魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
「い、いきなりですか!?」
「うん。入るにしても入らないにしても、2人の画力を知っておきたい。2人とも絵をやりたいんだよね」
三枝は頭を掻きながら気だるそうに確認してきた。2人はそういうつもりだと愛奈に伝えていた。
「あ、あの、悠夜はともかく、私は本当に画力ゼロで、ド素人なんですけど……」
「そういうのも含めて確認するから、やってみー」
「クロッキーって短時間で描く練習法だっけ?……いい機会だしやってみよう」
「そうだね……やってみよう!」
好奇心旺盛な悠夜は乗り気のようだった。そもそも彼がここに来たのは、人の営みに触れるためでもある。ワクワクしているらしい相棒の表情を見て、そのことを思い出した一実は、自分も一緒に飛び込んでみようと決めた。
※
それから一実と悠夜は、画板とクロッキー帳、そして鉛筆を渡され、向かい合って座ることになった。
「じゃあ、10分計るからな。あまりアドバイスするタイミングじゃないが、10分しかないんだから、ある程度は妥協しろ」
やる気のなさそうな声ではあったが、一実にとっては有益なアドバイスだった。
(うわ、緊張してきた……入る資格すらないって言われたらどうしよう……)
出来栄えは半ば予想できていたため、一実は絵そのものよりも、その先のことが心配になってきた。助けを求めるように、目の前の悠夜へ視線を向ける。
「……!?」
高揚をほのかな笑みに変えている悠夜の顔は、一実が息をのむほど綺麗だった。爽やかに光る両目の美しさなど、自分に表現できる気がしなかった。
「それじゃ、始め」
三枝が静かにそう告げると、悠夜は一瞬だけ一実の瞳を見た。そして画板に向かうと、微動だにしなくなった。一実はそれだけでいいのかと驚いたが、悠夜の手元は淀みなく動いている。彼の正体を考えれば当然かもしれない。それに、描く側としては相手が動かない方が楽だった。
(まずは輪郭から……大ざっぱでもいいから……!)
一実は時間制限にせかされながら、なんとか絵を形にしようとする。多少雑になっても、悠夜の線の細い、シャープな雰囲気を欠片だけでも再現したい。しかし、力めば力むほど身体が震え、鉛筆の先もぶれてしまう。
明らかに実力を発揮できる状態ではなかったが、そのことを周囲に気づかれることはなかった。というより、誰も気にしていなかった。皆、悠夜の機械のように精密な筆さばきに見入っていたからだ。その一定のリズムで響く鉛筆の音が、一実にさらなるプレッシャーをかけていた。
そして……
「そこまで……」
三枝の短い言葉が室内に響き、2人は手を止めた。涼しい顔で描き終えた悠夜に対して、一実はぼろぼろになっていた。わずか10分で額や手に汗をかき、すっかり体力を消耗していた。
「はてさて……」
三枝が2人の絵を確認しようとしたところで……
「すいませーん!遅れましたー!先生にお願い事されちゃって」
はきはきとしたエネルギーを感じさせる声があたりに響いた。
「ひよりちゃん!」
制服から中等部の1年生だと分かる女子生徒が、美術室に入ってきた。一実の第一印象は、ボーイッシュで顔立ちが整っている、というものだった。愛奈はその生徒を「ひよりちゃん」と呼んだ。
「おや、新入部員の方ですか?……いいですね!どれどれ……」
ひよりと呼ばれた女子生徒は鞄を机に置き、一実と悠夜のもとへ近づいてきた。そしてずかずかと2人の作品を覗き込み、品評を始めた。
「うへー、ひどいですねー、クロッキーだとしても酷いです。小学生以下って感じです!この画力で美術部に入ろうとしてるんですか?もう少し独力で基礎をつくってからにした方がよくないですか?私、教えたりするのイヤですよ?」
「……うっ!」
小鳥遊は電光石火の勢いで一実の絵を酷評した。その言葉はナイフのように描いた本人の心へ突き刺さる。一実自身にも自覚はあった。絵はぼやけてガタガタで、辛うじて人の顔だと分かる程度。男性かどうか判別できるかすら怪しい。生来の不器用さが浮き彫りになったような出来だった。
「ちょ、ちょっと小鳥遊さん。そこまで言わなくても……」
「そうかもしれませんけど、私は絵に関することには嘘もつきたくないし、妥協もしたくないんです」
部長である白瀬が小鳥遊の物言いに苦言を呈するも、本人は意に介さず堂々としていた。
「あ、その子は小鳥遊ひより、ズバズバモノを言うけど悪い子じゃ……ないかな……」
ショックで若干硬直している一実に、愛奈が彼女を紹介する。
「絵の方も……そんなに悪く……う~ん、これから頑張ればうまくなるよ!」
愛奈は一実の絵もフォローしようとしたが、酷評されるのも無理はない出来だったため、言葉に詰まってしまった。
「大丈夫、成長性すら心配になる出来なのは私が一番良く分かってるから……」
技術がない、下手、上手くない……そんな否定の言葉は、一実がそれまでの人生で散々言われてきたものだった。もう慣れたと思っていたが、最近は魔法少女として褒められたり、頑張った分だけ結果が出たりすることが増えていた。そのせいで耐性が薄れていたらしく、思いのほか傷ついてしまった。
「あ、あなたは高等部で噂になってる転校生さん!もしかしてあなたも美術部に入ってくれるんですか?話に聞いた通りカッコいいですね!」
小鳥遊の興味は、悠夜の方に移ったようでほっとした一実だったが……
「この顔をあの絵にするんですか、これはもはや冒涜ですよ!冒涜!」
やり過ごせたと思っていた言葉の刃が、Uターンして再び一実に突き刺さった。
「うぅ……」
自覚があるとはいえ、そこまで悪く言う必要はないではないか。一実はそう思ったが、もともと怒りを表に出すタイプではない。デストローカストとの戦いが特別だったのだ。傷ついた気持ちを抱え込み、目に涙をにじませてしまった。
「おい、一実を傷つけるようなことを言うなら、僕が許さない」
部屋全体を凍らせるような冷たく重い声が響いた。
(……悠夜?)
一実は一瞬、声の主が誰なのか分からなかった。それほど普段の悠夜とはかけ離れた、威圧感のある声だった。
「どこの誰だか分からないお前にそこまで言われる筋合いはないだろ。そうでなくても、彼女に酷いことを言うのは許さない」
「ご、ごめんなさい!」
あまりの迫力に小鳥遊は身体をこわばらせ、すぐに謝った。しかし一実は、その時も悠夜の変わりように気を取られていた。
「おいおい、せっかく仲間が増えるってときに揉め事なんてやめてくれよ。……小鳥遊も、思ったことをそのまま言っていいってわけじゃない。相手は人間だ。そこに寄り添えないなら、誰にも話を聞いてもらえなくなるぞ」
一触即発の空気を収めたのは、顧問の三枝だった。言い始めこそ気だるそうだったが、続く言葉は生徒を諭す教師のものだった。
「はい……その……いきなりいろいろ言っちゃってすみませんでした」
単に気圧されただけでなく反省したようで、小鳥遊は一実の方を向き、ぺこりと頭を下げた。
「あ、うん……大丈夫大丈夫……私は気にしないから……」
一実は両手を振ってそれに応えた。その言葉は小鳥遊に向けたものというより、悠夜をなだめるためのものだった。マーシーを守るため、ノクストスが敵に向ける怒り。戦場では頼もしく思えても、日常では過剰に感じられた。
「…………」
悠夜はまだ納得していない様子で小鳥遊をひと睨みしたが、ひとまず怒気を収めた。
「前園君の方の絵はどうな……ってこれなにホントにクロッキー!?」
部長の白瀬は空気を変えようと、わざとらしく悠夜の絵を覗き込んだ。ところが、そこから出たのは演技ではない、本気の驚きの声だった。
「ん~~どれどれ……これは……」
その流れで絵を覗き込んだ三枝も、息をのみ、目の色を変えた。
(どういうふうに思われるのかな)
一実は悠夜に、ごく普通の部員として受け入れられてほしかった。だが、話がどう転ぶか分からず、周囲の様子をうかがっていた。
感想・評価よろしくお願いいたします。