は魔法少女にはふさわしくないなどと言われてしまうことだった。
「ただ、お前なりの戦い方は見えてきた……単刀直入に言う。碧乃、お前は回避を捨てろ」
「はぁ?」
一実には言われたことの意味が理解できず、首をかしげる。代わりに声を上げたのは悠夜だった。
「待ってください。確かに一実は……今は翼ほど動けるわけじゃありません。でも、それだけで回避を捨てるのは危険すぎます」
悠夜が空けた不思議な間から一実はものすごく気を遣われ、言葉を選んでもらったのを察してしまった。
「分かっている。今後も身体トレーニングは続けさせる」
ミサトは悠夜の反論を予想していたように、即座にそう返した。
「だがな、こいつはドのつく素人だ。覚えるべきことは他にも無限にある。こいつに与えられた短い時間でなんもかんもと欲張るのはさすがに無理だ」
「……それでも回避は最優先事項なんじゃないですか?」
悠夜はなおも反論する。『当たらなければ、どうということはない』という有名な言葉もある。どんな強大な脅威となる攻撃でも、躱してしまえばそれだけだ。回避は攻撃よりも優先して習得すべき技術だと彼は考えていた。
「ああ、普通はな。ただ本人が一番分かってると思うが身体能力で碧乃が翼についていけるレベルまで鍛えようっていうのは修羅の道だ」
そう言って、ミサトは先ほどまで表示されていた訓練データを指差した。反論できず気まずそうに視線を送ってくる悠夜に一実は優しい笑みで応えた。自分が運動音痴であることなど14年の人生で常に教えられ続けている事実だった。
「しかし幸いにも碧乃は魔力を扱う才能はありそうだ。そして、実際にバリアを素人とは思えない程度には使えている。だったら、まずそこを伸ばす」
「でも、バリアを破ってくる鋼魔が現れたら……」
「だからお前がいるんだ、悠夜」
「僕が?」
「影光勇者ノクストスの十八番はなんだ?」
問いかけられ、悠夜は一瞬だけ黙った。
「……隠密行動」
「そうだ。普通の魔法少女が敵の攻撃を“飛んできてから避ける”ところを、お前たちは“そもそも見つからない”ことで代用する」
一実もようやく、ミサトの言わんとしていることが分かり始めた。
「悠夜に隠してもらって……攻撃されないようにする……ってことですか?」
「そうだ。見つからなければ被弾のリスクを抑えられる。仮に発見を遅らせる程度しかできなくてもお前が勇者から回避補助を受けられるチャンスも生まれるだろう」
一実はフェレンゼルとのチェイスを思い出す。奴の攻撃をすり抜けたように勇者がいれば何でもできるはずだと信じることができた。
「そのうえで、避けられない攻撃はバリアで防ぐ。それで、最低限の防御力は確保できるはずだ」
「……なるほど」
さすがに悠夜も納得したのか身を引いた。
「つまりはだ。碧乃、お前はとにかく魔法を鍛えろ。それが突き抜ければ使える武器にもなる」
「分かり、ました」
一実は話を聞き、状況がそう単純でないことは理解していた。それでも魔法をひたすらに極めるという方針はある意味で一番魔法少女らしいのかもしれないとのんきに考えていた。
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