魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
「ああ、いたいた。神名くん!」
「珍しいな、あんたから話しかけてくるなんて」
デストローカストとマーシーたちの戦闘から数時間後、OIDO日本支部の廊下を歩いていた前園真理は、探していた神名誠也を見つけて駆け寄った。
「そんな言い方しなくていいじゃん。愛想悪いとモテないぞ」
「余計なお世話だ。……何か用なのか? 俺をからかいに来ただけなら、どいてくれ。忙しいんだ」
そっけない対応をする神名に前園が苦言を呈すると、彼はさらに態度を硬化させた。
「ああ、待って待って! 用はちゃんとあるから! ……その、一実ちゃんの容体はどうかなって! ……ほら、魔法少女って私にとっては義理の娘みたいなものじゃない? ……だから、気になって……」
前園にとって、息子である勇者のパートナーのことは、否応なく気になってしまうのだ。
「はぁ……真面目な話をするなら、いらん小ボケを挟むな」
「……ごめんなさい。空気が重くなりすぎそうで、耐えられなかったのよ」
へらへらしていた前園の表情は、一気にしぼんだ。
「外傷はほとんどない。ただ、体内で魔力を巡らせる経絡系にダメージを受けている。数日は安静にしないといけないな」
神名は支部内の病院に搬送された一実の容体について説明する。医療は専門外だが、今回の一実のダメージは魔法に関わるものとして、彼にも情報が共有されていた。
「そちらは時間が経てば回復するだろうが、問題は心の面だろうな」
「やっぱりそうか……」
深刻な問題に触れざるを得ず、2人の周りの空気はいっそう重くなった。
「そっちはどうだ? 勇者の方の様子は」
ふと気になった神名は、逆に質問してみた。
「あの子も損傷らしい損傷はないわ。明らかに疲れてる感じだけど……。ねえ、一実ちゃんの身に具体的に何があったの? すっごい魔力を出したとは聞いたけど、彼女の心に何があったの?」
魔法少女の精神状態は、勇者の精神状態に直接影響を与える。前園としては、なるべく把握しておきたいことだった。しかし、天才である彼女にとっても、魔法は専門外だ。そこで、その道のプロに聞こうとしたのである。
「うん……簡単に言うと、強烈な感情によって過剰な魔力が出力されたんだ」
「強烈な感情……」
「そうだ。魔法少女の力の源は意志と感情だ。それが強いほど、魔法少女の発揮できる力も大きくなる。理論上は無制限にな」
「理論上は……」
あえて「理論上」と言うからには、実際にはそうではないのだろう。
「しかし、実際には身体能力や魔法適性によって上限が生じる。どこまでやれるかには個人差があると言っていいだろう」
魔法少女と勇者が協力して動かすインテグレーション・ボディを手掛ける前園も、そこまでは理解していた。
「しかし今回は、周りの惨状を目にした碧乃が抱いた尋常ではない悲しみや恐怖、そしてそこから反転して発露した激烈な怒りが、彼女にあるはずのリミッターを外してしまったんだ」
尋常ではない、激烈な……神名は強い言葉を使って、碧乃一実が抱いた感情の大きさを表そうとする。しかし、彼も話を聞く前園も、碧乃一実という少女が受けた衝撃は他者には計り知れないだろうという認識を共有していた。悠夜を除いて……。
「一時的に限界を超えた力を行使できるようになった碧乃は、その力で敵を圧倒した。だが、もちろんそんなことをすれば身体に深刻な反動が来る。それで寝込んでいるわけだ」
「でも、それは問題の本質じゃないんでしょう?」
一実が受けたダメージはそれだけではない。神名が最初に言及した通り、心の問題がある。
「ああ……そもそも今回、あの子は普通の14歳の少女には受け止めきれないほどのショックを受けている。普通なら、あの現実を受け止めきる前に、パニックを起こすなり気絶するなりして、自己防衛的に思考を停止するだろう」
そうならなかったのは、碧乃一実の精神がそれだけ強かったからだろうか、と前園は思いかけた。
「だが、あの子は魔法少女に変身していた。勇者と精神リンクをしていた。それが、負荷を受け止めてなお冷静に思考する余地をつくってしまった」
神名は、それが不幸であるかのように語る。魔法少女と勇者がセットで運用される理由はいくつもあるが、その一つは、精神リンクによって、まだ精神的に未熟な少女たちを戦士として成立させることだった。
リンクしたパートナーの精神は、ストレスの逃がし先にも、モチベーションにつながるプラスの感情の供給元にもなる。
「それがあるから、大の大人でも押しつぶされてしまう負荷を、彼女は受け止めてしまった。そして、その上で怒りの感情に転化させた」
それは、ある意味で防衛本能だったのかもしれないと神名は考えていた。大きすぎる負の感情に押しつぶされないよう、苦痛から逃れるために怒りを爆発させたのかもしれない、と。
「もともと身に余るような負の感情を怒りに変えたんだ。当然、その怒りも彼女という器には収まりきらないはずだ。彼女の受けた精神的負荷は計り知れない」
神名の声は、言葉を紡ぐごとに重苦しさを増していく。
「勇者にも影響が出ているだろう。気にしてやれ」
「分かったわ」
前園は、メンテナンスが終わったら悠夜に会いに行こうと決めた。
「精神リンクのおかげで余裕があったのはそうだけど、そのときに怒ってくれたのは、一実ちゃん自身なのよね」
「ああ、いい子なんだろうな」
「そんな子を矢面に立たせて、悲しませて、怒らせて……本当にこれでいいのかって考えちゃう」
「意外だな、あんたまでそんなことを言いだすとは……」
神名は眼鏡の奥の目を丸くした。
「あなた、私のことなんだと思ってるの?」
「メカ狂いのマッドサイエンティスト」
「それはっ……間違ってないとは思うけど……魔法少女が傷つくと、息子たちも傷つくのよ。それを気に掛ける心ぐらいはあるわ……」
神名の言葉に一瞬抗議しかけた前園だったが、納得の方が勝ったのでやめた。メカの可能性を追求するためなら、倫理よりも探究を優先しがちな人間だという自覚は彼女にもあった。ただ、勇者を息子と呼び、その幸せと可能性を広げてあげたいという愛情は本物だった。
「それに、今回の件でミサトが相当キテルみたいなのよ」
「へぇ~、あの人が。意外だな……」
「彼女は魔法少女の手前、鬼教官を演じてるだけ。中身は意外と繊細なのよ」
「そうなのか、気づかなかった」
「あなた、そういうのに鈍そうだから分かんないか」
「あんたに言われたくないよ……それはそれとして、まあ、この組織にいるとみんな大なり小なり自己肯定感が下がる。あの子たちが頑張れば頑張るほど、申し訳なくなってくる」
実は2人は、専門とする分野が異なるからか、馬が合わないことが多い。しかし、このことについては意見が一致した。
「本当なら、別の手段を探すのが科学者や技術者の正道なんでしょうけど、こればっかりは難しいわね」
前園は苦々しそうに眉間にしわを寄せる。反有機生命圏のせいで、魔法を導入した兵器を使用するとしても、魔法少女と勇者が前線に立つことが前提になる。もし魔法少女と勇者抜きで鋼魔に対抗するとしたら、反有機生命圏以上の破壊範囲を持つ核兵器で周囲ごと焼き尽くす……などという、犠牲が大きすぎる戦い方ぐらいしか考案されていない。
今のところ、人類が鋼魔に対抗するには、どうしても魔法少女と勇者の存在が前提になってしまう。
「早くインテグレーション・ボディをちゃんと使えるようにしないと」
「まあ現状、俺たちにできることはそれぐらいしかないだろうな」
インテグレーション・ボディは搭乗型の巨大ロボットであり、子供たちを守る大きな鎧とも言える。戦場に子供を出すことに変わりはないが、今の彼らにできることはそれしかないのだ。
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