与えるだけの器用貧乏、実は周囲も自分も最強に至るぶっ壊れスキルでした   作:芦屋貴緒

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第2話

 六歳になって始まったことは、剣術と魔法の稽古、そして農業の手伝いだった。

 俺と弟のハクアが生まれたときに父さんは練習用の木剣を作っていたらしい。

 

 昼時。まだ新しい木造の自宅の前。

 父さんが作ってくれた木剣を握って、父さんから教えられた通りに剣を振る。

 

 まだまだ筋力と体力が不足していて、木剣を百回振れば上出来といったところだろう。

 

 上手に剣を振れたときは父さんが「いいぞ! すごいぞ!」と俺以上に喜んで褒めてくれる。

 まるで天才になったような気分に浸りながら、最後の一振りを終える。

 

「よし、やめ! 初日にやりすぎるのもよくない、これからちょっとずつ回数を増やせるようになろうな、ハイセ」

 

「うん! ……じゃなくて、はい、先生!」

 

「言葉使いもちゃんとしているし、お利口さんだな」

 

「へへへ……」

 

「兄ちゃんだけずるいー」

 

 父さんにわしわしと頭を撫でられるとつい笑顔になってしまう。

 弟のハクアは不満げだが、昨日とは違ってカンシャクを起こすこともなく。

 加えて、昨日聞いたばかりの機会音声が脳裏に響く。

 

『〈剣術〉のスキルポイントが千になったため、ハイセが〈剣術〉を習得しました』

 

 おお、この脳裏に響く声は俺がどんなスキルを習得したかも教えてくれるのか。

 こいつはありがたい。

 

 冒険者も『ステータス・スクロール』や『技術見(ぎじゅつみ)の水晶』といった、自分の習得しているスキルを記録に起こしたりする魔導具がなければスキルの習得に気付かなかったりするらしい。

 だからこうやってどんなスキルを習得したかを教えてくれるだけでも十分に有用なのだ。

 

 それはそれとして、だ。

 

 この〈剣術〉スキル、〈与える者(ダーナ)〉を使って弟に与えてみたい。

 先日の洗礼の儀で〈精神統一〉が弟にも芽生えたように、〈剣術〉も芽生えるのかを確認したいのだ。

 

 食事の前のお祈りも我慢できなかったようなハクア()が、昨日からきちんとできるようになった。

 

 これが一度なら偶然の可能性だってある。

 だけど同じことが二度続くならばこれはもう俺のギフト、〈与える者〉によるものに違いない。

 

 それにハクアには村の悪ガキにいじめられて欲しくはない。

 イザという時に抵抗できる術は持ち合わせて欲しいのだ。

 

 兄として、弟が泣かされて家に帰ってくるようにはさせたくない。

 

 まずはハクアに対して「スキルが渡れ!」と念じてみる。

 ……昨日のように機械音声が流れない。それに〈精神統一〉を渡したときのような欠落感がない。

 

「僕もやってみたい、お父さん」

 

「うーん、六歳になるまでは教えないと決めているんだが……。昨日からとてもお利口さんになったから、木剣くらいなら持たせても大丈夫そうではあるが……」

 

 ハクアが父さんに自分も剣を振ってみたいと頼み込む。

 父さんは反対こそしているものの、昨日からのハクアの落ち着きぶりを評価しているようで迷いが見られる。

 

 俺はハクアの前に立ち、弟の肩をポン、と叩く。

 そうして念じる。

 

 ハクアに〈剣術〉を渡す、と。

 

『スキル〈剣術〉をハクアに渡しました』

 

 直後、機械音声が脳裏に響く。

 

 よし、当たりだ!

 どうやらこの〈与える者〉(ダーナ)というギフトを発動するためには相手に直接、あるいは間接的に触れている必要があるらしい。

 

 俺は父さんに上目遣いで頼み込む。

 

「頼むよ、父さん。向かいの区に〈剣士〉のギフトを持った一つ上のやつがよく暴れるらしいんだ。自衛はできるように教えてあげてください」

 

 村の向かいの区に居る、一つ上の少年が悪ガキなのは大人も知っているところだ。

 村社会らしく、近所の子どもたちは親から『あの子たちと遊んだらいけませんよ』と言いつけられているらしい。

 それでもその悪ガキは自分がのけ者にされていると、木剣を持って混ざりに来た挙げ句暴れるのだ。

 少年少女たちからすれば自然災害が来るようなものである。

 

 よほど良いウワサを聞かないのか父さんは、重々しく頷いたあとに告げる。

 

「良いだろう。ハイセにも言ったが、悪いことに使うようになったら教えるのをやめるし、おしおきだからな」

 

「はい、先生」

 

「兄ちゃんの真似か。ハクアは落ち着いて周りを見ているな」

 

 父さんは俺とハクアを見比べて微笑んだ。

 ハクアがそこもきちんと出来るとは思っていなかったのかもしれない。

 

「まずは基本の振り下ろしから。構えは……おや、出来ているじゃないか」

 

 堂に入った……とまではいかないが、少なくともたどたどしさのない構えを見せるハクア。

 父さんはハクアの姿を見ておお、と感心の声を上げる。

 そのまま父さんは自分の木剣を構え、振り下ろしの動作を行った。

 

 その動きは素人目に見ても洗練されていて、父さんがただの農民ではない証拠にも思える。

 

「いち、に、いち、に。この動きとリズムを真似して振ってみなさい」

 

「しょ、ん、しょ、ん、しょ」

 

 俺でも重いと感じた木剣。それを数回でコツを掴んだのか、ハクアは身体がブレることなく剣を振り続ける。

 それでもやはり体格差、筋力差はあるようでハクアの剣の速度は俺のものよりも少し遅い。

 

 ただ、徐々にではあるが動きに無駄がなくなっていき、傍目から見ると軽々と木剣を振っているように見え始めてきた。

 

 さて、検証をもうひとつ。

 俺が与えたとおぼしき〈剣術〉、それを俺は使えなくなっているのかどうかだ。

 

 俺も木剣を構える。

 だが上手く言えないぎくしゃくした感じがするな……。

 

「おや、どうしたハイセ。ん……? ちょっと構え方が戻ってないか?」

 

 どうやら父さんから見ても元に戻っているように見えているらしい。

 

 試しに剣を振ってみる。

 

 ……ドス。

 

 剣の速度を殺しきれずに足元付近の地面に木剣が刺さる。

 

「ハイセ、一朝一夕で身につくものなんてない。だから落ち込む必要なんてないんだぞ」

 

「大丈夫です、先生。スキルは一日にしてならず、ですよね!」

 

「そうだ! 一日で初歩は身につけられるが、それを大成させるのには時間がかかる。そして成長速度は人それぞれ。焦る必要なんてないんだ」

 

 父さんを騙しているようで申し訳ない……。

 だけど今後のために必要だから許してください……!

 

 リズム良く剣を振るうハクア。

 父さんには天才の弟と彼に劣る兄の図式が見えているかもしれない。

 

 見る見るうちにハクアは成長していくところを見ればそう思うのも仕方がないだろう。

 でも父さんには俺も格好良いところを見せたいなあ……。

 

『ハクアが〈剣術〉を習得しました。〈与える者(ダーナ)〉のボーナスを加えて〈剣術〉を返却します』

 

 自分の見栄と戦っている間に、脳裏に機械音声が流れる。

 

 お、おお!

 どうやらスキルが戻ってくるときは触れていなくても大丈夫みたいだな!

 

 もう一度試しに素振りをしてみると――ヒュン、と風を切る音が鳴った。

 

「おー……!」

 

「兄ちゃん、凄い!」

 

 俺もびっくりだよ。

 直後、ハクア少しだけ調子を落としたが、すぐに素振りの鋭さが元通りになる。

 

 ふむふむ。

 〈スキル〉を返して貰ったらちょっとだけ調子が悪くなるけれど、すぐに元通りになるみたいだね。

 その分なら長期に渡る問題は起こりづらいかもね。

 

 一方、元通り、いや、それ以上の動きを見せるようになった俺を見て父さんは「ムラがある子なのか……?」と訝しげにこちらを見ていたが、そのことを知るよしもなかった。

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