与えるだけの器用貧乏、実は周囲も自分も最強に至るぶっ壊れスキルでした 作:芦屋貴緒
街の大人が二週間働いてようやく一枚買える、『使い切り』の魔導具。
それが〈ステータス・スクロール〉だ。
一般庶民に手が届かないわけではないがわざわざ買うのはためらわれる。
さらには自分のスキルが羊皮紙に書き記されるだけの機能しかない。
戦闘用のスキルの確認が必要な冒険者でもなかなか買う人は少ないのだとか。
そんな不人気商品をどうして俺が欲しがったのか。
それは……俺がどんなスキルを覚えていて、どれだけ上昇しているかを把握できていないからである。
六歳の頃に受けた洗礼の儀、それから十年が経った。
俺はその間、石を木に投げ続けたり、木を拳で殴り続けたり、ロケットストーブもどきを作ってしこたま怒られたし、農業の手伝いをしたり、剣と魔法の修行もした。
数え切れないほどの試行錯誤の果て、大体どんなスキルがあるかまでは分かってもそのスキルレベルがどこまでなのかは未知数だ。
弟としのぎを削った〈剣術〉は高いだろう。
ほとんどフィーネが勝手に成長するだけでなにも手伝えなかった〈魔法〉系統は低いだろう。
そこまでは分かっても、じゃあ具体的になにがどこまであるのか。
上限値はどこまでなのかということは分からないままだった。
俺が目標とする、この村――ブエナ村の人たちが豊かで幸せな暮らしをするため。
知識、知恵、技術。そして純粋な力がどこまであるのかを確認することは必須だった。
自分の部屋、ベッドの上に座って羊皮紙を膝の上に置いている。
なんと自分の部屋が出来るくらい今のところウチには余裕があるようだ。やったね。
「血を一滴垂らすのか……痛――」
麦を刈るための骨のナイフで親指をチクリ。
うっすらと浮かび上がる己の血液を〈ステータス・スクロール〉に描かれた刻印に押し当てる。
直後、羊皮紙がじんわりと熱を帯び、インクもないというのに文字が浮かび上がるではないか!
『スキル 現在値/上限値
〈剣術〉 27/60
〈魔法〉 5/20
〈農業科学〉 30/35
〈農業〉 12/25
〈数学〉 40/60
〈マネジメント〉20/40
〈錬金術〉 30/35
〈商売〉 12/20
〈薬草学〉 10/20
〈騎乗〉 1/10
〈手芸〉 2/10
.
.
.
etc.』
羊皮紙にまとまりきらないほどにスキルはあったようで、最後にはエトセトラで締められていた。
「〈剣術〉と〈数学〉、〈農業科学〉、〈錬金術〉が特筆して高い。〈剣術〉の現在値と上限値が高いのは貸し出しとその間に俺が訓練していたからだろうな」
〈農業科学〉と〈数学〉、〈錬金術〉はほとんどなにもしてない割に高いのは、前世の教育水準の高さが要因だろうな。
〈魔法〉や〈農業〉、〈商売〉、〈薬草学〉が現在値と上限のどちらも低いのは貸し出す相手が少ないからだろう。
「翻って、〈マネジメント〉がそこそこ高いのは村長さまやらフィーネ、及び青年団のめぼしいやつらに貸したからだな」
そもそも低い〈騎乗〉は平民の俺が馬に乗る機会などほとんどなかったこと、〈手芸〉はフィーネが楽しそうにするから俺の出番がなかったんだよな……。
そして村の酒場で聞いた話だが、村に来た冒険者が語るには才能がなければスキルの上限値は二十ほど、才能がそこそこあれば五十ほど、天才の器であれば百を超えると言っていた。
俺の上限値は……低い!
だがこうも続けていた。
そもそも才能がないスキルは『習得すらできない』のだと。
俺は冒険者たちから話を聞きまくって、スキルの習得方法、訓練方法を聞いている。
そして、習得できなかったスキルは――ない。
要するに、俺は器用貧乏と評するのが相応しい。
しかしここで話をガラッと変えてしまうのが
これは『貸したスキルが返ってきたとき、現在値も上がるが上限値も上がる』という性質を持つ。
そして『その分野に適性がない人間にでもスキルを貸し与えることができる』のだ。
また、『才能がある人間ほどスキルの上昇も早い』という常識がある。
なので『才能があるがまだ芽が出ていない人間に貸し与えてしまう』というのが俺が力を得るにあたって一番効率的だ。
けれど、この村だけで育てるには少々人が少ない。
また、習得していないスキルだってある。
青年団だけで武力はそこそこ、平民の農民で言えば〈農業科学〉や〈農業〉はまあまあ、村長さまの〈マネジメント〉能力はなかなかいける。
だが、それでも足りないのだ。
猛暑が続けば水は涸れて冬に餓死者が出る。
特産品もなく、金も少ない。
水車小屋だってボロボロできちんと整備できる人間がいない。
数年前、妹が生まれるはずだった。
けれどもその年は不作になってしまい、また、難産だったため母さんの命も危なかった。
自分だけが生き残ってしまった、と泣きはらしていた母さんの顔が忘れられない。
こんな思いをしているのは俺たちだけではない。村の人間であれば誰でもが同じ経験をしている。
前世、日本であっても『子供が生まれることは奇跡』という風潮はあった。
文化の遅れた異世界ならばなおのこと。
運がよかったから、運が悪かったから。
そんな天から授かる運に、俺たちの生活を任せたくなかった。
だから、俺はこの村を発展させたい。
「でも、そのためには武力も権力も、技術力も足りない」
分相応な暮らしをしていけばいい。
そう受け入れるのは簡単だ。
でも、俺はそれを受け入れたくない。
「けど……お偉いさんとの繋がりが得られないんだよな」
村長さまは「冒険者になるのか」と尋ねた。
冒険者として大成すれば貴族とのコネが得られたり、あるいは一代限りの爵位をもらえることもあるのだとか。
だが――。
脳裏にフィーネの寂しそうな顔が思い浮かぶ。
村を離れたら泣かせるな……。