魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
“ガインッ!”
甲高くそれでいて腹に響く音が、地下のトレーニングルームに反響する。
白い壁に囲まれた部屋で、2人の少女がステッキの先か伸びる魔力の刃を打ち合わせている。さながら“銀河の騎士”のようだった。刃と言っても訓練用に調整されたもので、当たっても痺れる程度だ。
近接戦闘でノクストスは実体のある刀を使い、魔力刃とは勝手が違う。だから一実は独立した訓練を行っている。
つば競り合いの中で、エネルギーの刃が閃光と衝撃が発生する。
“パーンッ!“
「うわっ!」
一実はスパークといっしょに跳ね上げるようにされ、のけ反って片膝をつく。
「実戦では、こんなふうにつば競り合いすることは少ない。魔力刃の威力は基本的に底なし、力を入れなくても一瞬で斬れる」
一実を見下ろす翼は立ち回りを教える。今一実は近接戦闘の訓練中だった。
「だからあなたが、気にするべきなのはどう斬るかよりも、その次をどうするか、弾かれた場合はどうするか、体勢を崩さないように重心と体幹を意識して」
そこまでしゃべって翼は一実を助け起こす。
「はい、気を付けます」
「でも、今倒れ込まないように踏ん張ったよね。その方向でいいよ。頑張って」
翼は最後に餌になる誉め言葉を付けくわえる。それは翼にすれば無意識の行為だったが、とうの一実にはどうしようもなくクリティカルだ。
「……!?頑張ります!」
そう言った一実は両手持ちだった所から、片手持ちに変える。威力や体重を乗せることを意識しないなら片手の方が振りやすいと考えたのだ。
それからも数合2人は打ち合う。一実としてはなるべく隙のありそうなところをいろんな角度から攻めてみた。しかし翼はそのこと如くを、同じく片手で弾いてくる。
(すごい……でもこれは……?)
弾かれているうちに一実は気づいた。いなされると同時に翼の側面に引き込まれる力が働いていることに。体勢を崩さないことを意識していなければ、無防備な体制になってしまいそうだった。
(翼さん、何気ないように見えて、気負抜けばやられちゃいそうになる。こういうのを技量があるっていうのかな。……そうだとしても、むしろだからこそ、負けたままじゃいたくない)
一実は、ただ脳死で打ち込むだけでなく、自分で考えた一手を打ってみようと思った。
“ガキィンッ!!”
(ここ……!)
一実が右側面に打ち込んだ時、翼は繰り返しているのと同じように引き込んで相手を崩そうとする。
それが分かっているなら、一実からもできることはある。相手の側面に、そのまま一歩踏み込むのだ。流されるなら、流されればいい。想定しない体重移動が起きるから体勢を崩すのであって自分でそうするならそうなることもない。
“ガキンッ!”
「クッ……」
一実はズレた位置から、また打ち込む。それは翼の想定を超えていたのか、声を漏らした。
(考えたんだね。いい傾向だよ……でもね……)
翼は、自ら考えて攻め方を工夫する一実に感心していた。しかし、その程度で1本取られるほど、彼女は甘くない。一実が向上心を抱き続けられるように格の差を教えてあげようと決めた。力で押し込んでくる相手に対して、力で押し返そうとする。
“バチンッ!”
「きゃっ!?」
「あっ!?」
しかし、弾かれたのは翼の方だった。一実が無意識のうちに魔力を増大させたことで、最初のスパークと同じ現象が起こり、翼の方を退かせたのだ。
「あ、ああ……先輩、大丈夫ですか?私、何しちゃったんだろう……!?」
一実は翼を傷つけてしまったのではないかと思い。顔を青くして声をかける。
「大丈夫、大丈夫だよ。一実が予想以上にパワフルでびっくりしちゃっただけだから……」
翼は、後ろにしりもちをついたところからすぐに立ち上がる。一実の自身に対する愛が重く、彼女が心配しやすくなっているということはさすがに分かっている。心配させないように怪我がないことをアピールする。
「よ、よかったです。でも、変なことは起こらないようにしないとですよね……」
「そんなに心配しなくていいよ。私が最初に使ったのが起こっただけだから。……それにしてもすごい魔力だね。博士が期待するわけだよ」
さっきの衝撃は意識が集中したことでステッキに過剰な魔力が注がれたことによって起きたものだ。翼のように意識的に起こすならまだしも、力む程度で起こせてしまうというのは一実のたぐいまれな魔力出力故だろう。
「あなたはきっと、やればやるほど強くなれる。私としては、もっとそれを見たいかな……」
「はい!」
挑発に近い翼の言葉を受けて、一実はステッキを構えて目を凝らす。そこから2時間近く2人は濃密な修練を行った。
「魔法少女は、あなたが思っているより、素早く動けて力が強い。だからあなたがやるべきことをこなせるようになるだけで、あなたは強い戦士になれる」
シンセリーは刃を打ち合わせながら、さらにレクチャーを続ける。拙くとも、スムーズではなくとも、基礎さえできていればあとは魔法少女の力がその者を1流の戦士に引き上げてくれる。だからこそマーシーが意識すべきなのは、その基礎を固めることだった。彼女が魔法少女になって2か月が過ぎようとしている。そうなるのはもうすぐだ。
※
「お疲れ様」
「あ、ありがとうございます!いただきます!」
訓練が終わった後、翼は休憩室のソファーで休む一実にスポーツドリンクを差し入れる。彼女は相当消耗していたようで受取ったとたんにぐびぐびと水分補給をしだす。翼はこれまでの一実なら受け取るときにワンリアクション入りそうなものなのにと疑問に思った。
(相当消耗させちゃったかな?)
一実の方を見てそんなことを考える翼は自らもソファーに座りながら自分の分として用意していたボトルに口を付ける。
「一実、学校に訓練に毎日やることいっぱいだけど、辛くない?普通の中学生みたいに休みも取れないでしょ」
「あ、ええと、体力的にきついなって思うことはありますけど、自分が毎日強くなってる気がする……というか、いい変化が毎日起こる感じで楽しいんです。だから、辛くはありません。たぶん、悠夜のおかげだと思います」
「そう……よかった」
翼からすれば意外なことだったが、一実の返答は頼もしいものだった。よどみなく言葉がでていたし、瞳からも力を感じる。取り繕ったわけではないのだろう。
「先輩の方は、どうですか?」
「……え?どうって?」
翼は質問をされることは予想できていなかったので、驚いてしまう。
「学校です。先輩、私とは逆に中学校生活って初めてなんですよね。その、どんな感じかな~って気になって……」
どこまでもためらいながら、聞いてきて嫌なら答えなくていいと一実は付け加える。痛いところを突かれた、と翼は思った。一実の方からしてみればずっと心配だったことを、自然に切り出せるのはここしかないと聞いたわけだが、その心配が的中したことになる。
「…………あんまりうまくやってるとは言えないかな。同級生と碌に関われてないし」
翼は取り繕うことも考えたが、いろいろ考えて白状することにした。彼女から見てそういう感じがあったということは嘘をついても、いずれバレると思ったからだ。しかし彼女は現状を言葉にするうちに酷く情けない気持ちになってくる。これは後輩に相談すべきことなのかと。同年代とかかわることが極端に少なかった星原翼という少女は、今の自分の現状をどういう方向で処理すべきなのか、分からなくなってくる。
「……そうなんですね。私も、クラスで孤立しがちなタイプなので、親近感湧いちゃいます。……ごめんなさい。今の、聞かなかったことにしてください……」
「分かった……」
一実の方も、訊いた後で聞くべきことだったのか、返答を聞いて自分がどうすべきなのか分からなくなっていた。
「…………」
「…………」
お互い何を言うべきか分からなくなって、しばらく気まずい沈黙が流れた。
「あの……!」
「ごめんね……」
“ヴィー!ヴィー!”
偶然2人が話を切り出そうとしたとき、それを遮るようにアラートの音が部屋に響いた。
『鋼魔反応確認!鋼魔反応確認!担当者各員は、非常時対応に入ってください!』
「……はぁ……せっかく後輩と楽しくおしゃべりしてたのに空気の読めない鋼魔だ……。いこっか、一実」
「あ、はい!私、全力を尽くします!」
翼はおもむろに立ち上がり、文句を1つこぼした後、一実とともにメンテナンス中のパートナーの元へ向かう。
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