魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
「私、バカだった。鋼魔の被害で死んでしまう人がいるって、ちゃんと知ってた。いつかはこんな日が来るって、考えれば分かることだった。でも私は、こんなにショックを受けてゲーゲー吐いてる。ほんとバカ……」
一実は俯いて自嘲する。ふと落とした視線の先には、吐いてもいいようにビニール袋と洗面器が用意されていた。悠夜は、今の彼女を苦しめているのは身体のダメージよりも精神的な衝撃なのだと察した。
「気づかなかったのか、気づかないふりをしてたのかもしれないけど……必要な心構えができてなかった自分自身にがっかりしちゃった。……次、戦いに出られるか自信ないよ……」
彼女はシーツのかかった膝の上で拳を握りしめ、震えていた。言葉にできないほど複雑な感情が内側で渦巻いているのだと、悠夜にも察せられた。
「ああいう現場を見て動揺しちゃうのは当たり前だよ。しっかり訓練を積んだ兵士だって、戦場でトラウマを抱えることがある。普通じゃいられないのが普通なんだよ。だから、そのことで一実が自分を卑下する必要はないよ」
悠夜は一実に一般論を伝えながら、一方で自分はどうだったのかとも考える。リンクを通してあの惨状を見た時、彼は一実ほど激しい反応を示さなかった。酷いこと、悲しいことが起こってしまったとは思ったが、それだけだった。そんな自分を勇者にふさわしくない薄情な存在だとも感じていた。
しかし今、言葉にして状況を整理するうちに、自分はそもそも普通の人間ではないのだから、反応が違うのも当たり前なのだと思えた。
「そもそも、必要な準備をさせる前に君を戦場に出したのは周りの人たちだ。僕も含めて……ね。君が戦いの中で何かにつまずいたとしても、それは君が悪いわけじゃない」
目を背けていたのは、むしろ自分たちではないかと悠夜は思った。準備ができていない彼女が、戦いの中で大きすぎる傷を負うリスクをわざと無視していた。戦場に立つことへのハードルを下げ、既成事実をつくろうとしていた。そうすれば、日本は確かな戦力を得られる。たとえ後で心に傷を負ったとしても、何とか乗り越えてくれるだろうと期待していたのだ。
碧乃一実という1人の少女にとっては、過酷すぎる環境だった。
「ごめん、本当にごめん……」
悠夜はあふれる感情を言葉にしてしまった。口にしたところで、自分自身を慰めることしかできないのに。
「なんで悠夜が謝るの?」
一実は悠夜の内心を汲み取り切れず、首を傾げた。
「僕は君の勇者だ。誰よりも君に寄り添うべきなのに、君の負担を減らせるようにあらゆる手を尽くすべきだったのに、できなかった」
悠夜は、戦う覚悟をもっと確かめ、向き合うことになる悲劇についても事前に話し合うべきだったと後悔していた。彼女に魔法少女になってほしいという自分の願望を優先して、踏むべき段階をきちんと踏むことを怠ってしまったのかもしれない。
「悠夜はちゃんとやれてると思うよ……?今回だって私のこと止めてくれたじゃん」
悠夜に落ち度があるとは思えないという様子で、一実は聞き返した。
「倒すべき相手を倒そうとしてただけなのに、僕のわがままで止めたんだよ……?」
「あの時のこと、半分朦朧としてるけど、あれじゃダメだって分かるよ。心が火の海に包まれてるみたいになって、鋼魔を許せないって気持ちが強すぎて、苦しいくらいだった」
一実はこの3日間で、デストローカストと相対した時に凄まじい戦闘力を発揮したと聞いていた。しかし、怒りと、それによってあふれ出した魔力に流されていた彼女自身は、その時の記憶が曖昧だった。
それでも、あの戦いをよいものだったとは思っていない。たとえ強くなれたとして
も、それは暴走と呼ぶべきものだろう。
「あのままだと、本当に壊しちゃいけないものまで傷つけちゃった気がする。冷静になって振り返ると、本当に止めてもらえてよかったって思ってるよ。ホント、ありがとうね」
一実は神妙な顔で、改まって悠夜に向かって頭を下げた。
「そう思ってもらえるなら、自分で判断した甲斐があったと思えるよ」
悠夜は一実の言葉を聞いて、心底安心した。
事前に約束していたとはいえ、自分の判断で一実の行動を止めたことが正しかったのか、彼は不安だった。より厳密には、使えない道具扱いされるのが怖かったのだ。そんなことを一実が言うはずはないと分かっているのに。
「それでね、悠夜。私、この3日間でいろいろ考えたの。戦いが怖いってことも、悲しい気持ちも、助けられなかった人たちがいる悔しさも……正直、全部から逃げたくなったりしたの」
一言ずつ紡ぐたびに、一実の表情は震えた。落ち着きは取り戻したものの、抱え込んだものを克服したわけではないのだ。
「でも、悲しいことや辛いことから目を背けても、消えてくれるわけじゃないから。怖くても、辛くても、立ち向かう自分でいたいとも思ったんだ……」
一実は重圧に押し潰されそうになりながらも、再び立ち上がろうとする意志を捨ててはいなかった。魔法少女と勇者の精神リンクが衝撃を受け止める余地を与えるとしても、そこから立ち上がれるかは彼女次第だ。
(一実は真面目で、それでいて貪欲なんだな……)
彼女を折れさせず、同時にくすぶらせるものの根幹には、彼女自身の欲求がある。2人でヒーローになると決めた時、一実が悠夜に吐露した自己実現への願望。それは潔白な善意とは言えない俗っぽい欲望だ。しかし、だからこそ力強い土台になり得るものでもあった。
「でもね、それじゃ足りないんだ。自分を信じられない……私じゃなかったら、あの場所にいた人たちの運命も違ったのかなって考えたりしちゃって……」
戦いの直後にシンセリーから自分を責めないよう言われていたが、それでも罪悪感を抱いているようだった。
悠夜にとって、彼女に責任はないと慰めるのは簡単だ。しかし、それで罪悪感が簡単に拭えるわけではないことは、ほかならぬシンセリーの姿から学んでいた。だから、一実が言葉を紡ぎきるまで何も言わなかった。
「そう考えると止まんなくなって、たまんなくなるの。正直、これからちゃんと戦っていけるのか自信がないんだ。……こういう考え方はしちゃいけないかもしれないけど、これからもこういうことはあるんだろうから……」
一つ一つの命を重く考えるなら、全て救うという決意と意志を持ち続けなければならない。しかし、最悪の事態も想定し、犠牲が出る可能性を考慮した心構えや立ち回りをする必要もある。今回の戦いで、それを突き付けられたのだ。相反する2つの考え。犠牲を割り切れれば楽なのかもしれないが、彼女は他の魔法少女たちと同じように、そうはしないだろうと悠夜は分かっていた。だからこそ、彼女は魔法少女なのだろう。
「犠牲を軽く考えることはできないと思う。悔しさも消えないと思う。だとしても、君が救ってきた人たちがいるのも確かだよ。今回僕たちが失敗したから犠牲者が出たというより、今まで僕たちが頑張ったから犠牲者が出ずに済んでいた、とも考えられる」
「そうかな……」
悠夜が提案した発想の転換には詭弁と言える部分もあったが、的を射ている部分もある。今回の分裂型と一般的な鋼魔獣では、被害規模にそこまで差があるわけではない。いつもは救出までの猶予があるだけだ。その意味では、今回は相手が悪かったと言うべきかもしれない。
「もちろん、救えた人がいるからといって犠牲が帳消しになるわけじゃない。そういうのは足し引きするものじゃなくて、両方積み重なっていくものだろうね。でも、全てを救えないからといって、助けられた人がいることの価値が消えるわけじゃない。あとは、どう考えるか……だと思う」
悠夜は自分の見解を示しながらも、最後の解釈は一実に委ねた。命は重く、比べられるものではない。そして、背負うには重すぎる。それをどう捉えるか決められるのは、当人だけだろう。
「そうだね……」
一実は悠夜の言葉を噛みしめるように、しばらく沈黙した。彼女も本当は分かっていた。ただ、背中を押してほしかったのだ。
「私、やってみる。あの男の子の笑顔を、それを見た時に感じた温かさを、信じる!」
彼女は前を向いてそう宣言した。
「僕も、君の信じるものを一緒に信じたい」
悠夜も力強く、それでいて穏やかな声で答えた。
2人はそれぞれがもらった絵を思い浮かべていた。それこそが2人の原点であり、信念を持つための礎だった。その価値は、血を浴びたところで揺らぎはしなかった。
「あ、そうだ……悠夜に一つお願いがあるんだ」
「何?」
一実は思い出したように付け加えた。
「さっきはああ言ったけど、私やっぱり弱くて、ダメだから、迷ったり、今回みたいに怒りに流されたりするかもしれない」
悠夜から見ると、一実は怒りで我を忘れてしまったことを気にしているようだった。
「そんな時は、止めたり、引き戻したりしてほしいんだ」
「……!!」
一実は、目の前の相手を心から信頼していると分かる笑みを浮かべていた。
「分かった。僕なりにやってみるよ」
悠夜は、ロボットである自分の見方を信頼してくれることに驚きながらも、ほとんど即答した。それが今の自分だからこそ担える役割だと思ったからだ。
「悠夜って、本当にしっかりしてるよね」
「そう?」
「うん。だから、いろいろ頼りたくなっちゃうんだ。……ごめんね。本当は助け合わないといけないのに、一方的になっちゃって……」
「気にしなくていいよ。僕としては、君の勇者をやれてるだけですっごく助かってるっていうか」
「…………」
慰めているだけだと思われたのか、一実は納得できていない様子だった。
「さっき君に言った言葉もさ、ほとんどみんなの受け売りなんだ」
「みんな?」
「うん。シンセリーやエクスマイン、それと僕が見てきた魔法少女と勇者が言ってたこと。みんな君と同じように苦しんできた。それを間接的にでも君に伝えられるんだとしたら、悶々としていた下積み時代にも意味があったのかなって思えてるんだ」
「そっか……」
下積み時代という言葉が一実の心に刺さった。長く辛い下積み人生を過ごしてきたように感じている一実には、その努力が実を結ぶことがどれほど嬉しいか分かってしまう。
「でも、助けられるだけの私じゃなくなってみせるよ」
「すぐになれるよ」
2人は明るい未来を思い描きながら笑い合った。
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