魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
「おはようございます……」
一実は小さく挨拶しながら教室に入る。以前は無言だった。魔法少女になって、周囲に気を配る社会性が育ってきた証左だろうか。それとも、日曜の戦闘の後、月曜から木曜まで休んでしまった気まずさをかき消すためかもしれない。
「あ、一実! やっと来たぁ! ……大丈夫だった?」
「あ、愛奈……おはよう!」
愛奈の驚きを含んだ声に、一実へと注目が集まる。さすがに4日も休めば注目されるかと、少しうれしく感じてしまうのだった。
「もう大丈夫だけど、休んでる間は大丈夫じゃなかったかな」
心配はさせたくなかったが、4日も休んでまったく平気だったというのもおかしいので、ほどほどに実態を伝えておいた。
「ひどい風邪だって聞いたけど、もういいの?……ちょっと痩せちゃってない?ホント無理とかしちゃダメだよ」
「うん。覚えとく、心配してくれてありがとうね」
一実は以前、愛奈からバイトが負担になっているのではないかと忠告されたことがある。今回の件は相当堪えたため笑えない話だったが、魔法少女としての日常も、「中学校というバイト」も一実にはとても大切なことだった。どちらもおろそかにしたくはなかった。
「あ、そうだ。私が休んじゃってうやむやになっちゃったけど、美術部に見学に行くって話。まだ生きてる?」
一実は休んでいる間、気がかりだったことを尋ねる。
「え? ああ、そんなこと言ってたっけ……。まぁ、美術部も部員が喉から手が出るほど欲しいけど、今の状態で部活までやったら無理することにならない?」
愛奈は、一実がこれ以上無理をすることにならないか心配してくれている。一実は本当にいい友達ができたと思うと同時に、彼女と一緒に活動できるならぜひやってみたいと、ますます意欲をかき立てられた。一実自身、気晴らしを必要としていたが、自分への負担を考えないようにしている面もあった。
「大丈夫、むしろ今何かに打ち込んでみる経験もしたいなと思って!」
「そう? 一実がそう言ってくれるなら歓迎するけど……」
「ありがとう!じゃあ、お願いね!」
そんなこんなで一実は復帰早々、新たな挑戦に身を投じることになる。
※
その日の放課後、一実と悠夜は時間を取って、美術部が活動している美術室に向かっていた。
「なんかドキドキするね……」
「そうだね……それはそうと一実、スケジュールとか体力とかいろいろ大丈夫?」
「やっぱり、悠夜から見るとこれ以上何かするのは無理っぽく見える?」
歩きながら相棒にも耳の痛い質問を投げかけられて、さすがに一実自身も不安になってくる。
「これが一実のやりたいことならなんでも応援したいけど、やっぱり心配にはなるよ。もう、普通の中学生が耐えられないぐらい一実は頑張ってると思うから」
「そうだよね……」
一実は図星を突かれたような気分になり、俯いてしまう。停滞し、いろいろと行き詰まっていた自分の人生が大きく動き始めた。それをいいことに調子に乗って、欲張っているのではないか? そんな不安がある。そもそも彼女には、親からさんざん言われたように要領が悪いところがある。まだ14年ほどの人生の中でも、何度も実感してきた欠点だった。
しかし、今の彼女は前進する喜びと、積み重ねる充実感を知ってしまった。これまでと違って、隣には悠夜がいてくれる。そのサポートを受ければ、以前は諦めてしまった努力も続けられるかもしれない。その展望は、彼女の欲求を刺激してやまなかった。
「でも、やってみたい?」
悠夜は悩む彼女に改めて問いかける。
「うん、それはそう。私、上手に絵を描けることに憧れてたんだ。マーシーやエクスマインのことをかっこよく描けるようになりたくて……」
「……僕も?」
悠夜は一実の言葉を聞いて、恥ずかしそうに聞き返した。
「もちろん!どうせならノクストスのことも、悠夜のこともかっこよく描きたい!」
「そう言われると……反対しづらいなぁ……」
悠夜は後頭部をさすりながら、にやける。
「僕も、芸術には興味あるし、2人で頑張ってみよっか!」
「うん、よろしくね!」
2人は不安を抱えながらも気持ちを一つにして、目的地へ向かった。
※
「うわぁっ!ホントに来たぁ!」
「ちょっと愛奈、そんなに驚かなくていいじゃん……」
一実が美術室の扉を開けると、入り口の近くで愛奈が待っていた。それはいいが、彼女は大げさなリアクションを取る。2人は事前に約束していたのだ。驚いた理由があるとすれば、学校中の話題の人である悠夜が本当にやってきたことだろう。
「いやー、正直半信半疑でさー……近くで見るとホントにかっこいいね……!あっ、私、一実の友達の永見愛奈って言います!」
愛奈は照れながらも動揺した様子で、一実のすぐ後ろについてきていた悠夜に握手を求めた。
「あ、前園悠夜です。いつも一実がお世話になっています」
そう言って悠夜は握手に応えた。愛奈はその甘い声に驚くとともに、物言いに困惑した。2人はただならぬ関係かと思いきや、その態度は友人というより、恋人というより、保護者というべきだった。いったい2人はどういう関係なのだろうか? 一実は妙にはぐらかしているところがありそうだが……。
悠夜の紹介が一段落し、一実は改めて美術室を見渡した。窓際には石膏像や描きかけのキャンバスが並んでいる。机では何人かの生徒が作業していた。絵の具と紙の匂いが漂ってくる。
「それじゃ、みんなも紹介するね。といっても、今日はまだ全員揃ってないんだけど」
愛奈が声をかけると、窓際で鉛筆を動かしていた女子生徒が顔を上げた。落ち着いた雰囲気で、長い茶色の髪をした高校生だった。
「白瀬佳澄です。高等部の部長をやってます。見学に来てくれてありがとう。分からないことがあったら何でも聞いてね」
「はい」
「よろしくお願いします」
白瀬は2人に柔らかく笑いかけた。話しやすそうな先輩だと、一実は少し肩の力を抜く。
「で、あっちが藤宮先輩。前園さんと同じ高校2年生だよ」
愛奈が指差した先では、男子生徒がスケッチブックから顔を上げていた。
「ども……藤宮です」
太いフレームの黒縁眼鏡をかけた男子生徒は短く挨拶すると、また手元に視線を戻した。その素っ気なさに、一実はどこか親近感を覚えた。
「ごめんね。透くん、描いてるときはいつもこんな感じなの」
「別に、そういうわけじゃ……」
言いかけた藤宮は白瀬と目が合うと、なぜか口をつぐんだ。愛奈が小さく笑う。一実にはまだ、その理由がよく分からなかった。
「あと中等部にもう1人いるんだけど、今日はちょっと遅れて来るって。来たら紹介するね」
「うん、ありがとう。私としては静かで落ち着けそうかも」
「まあ、人数も少ないからね。そこはこれから増えてほしいところ!」
そんなやり取りをしていると、美術室の奥から大人の声がかかった。
「よく来たな、見学だろ?歓迎するぞ」
美術室のさらに奥から出てきて2人に話しかけたのは、中高兼任の美術教師で、この部活の顧問でもある三枝修平だった。無精ひげが特徴的で、目元にはクマがあり、髪もぼさぼさだ。社会人としてきちんとして見えるかはともかく、芸術畑の人間として見るとしっくりくる風貌である。
「あ、先生……今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
2人は授業ですでに三枝と面識があったので、割と自然に応対できた。
「いや~助かった。今、美術部はいろいろあって人員不足でね。廃部すら見えてる感じだった。けど、2人が入ってくれれば、一応要件を満たすことになる。いや~、助かった」
「え、ええっとまだ完全に入るって決めたわけじゃないんですけど……」
一実はそんなに深刻な状態だったのかと困惑しつつ、相手がもう完全に入部確定という雰囲気を醸し出していることに焦る。一実自身はともかく、悠夜が学校でどんな人間関係を築けているのかはいまいち分からない。彼に合わなそうなら、やめておこうと考えていた。
「え、そうなの?困るなぁ~……あ、じゃあ、籍を置いとくだけでもいいからさ」
一実の返答に、三枝はへらへらと答える。一実にしてみればうれしい誤算だったが、同時に拍子抜けする面もあった。
「そ、そんな感じでいいんですか?実は私たち放課後とか休日は用事があることも多くて、半分幽霊部員みたいになっちゃうかもしれないんです」
2人にしてみれば、これまでのなけなしの余暇を美術に全振りするつもりではあったが、コンクールに向けて作品を仕上げるような「ガチる」ところまでの時間は取れそうになかった。
「ああ、そうなの? それでもいいんだけど……う~ん、そうだな……とりあえず、1枚何か描いてみない?」
「え……?」
悠夜はともかく一実にとっては大きな挑戦が始まろうとしていた。
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