魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
OIDO日本支部の管制室では、新しい魔法少女の正式デビューとなる大事な一戦を、職員一同が固唾をのんで見守っていた。
「シンセリー、マーシー両ペア、学校に帰還します」
オペレーターがそう報告すると、部屋のあちこちから安堵の声が響いた。
「あとは救護班の仕事だな。ひゅー、いつだって初陣ってのは緊張するな~」
若干へらへらとした様子で笑うのは、飄々とした雰囲気のひげ面の男、陣屋徹。日本支部で戦術指揮を担当する男だ。しかし、鋼魔との戦いはシンセリーの裁量に任せられる部分も多いため、今回のような比較的小規模な戦いでは出番がないこともある。
「勝ちはしたが、新人は攻撃に参加できていない。戦士になれたと判断するには早すぎる……ああ、あと4人に、放課後支部に顔を出すよう連絡してくれ。反省会をやる」
辛口のコメントの後、オペレーターに言伝を頼むのはミサト教官だ。彼女からしてみれば、マーシーが戦場の空気に耐えたというだけで、戦士として一定のラインに達したとは考えられないのだ。
「しかし、これでワンオペだった日本の戦力も安定するな」
「人身御供が増えただけだろう……」
陣屋が状況の変化を前向きに捉えると、ある男が氷水のような冷たい声で水を差した。
声の主は神名誠也。前回の戦いでマーシーにアドバイスした、魔法技師長という役職の男である。OIDO日本支部において魔法の研究と行使を統括している。
白衣に眼鏡姿といういかにもな格好をしたその男は、うつむいてやるせなさそうな表情をしていた。
「お前まだそんなこと言ってるのか、そりゃ今更ってやつだろ」
ある意味で青臭いと言える神名の言葉に陣屋は逆に苦言を呈する。
「だが俺たちが考え続けなきゃいけないことだろ?」
神名はなおも食い下がるが、陣屋は取り合わなかった。結論はすでに出ていて、相手もそれが分かっているからだ。
「そのことについては意識し続けるべきではありますが、ほかに有効な手段がない以上、やり通すのがある意味での誠実さです。今は彼女が魔法少女たらんとしてくれることに感謝しましょう」
場に生じた不穏な空気を鎮めにかかったのは岩本司令だ。組織の中には気にしないようにしている者もいるが、多くの職員が、実質的な少年兵である魔法少女に頼らざるを得ないことへの問題意識をうっすらと共有していた。
しかし、より多くの人命を救うことを考えるなら、魔法少女という存在を徹底的に活かそうとするのは間違いではない。
OIDOという組織は、そういう矛盾を抱えながら回っているのだ。
※
デビュー戦のあと、ミサト教官に呼び出された一実は、案の定というか、まだ攻撃には参加できていないのだからゆめゆめ調子に乗らないようにと釘を刺された。さらに、無駄な動きが多く、もたついて市民を危険にさらしていたと指摘され、細かい所作を合理化するように言いつけられた。彼女はげっそりするほど疲れ果てたが、寮への帰り道で翼から死ぬほど褒めてもらったので、本人としては差し引きゼロという認識になった。単純である。
そしてその週末、普段の訓練とは別の業務をやってもらうという前置きのもと、4人は支部の一角に呼び出された。
その部屋にはグリーンバックやカメラなどの撮影機器がそろっていた。
一実は嫌な予感に襲われた。
「デビュー戦お疲れさまでした!立派だったと思います!」
「えへへ……ありがとうございます」
4人を出迎えたのは教官ではなく、妖精のレミアだった。小さく可愛らしい彼女から花束を贈られるかのように盛大に褒められて、一実は顔をとろとろに蕩かして笑った。
「さて、翼さんは分かっていると思いますが、今回のお仕事は広報です!」
「こ、広報……」
広報という言葉を聞いて、一実の背筋がこわばる。翼だけでなく一実自身も広報活動に親しんでいたため、それがどんなものか想像がついた。
だからこそ一実は、戦いに臨むのと同じぐらいの精神的な重圧を感じてしまう。頭が熱くなる一方で、冷や汗と手汗がにじみ、体は冷えていく。居心地の悪い不快感が彼女の全身を包んだ。
「具体的には、日本の皆さんにマーシー・リブラについて知っていただけるような紹介動画を撮りたいと思っています」
「大切な仕事だ!頑張ろう!」
緊張で胃がキリキリしだす一実とは対照的に、後ろについてきていた悠夜はノリノリのようだ。いつものサイバーグラス姿でサムズアップまで決めている。一実は口には出さなかったものの、「マジか」とぎょっとした表情を浮かべた。
「え?悠夜、お前広報の仕事はピエロになるみたいでイヤだって言ってなかったか?」
「前はそうだったけど考えが変わったんだよ」
(な、ナニモンだそいつは!? 悠夜に余計な心変わりを起こさせたのは!)
悠夜が乗り気でないなら、なんとか先延ばしにできるかもしれないのにと思った一実は知らない誰かに憎しみを向けた。
「一実がさ、広報をしっかり見ててくれたおかげで、最初に会ったとき、戦う流れの説明がすごくスムーズにいってさ。地道な活動はちゃんと実を結ぶんだなーって思ってさ。こんなにはっきりした成果を出されたら、認めるしかないよね」
悠夜は手で優しく一実のことを指し示しながら笑った。
(私だったーー!)
ナイフを向けた相手が自分自身だと分かって、一実はもうどうしていいか分からなくなる。悠夜は一実が真面目に勉強したのだと思っているのかもしれないが、実際はシンセリーの様子や姿をできるだけ見ておきたくて、テキストページも動画も隅から隅まで何度も見返した結果、内容が頭に入っているのである。
(恨むぞ……昔のわたしぃ……)
「ん、どうしたの一実?大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと緊張しているだけ……」
欲望のまま振る舞っていた昔の自分が、今こうして自身の首を絞めている。そんな複雑な心境に、一実は握り拳に力を込めてしまう。
「そっか、この仕事、そういうふうに役に立つんだ。私もこの仕事、本分じゃないよなって思ってたけど、それがあってあなたに出会えたって考えると、やる気が出てくるよ」
一実のフィルターもあるのだろうが、そのときの翼は後光を背負った天使のような、明るく癒やされる笑顔を見せた。
(おお~~!!可愛いぃ~~!!そんな顔されると、命がけで挑むしかねぇ!)
翼の反応1つでマイナスだったモチベーションが反転するのだから、やはり単純だと言えるのかもしれない。
「はは、なんか今日の一実、顔がコロコロ変わって面白い!」
「~~!?そうかな……あはは!」
嵐のごとく吹き荒れる一実の内心の一端を悠夜に見抜かれて、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
「それじゃー、4人とも変身してください!撮影準備が出来ました」
「今回はあなたのことを紹介するだけだから、肩肘張らずに自然体でいいと思うよ」
「わ、分かりました」
(だから緊張しているんですよ~~!)
戦士たる魔法少女の本分からは少し外れる仕事だったが、一実には逃げられなかった。ほかならぬ自分自身が、その価値を体現しているのだから。彼女は諦めて、これも戦いの一つだと思って撮影に挑むのだった。
※
そして週明けの朝、一実が自分の教室に入ると愛奈が飛んできた。
「一実―!あの動画、見た?見た?」
(予想通りテンションが高い……)
土曜に撮った動画はOIDOスタッフによって編集され、その日の0時に公開されていた。マーシーとノクストスの簡単な紹介が中心だったが、大反響だった。一実にすれば恐ろしいことだったが、考えてみれば当然である。世界にわずか12人しかいなかった魔法少女と勇者に、13人目が加わったのだ。さらには約3年にわたって2人で日本を守ってきたシンセリーとエクスマインの同僚となるニューヒーローの登場。客観的に見れば超特大ニュースだ。現に一実がここに来るまでにも何度かその話が聞こえてきたし、教室でも話題にしている生徒は多い。
発表後、碧乃一実は日本の防衛大臣と面会する機会もあるそうだ。ついこの間まで普通の中学生だった彼女には、信じられないような環境の変化だ。
「見た。死ぬほど見た。飽きるほど見た」
正直、目が焼けるような羞恥を感じたが、愛奈にこうして聞かれることを予測していたので、一実は事前に渡された動画を死ぬ気で見まくった。
「お、やっぱり?にしてはテンション低い感じだけど」
「なんか、エネルギー使っちゃって……」
一実は嘘ではない言い訳を口にする。彼女は悠夜が止めるのを押し切って、睡眠時間を削り、動画を繰り返し見た。教室で初見を迎えようものなら、みんなの前で大発狂してしまう未来が目に見えていたからだ。だから彼女はすべてのシーンを見慣れて、精神が擦り切れて何も感じなくなるようにしたのだ。
「ホームルームまでまだ時間あるし、一緒に見ようと思ったけど止めとく?」
愛奈は一実の異変に気付いて、考えていたことを控えようとする。
「いや、見よう……今日はそのために学校に来たんだから」
一実は万感の思いでそう言った。彼女は酷く遠い目をしていた。
※
『はーい!世界のみんな!魔法通信の時間だよ!こんにちは♪みんなの友達、天望愛齎シンセリー・テルスです♪』
淡い桃色の背景の中に、黄色いドレスの魔法少女が登場する。それはこの動画シリーズのお決まりの始まり方だった。普段のシンセリーとは違う、教育番組のお姉さんのようなキャラを演じている。一実も翼と会う前からそれが素ではないのだろうと思っていたが、最初に素の翼と会ったときはそこそこ驚いたものだ。なんでも、翼も最初は恥ずかしさや緊張で求められる動きができなかったそうだ。そこで逆に、思い切りテンションの高いキャラを作ってそれを覆い隠したのだという。慣れてからもテンションを下げるタイミングがなく、すっかり板についたのだとか。
「天巌勇者エクスマインだ!今回もよろしくな!」
続いていつもの調子の赤い巨体が画角に入ってくる。まったくもって安定した絵面だと一実は思った。
「今日はみんなに大ニュースを持ってきたよ!」
「今回はマジのガチで大スクープだぜ!」
2人は大きな身振り手振りで今回の動画の重大性をアピールする。一実から見ればとてもこなれて見えて自然な動きだった。
「それじゃあ出てきてー!マーシー!ノクストス!」
“シュイン!”
金属音のような、そうでないような音が鳴り、突然、画面中央あたりにピンクのドレスの魔法少女と青い装甲の勇者が現れる。
「せ、世界の皆さん、こ、こんにちは!わ、私の名前は!シンセリーと一緒に戦うことになった愛齎聖裁マーシー・リブラです!み、みなひゃん、よろしくお願いします!」
ガチガチに固まっているマーシーは、ろくに回らない舌で自己紹介する。緊張で噛み過ぎたものの、「緊張するのはしょうがないし、これくらいの方が親しみを持ってもらえるかも」ということで、撮影担当者にあえて採用されたテイクが使われている。
「僕は彼女のパートナー、影光勇者ノクストスです!彼女ともどもよろしくお願いします!」
ノクストスは胸部に手を当てて軽くお辞儀をする。その動作はとても滑らかで優雅だった。彼の人間形態のクールでスマートな様子が、戦闘形態にもにじんでいるようだ。ガチガチに固まってぎこちない動きしかできないパートナーと、どちらがロボットなのか分からなくなるほどだった。
「そう、今日みんなに紹介したのは新しい仲間!日本を一緒に守ってくれる頼もしい2人のことだよ!」
「アジアに住んでいる人のところには、援軍に行くかもしれねえ……そのときはよろしくな!」
シンセリーとエクスマインは、仲間が増えてとても嬉しそうな様子を見せる。それはアピールではあったが、嘘偽りない感情でもあった。
「2人にはこの前の戦いの時から一緒に戦ってもらってるんだー。だから分かるけど、2人も私に負けないぐらい強いよ!」
「ああ、俺たちのお墨付きだ!」
シンセリーは両手のガッツポーズで、エクスマインはサムズアップして、2人が頼りになる戦力だとアピールする。
ノクストスは軽くうなずいて応えられたが、マーシーの方は気をつけの姿勢のまま、ビクンと跳ねてしまう有り様だった。
「あはは、緊張してるみたいだね……そんなところに悪いんだけど、みんなに2人がどんな魔法少女と勇者なのか自己紹介してくれる?」
シンセリーは若干素の半笑いを漏らしながら、話を振る。
「は、はい!私の使える魔法はこのハンマーで重力を操ることです!」
“パコン♪”
一瞬目配せしてから、マーシーはノクストスを叩いて彼を無重力状態にして浮かせる実演を見せる。
「この力で戦うだけじゃなくて、危ない瓦礫とか、どかせたらなって思ってます!現場で動けない人がいたら任せてください!」
マーシーは緊張を少しだけ抑え込み、自分がどう役に立てるかをカメラの先の人々に伝えようとする。彼女にはヒーローでありたい、人助けをする人間でありたいという思いが強い。戦うことだけでなく人命救助にも力を尽くそうという志が、緊張を上回っているのだ。
「僕は忍者がコンセプトの勇者。身を隠したり、相手をかく乱したりすることが得意なんだ」
地に足を付けたノクストスは、今度は自分の能力を実演する。自分の姿を透明にしたり、手で触れたマーシーの姿を透明にしたりして見せる。
「実はさっきの登場は、編集とかじゃなくてマーシーといっしょに隠れてずっとここにいたんだ。ほんとの戦いでも、みんなのことを見えなくして安全に避難させることができると思う」
ここまでの能力紹介は、彼女たち自身を印象づけるとともに、人命救助の現場でできることを周知し、実戦で市民がスムーズに動けるようにすることを目的としている。
「みんな、鋼魔なんて関係ない生活が一番だけど、もしもの時は思い出してみてね」
「仲間が増えれば、できることも増える。もっと素早く、上手にみんなを助けられるように、俺たちもがんばっていくぜ!」
「最後に、マーシーとノクストスから、一言貰えるかな?」
「はい、私もシンセリーや他の先輩たちみたいに、みんなの大切な生活を守るために、全力以上を出すつもりで、頑張ります!」
その台詞を言うときのマーシーには、緊張も羞恥もなかった。この台詞を考える際、彼女は「先輩とは違って至らないこともあるかもしれないけど、頑張ります」というようなことを言おうとしていた。
しかし、それを伝えたシンセリーから、魔法少女は絶対的な希望でなければいけないと指摘された。助けに来たのがシンセリーではなくマーシーだから助からないかもしれない、などと市民に思わせてはいけないのだという。実態とは関係なく、助けが来たという安心感そのものが、危機に瀕した人々に力を与えるからだ。
それは一実にしてみれば、実感をもって理解できることだった。ノコ・イタチに襲われたとき、彼女は「すぐにシンセリーが来てくれるから踏ん張ろう」と思えた。助けが来るかもしれないという希望は、生きるための行動を取る後押しにもなる。
だからこそ、一実が、マーシーがヒーローである魔法少女ならば、ハッタリを張らなければいけないのだ。
マーシーはそんな考えを聞き、自分もそうありたいという強い思いを宣誓したのだった。
「僕も、ほかの勇者と同じようにみんなの命と営みを守るために作られました。その使命の価値とやりがいを、日々いっそう感じています。僕を作り上げた想いに応えられるように、できることを一生懸命やっていこうと思います」
ノクストスの声はマーシーほど必死ではなく、落ち着いていたが、聞く者に淀みない意志を感じさせた。
「皆さん!応援よろしくお願いします!」
2人は、声と動きを合わせてお辞儀をした。その動きはぴったりとシンクロしていて熟練のコンビであるかのような印象があった。
「2人の熱い思いが、いっぱい伝わってきたよ!」
2人の抱負を聞いたシンセリーの声は、相変わらず作ったテンションだったが、顔には素に近い優しい微笑みが浮かんでいた。
「これからの魔法通信はこの4人でやっていくことになるんだ。改めてよろしくな!」
「名残惜しいけど、今回の魔法通信はこれでおしまい。嬉しいニュースを伝えられて、本当によかった」
そう言ったときのシンセリーの姿からは、心からの喜び、仲間が増えた頼もしさ、代わりがいる安心感といった様々な感情がにじんでいた。
「みんな、またねー!」
4人いっしょのあいさつで動画は終わった。
※
「いやー、いきなり新人出てくるなんて本当にびっくりした」
「マジでそう」
席で改めて動画を見終えた愛奈の第一声に、一実は自然に合わせた。彼女は一般人だった頃から魔法通信を見まくっていた。今回の動画を普通の人々がどう思うか、よく分かっている。
「で、どう?」
「新しい勇者はスマートでエクスマインとは別方向の魅力があるって感じかな。……魔法少女の方は……あんなんで大丈夫かって言いたくなった」
一実は、目をキラキラさせて主語のない疑問をぶつけてくる愛奈に、自分なりの答えを返した。きっとこんな複雑な立場でなかったら、自分の方こそ先に感想を求めていただろうと思いながら。
「お、おお、意外に辛口……しかも魔法少女に……一実って魔法少女寄りのファンじゃないの? 評価が芳しくないその心は?」
「隣にいるのがシンセリーだからね。あがり症でも未熟でも、魔法少女として戦ってくれるなら一定のリスペクト? っていうの? はしないといけないと思うけど、それはそれとして、シンセリーの足を引っ張ったりしたら嫌だなって思っちゃって」
それは一実が自らに批判が向けられる前に張った予防線でもあったが、シンセリーの大ファンである碧乃一実が、マーシーという新しい魔法少女に抱いた偽らざる思いでもあった。
「一実って、ほんとシンセリーのこと大好きだよね。筋金入りって感じ……でもきっと大丈夫だよ」
「え……?」
一実は自分で言った後、ひどい女と思われてしまうかもと不安になったが、存外に愛奈の反応は柔らかかった。
「確かにおどおどしてる感じはあったけど、魔法少女のお仕事とか、鋼魔から人間を守りたいって思いが強いんだろうなってちゃんと伝わってきた気がするから……」
「そ、そっか……そういう見方も、あるか……」
一実は愛奈から間接的に褒められ、顔が赤くならないよう、必死に照れを隠そうとした。
「そういう、ことを言ってくれると、新しい子も喜んでくれると思う」
「あはは、それ、誰目線?」
「あ、えっと……誰だろう……」
最後の方、一実はボロを出しかけてしまったが何とかごまかして、新しい勇者がカッコいいという話に移行していった。
※
その日の放課後、ノクストスとマーシーは空の上でその日の出来事を報告し合っていた。
「やっぱり、学校中僕たちの話で持ちきりだったね」
「うん」
悠夜のクラスでも2人についての話題が上がっていたようだ。首都圏に位置するこの地域では鋼魔の出現確率が高い。つまり魔法少女と勇者の存在は生活に直結する話で、好き嫌いにかかわらず興味を持たざるを得ないところがある。
「マーシーのこと可愛いって言われてたよ」
「え、ええっ!? そ、そんなことないのに!」
「いいや、全力で肯定しといたよ」
「え、ええぇ~……」
跨っている彼を叩いて抗議したくもなったが、それも実行できないほど彼女は恥ずかしさに包まれてしまう。
「君は卑屈になりがちだけど、マーシーも“一実”も可愛いよ」
「え、ええっ!?」
ノクストスは、ある意味でマーシーに追い打ちをかけるようなことを言ってくる。ピンクのドレスを含めた魔法少女補正のようなものが働いているマーシーだけでなく、素の彼女のことも可愛いと言う。
「そんなことないと思うよ……」
一実は自己肯定感の低さからくる卑屈さが顔を出し、相手からの褒め言葉を素直に受け取れない。
「いいや、間違いない。そもそもかわいいなんて言うのは主観的評価だ。ということは、僕がそう思えば、君がどう思っていようと僕にとっては真実なんだ」
ノクストスは論理的に逃げ道を塞いでくる。パートナーに対するひいき目もあると思ったが、そう言われれば彼女も嬉しくなってしまう。
(うぬぼれちゃダメだって思ってるけど、受け取らないのも変だよね)
マーシーは、これから自分に向けられる賞賛や評価に溺れてはいけないし、振り回されてもいけないと思う。プラスの評価を受けることが少なかった彼女には、それとの適切な距離感が分からない。いつか自分が成長すれば、それも分かるようになるのだろうか。今はまだ想像もつかなかった。
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