魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
この後はリメイク前で言うドレッドラとの戦闘が始まります。
「どうでしょうか?」
小鳥遊に思うところはあるものの、自分の絵に対する感想が気になるのも事実だった。悠夜は控えめに尋ねた。
「…………」
一実は自分の絵の出来を半ば悟っていた。悠夜の作品との差を目の当たりにするのが恐ろしく、すぐには見に行けなかった。
「これ、すっごい写実的! あなた何者なの? どこで習ってたの?」
白瀬は驚きを通り越して困惑し、悠夜の経験を尋ねた。それもそのはず、彼の絵は10分で描いたとは思えない精緻さと情報量で、一実の姿を描き出していた。
「ええと、僕、前からこういう作業が得意なんですけど、絵を勉強した経験はないんです」
「ええっ!?それホント?からかってるんじゃなくて?」
白瀬には悠夜の言葉がにわかに信じられないようだった。彼が人間ではないという前提を隠しているのだから、無理もない。しかし正体を明かすわけにはいかず、悠夜はどうにかごまかそうと思考を巡らせた。
「手足を正確に動かすのがとても得意なんですよ」
特異な才能があるのだと納得してもらおうとする。
「それで説明できる絵じゃないんだけど……」
白瀬はやはり、悠夜は相当な練習を積んでいるか、さもなければプロなのではないかと考えていた。
「いや、絵の素人だってのは本当だろう」
「え?この上手さでですか?」
先ほどまで威圧されて縮み上がっていた小鳥遊さえ、絵を見た途端に恐怖を忘れるほど、その作品は異彩を放っていた。
「上手いことには上手い……ただ、絵として上手いわけじゃないんだよな。絵というより、ペンで写真を印刷したみたいだ。人間にこんなことができるとは信じがたいが……」
「どういうことですか?」
問いかけたのは一実だった。三枝が絵を1枚見ただけで、悠夜の本質の一端に触れたことに興味を引かれたのだ。彼の絵は、一実が鏡で見る自分以上に、ありのままの姿を描き出しているように思えた。
人間の目では捉えきれない細かな歪みまで、客観的に浮き彫りにされているようで、気恥ずかしくなるほどだった。一生かけても手に入らないと思えるほどの写実性を、絵の上手さとは違うと評するのはどういうことだろう。
「そうだな……まず、写実性っていうのは絵を描く上で大事な要素だ。ただ、それが絵の上手さの全てってわけじゃない」
三枝は悠夜の描いた絵を持ち上げ、全員に見えるようにした。
「そもそも、今回やってもらったのはクロッキーだ。短い時間で対象の特徴を捉えて、それをいかに効果的に描き出すかが重要になる。だから、何を強調して、何を省略するかっていう判断も腕の見せどころなんだよ」
「なるほど……」
批評を受ける悠夜も、興味深そうに耳を傾けていた。
「ところが前園の絵には、その取捨選択がほとんどない。目も、髪も、服のしわも、全部同じくらい細かく描かれてるだろ? 普通ならこんなことをしていたら、いくら時間があっても足りない。かけた労力に対して、得られる効果が少なすぎるんだ」
三枝は改めて絵に目を落とす。
「それに、情報量が多すぎる。どこに注目してほしいのか分からなくて、見ている側の目が泳ぐんだよな。正確なはずなのに、かえって不自然にすら見える」
「そういうものなんですね……」
上手くないと言われているのに、悠夜はどこか嬉しそうだった。
「勘違いするなよ。この技術を無駄だと言ってるわけじゃない。……ただ、こんなものを10分で描き上げるのは人間業じゃないとは思う」
三枝は半ば呆れた様子で悠夜を見た。
「は、はは……持って生まれた才能ですかね」
悠夜は、加減が分からなかったとはいえ、やりすぎたと感じていた。しかし、その場では苦笑いでごまかすしかなかった。
「一方、碧乃の絵なんだが……」
「は、はいっ!?」
突然の言及に、一実は思わず身構える。
「こっちは全体的に拙いな。形も取れてないし、線もおぼつかない」
「うぐっ……」
「ただ、目や輪郭なんかを見ると、前園の特徴を捉えようとした形跡がある。……あるよな?これ、ちゃんと考えて描いたんだよな?」
三枝は半信半疑なのか、心配そうに一実へ視線を送った。
「い、一応、頑張りました……」
甘めに見てもがんばりすら汲み取りずらいと分かり、一実は胸が痛んだ。
「う~ん、だから何をどう描こうかって考えた跡はあるわけだ。出来栄えはともかく、そういう意味ではこっちの方が人間味を感じるな」
(人間味……)
その言葉を悠夜がどう受け取るのか。一実は気がかりだったが、今は何とも言えなかった。
「もちろん、だから碧乃の方が上手いって話じゃないぞ。前園の再現能力は飛び抜けてる。ただ、正確に写し取ることと、絵として上手く見せることは同じじゃないんだ」
「……絵として見せる」
悠夜は天啓を得たかのように目を見開き、三枝の話を聞いていた。
「だから、前園が絵を習ったことがないっていうのは本当なんだろうな。こんなに描けるのに、どう見せるかっていう基本的な発想が抜け落ちてる。今のままじゃ、ただの図面だ。表現したいものがあっても、十分に表現できない」
三枝はそこで悠夜に向き直った。
「お前の正確さに、絵を描く技術。その2つが合わさった時、何が起こるのかとても興味がある。ぜひうちの部に入ってほしいね」
「…………!」
悠夜は一瞬、一実に確認するような視線を送った。業務外のことなのだから、許可を取る必要はない。それでも、その瞳は今までで一番輝いているように見えた。
一実は今、彼の背中を押すことが一番だと感じ、小さく微笑んでうなずいた。
「はい!よろしくお願いします!いろいろ勉強したいです!」
悠夜は胸の前で両拳を握り、やる気に満ちた様子で三枝の勧誘に応えた。
「おおっ!」
周囲から歓声が上がる。
「…………」
その様子を見た一実は、一人黙り込んでしまった。希望に向かって努力する、意欲と活力にあふれた学生たち。悠夜の姿は、魔法少女になる前の彼女がフェンス越しに憧れていた光景と重なった。
そして、彼がどこか遠くへ行ってしまうような気がした。
(私はどこにいる? 私は、どこに行きたい?)
「あ、あのっ!……私も、入りたいです!入るって決めました!」
一実は決死の覚悟で、悠夜のいる輪の中に自分も入ろうとした。置いていかれたくなかった。そして、もうフェンス越しに眺めているだけではいたくなかった。
「それはもちろん構わないが……基礎から地道にやってもらうことになるぞ。それなりのモノが描けるようになるまで、苦労することもあると思うが覚悟はあるか?」
一実は三枝の問いかけに勇んで答えた。
「もちろんです!」
「じゃあ参考までに訊くが、目標はあるか?」
「はい、あります!魔法少女をかっこよく、美しく描くことです!」
一実は興奮を抑えきれず、即答した。そこには悠夜と一緒にいたいという欲求も混じっていたが、目標に向かう純粋な願いも確かにあった。
感想評価よろしくお願いします。