与えるだけの器用貧乏、実は周囲も自分も最強に至るぶっ壊れスキルでした   作:芦屋貴緒

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第1話

「ハイセ君、貴方の才能は……〈与える者(ダーナ)〉のようですね。……はて、聞いたことのない才能ですね。むむ……いや、間違ってはいないようですし……」

 

 寒村にある小さな教会。

 そこの祭壇に立つ司祭様が俺に向けてそう言った。

 

 この村では春に一斉に年齢を重ねるようになっている。

 そして六歳になった子供は女神様が与えた恩寵……ギフトを顕現させるために洗礼を受けるのだ。

 

 ギフトとは神からの祝福や特別な儀式、特殊な道具から得られることもある希少な才能を指す……らしい。

 母さんの受け売りだ。

 

 ギフトの例として農家や鍛冶師、船乗り、商人といった生活に根ざすもの。

 それから剣士や魔法士、その上位互換である剣聖、剣魔、魔道士、聖騎士などとバリエーションに富む。

 

 男子は大体戦闘系のギフトを欲しがる。

 去年、戦闘系のギフトを授かれたガキ大将はそれから力をめきめきとつけて今やこの村の子供のボスだ。

 

 で、俺が貰ったのは〈与える者〉(ダーナ)というどう使えばいいのかよく分からない意味不明なギフト。

 

 でも戦闘系でなければ強くなれないというわけでもない。

 自分の才能や努力で発生する技術――スキルでもやり方次第ではちゃんと身を立てられるくらいには技能を磨くことに意味がある。

 

 さて、俺の〈与える者〉(ダーナ)というギフトだが、これまで色々な子供を見てきた司祭さまでも分からないらしい。

 司祭さまは俺が困っているように見えたのか心からの慈しみの色が見える笑顔を浮かべる。

 

「女神さまはいたずらに人を惑わせるような試練を課しません。君にならば授けてもいいと思って授けたのでしょう」

 

「ありがとうございます。せっかく授かったものですし、上手くやっていきますよ」

 

 司祭さまは俺の返答に、なにか窮したようで小さく唸った。

 

「利発な子とはいえ、なぜ女神さまは子供に難題を……」

 

「なにか問題がありましたか?」

 

「いえ。村の司祭として君の前途を祈りましょう」

 

 俺にだけじゃなくて村のみんなに祈ってくださいね。

 両手を組んで一礼をし、俺は祭壇前から辞す。弟を連れた母さんの元へ行き、母さんと手を繋いで教会を去ろうとして。

 

 それにしても、ギフトか。

 前世が日本人だったから、そういうものを取り扱った創作物の存在は知っていたが、まさか自分がその立場になるとはね。

 

 くう、とお腹が鳴る。

 子供の身体は燃費が悪い。すぐにお腹が空いてしまう。

 ……早く大人になりたいな。

 

 ――教会を後にしようとしたその時、教会の中からどよめきの声が。

 

「ま、〈魔導姫〉……! フィーネさんのギフトは〈魔導姫〉です! これは、十年に一度……いや、もっと授かる人は少ない最高位の戦闘用ギフト……!」

 

 ……なんか、関係なさそうだな。

 母さんは目をまん丸にして、教会の方を振り返って一瞥した。

 

「母さん?」

 

「……なんでもないわ、行きましょう。大丈夫、ハイセのギフトもきっと素敵なものよ」

 

「落ち込んでないよ、母さん。俺も六歳になったから剣と魔法の稽古つけてもらえるようになったから、そっちの方が楽しみなんだ」

 

「ハイセは良い子ねえ」

 

「へへ」

 

 水仕事をしているはずなのにあかぎれひとつない綺麗な手。繋いだ手を一度離し、母さんは俺の頭を撫でる。

 母さんにこうやって頭をなでられるだけで自然と笑顔がほころんでしまう。

 こういうのをうれしいって思ってしまうあたり、心の年齢も退行しているんだよねー。

 

 俺ばかり構われることにやきもちを焼いた弟が「ぼくもー!」と駄々をこね始めたので、母さんは弟の頭も撫でる。

 

 くう、とまた俺のお腹の虫が鳴った。

 母さんから渡されていたおやつ用の干し肉をポーチから取り出す。

 

 それを見た途端、弟がしょぼくれた顔つきに戻ってしまう。

 

「にーちゃ……ぼくもおなかすいた……」

 

「ハクアはもう食べたでしょう? これはお兄ちゃんの分」

 

 母さんが弟をたしなめるも、弟のカンシャクは止まらない。

 歩く足をとめて今にも地団駄を踏み出しそうである。

 

「ちょうだいちょうだいちょうだい……!」

 

 でも、俺だってお腹空いているし……。

 それにハクアはもう食べたじゃないか。なんだったらハクアの方が持たされた量はちょっと多いんだぞ。

 

 ガブっと行っちゃえよ、ガブっと。

 内なる悪魔が弟の要求なんか無視して自分に甘くなりなよとささやく。

 

 干し肉を見る。

 固そうだ。だけどこれは滅多に食べられない牛肉のジャーキーだ。

 牛肉なんて年に一度あるかないかの収穫祭のときにしか食べられない。

 

 だから、食べてしまえば良い。

 

 弟が見ている。

 涙目で、母さんに似た美少年は見るも無惨な泣きべそ小僧と化している。

 

 俺のことをにーちゃと呼んでうれしそうに後ろをついてくる姿。

 嫌いなネギを俺に食べて貰おうとする甘え上手な姿。

 

 自分のことだけ考えてしまえよと甘い考えが何度も脳裏を過る。

 

 でも、俺はお兄ちゃんだからな――。

 同じようなことになったら、俺は何度でも同じ選択をするだろう。

 

 俺は手に持っていた干し肉を弟に渡す。

 

「ほら、ちゃんとゆっくり食べるんだぞ」

 

「ありがと! にーちゃ!」

 

 弟のハクアに干し肉を渡した瞬間――。

 その瞬間、なにかが抜けていく感覚を覚える。

 

『スキル〈精神統一〉をハクアに与えました』

 

 機械音声のような声が俺の脳裏に響く。

 その直後、ふつふつと胸の奥から湧き上がってくる衝動。

 やっぱり俺が欲しい! という我欲が今さらになって強烈になって襲いかかってきたのだ。

 

 でも、我慢はできる。ちょっと自分のわがままの声が強くなっただけで。

 

「よかったねえ、ハクア。ごめんね、ハイセ」

 

 もっちゃもっちゃと唾液で柔らかくしながら干し肉にかじりつく弟。

 しばらく経って弟は全てを食べきった。

 

『ハクアが〈精神統一〉を習得しました。〈与える者〉(ダーナ)のボーナスを加えて〈精神統一〉を返却します』

 

 また謎の機械音声だ。

 これはどうやら母さんにも弟にも聞こえていないようだ。

 さっきは余裕がなかったから疑問にも思わなかったが、この声はいったいなんなのだろうか。〈与える者〉(ダーナ)という単語を使っていることから、ギフトの声なのか……?

 

 機械音声の案内のあと、ハクアの顔つきに理性というべきものが宿ったように見えた。

 先ほどまでとは別人のようにも見える。

 

「ありがとう、にーちゃ」

 

 お、おお……!?

 ええ……!?

 

 五歳の子供の落ち着きじゃないぞ、これは。

 母さんもいきなりの第二子の豹変に驚きを隠せないようだ。

 

 同時に、自分の中の我欲がすっと収まったのを感じる。

 それどころか急に自分の空腹も「もうちょっとで家に着くんだから我慢すればいいじゃん」と冷静に判断できるほどだ。

 なんというか、前世の、大人だったころに近づいている気がする。

 

 先ほどの司祭さまの言葉が脳裏を過る。

 

『貴方の才能は……〈与える者〉(ダーナ)のようですね』

 

 俺が弟に干し肉をあげたから、弟が大人びた……?

 

 使い道の分からないギフトだと思ったが前言撤回だ。

 この〈与える者〉(ダーナ)というギフト、なにかを与えると自分に返って来るのか……?

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