先生がいないキヴォトスから来た一般生徒(覚悟ガンギマリ) 作:かまくら御前
二度目の会合。そこで目にしたのは許されざる行為。嫌いではない、今もそう思っている。でも……それだけは看過できない。縁を結んだ者、そんな人物に危害を加える。それだけは。だから……
──過去の因縁、それを果たしましょう。
悪いですが、何もさせるつもりはありません。瞬殺させてもらいます。あなた達の癖も戦術もその全てを踏みつぶして。
銀行襲撃の日から1日。私達は最近見慣れた教室に入る。
「おはよ~、先生、篝ちゃん」
「先生、スゥ先輩、おはようございます。今日はお早いですね?」
"おはよう。ホシノ、ノノミ。今日は早起きしたからね"
「……ああ、おはよう。挨拶はいいんだが……小鳥遊ホシノ。何故、十六夜ノノミの膝の上に?」
挨拶を済ませ入って早々目にしたのは、十六夜ノノミの膝の上に頭を乗せて寝転がっている小鳥遊ホシノの姿だった。
「うへ~、いいでしょ?ノノミちゃんの膝枕は柔らかくてサイコーなんだよ~」
"……私も寝てみたいな"
「……先生。それは教師としてどうなんだ……?」
導くはずの子供に、膝枕される先生とは……絵面も酷い。170cm以上もある大の大人が、160cmあるかくらいの少女に膝枕される光景は犯罪的だろう。
「先生には渡さないよ~。この場所はおじさんの特等席だからね。先生はあっちの座り心地が悪そうな椅子にでも座ってね~」
"えー、占領反対!"
「私の膝は先輩専用じゃないですよう……」
そう言いながらホシノを膝から退かし、先生に近づいてきたノノミ。
「今度、誰もいない時にしましょうね。先生」
ボソッと小鳥遊ホシノに聞こえない位の大きさで、そんな密約が行われていた。
十六夜ノノミからの提案なら、私が口をはさむ余地は無い。それはもう好きにやってくれ。
「さて、茶番はそこまでにして。"私は本気だよ?"……今日は他の面々はいなんだな」
一応皆今日は休みだと聞いているのだが、小鳥遊ホシノと十六夜ノノミは来ているので、他のみんなもいると思ったのだが……どうやらいないらしい。
「のんびりできるのは久しぶりですから……今はみんな、やりたいことをやっているんでしょうね。んー、シロコちゃんはきっとトレーニングでしょうしアヤネちゃんは多分勉強しに図書館でしょうか……」
「成る程……なら二人はどうしてここに?」
「ノノミちゃんは学校の掃除と教室の整頓をしてくれたんだよね~」
"……ホシノは?どうして学校に?"
「ん?私?うへ~、私は当然ここでダラダラしてただけだよ~」
そうきっぱり宣言する小鳥遊ホシノの顔には、いつも通りの眠たげな顔。だが……
……何か引っかかる。ダラダラしたいだけなら何故、アビドスの学校に?家で休めばいいものを。いや……考えすぎか。
考えても仕方がないので思考を打ち切る。しかし、心にしこりを残しながら。
「先輩も何か始めてみてはどうでしょう?アルバイトとか、筋トレとか」
「無理無理~、おじさんは年齢的に無理が効かない体になっちゃったもんでね~」
「歳は私とほぼ変わらないですよ?」
「なんなら先生はともかく、私も年月は上だな……」
おじさんを自称する小鳥遊ホシノ。少なくとも生きている年月は私達より下なんだ、だからまだ悲観することもないだろう。それに……私と違って──全てを失った訳ではないのだから。
「うへ~。とにかく先生と篝ちゃんも来たし、他のみんなもそろそろじゃない?そんじゃ、私ゃこの辺でドロン」
駄目だ、やはり引っかかる。この違和感はなんだ?
「どこに行くんだ?ダラダラしたいだけなら、この教室でできると思うが……」
「うへ~おじさんがここでダラダラしてると邪魔になっちゃうでしょ?適当にサボってるから、何かあったら連絡ちょーだい、ノノミちゃん」
欠伸をしながら教室を去っていく小鳥遊ホシノ。
「……またお昼寝しに行くみたいですね。それにしてもホシノ先輩も、以前と比べてだいぶ変わりました」
"変わった?前はどんな感じだったの?"
「そうですね……今はいつも寝ぼけてるような感じですが……初めて出会った頃のホシノ先輩は、常に何かに追われているようでした」
「追われているか……それは何にだ?」
「何に追われていたかというと……んと、ありとあらゆることに、と言いましょうか。聞いた話ですが、以前
いたそう……か。やっぱり私と小鳥遊ホシノは──似ているな。だが、似ているが決定的に違うものがある。そしていつか、取り返しのつかないことをしでかしその違いを無くすだろう。その時は……君のなるかもしれない可能性として──責任を持って君を止めよう。
◇◆◇
「前方、半径10km内にて爆発を検知!近いです!」
「10kmってことは……市街地?まさか襲撃!?」
「衝撃波の形状からするとC4爆弾の連鎖反応と思われます」
C4爆弾?それに……連鎖するほどの。アビドスという辺境、そこでこんな爆弾を使うのは……彼女達しかいない。音沙汰がないとは思っていたが……とうとう来たか。
「……爆発地点確認。市街地です!正確な位置は……柴関ラーメン……!?紫関ラーメンが跡形もなく消えてしまいました!」
……ふざけてる。相変わらず、最悪な状況を作る天才だな本当に。無事でいろ大将、今向かう。
「さっさと行くぞ。敵は分かってる」
「ん、直ぐに向かう」
──ぶっ飛ばしてやる。
◇◆◇
「これぞまさに、血も涙もない大悪党!」
──声が聞こえる。聞きなれた嫌いだった声が。
「そんじょそこらのザコには到底できない鬼畜の所業!悪人中の悪人じゃん!」
──この所業に興奮している。黒煙が立ち昇り火薬の匂いが充満し、ひび割れ倒壊した建物を作ったこの所業に。
「これがハードボイルドなアウトローってやつだね!!すごいよ、アルちゃん!見直したよ!」
──ふざけるな。見直しただと?こんな光景を作ったものを?
「へ……あ……?あ、あはははは!とっ、当然でしょう!冷酷無比!情け無用!金さえもらえればなんでもオッケー!それがうちのモッ──「それが君の答えか?陸八魔アル」へ?」
この光景を作った張本人達、便利屋68その首魁。陸八魔アルに抑えきれない圧でもって問いかける。
「あんたたち……!!よくもこんなひどいことを!!」
黒見セリカが、憤りを便利屋にぶつける。アビドスの面々もこれには険しい顔で便利屋を見やる。
『大将の無事を確認できました!幸い軽傷だったので、近くのシェルターに案内済みです!』
「そうか……なら遠慮はいらないな。先生、今回ばかりは何も言わせないぞ」
"……うん"
文句は言わせない。あの時とは違い、とうとう実害が出た。なら……今度こそ牢屋にぶち込んでやる。
「おっと、噂をすれば」
「……ちょっとタイミングはズレちゃったけど、どうせいつかは白黒つけないといけない相手だし。確保しておいた傭兵をこっちに呼ぶ」
「……そっ、そうよ!!これでわかったでしょう、アビドス!私がどんな悪党かを!さあ、いざ勝──負ぅ!?」
「……避けたか」
こちらに気づいた便利屋が話をして油断しているところを狙ったが、寸でのところで避けられた。放った銃弾は陸八魔アルの頬のすぐ右隣りを通過する。
「うっわー、会話を狙うとか容赦ないねー」
「油断しているのが悪い、ここはもう戦場だ」
「よ、よくも!アル様に!!」
陸八魔アルが狙われたことに気がふれたのか、声を荒くしこちらに突撃してくる伊草ハルカ。構えるショットガンの銃口が私に向けられる。だが、これは想定内。むしろ狙って行った。
「──遅い」
額に一発。神秘を込めた一撃をお見舞いする。こちらに走ってきていた伊草ハルカは体勢を変えることはできず、直撃。白目を向き倒れていく。
「!?ハルカ!この、ふざけるんじゃないわよ!」
仲間が倒されたことに激昂した陸八魔アルはその手持つ銃を向け、引き金を引く。弾丸が射出され、私の意識を刈り取ろうと飛来する。だが……これも読めている。顔面に飛来する銃弾、それを首を捻り一歩も動くことなく躱す。
「……相変わらずの精度だな陸八魔アル」
「はぁ!?避けたってなによ!?普通この距離の狙撃を避けれるわけないじゃない!」
まあ、普通は避けれないだろうな。普通は。
「君の狙撃は頭をよく狙う。それが分かれば避けるのは容易い」
何度食らったと思ってる。何度それで気絶したと思っている。
「──私に勝てるとは思うなよ。あの時そう、言ったはずだが?」
「なら?これは避けられるかなぁ!あっははははは!」
浅黄ムツキ。その手に持つはMG5、軽機関銃。圧倒的な連射の暴威が私を襲う。弾丸の嵐、避ける隙間なんて皆無。避けるという選択肢を捨て、その嵐に呑まれる前にその場を駆ける。追いかけてくる嵐、蜂の巣になる壁、感じる風圧、じりじりと私に迫って来る。15秒、嵐は止んだ。タイムリミットだ。
「っげ!弾切れ。早くリロード──「やらせると?」うぇっ!?」
ガァンッ!という音と共に、銃弾が浅黄ムツキの銃を吹き飛ばす。
「っ!でも、私にはこれ──「それも読めている」きゃ!」
どうせ、からっていたバッグから爆弾でも取り出そうとしたのだろう。バッグを漁っていた浅黄ムツキに対し、額に銃口を突き付け発砲。意識を飛ばす。
「っ!?みんな!」
「らしくないな、鬼方カヨコ。無鉄砲に特攻か?」
傭兵と共にアビドスの面々と戦っていた鬼方カヨコが、サプレッサーが付いたピストルを撃ちながらこちらに駆けてくる。
「っち、当たんない!」
音のしない銃弾。脅威ではあるだろう。だが銃口の向き、視線、そして狙われているところがひりつく感覚。音がしない、銃弾も見えない。それでも私は避けれる自信がある。
「っく!これもダメなの!?」
「狙いを変えたか、陸八魔アル」
鬼方カヨコを追い詰め、一歩一歩地を踏みしている先、胸に飛んでくる銃弾。体を少し逸らし何事も無く進む。飛んできた銃弾はさっきの位置とは違うようだ。ポジションが変わっている。おそらく鬼方カヨコが無策に突撃してきたのはこれが狙いだったのだろう。
「……あなた、何で風紀委員じゃないの?そこまで強かったら私達みたいなのを、一網打尽にできると思うけど……」
弾も切れ、万策も尽きたのだろう。追い詰められた鬼方カヨコは私に質問をしてきた。
「無駄だ。時間稼ぎに付き合うつもりは無い」
会話で時間を稼ぐのは目に見えている。付き合う義理はない。
「これもダメ……社長の勘違いはあながち間違いじゃなかったかも。この化け物具合……委員長みたい」
「……遺言はそこまでか?なら……そろそろ終わらせる」
銃口を突き付ける。息を飲む音、広がる緊張。それを裂くように引き金を引く、その瞬間……辺りに広がる大爆音。
それに気を取られ、引き金から指を外してしまう。
「……この音。まさか……」
「これは……!」
「何……?」
『砲撃です!!3kmの距離に多数の擲弾兵を確認!』
どうやらアビドスの面々は、傭兵の処理が終わったようだ。こちらに来たアビドスの面々のオペレーター、奥空アヤネが爆撃について教えてくれた。
「
50mm迫撃砲、擲弾兵……確定だ。
「いや、その必要はない。正体は分かっている」
"スゥ、正体って?"
「……ゲヘナ学園。──風紀委員会だ」
銀髪の少女を先頭に、"見慣れた制服"を着た集団が歩いてくるのを確認し、私はその集団の所属をアビドスの面々に伝える。
「ああ……とうとう来たか」
──蘇る。忙しく騒がしくも確かに、大好きだったと断言できる光景が。彼女達の笑う顔が。大切だった友との青春の思い出が。
凍った心が沸き立つのを感じる。会えるかもしれない、彼女と。私の初めての親友。
──ヒナと。