魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
デストローカストとの戦いの翌日、悠夜は整備用のハンガーに接続されていた。
「あ、目、覚めた?とりあえず、メンテナンスは終わったけど、調子どう?」
悠夜がスリープモードから目覚めると、目の前には前園真理がいた。
「各部チェック……オールグリーン……」
“ガチャン”
整備用ハンガーから解放された悠夜は、整備用の外部接続機構を隠した後、軽くジャンプしたり、腕を回したりして調子を確かめた。
「うん、体感でも不調はないよ。大丈夫」
「そう、よかった。外装の損傷は目立ってなかったけど、内部フレームに金属疲労があったよ。デストローカスト、だっけ? あのイナゴ野郎とガンガン組み合った時に、相当負荷がかかってたみたいだね」
「あいつ、中身が詰まってる感じがしたな。リフローはかけてくれた?」
「もちろん。新品同然って感じ」
「ありがとう、ママ」
リフローとは、勇者のフレームや装甲に使われている金属に施す特殊な修繕措置だった。勇者には電相可変合金と呼ばれる新素材が使われている。鋳造後でも電気的刺激によって金属の結晶構造を任意に調整できる素材だ。実際に金属結合に干渉し、金属疲労などを解消する作業をリフローと呼ぶ。
今の悠夜は、骨からリフレッシュしたというわけである。しかし、身体とは裏腹に、心の方は晴れやかとは言えなかった。
「ねえ、ママ、一実はどうしてる?」
「回復室で治療中」
「そんなにひどいの?」
真理の返答に、悠夜は心配になって身を乗り出した。回復室とは、OIDOの病院内にある、魔法の力を採用した集中治療室のような施設だった。
「大丈夫。命に別状はないから。ただ、少し魔力を流す経絡を痛めちゃったみたい。しばらくは回復室で休んでもらおうって話になってる」
「……やっぱり、無茶してたんだ……」
「気にしてる?」
「ママ相手だから言うけどさ。あんなにひどいことが起こったのに、僕の頭の中は一実のことでいっぱいだった。勇者としてはダメだよね?そんなの……」
その時の悠夜は、不安げな上目遣いで真理に問いかけた。それはまるで幼子が親に悪事を白状するかのようで、真理の心を揺さぶった。
「そんなことないよ。愛とか優しさにも優先順位があるのは当然だと思う。私は悠夜を万人に愛を振りまく機械として作った覚えはないし、なってほしいとも思わない」
「愛……」
悠夜は真理の言葉を聞いて、少し照れくさそうに視線を逸らした。その反応は、言葉に対するこそばゆさからだったのか、それとも肯定の言葉を内心で期待していたことへの後ろめたさからだったのか。
「それに、戦闘中、私はあなたたちの情緒反応を見てたけど、悠夜は気づいてないかもしれないけど、あなたもかなりダメージを受けてるよ。一実ちゃんの感情の振れ幅が大きすぎて、覆い隠されてるだけ」
「そうかな……」
「うん、だからあなたは、ちゃんと勇者としてみんなを助けられるような優しさを持ってるし、その中で優先順位があることも間違ってない」
「そっかー……」
“ポフッ……”
「よしよし……」
真理は自然な動きで悠夜の頭を胸に抱いた。抱かれた悠夜は一瞬身体をこわばらせたが、シンセリーの時以上に、心から自分という存在を委ねた。
悠夜は、理屈とは別のところで心のもやもやが消えていくのを感じ、スキンシップと母親という存在のすごさを実感していた。
(私、これでいいんだろうか……)
一方、抱きしめている真理の内心は穏やかではなかった。確かに感じる愛情と、その愛情がどんな種類のものなのか分からない不安、今の悠夜を肯定した先に待つものへの疑問。しかし彼女は、それを息子に悟らせまいと、頭を撫でる手に集中することにした。
「私は思うんだよ。一実ちゃんの優しさは他人に向きすぎている。それは素晴らしいことだし、だからこそ彼女はヒーローになれるんだと思う。でも、彼女は自分自身をないがしろにしてしまうかもしれない。今回、強すぎる怒りが彼女を傷つけてしまったようにね。だから悠夜が一実ちゃんの命令に逆らって止めたのも、良いことだったんだと思う。彼女にとってはね……」
「ママには何でもお見通しか……」
真理はその流れで、悠夜が抱えていたもう一つのもやもやにもフォローを入れた。彼は一実の意に反して彼女を止めたことを気にしていた。主従関係に逆らったことだけではない。鋼魔獣という倒すべき相手を、まさに倒そうとしている彼女を止めるのは、戦いを全うすることが使命である戦士としてふさわしくない行動だったのではないかと。
「もちろんだとも、私はあなたのお母さんなんだから」
身体を悠夜から離した真理は不敵に笑った。
「そもそも、そういうことを言っていいって、あの子と話してたんだろ? なら、何も後ろめたく思う必要はないんじゃないかな」
「ほんと、戦闘中は下手なこと言えないね」
戦闘中の呟きから、プライベートで自分たちが話したことまで察してくる母を、悠夜は少し厄介に感じた。
「一実ちゃんがみんなのことを考えて、あなたは彼女のことを考える。そんな関係もいいと思うよ」
「…………」
真理は、シンセリーとエクスマインのように2人で同じ感情を共有して活動することだけが、勇者と魔法少女の関係の正解ではないと指摘した。
「まぁ、なんにしろ、悠夜と一実ちゃんの話だ。あの子がある程度回復したら、腹を割って話してみるといいと思うよ」
「そうしてみる」
※
3日後、一実がある程度回復したと聞いた悠夜は、彼女の病室に向かった。
「…………」
(なんで緊張してるんだ)
目的の病室の前まで来たはいいが、悠夜は中に入るのをためらっていた。
(確かに自分で勝手に決めて行動しちゃったけど、ママの言う通り、そうしてほしいって言ったのは一実の方でもあるんだ。何も後ろめたく思う必要はないはずだ)
悠夜は怖気づいている自分に、あの程度のことで一実が接し方を変えるほど心の狭い人間ではない、と言い聞かせた。そして意を決してドアに手をかけた。
“コンコン……”
「悠夜です……入っても大丈夫?」
「あ、はい!ええっと……いいよ」
中から上ずった声が聞こえた。とりあえず許可は得られたので、悠夜は中に入った。
「おお……」
悠夜は部屋に入った途端、思わず声を漏らした。室内を満たす魔力を感じたからだ。
彼自身には影響はないが、その部屋は生命体の活動を助ける魔法で満たされていた。部屋の天井を見れば、魔法の術式の文様がびっしりと描き込まれている。普通のけが人がここに入れば、自然治癒を早めることができるだろう。悠夜は、回復室の名に偽りはなさそうだと感じた。
「来てくれてありがとう。ずっとベッドにいて退屈してたから、悠夜が来てくれてうれしいよ」
一実は窓際のベッドで点滴を受け、上半身だけを起こした状態でこちらを見ていた。悠夜が話せる元気があるか尋ねるより先に、彼を歓迎した。
しかし、彼女の声は弱々しかった。頬も少しこけていて、全体的にげっそりとした印象だった。
「一実、体調は大丈夫?つらいなら出直すけど……」
どう見ても消耗している一実に余計な負担をかけてはいけないと、悠夜は提案した。
「ううん。大丈夫……じゃないけど、悠夜と話している方が気が紛れると思うから。このまま、ここにいてほしいかも……」
一緒にいてほしいと頼むのが気恥ずかしかったのか、一実は視線を落としながら言った。
「分かった。そういうことなら、何時間でも付き合うよ」
感想・評価よろしくお願いいたします。