魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
「理由を聞いても?」
司令の声は頑なで、一実には一切の譲歩のつもりがないように思えた。
「私は、臆病だし勉強もできないし運動も苦手です……そんな私に魔法少女なんて大役が務まるとは思いません」
相手がどんな思惑でいるにせよ、彼女の中の結論は変わらない。日常の当たり前が満足にこなせない人間が、魔法少女だけ都合よくこなせるとは思えない。
そして、恐怖。あの時はまさに命の危機だったから、気力を振り絞れた。しかし、そう何度も、それも自分から危険へ飛び込んで同じことができるわけがない。それが彼女の自己評価だった。
「それならば心配はないと思います。年端もいかない子供を戦場へ送るのですから、それなりのサポートがあります。……魔法少女は未熟であることが前提なのですよ」
「…………」
一実は逃げ道をふさがれた気分だった。確かに彼がいてくれればできることもあるかもしれないと思ってしまったから。
「ならばあとは心根の問題……魔法少女の力の源である他者への愛を持てる人物かという部分だけが問題です……その適性もあなたは身をもって示した。小さな子供を守るという行動によって」
一実にはあの時の自分を突き動かしたものが、そんな大層なものだとは思えなかった。ただあの場で、あの小さな命を見捨ててしまうことで、自分のせいで失われてしまうことが、恐ろしかっただけだ。愛などという崇高なものだとは考えられない。
「現在、世界にいる魔法少女はとても少ない……。ですから、あなたという逸材を放っておくことはできないのです。人々のために、そして今いる魔法少女たちのためにも……」
一実はそのあたりの事情もしっかりと理解していた。現在、世界にいる魔法少女の数はわずか13人。その少なさは適性者の希少さからくるものだ。一実がどんなにポンコツだったとしても、仲間が増えてほしいという状況だろう。
「そして、あなたが立たなければノクストスももはや木偶の坊です。そのような状態では廃棄しかないということになってしまうでしょう」
それが一実にとってのとどめだった。名前も知らない多くの人なら、その輪郭もぼやけていて現実感がないこともあるが、自分にとって大切な1人のことならば、心に強く響いてくるというものだ。
「逃げ場とかない感じですか……」
呆れた状況に彼女は半笑いになりながら呟いた。
「卑怯な言いようであることは理解しています。しかし、我々が悪人とそしられようともよいと言えるほどに、あなたを必要としている人々がいる、ということは強く伝えておきたいと思います」
必要とされている、その言葉は一実の心に甘く響いてしまった。
「すぐにとは言いません。ただ覚悟を決めておいてください」
最後にそれだけ言い残して、司令は部屋から去っていった。
司令が去った後、部屋に戻ってきた両親に、一実は魔法少女として戦力に加わるように『命令』されたことを伝えた。
「そんなの横暴だ!一実は一般人なのに一方的に決めるなんて!」
「そうよ!死ぬかもしれないんでしょう!?何とか断ることってできないの?」
当然、一実の両親は大反対した。しかし、本人は黙り込むしかない。それからしばらくして、何とか拒否する手段を探すと騒いで部屋から出て行った。
1人になった彼女は頭を抱えて悩む。彼女の中では、魔法少女にならざるを得ないという未来が固まり始めている。OIDOという巨大な権力に対する無力さ、自分が戦わないことによって失われるもの、そして心の底の底でくすぶる願い……それらからもう逃げられないのだろうなという気持ちが大きくなっていた。
「どうすればいいの……?」
だからといって、その気になれるわけではなかった。単純な恐怖、自己肯定感の低さからくる自信のなさ、自分がヒーローと信奉する存在に、なし崩しになってしまうかもしれないという理想と現実のギャップ。
前向きな想いと後ろ向きな想い、その2つがぶつかり合う葛藤が彼女をひどく苦しませた。
「ぅうう…………」
彼女は頭を抱えた。タイムリミットは近づいている。
“コンコン!”
思考の海に沈みかけた一実の意識を、ノックの音が引き上げた。
(誰だろう?お母さんたちじゃないよね……)
「どうぞ?」
この時間に来客の予定はなかったはずと、不審に思った一実だったが、看護師かもしれないので通すことにした。
「失礼します」
“ガラガラ……”
「……!?」
一実は心臓が止まるかと思った。最初に彼女の目に飛び込んできたのは灰銀色の光を放つ髪、次にすらりと細い手足、そして鋭く清らかな瞳。それはそれだけで眩いばかりの美しさだったが、何よりも彼女に衝撃を与えたのは、その持ち主を知っていたからだ。厳密には見慣れた姿と違いがある。しかし、同じ輝きを持つものが2つとあってたまるか。そんな風に彼女は思った。
「その顔……私が誰か分かっちゃった?」
OIDOの制服を着たその少女は、一実に歩み寄りながら悪戯っぽく微笑んだ。
「ひゅいっ、ひゃ、ひゃのっ……いっづぅ……!」
頭が沸騰して目を回しそうになっている一実を、右足に走った鋭い痛みが現実へと引き戻す。思わず足に手を伸ばしてしまうほどの痛みだった。
「あ、ちょっと大丈夫!?」
すぐさまその少女が駆け寄ってきてくれる。その風圧で甘い匂いが一実の鼻に届いた気がした。彼女は多幸感と激しい痛みのぶつかり合いで、発狂寸前になってしまった。
「ちょっと見せて……まずい、傷口が開いてる……!」
一実が右足に目をやると、何重にも巻かれた包帯の上まで血が滲んできてしまっているのが見えた。
「任せて、応急措置する……」
片手で一実の足に触れた少女は、もう片方の手で引きちぎるようにして首にかけたペンダントを取った。その刹那、ペンダントは光り出し、その手には望遠鏡のレリーフが付いたステッキが握られていた。それはもう動かぬ証拠と言えた。
「あ、あのっ!」
「しゃべらないで、深呼吸して、落ち着いて」
クールな声で3つの命令が一実に下されると、とたんに彼女の身体はそれに従って氷のように固まった。
「――――――」
少女が呟くように呪文を唱えると、傷を負った場所にかざされたステッキが光り出し、緑色の光のシャワーを浴びせた。するとたちまち痛みが引いていき、出血も止まった。
「ふーっ……びっくりした」
少女は息を吐き、汗をぬぐった。その仕草さえも一実には天女のように見える。そして彼女は、傷痕が残るようにと願うのであった。
「ご、ごめんなさい!手当までしてもらっちゃって……」
「こっちこそ、ごめんなさい。安静にするべきだったのに……出直すからナースコールして傷口を見てもらって」
そう言って、少女は部屋から出て行こうとした。
「まっ、待ってください!用があるなら、このまま話してください!」
憧れの人との時間に消えてほしくない。そう思った一実は、思考する前に声が出ていた。相手の気遣いを無碍にしてしまう形になったことに気づき、彼女は顔を真っ赤にする。ただ訂正する気も起きなかった。
「……分かった。あなたがそう思ってくれるなら、このまま話そうか」
少女は柔らかく微笑むと、ベッドのそばの椅子に座った。
「まずは自己紹介だね。私の名前は星原翼……魔法少女シンセリー・テルス、やってます」
それが一実にとっての一番星との出会いだった。
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