魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~   作:タナト

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第4話 契約

 

「…………」

 

 おそらく、すぐ後ろに迫っていた奴を吹き飛ばしてくれたのだろう。目の前に現れた謎の人物を、一実はそのように分析する。しかし、求めていたシンセリーでもエクスマインでもなさそうで、彼女は足を止めてしまう。

 

「僕は、通りすがりの勇者だ。鋼魔は僕が止める。だから走れ!」

 

「ゆ、勇者!?」

 

 一実は勇者のことを、ゴツいロボットとして認識していた。そのため、目の前の人物が勇者だとは思えなかった。

 

「早く行くんだ! 僕じゃ時間稼ぎがせいぜいなんだ。だから早くシェルターに行け!」

 

「は、はい!」

 

 一実は、勇者を名乗る男からの叱責を受けて、再び走り始めた。

 

“ガンッ! ギィンッ! バンッバンッ!!”

 

 一実の後ろで、風の音に混じって金属同士がぶつかるような音や、発砲音のような音が聞こえ始める。そこでは確かに戦闘が行われているようだった。それは腹に響く衝撃を伴っていて、一実のような生身の中学生が立ち入れば、それだけで潰されそうなほどだ。

 一刻も早く距離を取らなければ。その考えが一実の頭を満たしていた。

 

 さっきの男の子が本当に勇者かどうかは分からないけれど、刀や銃のようなものを身に付けていた。少なくとも戦士ではあるようだ。助けが来たなら、助かるはずだ。一実は、やっと見えた希望に笑みを浮かべてしまう。

 

 ※

 

 一方、鋼魔の前に立ちふさがった男のほうは、少ない希望とどう向き合うかを考えていた。勇んで助けに入ったはいいが、契約した魔法少女のいない男は、勇者としての性能を十全には発揮できない。少なくない数の人間を取り込んだ鋼魔と単独で渡り合うのは難しい。だが、あんなものを見せられて、助けに入らないわけにはいかなかった。

 男は、ここに到着する前から鋼魔の周辺の様子を望遠カメラで見ていた。他人を助けようとする優しさ。危機の中で行動する勇気。男の文字通りの動力になっている人の輝き。愛でるべきものだと教えられてきたそれが、目の前で危機にさらされているのを見ていた。

 だから、ここで戦わないのなら、自分の生まれた意味がない。男はそんな想いに急かされて、敵と向き合っていた。生物とは言えない機械である自分は、明確な目的を持って生み出されたのだから……と。

 

「大丈夫だ! 魔法少女がいなくても、この心で生み出す魔力がある!」

 

 魔法少女とリンクすることで引き出される力。それがないとしても、男は科学の粋を集めて生み出された超兵器であることは間違いなかった。

 

“ゴゴゴッ……! ガガガガッ!”

 

(なんて密度だ……まるで固体の壁に突っ込んでるみたいだ!)

 

 足裏のアンカーやマイクロスラスターのおかげで吹き飛ばされることこそないものの、男は壮絶な圧力を外装に感知していた。生身の人間ならばばらばらになるような竜巻が、鋼魔を守っている。

 

「僕のボディを舐めるな!」

 

 男は自らの製造者のことを想いながら、身体を空気の激流の中にねじ込んでいく。人類の持つ叡智の結晶としても、不条理に負けるわけにはいかない。そんな義務感が彼の背中を押していた。

 魔力による補強がないため十全ではないが、特殊合金で固めた外装とバトルスーツは、そう簡単に傷つくことはない。男にはそんな自信があった。

 

「くぅ…………」

 

 しかし、機械のパワーをもってしても、その竜巻の中では少しずつしか進むことができない。それどころか、少しでもパワーの割り振りの計算を間違えれば、吹き飛ばされそうになるギリギリの攻防だった。

 

(間近で見ると、迫力が違うな……)

 

 接近したことで、風に阻まれて見えなかった敵の姿が、男にも見えるようになる。

 そのままでは、鋼魔のそばにたどり着く前に男のエネルギーが尽きてしまいそうだった。しかし、彼には状況を打開する文字通りの手があった。接近して手持ちの武装で攻撃するというのが彼の考えだったが……。

 

 ※

 

「はっ! はっ! はっ! はっ!」

 

 一実は疲労に呑み込まれないようにしながら、息を切らして走っていた。

 確かにあの謎の男の子は、時間稼ぎをしてくれているようである。そのおかげもあって、一実は一歩一歩、希望に近づいているような気がしていた。

 

“ドゥムゥーーーッ!”

 

「……え?」

 

 しかし、運命は一実のことをそう簡単には逃がしてくれなかった。

 

 後ろから大きな爆発音が聞こえ、一実たちを吹き飛ばした。何が何だか分からず、宙を舞う彼女だったが、母性にも似た本能が働き、腕の中の男の子を庇う形でアスファルトに叩きつけられる。

 

「おあぁ……ッ! ……うぐぅ……」

 

 一実は背中のあたりに、息ができなくなるほどの痛みを感じていた。しかし、止まることは確かに死をもたらす。そう知っている彼女は、反射的に立ち上がろうとする。

 

“ズキンッ!”

 

「グ、うぅ……っ!」

 

 痛い。その言葉すら出せないほど鋭い痛みが、右足から上ってくる。一実の視界は明滅して、全身を震わせる以外、何もできなくなる。

 悪い予感を覚えながら彼女が痛みの元に目を向けると、見えたのは背筋が凍るような現実だった。足首から脛あたりの外側が真っ赤に染まっている。深くはないが、少し抉れているようだった。近くには、犯人であろう血のついた礫が転がっている。

 一実は、傷を負った事実へのショックと、痛み、そしてもう逃げられないという現実へのショックで、パニックになる。

 しかし、彼女の理性を引き戻すほどの、さらに壮絶な現象が起こるのだった。

 

“ガシュンッ!!!”

 

「……え?」

 

 周りの土煙を吹き飛ばしながら、黒い物体が一実の横へと飛んでくる。

 

「ぐ……ああぁぁ……」

 

 それは、右腕を失って傷ついている、勇者と名乗った男だった。『人間』ならば血の海ができるほどの怪我を負っているようだったが、切断面から流れているのは少量の油のような液体だけだった。そこから飛び出ているのも骨ではなく、金属のパーツだ。

 

「……!?」

 

 一実は、目の前にいるのが人間ではないと理解させられた。勇者と名乗ったのだから、その正体が機械であるのは理屈上当然と言える。だが、あまりに人らしい外見とのギャップで、彼女はショックを受けてしまう。

 

「……!? あなた……」

 

 男のほうも、一実が怪我をしているのを見つけて絶望の表情を浮かべる。

 

「……ごめん。かっこつけたことを言ったのに……こんな有様で……」

 

 男はおぼつかない足取りながら、一実たちのもとに近づいてくる。しかし、寄り添うようにするだけで、もうここから離脱させることもできないようだ。

 ずいぶんと期待外れだった。勇者を名乗ったというのに、助かったと思ったのに……そう失望してもおかしくない状況のはずが、一実はそうは思わない。

 

「出来損ないは、どこまで行っても出来損ないなのか……人一人、助けることもできずに……」

 

 絶望的なこの状況で彼女が抱いたのは、妙な親近感だ。その男の表情が、いつも朝、鏡の前でふがいない自分に悶えている顔によく似ていたのだ。

 ロボットもそんな表情をするのか。勇者には自我と心がある。そのことは一実も知ってはいた。でも、こんなにも人間そのものの表情ができるものだったのか。彼女はそのことに驚いた。

 そして、ヒーローになるために生まれたとしても、やりきれない思いに苦しむことがあるのだと知った。苦しんでいるのは自分だけではないのだな、と安心してしまった。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 一実が恐怖を忘れて、そんなこと言わなくていいと言いたくなるほど、悲痛な声で男は謝っていた。

 

(この人は、私と同じなんだ)

 

 一実は男をよく知らないはずなのに、そう思った。出来損ない。そんな風に自分のことを卑下しながらも、他者のために、自分のために、世界に爪痕を残したい。そんなことを考えながら、必死に藻掻いている。

 

“ゴゴゴゴゴ……”

 

「グウゥ……」

 

 一実の耳に、風の音と、鋼魔のうめき声が聞こえる。その歩みはゆったりとしていた。もはや急ぐ必要もないとでも言うようだった。

 

「……だよ……」

 

 一実は、風の壁の向こうで揺れるシルエットを睨みつけた。じわじわと距離を詰めるその獣が、彼女には自分たちのあがきや抵抗を嘲笑っているように感じられた。それを見て、彼女の生の感情が声になって滲む。

 

「なんなんだよ! お前えぇ!?」

 

 一実がここまで鮮烈に怒りをあらわにしたのは初めてだった。この状況への怒りだけでなく、これまでの人生で抱えてきた思いも漏れ出てしまったのかもしれない。

 これまで彼女は、生きていく中で散々うまくいかないことにぶつかってきた。そのたびに自分が不出来なせいだと呑み込んで、耐えてきた。でも、さすがにこれはない。ここまで踏みにじられるなんて酷すぎる。そんな怒りが一実の中で沸騰する。

 自分は確かに無能者だ。誰かの足を引っ張ってばかりだ。それでも、そんな自分を変えたいと、それなりに努力してきた。そしてそれは自分だけじゃない。ロボットだってそうなのだから。みんなそれぞれの苦しみに耐えながら、日々を良くしていこうと必死に生きている。全てにおいてうまくいかないのが常だとしても、納得できない。こんな形で終わるなんて絶対に嫌だ。

 そんな激情が一実の中を駆け巡って、叫びになって外に出た。

 

“ガドシュッ!”

 

 けれど彼女の魂の声は、獣の放った空気の刃がかき消した。

 

「…………私、生きてる?」

 

 攻撃の衝撃が収まったようなので、一実は目を開ける。正直、彼女は死ぬのだと覚悟していた。けれど彼女は足の痛みを感じている。まだ彼女は生きていた。

 

「な、なにこれ?」

 

 3人の周囲をピンク色のドームが包んでいた。それがバリアとして三人を守っているのだ。

 

「これ、この石の力?」

 

 一実のペンダントの石が、バリアと同じ光を放っている。単純に考えれば、この石の力のように思えるが……。

 

「これは……魔法障壁……その石が君の生存本能に反応したのか……」

 

 男が信じられないものを見るような目をして、一実のほうを覗き込む。

 

「あなた、なにが起こってるのか分かるんですか!? ……きゃぁっ!?」

 

“ガキンッ! ガキンッ!”

 

 話をさせまいとするように、大きな音があたりに響いた。

 

「グ、ウゥ……!?」

 

 思いのままになっていると思っていた獲物が、ただ食われるだけの存在ではないと察したのか、鋼魔は竜巻の中から出てきて、両腕でバリアを叩いている。その姿は3メートルあるように見える巨大なイタチのようだった。しかし、ただのイタチというわけではない。その両腕の先には、大きな電動のこぎりのようなものが付いていた。過剰なまでのギザギザが付いた丸いノコギリは、そのむき出しの暴力性を表しているように一実には感じられた。

 

“ギャリギャリ! ギャリギャリ!”

 

 そのノコギリは張りぼてではないらしく、高速回転してせっかくのバリアを破壊しようとしてくる。少しずつ半透明の壁にひびが入っているのだ。

 

「ウソウソウソウソ!?」

 

 一実は、迫ってくる刃を見て取り乱す。何が起こっているのか彼女には分からない。しかしこれでは、死が少し遠くなっただけで、むしろじりじりと死が迫ってきているのをまざまざと見せつけられているようで、なお悪い拷問のようであった。

 

「落ち着いて! ……生き残る方法が一つだけあるかもしれない。聞いてもらえないか?」

 

「……え?」

 

 男の発する声は強い意志を秘めているようで、ざわめいていた一実の心によく響いた。

 

「僕と契約して、魔法少女になってほしい」

 

「……え!?」

 

 提案されたのは、一実という少女が夢見ていたことだった。魔法少女と勇者は、特定の相手と魔法による契約をすることで、初めて戦士としての力を発揮しているのだと聞いたことがある。自分が魔法少女になるとしたら……と、その契約の様子を妄想することもあった。しかし、それは遠い夢想として憧れていたことであり、現実の出来事としては考えてもみなかった。

 

「私に、できるの?」

 

 差し出されたものの大きさに、一実の中の恐怖が吹っ飛んで、鬼気迫る表情になって聞き返した。

 

「ああ、詳しい説明は省くが君には才能がある。君と僕が生き残り、なおかつこの子を……町の人たちを救う方法はそれしかないんだ」

 

 男の話を聞く一実の鼓動は急速に早まっていく。体は熱く、反対に頭は冷えていき、彼女の集中力が過剰に男の言葉へと注がれていく。

 辻褄が合うことではある。今この世界にいる魔法少女と勇者のペアは二十組もいなかった。一実は、そのすべての名前と顔を覚えていた。そんな中で、彼女は男のことを知らなかった。ということは、まだ魔法少女と契約していない、公的に活動しているわけではない勇者ということになる。

 その契約相手として自分が収まるということはどういうことなのか。一実には想像しきれないことだった。

 

「時間がない……どうか頼む……ここで終わりたくない……死にたくないんだ!」

 

「……!」

 

 死にたくない。そんな一実の中にもある願いを聞いて、彼女は目の前の男と気持ちが通じ合った気がした。自己中心的な願いだけれど、誰の心の中にもある強い願い。そして彼女は、それが可能なことか、自分がふさわしいのかというあらゆる不安を脇に置いて、死にたくないからやる、という目の前の現実として魔法少女になることを捉えることができた。

 それだけではなく、一実はまだ町の人を助けたいと思うような余裕はなかったが、一時でも助けようと命を懸けたここにいる幼子には、消えてほしくないと思えたのだ。

 

「それしかないんだね? 私にできるんだよね?」

 

 願っていた現実を前にして興奮している自分と、こんな状況で冷静な判断ができるわけがないと客観視している自分とが、一実の中でぶつかり合っていた。彼女は自分の心が今どうなっているのか分からなかったが、目の前の男が言うことだけは逃すまいと、耳を澄まして訊いた。

 

「ああ、僕はそう信じてる」

 

 男は、勇者は、一実の目をまっすぐに見つめて、淡々と告げた。言葉を飾らずにただそれだけを伝えるのが誠意だとでも言うように。

 

「分かった。やる! どうすればいいの?」

 

 一実もその意志にまっすぐに答え、返事をした。そこまでくれば彼女の中のあらゆる雑念が消え去り、目の前のやるべきことに思考力を集中させることができる。

 

「ありがとう……契約の儀式自体は簡単だ。君が首にかけている石はたぶん、魔法少女の力の源になるものだ。それに念じながら、名前を言いながら、僕と一緒に戦うと誓ってくれ。そして僕の背中のパーツにその石を嵌めるんだ」

 

「誓う?」

 

 誓うなどという行為は、これまでの一実の人生には無縁のことだったため、どうしていいか分からなかった。

 

「文言は何でもいい……魔法が発動すれば、その魔法が君にするべきことを教えてくれる」

 

“ギャリギャリ! バリバリ!”

 

「ギャーーッス!!」

 

 高速回転するノコギリが、バリアを破壊していく音と、殺意の籠ったうめき声が一実にも聞こえてくる。目線をやると、ひびが刻一刻と広がっていくのが見えた。

 

「時間がない……始めよう!」

 

 男のほうにしても、一実に配慮する余裕がないのだろう。彼は一実が納得する前に彼女に近づき、背中を向ける。

 

“ウィーン!”

 

 すると、男の背中が展開して、その内部が露出する。彼の言う通り、窪みのあるパーツが出てきた。

 

「……!」

 

 魔法少女誕生の詳しいプロセスまで公開されているわけではなく、分からないことは山ほどあった。しかし、生き残るためには目の前の勇者を信じるしかない。分からないことは、常識を超えた魔法が何とかしてくれるはずだと無理やり自分の中で辻褄を合わせて、一実は儀式を実行する。

 

「私、碧乃一実は誓います! あなたと一緒に鋼魔と戦うって!」

 

“ヴーーン!!”

 

 その声に、その意志に反応したのか、一実が持っていた石が光り出し、窪みに合うような星型へと変化する。

 

「ミドリノヒトミ……それが君の名前なんだな。僕、この前園悠夜もその誓いに全力で応えよう」

 

(マエゾノユウヤ……それがこの人の名前なんだ。なんか勇者としては意外な名前だけど……なんだか包み込んでくるようないい名前……)

 

 切迫した状況だったが、一実の心に自らの勇者となる者の名前が染み込んでくる。勇者の名前と言えばカタカナの言葉というイメージだったが、彼女にとって、それが一番彼に合っていると不思議としっくり来ていたのだった。

 

“バリーーン!!”

 

「ああぁっ!」

 

 そのタイミングで、ついに鋼魔がバリアを破って、刃を突き付けるようにしてくる。

 

「大丈夫、準備は整った。トランスフィールド展開!」

 

 冷静な声で、彼……悠夜が言うと、ピンク色のエネルギー流が破れたバリアに代わるように展開され、鋼魔の竜巻に対抗するように、回転する魔力の壁が一実と悠夜、そして幼子を包み込む。

 

「さぁ、一実! 変身の呪文を唱えて、そのアミナピースを窪みに嵌めてくれ!」

 

 一実は、その呪文を知っていた。そして、これがアミナピースなのかと理解することもできた。……と言っても、そういう道具で呪文を唱えて変身すると聞いたことがあるだけで、実際にどうなるのかは知らなかった。だがここまで来たら、もうやり切るしかない。

 

「ブローミング・ドラーイブッ!」

 

“カチッ!”

 

 窪みがあるべきもので埋められたとき、歯車が噛み合って、二人の運命が決定的に動き始めた。

 

“ヴィーーーン!!”

 

 露出したパーツから、さらにまばゆい光があふれて、一実の意識を包み込んだ。

 

(これは……感情? 悠夜の?)

 

 すべての意識を閃光に染められた一実が最初に知覚したのは、自分のものではない感情だった。他者の感情が直接的に流れ込んでくるという、他では絶対にない感覚。けれど一実は驚きこそすれ、混乱はしなかった。魔法少女と勇者は、戦闘時にはテレパシーのようなもので接続された状態で戦うのだと、彼女は聞いたことがあった。

 

(他の人の感情って、こんな感じなんだ……ロボットでも、私と同じようになんだかぐちゃぐちゃしてる……)

 

 一実が感じたものは、勇者というには似つかわしくないと思えるような、負の感情だった。不安、焦燥、恐怖……しかし、それらによって彼女が心細く思うことはなかった。彼女自身の中にもあるものだったからだ。そして、それに負けじと抗うものが彼の中にあったからだ。

 

(熱い……まるで、燃えているみたい……きっと、これが勇気なんだ)

 

 自身の中の不安を、他者のものまで含めて燃やし尽くそうと、猛く燃えているもの。それは彼が勇者たる証だった。

 そして、パートナーのことを感じているのは、彼女だけではなかった。

 

(重く暗い不安、恐怖……押しつぶされてしまいそうだ。それでも……確かにそこにある。負の感情を包み込んで、解きほぐすような……暖かいもの……これを愛と呼ぶのか?)

 

 お互いの心に触れる2人。だが、そもそも心は果てしなく複雑であり、自分自身の心を理解することすら難しいものと言える。ならば他者の心など、多少触れた程度で理解できるはずもない。それでも、一つ思えたことがあった。

 

(この人となら、きっとできる!)

 

(彼女となら、僕はやれる!)

 

 お互いとなら、道を切り開けるという確信があった。

 

「愛審聖裁マーシー・リブラ‼」

 

「影光勇者ノクストス‼」

 

 光の渦が晴れた時、2人は間違いなく変身していた。そして高らかに名乗りを上げる。討つべき敵に、そしてこの世界に。

 

 




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