先生がいないキヴォトスから来た一般生徒(覚悟ガンギマリ) 作:かまくら御前
『何で……私を助けてくれるんですか』
嘗ては味方だった者たちが私達牙を向く。ヒナ委員長は時間を稼ぐために、味方だった者たちに立ち塞がる。
『……最初は責任からだった、私がやらなくちゃって。でも、あなたと過ごす内に責任からではなく、あなたに生きてほしいって言う利己が生まれた』
『ヒナ』
彼女はもう生きるつもりはない、これは遺言だ。弱い私はこれを聞くことしかできない。今日この日、ここまで自らの無力を嘆いたことはないだろう。
『初めてだったの、そう思えたのは。初めてなの“親友“が出来たのが、だから私は私の“意思“であなたを助ける』
彼女の目には、いつも映している気怠げな感情は存在しない。
そこにはもう自己が乏しい雛鳥は居なかった。殻を破りその翼で彼方へと羽ばたく、初めて出来た親友のために。
──紫光輝く“空“までも。
『これ、受け取って。これで私を思い出して欲しい』
彼女が常に羽織っていたロングコートを受け取る。
『──生きて』
駆ける、駆ける。鳴り響く銃声に止まらない嗚咽、顔を涙で濡らしみっともなく逃げていく。
──もし、次があるなら私は今の私を許せない。
強くなろう、絶対に。何も奪わせないために。
5/1……
一般生徒、地獄からの脱出
「──ああ……何が悪かったんだろうか」
無意味な思考を口に出し、血塗れの身体に鞭を打つ。一刻と迫る死に鉛をブチ込むために。
「君達だって、粗野ではあるが優しい娘だったはずなんだ」
虚ろな瞳に変わらない表情。言葉一つ発することなく弾丸を私に撃ち込む様は、まるで操り人形だ。
悲鳴を上げる身体を無視し、弾丸の嵐を被弾しながらも躱し反撃を放ち少女の成れの果てを撃ち殺す。
「……生き残ってしまった」
決して浅くはない傷は負ったが、所持品で治療ができる範囲。辺りに敵がいないのを確認し、近くの建物に移動。そこで傷の治療をする。
「何時まで続くだろうか……私は何時まで生きればいいのだろうか」
凍り付いた心は、この現状を泡沫の夢だと判断する。インフラは止まり、食料や飲料、弾丸の補充は困難。外には変貌した生徒が徘徊している。手持ちの食料などでは、後2週間ほど保てば御の字だろう。
「あれが、あれのせいでキヴォトスは……」
この地獄を作った元凶。宙に浮かぶ紫光を放つブラックホールのようなものを睨み付ける。
変わらない日常、そこに突如として現れた紫光。少し前に知り合った者が言うには、“色彩“と呼ばれるものらしい。色彩の光を浴びた生徒は理性を手放し、テラー化と呼ばれる現象を起こし、人を襲うようになる。
皆死んだ。親しかった者全員。そして私に思いを託す。生きてほしいと。
だがもう、疲れてしまった。未だに宙を支配する紫光、終わる気配は見えやしない。最後に星をみたのは何時だったか……
ずっと、こうやって逃げながら生きる人生に意味なんてあるのだろうか?こんな生活、生きながらに死んでいる。
「半年か……持った方だろう」
紡がれた命、流石に自ら絶つことはしないが時間の問題だろう。……なら、最後に一矢を報いよう。
──既に血塗れの手を、更に真っ赤に染めに。
「行くか」
◇◆◇
肌に刺さる
「砂……ここはアビドスの自治区か、何故こんな所にいる。私は頭を貫かれたはずだ……」
今でも思い出せる。腕は吹き飛ばされ腹には風穴が空き、最後には頭を撃ち抜かれ、急速に冷める身体と意識が闇に消える瞬間を。
だが、何故か今。傷だらけの身体が治り、失った腕を備え、来た覚えのないアビドスの地を踏みしめている。そして、最大の衝撃は……
「!?色彩が無くなっている!」
見えたのは宙を奪ったあの忌まわしき紫光では無く、陽光輝く晴天の空。
「返ってきた腕、無くなった色彩……」
肌に刺さる熱すら忘れ、熟考していく。医学では説明出来ない、欠損や傷跡の超回復。消す方法が分からなかった色彩の消滅理由。
ぐるぐる回る思考。だが、その思考は銃声音により現実に引き戻される。
「!銃声か。誰か襲われているかもしれないな」
生き残りがいる、その事に感動を覚える。しかし色彩は消滅したが、テラー化した生徒はおそらく残っている。急がないと殺されてしまうかも知れない。
踏み込みによる粉塵を巻き起こし、銃声がした方まで最速で駆ける。
「見えた……学校での籠城か」
銃声は未だに鳴っている。校区に入り、殺すべき敵を探す。
そして発見したのはヘルメットを被り、
「は……?表情を浮かべている……?。テラー化していない、のか?」
生者より死者が多くなった世界、争いはただの自殺でしかない。何故……と一瞬思考が止まりかけたが、鎮圧した後に話を聞けばいいかと意識を切り替える。
共に死線を駆け抜けた相棒。car98k【ザガン】を構え、標準をヘルメットを被った少女達。【ヘルメット団】に向ける。
「標的を捕捉、弾道の計算を終了。Shoot」
撃針が雷管を叩き、迸る爆音。放たれた弾丸は、少女のヘルメットを粉砕し額に直撃した。
「標的の沈黙を確認」
「だ、誰よ!あんた!」
闖入してきた私に対し、襲撃を受けていた少女の一人。黒い髪に猫耳を生やした少女が、隠しもしない警戒心で問いかけてくる。
「私は──篝スゥ。君たちの援護をする」
それだけを彼女に言い残し、ヘルメット団の波の中に入る。
「こっちに来たぞ!う、撃て!」
一人が掛け声を出すが、誰も撃たない。否、撃てない。顔が物語っている、対角線上には仲間がいる。撃つと当たるかもしれないと。
そのゴタゴタに乗じて一人、一人、着実に沈めていく。5発で5人を仕留め、硝煙が立ち止まる私を包む。これ以上引き金を引いても、返ってくるのは沈黙のみ。car98kの弾数は5発、つまりは弾切れ。
「!弾切れだ、やれ!今のうちだ!」
銃口が一気に私を捉らえる。判断はいい、だが遅い。引き金が引かれる前に、フッと風のように移動する。
「何処に!?いっ──「ぎゃぁ~〜!?」な!?」
銃先に付いてる刃を、少女達に叩き込む。私が地獄の半年で身に付けた弾丸節約の術。格闘戦を惜しげもなく披露する。
──だって殴ったほうが早くない?
Q.E.D。私にこれを教えてくれたあの娘も、天国で頷いているだろう。
「くそ!速すぎだろ!弾が当た──ぎゃぁ!?」
「まて!今、私がや──が!?」
音のしない歩法、疾風の如しスピード。転がっている遮蔽を使い、射線を切り、確実に仕留めていく。
『凄いですよ!これなら弾を節約することができます!』
「ん、凄い。一方的」
「ですね〜☆」
「なによ、アイツ。強すぎじゃない!?」
「うひゃ〜、おじさん目が回ってきちゃうよぉ」
“……何も見えない“
「くそ!お前ら撤退だ!」
半数ほどを蹴散らすと、ヘルメット団は逃げ帰っていく。追撃を、と思ったが話を聞くのを優先しようと考え辞めた。
「撤退を確認。すまない、聞きたいことが──」
ヘルメット団襲撃の理由を聞こうと歩みを進める。だが、ピンク髪に
「──小鳥遊ホシノ、なのか……?」
「?おじさんを知ってるの」
あり得ない、だって小鳥遊ホシノはもう……
「死んでいるはずだろう……何故、生きているんだ」
私が得た情報では、アビドスの生徒会長は何かを探しに砂漠で行方不明と。もし、生きていたらあんな惨事にはなってないはずなんだ。“暁のホルス“と謳われるほどの、彼女が居たら。
「ちょっと!何を言ってるのよ!ホシノ先輩は生きてるわよ!わけのわからないことを言わないで!」
「ん、流石にその言葉は見過ごせない」
「ちょ、ちょっと!おじさんは気にしてないから、銃を向けるのはだめだよぉ」
声がノイズに聞こえる。頭に入ってこない。鼓動は早まり、口の中は乾いていく。
「死人が闊歩し。色彩は消え宙は自由を得た。まさか……」
頭の中に浮かぶ一つの答い、それが本当だとしたらもう一度大切な人に会えるかもしれない。そう、皮算用な考えが頭を駆け巡っていく。
「何をブツブツ言ってるの?ねえ、聞こえてるわけ?」
“何か様子がおかしいね……?“
この答いを本物にするため、ぐちゃぐちゃの思考を整理し一世一代の言葉を紡ぐ。その前に、まずは詫びを入れる。
「……すまない。先程の非礼を謝罪する」
「うへ〜、大丈夫だよ〜。それより、何でおじさんが死んでると思ったのかな?」
「その問いに答えるために、聞きたいことがある」
「?いいけど……」
「感謝を。それでは……聞こう。君達は──紫光の絶望を目にした事はあるか?」
ポカンとした顔。
「え、ええと……ごめんね?おじさん、分からないや」
「いや……構わない。知りたい事は、君の反応で全てが知れた」
ああ、その反応を見れば分かる。確定だ。
「長話になる。君達は問題ないか?」
「おじさんはいいけど……」
“え~と……取り敢えず校舎に入らない?“
◇◆◇
“つまり、スゥは未来から来たんだね……“
「ああ、どう言うカラクリかは分からないがそうらしい。にわかには信じられないがな」
“先生“と名乗った、ヘイローを持たない男性が疑念を含んだ声色で問いかけてくる。
「信じられないわよ!いきなり未来から来たなんて言ったって!」
黒髪に猫耳の少女、黒見セリカは全く信じていないようだ。まあ、正しい反応だろう。未来から来たなんて言う輩は、傍から見れば狂人にしか見えない。
「証拠を見せて欲しい、それがあれば分かるかも」
銀髪に狼耳の少女、砂狼シロコは証拠の提示を求めてきた。
「証拠か……私が提示できる物は身に付けているこれらしか無い」
私が思いと一緒に受け継いだ物達。死闘の中で掠れる意識は、何時もこれを見て覚醒していた。これを見るたびに思い出す、最後に交わした会話を。この身が受け取った祝福を。
「ふん!語るに落ちたわね!また、私達を騙すために来たんでしょ!知ってるわよ!」
「まあまあ〜、落ち着いてください。セリカちゃん」
ベージュ色の髪をした少女、十六夜ノノミがセリカをたしなめる。
“セリカ、一旦落ち着いて。早まったら駄目だよ。スゥ、ちょっといいかい?“
「ああ、問題ない」
早々に結論を出したセリカを止め、先生は私に近づきタブレットをかざした。
“どう、アロナ?“
何やらタブレットに話しかけている。AIでも入っているのだろうか?
“え……学籍が存在しない……?“
「!?そんな事あるんですか!見たところスゥさんはゲヘナの方に見えるのですが……」
黒髪にメガネを掛けた耳の長い少女、奥空アヤネが驚愕の声を出す。
それは私も想定外だ。前提が変わった、学籍がないなら私は
「成る程、どうやらここは過去ではなく。別の世界らしい」
納得がいった。少しおかしいとは思っていたんだ。ここが過去ならば託された物は無くなっているはずだし、窓に映る自分の頭の角も“折れて“はいないし、背中の翼は半ばで綺麗さっぱり“消滅“していない。
極めつけは目の前にいる、ヘイローを持たない男性の存在。もし、過去に居たのならばたちまち話題に上がっていただろう。
“……これは、信じるしかないかな“
「うへ〜、流石に信じるしかないよねぇ」
「ん、先輩に同意」
「はい、信じ難いですが……」
「別の世界の人ですか〜?凄いですね〜」
「あーもう!そんなの否定できないじゃない!」
どうやら皆信じてくれるらしい。まあ、それほどまでにこのキヴォトスでの学籍と言うものはデカい。
“それで……事情は分かったけどスゥはこれからどうするの?もし、行く当てがないならシャーレに来ないかな?“
「シャーレ……?」
“そう、シャーレなら君を雇うことが出来るけど、どうする?“
本当はブラックマーケットに行こうとしていたのだが、その誘いは渡りに船。
「……3年。元ゲヘナ学園風紀委員会所属、篝スゥ。お世話になる、先生」
“うん、よろしく“
※ここで一つネタバレがあるので、見たくない方は戻って次の話に行っていただければ。
まあ。冒頭で色々やってるからネタバレもクソもほとんど無いんですけどね。
ガハハハ!。
篝スゥ
年齢:18歳。
所属:ゲヘナ学園。
部活:風紀委員会。
好きなもの:友達、他は忘れた。
嫌いなもの:弱い自分、守られること。
身長は149cm。顔は風紀委員会のモブ。だが、違うのは所々が欠けたヘイロー、光の灯さない仄暗い漆黒の瞳、目元まで伸ばした白髪に黒のメッシュ。二対の角は片方が砕けている。背中に生えた翼は片方は無くなり、もう片方は半ばまで消滅している。
だが、翼はまだアビドスの皆には見られていない。何故ならその背には……
──風紀委員長から譲り受けた、所々に穴が空き、血に濡れ赤に染まったロングコートを羽織っているから。