魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
“トン……”
“バシュンッ!”
にらみ合うデストローカストとノクストスは、同時に互いへ跳びかかった。ビルを足場にしながら街中を縦横無尽に飛び回り、時折交錯しては刃を打ち合わせ、火花を散らす。
「すごい……」
マーシーは目の前で繰り広げられるアクロバティックな戦いに、半ば見入ってしまう。精神リンクがあるからこそ辛うじて状況を捉えられるが、変身していなければ、刃のぶつかる音と、ビルの壁や地面が蹴り砕かれる音しか聞き取れなかっただろう。
(私が割って入れる余地なんて、全くない……)
目の前の戦いに圧倒されながら、同時に口惜しくも思う。シンセリーならまだできることがあるだろうが、今のマーシーにはそれができない。
(リミッターの外れてるノクストスもすごいけど、それとまともにやりあえてるあの鋼魔って何なの?)
ノクストスの凄まじい速度と流麗な剣技を実感すればするほど、それに対抗する鋼魔の戦闘力の高さも分かってくる。総合的にはノクストスが押していると言えたが、衝突のたびにフレームへ相当な負荷がかかっていることが伝わり、予断を許さなかった。
「いい加減にしろ!」
ノクストスは飛び回るデストローカストに対して、渾身の蹴りを入れる。
“ドカッ……ガガガガガッ!”
デストローカストはアスファルトに擦り付けられ、道路を抉った。
「コメット・インパクト!」
敵の体勢を崩したノクストスは、左腕を飛ばし、ワイヤーでその身体を絡め取る。
「もう逃がさない!」
“バチバチバチバチッ!!バリバリバリバリッ!!”
ノクストスのワイヤーが青い光を帯び、激しい破裂音とともに所々で火花を散らす。ワイヤーに高圧電流を流しているのだ。何重にも巻き付いたワイヤーから放たれる高エネルギーが、鋼魔獣の全身を隈なく焼いていく。
「ガチガチガチガチッ!」
声帯がないのか、鋼魔は体内から耳障りな音を響かせ、声にならない絶叫を上げる。
「これで決める!」
ノクストスは空中で右手の刀を構え、ビルの壁を蹴ると同時にワイヤーを巻き取り、地面でのたうつデストローカストへ跳びかかる。
“ザシュッ!バッシュッ!”
デストローカストの頭と四肢が切り落とされる。刀は何度も振るわれているはずだが、マーシーの目が捉えたのは、刃に反射した一閃の光だけだった。
“ジャキン!”
「人は含まれてないけど、マーシーの攻撃の方が再生を確実に防げる。だから、トドメは任せた」
首も四肢も失い、だるま同然となったデストローカストの身体に、ノクストスは刀を突き立てて釘付けにする。マーシーはむごい光景だとは思ったが、人を食べ、再生する化け物にまで配慮する必要はない。
「分かった」
不快感を飲み込んだマーシーは、ノクストスの方へ駆け寄った。
“ブチュブチュブチュ……”
「な、なに!?」
地面に打ち付けられたデストローカストの胴体と四肢、そして頭が、泡立つように細かく分裂していく。
イナゴそのものの大きさと姿をした、無数の銀色の虫が周囲へ拡散した。
「む、虫ぃ!?」
取り乱すほどではなかったが、マーシーはどうしようもない生理的嫌悪感に襲われ、怯んでしまう。
“ババババッ!”
その隙を突いたのか、鋼魔から分裂したイナゴの群れはマーシーの脇をすり抜け、逃げていく。
「ああ、ダメ!逃がさない」
すぐに我に返った彼女は、反射的に群れを追いかけていく。
「マーシー!待って!」
ノクストスはこれまでにない鋼魔の挙動に警戒感を覚え、マーシーを一人にさせまいと追いかけた。しかし、そこへ切迫した通信が管制室から入ってくる。
『こちら陣屋。マーシー、何も聞かずに止まるんだ! ノクストスも、今すぐその子を止めろ!』
焦った声が2人のインカムに響く。しかし、その時にはもう、マーシーはイナゴの群れが逃げ込んだ地下駐車場の奥へ足を踏み入れてしまっていた。
駐車場の照明はまばらにしか点いておらず、辺りは暗かった。一部の照明は壊れているらしく、漏電した箇所から火花が噴き出していた。
「え?」
明滅する光が、地下空間の闇に隠れた部分を一瞬だけあらわにする。フラッシュに照らされるように浮かび上がったものは、かえってマーシーの目に焼き付いてしまった。
見えたのは、恐怖に歪んだ男性の顔だった。ただし、その目は抉られたように失われ、空洞から血が流れていた。
「あ、あ……」
異様な臭いが漂い、マーシーの頭が理解するより先に、本能がその場の異常性を察知する。そして魔法少女として強化された視覚が闇に適応し、照明に頼らずとも周囲が見えるようになる。
その顔が、横たわった人間のものだと認識できてしまう。男性は微動だにせず、代わりに無数のイナゴが全身を這い回り、その肉に食いついていた。
そこまで認識したところで、その人影は死体なのではないかという考えが浮かんでしまう。
「し、死んで……あっ!」
マーシーは周囲に蠢く気配を感じ、辺りを見回す。
“ガジガジ……”
周囲には無数のイナゴがいた。それを見た彼女は理解する。さっきまでノクストスが戦っていた人型の鋼魔は、群れの一部が集まってできたものだったのだと。マーシーもノクストスも、先に見つけたあの一団に気を取られ、ほかの魔力反応に気づかずにいたのだ。
そして、そこにあるのはイナゴだけではなかった。あの男性と同じように市民たちが倒れ、その身体を這い回る虫にかじられていた。
「い、イヤ……!?」
マーシーは理解するまいとした。しかし、どれほどの衝撃を受けても、彼女の精神はパニックに陥ることを許してくれない。冷静な部分が、目の前の光景を否応なく認識してしまう。
老若男女を問わず、たくさんの人が積み重なるように倒れていた。誰もが恐怖や苦痛で歪んだような表情をしていた。腹を食い破られた人も、腕や足が欠けた人もいる。追い込まれたのか、運ばれてきたのか。いずれにしろ、ここは奴らの巣穴であり、食事場なのだろう。
これほど身体を傷つけられた人がいるのに、うめき声すら聞こえない。マーシーは最悪を超える結論に至ってしまう。
「あ、ああ……こんなことって……」
14歳の少女が受け止めるにはあまりにも惨い現実が、マーシーに襲いかかる。
“パシャッ!”
逃げるように後ずさると、水音が鳴った。足元を見下ろせば、死体から流れ出た血が広がっていた。その音と、立ち上る血の臭いが最後の一押しとなってしまった。
「……ひっ、ぁあああああああああっ!!」
マーシーは頭を抱えて絶叫する。様々な感情が彼女の心を駆け巡り、激しく揺さぶりながら渦巻くように混ざり合う。もはや自分が何を感じているのかも分からず、ただその衝撃に打ちのめされていた。
未熟なヒーローは、戦場の最も凄惨な部分と否応なく向き合わされていく。
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