魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
翼が部屋から去ったあと、一実はナースコールをして医者に足を見てもらった。翼の回復魔法では傷が開いた分を打ち消し切れていなかったようで、医者に傷が悪化したと判断されてしまった。おかげで彼女は追加で2日入院することになってしまった。
両親は何かあったのかと聞いてきたが、一実はなぜ傷が悪化したかは分からないとぼかすことにした。間違っても翼のせいだと思われたくなかったし、あの時間を自分だけの思い出にしておきたかったからだ。
そして退院の日、一実は痛みこそあるが、問題なく歩ける程度まで回復した。エントランスで医者や看護師たちにお礼を言って、迎えに来た両親と帰路につこうとしたその時、意外な来訪者が現れた。
「あ、お姉ちゃん!」
聞き慣れない声が、一実のことを呼んだようだ。彼女が声のした方を向くと、そこには両親とその子供だと思われる家族がいた。大人の方に見覚えはなかったが……。
「あ、あなたは!?」
一実はその子供の顔をまじまじと見て、自分が助けた男の子だと気づいた。
「あなたが息子を助けてくれた魔法少女の方ですか?」
男の子の母と思われる女性が一実に歩み寄って訊いてくる。
「ええ、まぁ……」
両親の手前、あまりはきはきとは答えられないが、違うとも言えず一実は肯定する。
「あの、息子を助けてくださって、本当に、本当にありがとうございました!!」
彼の両親は、涙ぐみながら何度も何度も頭を下げてくる。普通なら喜ぶ場面だったが、この場では気まずさが一実の心のほとんどを占めてしまった。魔法少女、碧乃一実を肯定するようなこの状況……両親はどう捉えるのだろうかと気が気ではなかった。
「お姉ちゃん、怪我大丈夫?」
そんな繊細な状況を理解できない少年が、一実に心配の言葉をかけた。その純真さは、一実を彼という存在に集中させる。
「うん!お医者さんに診てもらってすっかり良くなったよ!あなたの方こそ、無事でよかった」
一実は笑顔を見せて、つま先で床を叩き、回復を演出する。痛みを覚悟した行動だったが、不思議と痛みはなかった。
「あのね……そのね……助けてくれてありがとう……!」
男の子は照れているのか、身体をもじもじと揺らして、ためらうような間を置いた後、幼い子供らしい舌足らずな言葉で、まっすぐな感謝を伝えてくれた。
「…………!」
一実は様々な理屈を置き去りにして、ただ胸の中が温かい何かで満たされていくのを感じた。
「あのね、これ、お礼のプレゼント!」
男の子は後ろ手に隠していたものを渡してくる。それは画用紙に描かれた絵だった。うまいとは言えない絵だったが、何が描いてあるのかははっきり分かった。
黒と白のごつごつとした物体と、男の子と、それを挟んで立っているピンクのドレスを着た誰かさん。
「~~~!!」
嬉しいことはすごく嬉しい。しかし、羞恥とそれ以外のいろいろな感情が混ざったものが一実の中で渦巻いてしまった。実際、ピンク色のドレスを着ている自分を客観的に想像するのは難易度が高かった。
“ペラ……”
何とか自分の中の動揺を相手に見せまいとしていたところで、一実は渡された絵が2枚重なっていることに気づいた。2枚目を詳しく見てみると、コピーしたものではないようだが、同じ絵として描かれたように思えるものだった。
「これは……」
「ノクストスの分!」
一実が何なのか聞いてみようとしたところで、男の子は自慢げに言った。
「ノクストスにも渡してあげて!」
「……!?」
男の子はキラキラした笑顔を向けてくる。彼は、ノクストスと一実がすでにシンセリーとエクスマインのような関係にあると思っているようだった。
「お姉ちゃんもノクストスも、これからもみんなを助けてあげてね!」
「…………!?」
他の人のことも考えられる純真な男の子の言葉。喜んで請け負うべきものだとは思うけれど、今の一実は両親の視線が背中に刺さるのを錯覚して、冷や汗が出てくる。どう答えるべきか、分からない。
「…………分かった。精一杯がんばるね。このプレゼント、きっとノクストスも喜ぶと思う。もちろん私もすごく嬉しい……ホントありがとう!」
幼い子供の思いを無碍にすることができず、一実は膝を折ってその言葉に応えた。その言葉が嘘になるかどうかは、これからの彼女次第だと言える。
「じゃあねー!」
その子に見送られて、一実は病院を後にする。だが、めでたい退院のはずなのに、帰りの車中の空気はとても重かった。
「なあ、一実。さっきのはただのリップサービスってやつだよな?本当に魔法少女をやる気なんてないんだよな?」
父が運転しながら一実に問いかける。
「うん……そのつもりだよ。もちろん」
「そうよね。よかった……」
彼女の答えを聞いて、母は安堵の息を漏らした。しかし、両親の望む返答を返したものの、実際のところ彼女の心はひどく揺れていた。
「…………」
後部座席に座っていた一実は、贈り物を眺めていた。つたないながら、鮮やかな色遣いで描かれた絵。彼女には、この前の頑張りの賞状のように感じられていた。その紙切れは、ろくに賞賛を受けたことがなかった彼女の心を躍らせた。
そして彼女の心に引っかかるものがもう1つ。
(どうやってこれを渡そう……?)
※
自宅に帰った一実は、両親から隠れてOIDOに連絡を取った。もちろんノクストスの所在を聞き出すためだ。連絡先はスカウトの折に、何かあったら相談してほしいという趣旨で司令から聞かされている。実際には、スカウトを受けるという連絡をしてほしいということだと思うが。
『部外者に機密情報の類をお伝えすることはできません』
電話をかけると担当者にぴしゃりと断られてしまった。ならばと贈り物を届けてほしいと言っても回答は同じだった。ただ……
『あなたが組織への加入を考えているなら、その限りではありません。……私からお伝えできるのはそれだけです』
“ガチャンッ!”
そして一実が黙り込むとそのまま受話器を置かれてしまった。
「これじゃホントになるしかないじゃん……」
一実は自室のベッドに寝転んで、誰にも聞かせられない愚痴を言う。
「悠夜くん……」
自分の選択で1つのロボットが壊れる。一実はたかがロボットと思ってみようとして、できなかった。これは、彼女にしか分からず、両親には理解できないことだろう。
一実はまた振り出しに戻るように、頭を抱えた。
魔法少女になる理由は積み重なっていく。しかし、どうしても踏ん切りがつかない。その理由は恐怖や自己不信感ゆえだったりもするが、一番大きい理由は別にある。彼女の理想とする魔法少女は、誰かに強いられてなるものではない。
それはある意味で“お気持ち”でしかないが、自分を信じ切れない彼女は、それがなければ魔法少女という大きな使命に挑むときに致命的な脱線事故を起こしてしまうような気がするのだ。
「いつまで悩んでいいんだろう?」
いつ悠夜が廃棄されてしまうのか、一実には見当もつかない。ただ、タイムリミットが迫っていることは確かだった。
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