先生がいないキヴォトスから来た一般生徒(覚悟ガンギマリ)   作:かまくら御前

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   ──あなた達が嫌いだった。
 
 ふざけた思想に突き進み、毎度の如く騒ぎを起こす。質も悪く、全員が私達平委員では太刀打ちできない強さ。

 委員長の負担を増やす、そんなあなた達が嫌いだった。
 
 でも久し振りに見たあなた達にはどうしてか、そんな事は思えなかった。嘲笑うあなた達に苦汁を飲んだはずなのに。

 嫌いだった、本当に嫌いだったんだ。でも、それ以上に私は……
  
   ──そんな日常が大好きだったんだって。
 
 



一般生徒、再会する

 

  「いやぁ~、悪かったてば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」

 

  「……怒ってません」

 

 会議は終了、場所は打って変わり柴崎ラーメン。結局あの後も真面な意見は出ず、埒が明かないので黒見セリカのバイトの時間に合わせ食事をとりに来た。女三人寄ればなんとやら、姦しくラーメンを食べる光景が濁った瞳に映る。

 

   ──昨日もだが、こうやって賑やかにご飯を食べるのも久しぶりだな。

 

 "色彩"が世界を覆ってから、笑いながらご飯を食べたことはない。だからだろうか、久し振りに見るこの光景は闇に沈んだ私の心を少し震わせる。

 

  “スゥ、どうしたの?手が止まってるけど“

  

 私の手が止まったのを心配したのか、先生が声を掛けていた。

 

  「……いやなに、眩しいものを見たと思ってな」

 

  “?えっと……“

 

 変な回答だと思ったのだろう、小首を傾げている。

 

  「ああ……分からなくていい。それが正常だ」

 

 それで会話を切り。止まっていた手を動かし、相変わらず味のしないラーメンを啜る。

 

  「……あ……あのう……」

 

  「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

 

 ラーメンを食べるのを再開してすぐ。アビドスのみんなと話をしていた黒見セリカが、扉を開けて入って来た客に声を掛けているのが聞こえてきた。

 

  「……こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」

 

 お金がないのだろうか、入ってきて早々一番安いメニューを聞いてきている。

 

 ……この少女の声、どこか聞き覚えがある。

 

  「一番安いのは……580円の柴崎ラーメンです!看板メニューなんで、美味しいですよ!」

 

  「あ、ありがとうございます!」

 

  「ん?」

 

 扉を開ける音がする。出て行ったのだろうか?580円も払えないほど、ひもじいのか?そう考えていると、もう一度扉を開ける音がした。どんな人物なのか気になり扉の方を見る。そして、店内に入って来たのはゲヘナ生と思われる4人の少女。

 

  「は?彼女達はまさか……」

 

   ──その少女達を私は見たことがある。想起される記憶、過去何度対面したかも分からないほどの濃密な記憶が。

 

 ピンク色の髪、不敵な笑み、背には雅さを感じさせるコート。ゲヘナ特有の角には黄色い輪が付いている少女。"陸八魔アル"

 

 人を小馬鹿にする表情、白髪を花の様な髪留めで一纏めにしゴシックな服に身を包んだ少女。浅黄ムツキ。

 

 おどおどした表情、紫陽花を思わせる紫髪、風紀委員の隊服に似た服を着た少女。"伊草ハルカ"

 

 後頭部には二対のシンプルな角、白黒の髪に冷徹な表情。ダボッとしたパーカーを着た少女。"鬼方カヨコ"

 

  ──便利屋68。嘗て数々の事件を起こし、私達風紀委員会が苦汁を飲まされていた存在。その面々がそこに立っていてた。

 

  “スゥがまた止まった……“

 

 衝撃で食べ進めていた手が止まる。私の世界では死人である彼女達が、息をし地を踏みしめている。分かってはいたのだがそれでも驚いてしまう。そして実感する、地獄から帰って来たのだと。

 

  「4名様ですか?お席にご案内しますね」

 

  「んーん、どうせ一杯しか頼まないし大丈夫」

 

  「一杯だけ……?でも、どうせならごゆっくりお席へどうぞ。今は暇な時間なので、空いてる席も多いですし」

 

  「おー、親切な店員さんだね!ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて。あ、わがままついでに、箸は4膳でよろしく。優しいバイトちゃん」

 

 何とか再起した頭に聞こえてくるのはそんな会話。

 

 どうやら、相も変わらず金欠らしい彼女達。おそらく、一杯を4人で分け合うのだろう。それを聞いた黒見セリカも驚いている。それに対し伊草ハルカは黒見セリカが驚いたのを見て、顔を青く染め貧乏なのを謝罪し始めた。そんな彼女に黒見セリカは、無いお金をかき集めてこの店に食べに来たと勘違いをし、待ってほしいと言い残しその場を離れていく。

 

 そして便利屋達はこそこそと談話をしながら私達が座っている直ぐ近くに座る。少しの時間が経ち、黒見セリカが帰って来た。

 

   ──明らかに一人前には思えない大盛りのラーメンを持って。

 

  「はい、お待たせいたしました!お熱いのでお気をつけて!」

  

 ダン!とテーブルに置かれる、皿に収まりきっていないラーメン。

 

  「ひぇっ、何これ!ラーメン超大盛りじゃん!」

 

  「ざっと、10人前はあるね……」

 

  「こ、これはオーダーミスなのでは?こんなの食べるお金、ありませんよう……」

 

  「いやいや、これで合ってますって。580円の柴崎ラーメン並!ですよね、大将?」

 

  「ああ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ」

 

 手元が狂うくらいではならない量のラーメン。随分と粋な大将である。

 

  「う、うわあ……」

 

  「よく分かんないけど、ラッキー!いっただきまーす!」

 

  「……ふふふ、流石にこれは想定外だったけど、好意に応えてありがたく頂かないとね」

 

  「食べよっ!」

 

 ひとしきり驚いた後、便利屋の面々はズズズッとラーメンを啜る。そして一口啜り余程美味かったのか、顔には笑顔が浮かんでいる。

 

  「お、おいしいっ!」

 

  「なかなかイケるじゃん?こんな辺鄙な場所なのに、このクオリティなんて」

 

  「でしょう、でしょう?美味しいでしょう?」

 

 好評を口にする便利屋に共感を示したのか、アビドスの面々が席を立ち近付いていった。

 

  「あれ……?隣の席の……」

 

  「うんうん、ここのラーメンは本当に最高なんです。遠くからわざわざくるお客さんもいるんですよ」

 

  「ええ、分かるわ。色んな所で色んなものを食べてきたけど、このレベルのラーメンはなかなかお目にかかれないもの」

  

 どうやらかなり気が合うらしい、陸八魔アルは笑いながらアビドスの面々と話し合っている。

 

  「うへ、篝ちゃんは話さないの〜?同じゲヘナでしょ?」

 

  “確かに……この子達を見た瞬間固まってたし、元の世界じゃ知り合いとか?“

 

 黙々とラーメンを啜っていた私に、小鳥遊ホシノが話しかけてきた。先生もそれに便乗して問いかけてくる。

 

  「……そうだな。知り合い、だったんだろうな。だが……向こうは私のことは知らないだろう、故に彼女達と話すことはない」

 

 前の世界だったら見つけた瞬間声を張り上げ特攻している。嫌いだったから彼女達が、でもこの世界の彼女達は私の知る彼女達じゃない。それに……私はもう風紀委員ですらもない。

 

  “……いつか、話せるといいね“

 

  「ああ……」

 

   ──そんな日が来るのならな……

 

 アビドスの面々に見送られる便利屋を眺めながら、豆粒ほどの可能性に思いを馳せる。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 「誰かと思えばあんたたちだったのね!!ラーメンも無料で特盛にしてあげたのに、この恩知らず!!」

 

   ──うん、やっぱりそんな機会は要らないかもしれない。

 

 傭兵の集団を引き連れた便利屋が、アビドスに襲撃に来たのを見て深くそう思った。

 

  「はあ……さっき会って早々とは、相変わらずのドタバタ具合だ……」

 

  “あははは……“

 

  「ちょ、ちょっと!あなた達。何ボソボソしてる、の……よ?」

 

  “……?“

 

 私と先生が小声で話していると陸八魔アルが焦った声で話しかけてきたと思ったら、顔を即青褪めさせフリーズした。そして身体を震わせ、振り絞るように声を出す。

 

  「ひ……」

 

  “ひ?“

 

  「()()!?何でこんな辺鄙な学校にいるのよぉ!?」

 

 ヒナの名前を出し絶叫を上げる陸八魔アル。

 

 ……成る程。どうやら私を“ヒナ“と勘違いしているらしい。陸八魔アル、その目は飾りのようだ。私がヒナに見えるとは、似ても似つかないだろうに。

 

  「ヒナ……?誰よそれ?」

 

  「ん、私も知らない。ホシノ先輩は?」

 

  「ん〜、おじさんが知ってる娘だったら確か……ゲヘナの風紀委員長ちゃんの名前じゃなかったかな〜」

 

  「風紀委員長さんですか〜?そんな方とスゥ先輩をどうして間違えたんでしょう?」

 

 遠くから見たら確かに、少しはそう見えるかもしれない。身長はほとんど変わらず、髪色も一部を除いて同じ。そして極めつけは、()()()()()()()()()物。

 

   ──でも陸八魔アルは馬鹿だ。そう見えるだけで間違える程じゃない。

 

  「……アルちゃん。あの娘のことよく見た?全然風紀委員長じゃないよ?」

 

  「社長、それは流石に……」

 

  「へ……?」

 

 震える身体を止め、私をまじまじと見つめてくる。そして瞬きを二度。別人だと気づいたのか青かった顔は赤くなり声を張り上げる。

 

  「ほ、本当じゃない!?あなた紛らわしい格好をしないでちょうだい!びっくりしたわよ……」

 

  「君が勝手に勘違いをしただけだが?」

 

  「……あーもう!いいわよそんなことは!ヒナじゃないなら話は別よ!総員!攻撃!」

 

 強引に話を切り狼煙を上げる。どうやらやる気のようだ。便利屋達の纏う気配が変わり、傍観していた傭兵達も銃を私達に向ける。

 

  「──来るか、便利屋68。残念だが私を相手に勝てるとは思うなよ」

 

 いったい何度戦ってきたと思っている。武器、連携、判断、その全てを私は見てこの体で経験してきた。狙撃され、爆破され地を舐めた回数は覚えていない。だが前とは訳が違う、為されるがままのあの時とは。

 

 一発触発。戦闘が開始される……

 

  「やれぇ!撃て撃──がっ!」

 

 爆音。声を張り上げる少女の腹に鉛をぶち込み、少女は吹き飛び地面に倒れ伏す。広がる硝煙と動揺。

 

  「──先ずは一人。先生、指揮を頼む」

 

  "スゥは敵陣のド真ん中!かき乱して!"

 

 まあ、こうなるか。心の中で恰好を付けた手前、便利屋達と戦いたかったが役割分担だな。

 

  「了解した。任務を遂行する」

 

 一瞬の動揺、その隙を突き音を立てずに少女達の中心に移動。まだ誰も気づいていない、その間に射撃。弾丸を食らった少女は声も上げれず倒れていった。

 

  「!?いつの間に!」

 

  「ちょっと!?高いお金を払ったんだからちゃんと役に立──っ!」

 

 為すすべ無く倒れ伏す2人の傭兵。それを見て陸八魔アルは声を荒げるが、銃弾が顔をよぎり声は中断された。

 

  「ん、あなた達の相手は私達」

 

  「いい人たちだと思ったのに、許さないわよ!ぶっ飛ばしてやるんだから!!」

 

  「……社長。これ、だいぶ不味いかも……」

 

 どうやらあっちも始まったらしい。絶叫と銃声が響く戦場でそんな会話が聞こえてきた。彼女たちの実力は一度共闘してある程度分かっている。先生の指揮もある、負けることは万に一つもないだろう。だから安心して目の前に集中できる。

 

  「は、速す──ぐぁ!」

 

  「せめて一発でも……!撃ちまくれ!味方に当たってもかま──ぎゃ!」

 

 撃って、斬って、即リロード。バタバタと倒れていく傭兵達。

 

  「弾は補充が出来るようになったんだ、盛大に使わせてもらう」

 

 これが本来の戦術。一発撃つと次弾まで間隔が空くボルトアクションの弱点をカバーする銃剣、それを生かすための縦横無尽の歩法。

 

  「はっはー!後ろががら空きだぜ!これでも食らいな!」

 

 真後ろ、死角から放たれる弾丸。それを下に転がっている少女を持ち上げ防ぐ。

 

  「はぁ!?なんで分かってんだよ!それに、人の心がないのか!?」

 

  「これくらいでは死なないだろう?何とでも言うといい、そんなものは疾うに闇に沈んだ」

 

 そして……あの地獄で戦い抜ぬいて磨き上げられた経験、使えるものは何でも使う主義。罵られようと構わない、これが弱い私が強くなる為に必要だったから。

 

 「人でなし~!」と声を張り上げる少女の頭を撃ち抜く。それが決め手になっただろうか、3分の1ほどに人数が減った傭兵達はその場から動かなくなった。

 

 少しの間睨み合う、相手が動く気配がないのを確認しこちらから近づこうとする。すると……

 

 『キーンコーンカーンコーン』

 

 と、付近に機械音のチャイムが流れ始めた。それに合わせて傭兵達は銃を下ろす。

 

  「……来た!やっと定時だ!」

 

  「みんな、さっさと帰るわよ!こんな化け物と付き合ってられない!後は自分たちで何とかして」

 

  「は、はあ!?ちょ、ちょっと待ってよ!!」

 

 がやがや、がやがやと先ほどとは打って変わり雑談をしながら歩き去っていく傭兵達。これにはアビドスの面々と戦っていた便利屋達の顔にも、焦りの表情が浮かび始めた。

 

  「こりゃヤバイね。まさかこの時間まで決着がつかないなんて……アルちゃん?どうする?逃げる?」

  

  「それが出来れば一番いい。まあ、尤もあの娘から逃げられるか分からないけど……」

 

 冷や汗をかいてはいるが鬼方カヨコはやはり、窮地に陥っても冷静な思考を保っている。

 

  「ああ、勿論。逃がすつもりはない、自分からは君達に突貫するつもりは無かったが……君達の方からやって来るなら話は別だ」

 

 一挙一動でもしてみるがいい、その瞬間頭を撃ち抜いてやる。

 

  "まあまあ、スゥ。落ち着いて"

 

 張り詰めた空気、その空間は先生が私に声を掛けてことで崩れ去る。

 

  「!チャンスみんな、退却するわよ!」

 

 ピューン!と脱兎の如く全員が全員、違う場所に逃げていく。こうなっては捕まえるのは至難の業、追いかけるのは不可能に近いだろう。

 

  「うへ~逃げ足速いね、あの子たち」

 

  『……詳しいことは分かりませんが、敵兵力の退勤……いえ、退却を確認』

 

  「……先生。理由を聞こう」

 

 先生に声を掛けられ一瞬、意識を向けてしまった。それが無ければ絶対に捕まえられただろう。相応の理由がないと納得ができない。

 

  "……柴崎ラーメン出会った彼女たちはいい子達だった。それに、お金も持ってない。そんな子達を捕まえるのは先生じゃないからね"

 

 それは……なんて甘い考えなんだろう。たった一回、それだけでいい子だと判断しお金がないのを同情する。

 

  「……彼女達は犯罪者だ、数々の事件の主犯。罰を受けるべき人間たち、それを赦すと……?」

 

  "うん。彼女達はまだ子供なんだ、変われる余地はまだまだあるからね。捕まえて反省させようなんて強引な考えじゃ、変われるものも変われない"

 

   ──即断即決。そこに迷いなんて無かった、真剣な表情。本気で変われると思っている。

 

 これが先生……子供を導く大人の姿か。

 

  「そうか……分かった。先生の考えを尊重しよう」

 

  "ありがとう、スゥ"

 

 先生、君は生徒がどれだけ悪に染まろうと助け出すだろう確信した。でも、これだけは思うことがある。君は……

 

   ──人を殺した生徒でも助けてくれるのか?

 

 私に満面の笑みを浮かべる先生を見てそう、心にしこりを残す。

 





 
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