魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
その日の晩、一実はいつものように食堂で悠夜と夕飯を食べていた。前回の事件の影響で肉類を食べられなくなっていたため、食堂のスタッフに頼んで、大豆などを多用した肉抜きのメニューを用意してもらっている。
一緒に食べると言っても、悠夜は向かいに座って彼女の食事を眺めているだけだ。一実にとっては、いまだに少し居心地の悪い日課だった。ちなみに悠夜は、気持ちだけでも食事に参加しようと、背中に充電プラグを挿して内部の予備電源を充電している。
「結構辛辣なことも言われてそうだったけど、めっちゃ乗り気みたいだったね」
美術室で三枝から批評を受けた悠夜は、ダメ出しをされているはずなのに、一実には嬉しそうにすら見えた。一実はダメ出しに耐えることには慣れていても、それを楽しめるほど豪気ではない。
「伸びしろがあるってことだからね。学校っていうのは知らないことを知ったり、できないことをできるようになるところでしょ。先生からも期待されてるし、ここからが醍醐味ってね」
「そっか~~……そういうのっていいね……」
一実は野菜スープを手持ち無沙汰にかき混ぜながら、つぶやいた。嬉しさと、少しの羨ましさが入り交じっていた。
「それにさ、心当たりがあったんだ」
「心当たり?なんの?」
まだ言い足りないことがあるらしく、悠夜は楽しそうに話を続けた。いつもよりテンションが高いようだが、一実には何のことだか分からなかった。
「先生が僕の絵に足りないって言ってたものだよ」
「足りないもの……私から見たら、恥ずかしくなるぐらい私をしっかり描いてくれたと思うけど」
一実は照れ笑いを浮かべた。もともと容姿に自信がないうえ、悠夜の絵を見たときには、普段は目をそらしている自分の歪さまで暴かれるような気分になった。
ろくに絵を描けない一実には、美術部の人たちが言う芸術性と、悠夜の絵との違いなど分からなかった。
「いや、一実ってもっとかわいいよなって、自分の描いた絵を見て思ったんだ」
「ぶひゅーっ!!……けっほ!げほっ!んう~~!」
悠夜がいきなり真顔でそんなことを言うので、一実は口に含んでいたスープを噴き出し、むせてしまった。かろうじて抑えたため、悠夜の顔にかかることはなかった。
「うわぁっ!だ、大丈夫?気管に入ったりした?」
悠夜は驚きながらも素早く一実に水を差し出し、テーブルの汚れを拭き取った。
「悠夜が急に変なこと言うから!」
一実は真っ赤になった顔を隠すように片手で覆い、そっぽを向いた。
「変って言われても僕にとっては大事なことだよ?」
一実の動揺が分かっているのかいないのか、悠夜はきょとんと首をかしげた。
「悠夜が私をそっくりそのまま描いてくれたんでしょ?なら、それが全部だよ」
可愛いかどうかはともかく、描かれたのはありのままの自分だ。それ以上でも以下でもないと、一実は思っていた。
「それがそうじゃないかもって思ったんだ」
「……?」
やけに食い下がる悠夜を見て、一実は照れくささの奥に何か大事な話が隠れているのではないかと思い始めた。
「それってどういうこと?」
一実は姿勢を正し、真剣に聞く態度を見せる。
「僕はあの時、脳内メモリにある君の画像をなぞる形で、あの絵を描いた」
悠夜は三枝の言葉を意識してか、あえて画像という言葉を使った。
「君の姿を写し取るという意味では、100点満点のはずだ……でも、僕自身は違和感を覚えた。僕の中にあるイメージは、これとは違うって……」
正確に記録された画像と、悠夜の中にあるイメージ、その違いを一実は考えた。
「もしかして悠夜の心がそう感じたってこと?」
そこまで聞いて、一実はようやく悠夜の言いたいことが見えてきた。
「そう。好き、嫌い、綺麗、醜い……可愛い、カッコいい。そういうのは主観的な感覚で、明確に分類できるものじゃないはずだ。僕は正確に動く機械だけど、ママの言う通り心があるなら、その揺らぎも持っているはずなんだ」
(揺らぎ……)
一実は悠夜の言う『揺らぎ』に思いをはせた。曖昧で、はっきり線引きできないもの。人間の中には当たり前にあるもの。
「機械的に描き出すだけでは足りないって感じた。その感覚こそ、僕の中にある心ってやつなんじゃないかって思えたんだ。そして、それを表現するのが絵とか芸術って言われるものなら、僕はやってみたいんだ!」
(眩しいな……)
今の悠夜は、三枝の勧誘を受けたときと同じ表情をしていた。自分のために、キラキラしたものに手を伸ばす。その姿は一実が焦がれたものそのものだった。そして今の彼は、きっとすごく大事なものを学び取ろうとしている。学校という環境を最大限満喫していると言えた。彼が戦い以外の日々を楽しむのは彼女の望むところだ。
「とってもいいと思う!なんて言っていいか私にはよくわかんないけど、悠夜のやろうとしてることは、とっても素敵だと思う!私も、できるだけ協力するね!」
苦しくても、どう前に進めばいいか分からない。そんな焦燥感がつきまとうのが一実の人生だった。だからこそ、目標を見据えて進もうとする悠夜が輝いて見える。その願いをかなえてほしい。自分にも手助けできるなら、なおさら嬉しかった。
「ありがとう……僕の方も、一実が望むものを描けるようにサポートするね!世界をどんな風に感じてるのか見てみたい」
「え、あ……うん……」
話題が自分に向いた途端、一実の声は小さくなった。
(私の目標は、悠夜みたいにキラキラしてないよな……)
一実の魔法少女、特にシンセリーへの愛は、誰にも負けないと思えるほど大きい。絵を通してその愛を表現したいと願っているが、悠夜の目標と比べると、どこかしょうもなく思えてしまう。
「ねえ、一実。僕ちょっと……ううん、今すごくワクワクしてるんだ!」
一人で勝手に盛り下がる一実とは対照的に、悠夜は明日遊園地に行く子供のように興奮していた。
「今まで僕にとって勇者の使命が全てだったし、それ以外のことなんて考えたこともなかった。部活動……戦いに比べたら重要じゃないことかもしれないけど、間違いなく僕が心からやりたいって思ってることなんだ!」
悠夜は一実が相槌を打つ間もなく畳みかけるように言う。
「命がかかってるわけじゃない。だからこそ余計なことは考えずに全力で打ち込めるんだ。それってとってもいいことだよね」
(そうか、価値があるとかないとか、関係ないんだ……)
一実は悠夜の言葉で気づいた。やりたいことに打ち込める。それだけで、理不尽に日常を壊されることもあるこの世界では、幸運なのかもしれない。自分が守りたい日常も、きっとそんな小さくてかけがえのないものの集まりなのだ。
(だからこそ全力で打ち込まないと!)
一実は気持ちを新たにし、悠夜と描きたいものや練習方法の話に花を咲かせた。
※
「重力使いの魔法少女……やはり障害となるか……」
液体に満たされた空間で漂う何者かが、独りごちた。デストローカストは、彼女がマーシーの捕獲を目的として派遣したものだった。精神的に揺さぶりをかけ、その隙に捕獲するつもりだったが、むしろ逆効果になってしまったようだ。
「未熟ではあるが潜在能力は高い。育ちきる前に潰さなければ……」
彼女は3つの鋼魔獣の種を手元に呼び出す。
「効率的にかつ徹底的に制圧せねば……」
どことも知れない場所で、マーシーへの敵意を宿した巨大なエネルギーが蠢いていた。
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