魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
“トントン……”
一実が静かに座ったまま精神統一していると、背後から肩を叩かれる。彼女は少しだけ身体を跳ねさせたあと、落ち着いて左肩に置かれた見えないその手に、自らの右手を重ねた。それが合図だ。
その瞬間、周囲には気づかれない変化が起きる。一実は周囲に魔力が展開するのを感じた。これが事前説明にあった、スムーズに出撃するための認識改変魔法だと彼女は理解する。
“フワッ……”
その後、一実の体が席から浮き上がるようになる。不思議な感覚に全身の鳥肌が立ったが、騒がずに身を委ねている。
明らかな異常が起こっていたが、周囲のクラスメートたちは何も気づかない。
「行くよ……」
耳元で、彼女にだけ聞こえるほどのささやき声がした。一実は静かにうなずいた。
“ガラッ……ブワッ!”
一実の体はひとりでに開いたように見える窓から、宙へ投げ出された。
「ん……!」
予測してはいたが、あまりに急な身体の動きに、彼女は呻き声を上げてしまった。
「もう大丈夫、ハンドルに手を……」
やがて、一実の体は巡行形態のノクストスに跨っている時と同じ体勢に落ち着いた。しかし、彼女の主観では透明な何かの上に乗せられ、宙に浮いているような形になる。何が起こっているか分かっていても、本能的な恐怖を感じてしまう。彼女はそれを何とか抑え、彼の声に合わせて前の方をまさぐり、見えないそのハンドルを何とか握る。
“ブンッ……”
その瞬間、透明だった相棒の姿が、一実にもはっきりと見えるようになる。
「これで僕たちの周囲への光学迷彩と、隠ぺい魔法の展開が完了したよ。打合せ通りうまくいったね」
「正直、生きた心地がしなかった……」
一実は激しくなる心臓を何とか抑えようとする。だが、悠長なことはしていられないことも分かっている。戦いは始まってすらいない。
ここまでのシークエンスが、一実が授業中に出撃要請を受けた場合の対応である。
「大丈夫?行けそう?」
正規の形での初めての出撃。一実の動揺を感じ取ったノクストスが心配する。
「なんとか大丈夫。……場所は?」
心構えができていることを示すために、一実は自分から行くべき場所を訊く。
「ここから北東に30kmの市街地エリア。そこそこ大きな反応って感じ。逃げ遅れた人とかもいそうだ。油断ならない相手だ」
「やばいじゃん!早く行かなきゃ!ええっと……次は変身しなきゃだよね!」
自分の一挙手一投足が誰かの命にかかわるような状況に、一実は頭がかぁーっと熱くなる。
「落ち着いて、焦ることと急ぐことは違うよ。まずは深呼吸」
「つ、翼さん!?」
一実は声の主を探してきょろきょろしてみるが、何も見えない。
「あ、右斜め上あたりにいるよ」
一実の困惑を察して、翼の位置を教えてくれる。翼と朝陽の2人も周りから見えないようにしているのだ。
「そ、そうですよね……。すー、はー!ふー!」
素直に言うことを聞いて、一実は深呼吸をする。魔法少女の能力はメンタルの状態に直結している。焦りは禁物だった。
「それでよし。私は少しここから離れてから変身するけど、一緒に変身する?」
「翼さん……は、はい!私も魔法少女としてご一緒させてもらいます!」
悠夜ほど隠密行動に特化しているわけではないので、魔力の大規模放出を伴う変身は隠せないという話だった。さすがに何も気にせず変身すると学校が割れかねない。その対策は、離れたところで変身するか、ノクストスの強力な隠ぺい魔法を使うこと。
「それじゃ……始めようか……ブローミング・ドライブ!」
「はい、頑張ります!……ブローミング・ドライブ!」
魔力を感じられるようになった一実は、魔力の爆発が2つ起こったのを感じる。熱いエネルギーの奔流が2人の少女を包んで、超人へと進化させる。そして、その魔法ベールがはがれた時……
「愛審聖裁マーシー・リブラ!」
「天望愛齎シンセリー・テルス!」
町の上空に、2人の勇者に跨った魔法少女が出現する。もはや隠れる必要がなくなったので、空気を読んだノクストスも隠密を解除したのだ。
「じゃあ、ここからは一直線。遅れないで!」
「はい!頑張ろう、ノクストス!」
「うん!マーシー!」
どこか楽しげに感じるシンセリーの言葉にエネルギーをもらったマーシーは、爆発的な加速で小さくなる先輩に置いていかれないよう、その背中を追った。
※
『敵の全高は5mほど。敵はタコのような形状で、全体の規模は衛星からの観測では不詳。触手の先に重機のアーム部分を模した器官が見られます。その形状から、グラーケンというコードネームが与えられました。対象の捕食能力は高いと分析されていて、緊急性は高いと見られています』
マーシーが現場に到着する直前、インカムから敵に関する情報が伝えられる。
「タコ、グラーケンか……。色んな方向から攻撃が来そう。気を付けないと……」
マーシーは、ドキドキしながらも、自分なりに伝えられた情報を咀嚼してみる。幸い、イメージしやすい情報だったため、ある程度心構えができた。
「前のシンセリーから連絡が来た。敵への攻撃はあっちで対応するから、君は周囲の市民の保護をしてくれとのことだ」
「わ、分かった!」
会敵の前に、ノクストスを経由してシンセリーからマーシーに具体的な動きの指示が飛ぶ。マーシーはもともと勇んで攻撃したいタイプでもなく、それにふさわしい実力があるという自信もないため、素直に受け入れる。敵に攻撃を当てるというのは、彼女にとってまだ心理的ハードルが高かったが、防御に専念するのはバリアがしっかり使えていることもあって、未熟な彼女にもこなしやすい行動だった。
「僕のカメラで捉えた。僕は先に飛び込んで、敵のけん制に入る。それでいい?」
ノクストスも彼自身の動きの確認を取ってくる。
「え?……あ、ああっ!?うん、分かった……!」
自分のすべきことに意識が集中していたマーシーは、受け答えに間が空いてしまう。彼女ははっとした。それはミサト教官からのレクチャーの序盤に、厳しく言いつけられたことだった。
勇者の戦闘行動には、魔法少女が了解した形にしておくことが求められる。そうしないと、法的に人格が認められていない彼らの社会的立場が危うくなってしまうらしかった。
だから、彼らを守るためにこそ魔法少女は首輪を嵌めリードを握らなければいけない。
「…………」
マーシーは、誰かの命がかかった状況で最適な行動を取れていないことに強い不安を感じた。
「大丈夫。マーシーならできるよ。頑張ろう!」
ノクストスの言葉は、外側と内側の両面から彼女の心を解きほぐし、勇気という燃料を与えてくれる。
「ありがとう!……私、頑張る!」
その決意とともに、マーシーは手元にステッキを出現させ、固く握る。
“――――――!”
ジェット機のような速度で飛ぶ巡行形態。その中で、半分溶けているように見えるマーシーの視界の先に、煙と光と影が見える。それが示す事象は、戦いと敵。行くべき場所がある。立ち向かうべき存在がいる。助けを待つ人々がいる。だから、マーシーは往く。
「行きます!」
マーシーは掛け声とともに飛び降りる。勇者は人型になって少女を抱き、無駄のない動きで、ほとんど衝撃もなく彼女を大地に立たせた。そして、すり抜けるようにして青い守護者は敵の方へ駆け抜けていく。
その風圧に負けないようにしながら、それに追従するようにマーシーは走り出す。
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