魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
「オイ……魔法少女です!……バリア、動ける方は私のバリアの後ろへ来てください!私が、皆さんを安全な場所まで連れて行きます!」
マーシーは名乗りを上げ、バリアを展開しながら、敵の間合いの中にいる民間人を助けに向かう。最初は無難にOIDOを名乗ろうとしたが、やめた。そう誇示するのは恥ずかしいと思ったが、それ以上に、そうあるべきだと感じたし、そうありたいと願っていたから……。
“ゴゴゴ……ッ!”
戦場では、巨大な敵の触手が蠢く音と、後方の高所からシンセリーの矢が飛んでくる音が交じり合う。すさまじい衝撃が周囲に響き、ここが戦場であることを、その場にいる人間へ否応なく伝えてくる。
(何あれ!? 全然8本以上あるじゃん! 何がタコだよ、バケモンめ!)
マーシーの数十m先にある巨大な敵影は、確かにタコのような外観をしている。アーモンド形に膨れた頭部、嘴のある口、羊のような目、そして先端についているものはともかくとして、胴体から伸びる触手……という特徴を抜き出してみれば、目の前の化け物はタコのようにも見える。しかし、タコの代名詞ともいえる8本という本数だけは守られていない。
その先端に4本爪のアームや、破砕機のような鋏状のアームなど、人を軽々と掴んで潰せそうな器官を備えた長く太い触手が、グラーケンから2桁以上伸びている。
それでも現在進行形で、その触手に捕らわれている人はいなかった。
“ガインッ! ガインッ!”
縦横無尽にグラーケンの周囲を飛び回りながら、それぞれの得物で触手を叩き、いなし、自由を許さない2人の勇者がいたからだ。
「ノクストス! 前みたいに勇んで突っ込むなよ!」
「今はマーシーがいる。そんなことにはならないさ!」
2人は軽口をたたき合う余裕を見せながら、次々と触手を捌いていた。
しかし、マーシーが最前線へ走る間にも、複数の人間とすれ違っている。敵の攻撃が届いてしまうかもしれない位置にいる人や、触手の間合いの中に倒れている人もいた。
(やらなきゃ……!)
そんな人たちを守るのが彼女の役目だ。
「えーい!」
“バインッ!”
マーシーは触手と救助対象の間に、バリアを滑り込ませるように割り込ませる。鞭のようにしなる触手がバリアへ激突するが、その衝撃だけでマーシーが揺らぐことはなかった。
(大丈夫……余裕はある!)
マーシーは精神的な余裕を保つために自分に言い聞かせながら、敵にバリアを押し付けるようにしていく。
「だ、大丈夫ですか!?」
「う、うぅ……」
マーシーが声をかけるも、倒れている男性からは弱い反応しか返ってこない。反有機生命圏に体力を吸われて動けないのだろう。
「任せて、助けます!」
マーシーはバリアを展開するステッキを右腕で構え続けながら、左腕でその男性を抱え、触手の間合いの外に後退する。普段の一実にはそんな腕力はないだろうが、マーシーには可能だった。
「さすがに回復させた方がいいよね……」
今ここから離脱している人たちも、予断を許さない状況だ。腕の中の男性のためだけに避難所へ行くわけにはいかない。となれば、エネルギーを分ける魔法で自力で動けるようになってもらいたいが……敵もマーシーを明確な邪魔者として認識しているようで、その視線や触手の動きから、彼女を狙う意図が感じられた。なるべくバリアは解除したくない。でも、バリアを張りながら他の魔法を行使するような技量はない。どうしたものかと考えていた時……
“ギジュンッ! ギジュンッ!”
「僕が1本たりとも通さない! その間にきみはやるべきことをやるんだ!」
両手に一対の刀を構えるノクストスが、マーシーの正面に来てくれる。
「うん!セータ・パーティシヴ!」
マーシーはパートナーを信頼してバリアをいったんカットし、周囲の人たちも巻き込んでエネルギーを分け与える。
「うう……あ、身体が動く……!」
くだんの成人男性も、意識がはっきりして起き上がる。
「動けますか?動けるなら私を盾にしながら避難所へ向かってください!」
「魔法少女……シンセリーじゃない!?」
「新しい魔法少女?」
「マジで……?」
男性がマーシーの存在を認識すると、シンセリーではないことに驚いているようだった。彼女が周囲に意識を向ければ、周りも同じようなリアクションをしていることが分かる。
「はい、ですから落ち着いて逃げてください!」
「わ、分かった……」
マーシーは恥ずかしいような、誇らしいような、とにかくむずがゆくなる感情に襲われた。不謹慎だという自覚もあるが、彼女は魔法少女として活動できていることに喜びを感じている。
やがて、マーシーの周りから民間人の魔力が感じられなくなり、残る救助対象はグラーケンに取り込まれている人々だけになった。
『よくやったね、マーシー! 救助と攻撃の両方に意識を割くのは私でもきついから、助かったよ』
「い、いえ……!」
マーシーの喜びを後押しするような褒め言葉が、彼女のインカムに聞こえてくる。小さいかもしれないが、戦いの中で役割を果たせたのだという確かな実感があった。
「さて、避難も済んだところで、こっちも本腰を入れますか!」
「アームの先の攻撃力は厄介ですが、あれだけあからさまな攻撃器官は人が含まれていないから狙いやすい」
巻き添えの危険性がなくなったことで、勇者2人は発揮する攻撃力のギアを上げる。
「メテオ・フィスト!!」
はじめはエクスマイン。左腕の握りこぶしを掲げ、高らかに叫ぶ。手の甲が光り輝き、肘先から真っ赤なフレアが漏れる。
“ガウンッ!”
彼の拳は空気を叩き、敵めがけて飛んでいった。
“ドカンッ!”
その拳が、厳めしい油圧クラッシャー型のアームに激突する。そのインパクトは当然のように爆発的だった。エクスマインの手の甲には、エネルギー蓄積機関が搭載されているのだ。それによって質量×速度のエネルギーに加え、電気と魔力が交じり合ったエネルギー爆発も威力に上乗せされる。それが『メテオ・フィスト』の真価であった。
そんなものを食らえば、グラーケンの全身の中でも特に硬い部位だったそのアームも、無残に砕け散る。
「僕も遅れない!」
ノクストスも攻勢を強めていく。エクスマインが剛とするなら、ノクストスは柔。そんな動きだった。電気刺激によって自由に硬くしたり曲げたりできるワイヤーで、刀を持ったその腕を敵と同じような鞭へと変える。
「お前が何本触手を持とうが、僕は2本で捌いてみせる」
ノクストスはその言葉通り、手の先の鞭を縦横無尽に動かしてグラーケンの触手を捌き、弾き、さらには逆に絡め取った。
『マーシー、次にあなたがやることは、2人が分離させた人たちを確保して敵から離すこと。しっかりね!』
「わ、分かりました!」
すでに勇者2人がグラーケンの動きを制限する間に、シンセリーは絶えることなく魔法の矢を降らせ続けていた。それぞれの触手にも【インフレア】で分裂させた矢を確実に命中させていた。
体内で分離が進んでいるのがマーシーにも魔力を通して伝わってきた。
「切るのは任せる!」
アームの一つを大剣で砕きながら、エクスマインが言った。
『マーシー!人の部分に意識を集中させて、それをノクストスに教えてあげて』
「え、あ、はい!」
マーシーは追加の指示に焦りかけたが、何とか受け止め、できうる限り実行する。
魔法少女が強く感じ取れる、鋼魔とそれ以外の生命の魔力の違いを読み取り、人の成分が集中している敵の部位を精神リンクでノクストスに伝える。シンセリーがしっかりと攻撃を当ててくれたおかげで、マーシーにも不安なく斬るべき部分を見つけることができた。
「ありがとう!こちらからも捉えられた!」
そう答えたノクストスは触手のような腕を一瞬だけ制止させた。
“ジュンジュン!”
金属同士がぶつかるような音と、何かが焼けるような音。その2つが混ざった音が辺りに響いた。
「ギジャーー!」
甲高い鳴き声が響き、触手の肉がボドボドと音を立てて地面に落ちた。そして、数十人の市民がアスファルトに倒れ伏す。
「グヴウゥ……」
グラーケンは、光の矢と今の斬撃でほとんど瀕死のように見える。しかし、だからといって無防備な市民をそのままにしておく理由にはならない。
(打合せ通りに……!)
この状況に対してマーシーは、馬鹿正直に1人1人抱き上げて運ぶわけではなかった。飛び込むように、分離された人々の中心へ向かう。
「素早く、でも優しく……ノクストスはフォローお願い!レラクテット・ムルーフィ!!」
マーシーはやるべきことを何度も頭の中で反芻しながら、呪文を唱える。すると、ステッキの先から何本もの光の糸が伸び、助ける人々の胸のあたりに刺さる。
彼女が行使したのは、対象とする物体を使用者が任意に操れるようになる魔法だ。
「上がれーっ!」
マーシーが釣竿を引くようにステッキを高く掲げると、魔法の糸でつながった人々が彼女の身長ぐらいの高さまで浮き上がる。別の魔法を使うときは、バリアを切ることになる。経験を積んだ魔法少女は同時に複数の魔法を使えるものもいるが、当然今の彼女にそのような技量はない。
「グゥゥッ!」
満身創痍のグラーケンが、自らを回復させうる餌を逃がすまいと、残り少ない触手を伸ばしてくる。そうなると当然……
“バシィンッ!”
「頑張ってるんだから、邪魔するなよ!」
ノクストスが、マーシーと彼女が運ぶ人々を狙う触手を蹴って弾いた。そうしてくれると信じていたマーシーは、敵から離れる方向に全力で走った。彼女が大量の風船を持っているかのように人々は彼女に追従して移動する。
マーシーはある程度敵との距離ができた時、取り込まれていた人はすべて助けられたことを魔力から認識した。
「シンセリー! あとはよろしくお願いします!!」
『……任された!』
マーシーはインカムから確かに返答を聞いた。
※
かわいい後輩からのバトンを受け取ったシンセリーは、陣取っているビルの上からグラーケンをにらみつける。そして、全力で練り上げた魔力を矢の形に生成する。
「ミーティア・ダンパー!!」
呪文とともに放たれた矢は魔法陣を通ることで、矢の豪雨へと変わる。そして、複数のマシンガンを一斉発射したかのような轟音が響き、グラーケンを蜂の巣どころではないほどの粉みじんに変える。限界を超えた体組織はひとりでに消え始め、あとには核だけが残った。
「プラッテ・アドハック・アクア」
すぐさまシンセリーが核を手に取り、ゼロ化を行った。
「これで良し……マーシー、そっちは大丈夫?」
「はい……助けた人たちはみんな意識がないですけど、死んでる人はいないと思います」
ちょうど、救助者を並べて寝かせ終えたところだったマーシーは、慎重な声で答えた。
「それもそうだけど、あなた自身にケガはない?」
「え?あ、はい!大丈夫です!」
心配してもらえたことが嬉しくて、マーシーの口角は上がってしまう。
「エクスマインとノクストスは大丈夫?」
「各部チェック完了、問題ないぜ」
「同じく問題ありません」
勇者2人も目立った損傷はないようだ。
「周りに鋼魔の反応はないし、これで終わりでいいかな……。管制室、戦闘は終了したと判断。これより支部に……じゃなかった、学校に帰還します」
『こちらの衛星からの観測でも、鋼魔の反応の喪失を確認しています。お疲れ様でした』
管制室に報告を終えたシンセリーはマーシーの方に振り返る。
「お疲れ様!大勝利って感じだよ!頑張ったね!」
「……!? はい! お役に立てたなら嬉しいです!」
シンセリーがはじけるような笑顔で褒めてくれたので、マーシーは顔から火が出ると錯覚するほど顔を赤くして、嬉しさを噛み締めた。
「勇者2人もいい連携だったよ。こんな勝利を積み重ねていけたらいいね」
「そうだな」
「精進します」
ノクストスはマスクパーツを展開して笑顔を見せながら、マーシーに歩み寄った。
「最初の出撃は成功だね。本当にすごいよ」
「ありがとう。でも、ノクストスがすごかったからだよ。攻撃には全然参加できなかったし……」
「市民を助けることこそ本懐さ。それに、焦らなくていい。こうやって戦場に立って役割を果たせるだけでも、マーシーはちゃんと“魔法少女になってる”。少しずつできることを増やしていければいい」
「うん…………」
ノクストスは、マーシーの中に渦巻く劣等感や焦りを感じ取り、半ば諫めるような形でフォローを入れた。マーシー自身も、自分の焦りや、もっと早くすごい存在になりたいという、ある意味で身の丈に合わない欲求を半分は自覚していたので、ノクストスの言葉は深く胸に刺さった。
「マーシー、学校が嫌なのは分かるけど、ぼーっとしてないで戻らないと! このままじゃ2時間空けることになっちゃう!」
シンセリーの呼びかけで、マーシーは我に返った。
「戻ろっか」
「うん。抜けた授業のフォローも僕がやるから安心して」
「お願いね」
そうして巡行形態で学校に戻った4人は、隠ぺい魔法で誰にも気づかれずに席につき、1時間ぶりの授業を受けるのだった。
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