与えるだけの器用貧乏、実は周囲も自分も最強に至るぶっ壊れスキルでした 作:芦屋貴緒
「保存食の数が合わない……。樽や箱の規格がめちゃくちゃなのもあるけれど、絶対誰か食べてるだろ……!」
俺は村の食料庫で青年団に指示を飛ばしていた。
なんでも、ここのところ周囲で暴れ回っている盗賊を懲らしめるために領主さま直々に騎士を引き連れて盗賊の討伐に来るのだとか。
先日、村長さまに領主さまから手紙が届いたようで数日前から俺たちはもてなしと討伐の準備を任されているのだった。
盗賊討伐に使った保存食や飼い葉があとで補填されるかといえば、当然のごとくそうはならない。
しかし盗賊は討伐してもらわなければ家財は強奪され、自由民である俺たちも奴隷として売られてしまう。
大方は食い詰めた傭兵崩れか、ここより北東に位置する草原地帯の騎馬民族の略奪か。
どちらにしろただの農村の村人には厄介極まりない。
青年団も鍛えてはいるものの、実戦を知っている盗賊相手にどこまでできるのかは不明だ。
「父さんも戦士団に混ざって討伐に行くらしいし、心配だな……」
回復魔法があるとはいえ手足を切断された場合、普通の魔法士では傷を塞ぐ程度がやっとだと聞く。
あと気になるのはバノッサだ。
やつは最近、剣を持って村の外に出て行くことが多い。
また、村の酒場で柄の悪い男とつるんでいたという話も聞いている。
だが冒険者のほとんどは柄が悪いように見える。
だから俺の、バノッサという村の悪ガキが悪い人間と繋がってきているという想像は、単なる色眼鏡で見ているだけの杞憂である可能性だってあるのだ。
などと考え事をして自分の心を落ち着かせていると――。
――カンカンカンカン!
教会の鐘の音が耳に飛び込む。
ゆったりとした時刻を告げるものではなく、緊急性の高いもの。
有事だということは分かる。だが、それが獣や魔物か、あるいは賊なのかは分からない。
だがこれは外敵が来た時の鐘のリズムだ。
ならばやるべきことは何かしらの敵に対する応戦、その準備。
俺は食料庫の扉を開けて外へ出る。
「――! 全員作業やめ!」
「ハイセ君!」
隣に控えているフィーネの瞳は不安そうに揺れている。
「まずは武装の準備と見張りの報告だ。とにかく全員、武装と角笛で集合の合図を!」
食料庫で作業をしていた青年団がおう! と返事をし、青年団用の武器庫へと走る。
有事の際は戦士団を補助することが青年団の役目だ。
緊急集会所である教会が早鐘を打ったとき、青年団用の武器庫に集合するように訓練をしてある。
武器庫の見張りがすでに武器庫の鍵を開けており、すぐにでも武装をすることができた。
一般的な鉄の剣、革の胸当て、木の盾、関節部を覆う防具もつける。
ほとんどの青年団は木剣と盾、投石具を身につける程度だ。
しばらくすると青年団のひとりが武器庫に駆けつけてくる。
戦士団の見張りの補助につけていた人員だ。
腕には切り傷があるが、まだ血色が悪くなるほどではない。
彼はフィーネの魔法による治療を受けながら、こちらに報告すべく息を整えた。
「見張りがやられた! バノッサの奴が手引きをしやがった! ……相手は盗賊団だ! 数は三十ほど! ボスとおぼしき男は村の燻製小屋の近くで
俺は内心で舌打ちをする。
あいつ、なんでこんな馬鹿なことを……!
俺はすぐさま頭の中で青年団のみんなを動かすか決める。
こういった訓練は何度もしてきたので、想定していたものに近い動きを即断できるのが強みだ。
「当該区域の担当隊長は救助を主目的に! 残りの区の担当は戦士団の応援に」
「兄さ……総隊長はどうしますか」
俺は弟……ハクアを見てドンと胸を叩く。
「……俺は敵のボス叩く! 訓練通りやれば勝てる! 投石のやり方も、いざって時の剣の振り方も全部教えた! 絶対勝つぞ!」
血気盛んな男たちの声が響く。
直後、最初から決まっていたかのようにそれぞれの部隊が散開。
残ったのは俺とフィーネだけだ。
「……行くか。訓練通り、援護を頼む」
「もちろん。君に怪我ひとつさせるもんか」
俺とフィーネは村長の息子さんが戦っているという燻製小屋まで走る。
盗賊たちは周囲に散らばっていて収奪をしようとしているらしいが、青年団のみんながそれを止めている。
盗賊の中に馬に乗っている人間は一人としていないので、騎馬民族の襲撃という線は消えた。
つまり、食い詰め者がよそよりちょっと裕福なうちの村のウワサを聞いてやってきたというところか。
散開場所の近くで戦っていた戦士団の数人に青年団の部隊が加わる。
劣勢だった戦士団を控えさせ、投石具でおもむろに石を投げ始める青年団の部隊。
矢ほど威力はないが、それでも打ち所が悪ければ死ぬのが投石というワザだ。
これも俺が必死に訓練して団員全員に行き渡らせた。当然ながら俺も投石の技能値は高い。
青年団の皆は、チンピラをおおよそ投石で打ち払ったあとは盾を構えて列を組む。
そして手練れを囲んで叩くだけ。
……危なげなく倒してしまった。
急いで燻製小屋まで駆けつけ、ボスとおぼしき身なりの男を確認する。そいつの傍には見たことのある顔もいるが……。
バノッサはあろうことか盗賊の側についていた。
あの野郎、村を裏切りやがって……!
バノッサが持つ〈剣士〉のギフトは伊達ではない。
戦士団の大人たちがあっけなく倒されていく。さらにはバノッサと盗賊のボスの二人がかりでクラウスさんに刃を向ける。
彼は二人がかりの猛攻をなんとか凌いでいるが、それも時間の問題だということが理解できる。
急げ、と脳が警鐘を鳴らす。
ボスと思わしき、ひげ面の、毛皮のマントを羽織ったその男は好戦的な笑みを浮かべ、血の脂が付着した剣を振り上げる。
このままではクラウスさんがやられてしまう――!
俺は一気に加速し、彼と盗賊のボスの間に割り込み、剣を抜き放つ。
「させるかッ!」
俺たちの乱入に驚きの顔を隠せない盗賊のボス。
男は息を呑み、剣の柄を握る力を強めた。
「――ッ!!」
キィン!
俺と盗賊のボスの剣が激しく打ち鳴らされる。
鉄同士がぶつかる甲高い音が鳴り響く。
俺を見つけた、バノッサの嗜虐的な笑み。
獲物を見つけたときの、いじめっ子特有の笑い方だ。
後ろで膝をついているクラウスさんが屈辱が滲む声で叫ぶ。
「ハイセ! お前たちは初陣もまだだろう! 下がっていなさい!」
「今はそのことを話している場合じゃありません! 一旦、下がって怪我を治してから加勢してください! フィーネ、治療と援護は任せた!」
俺はクラウスさんの加勢を即座に断る。少しだけ目視したが、もう戦えるような状態ではなかったからだ。
俺は両手に力を込めて、盗賊のボスの振り下ろしからの鍔迫り合いを押し出す。
なにが楽しいのかひげ面の大男は舌なめずりをする。
バノッサも堪えきれないとばかりに笑みを見せる。
「ハイセェ! ずっとお前のことが目障りだった! 大したギフトもねぇくせに粋がって仲間を作って群がりやがって!」
「仲間に入りたかったならお断りだ。俺は隣人を傷つけるやつを許すつもりはない。ましてや盗賊と結託するやつには!」
「そういう生意気な態度が気に食わねェんだ! 力もねえくせに、お前ばかりが認められていく! 間違っているから正してやろうってんだ! この世は弱肉強食、持たざる者は持つ者に食われるだけってことをな! お前を倒して……俺は外の世界に出る!」
ああ、駄目だ。
こいつは話が通じない。
俺も通じたいと思わない。
俺は、そういう『持つ者だけが全てを得られる』って構図が――大嫌いなんだ!
二対二。
前衛の攻撃を俺ひとりで受ける分、負担はこちらの方が高い。
俺はここで戦いを終わらせるべく、フィーネに一言。
「フィーネ、援護を頼む」
自分でもぞっとするような底冷えした声音。
前世の暮らしでは考えられない、闘争本能をむき出しにした感覚。
後ろでフィーネが息を呑むのが分かってしまう。
「……分かった! 『加護よ』――!」
後ろに控えたフィーネによって
見えない膜によって攻撃の威力を殺すという、生存率だけではなく障害を残さないためにも必要な魔法だ。
盗賊のボスは、くつくつと笑い、クラウスさんをアゴで指した。
「そこの戦士に矢避けになってもらわなくていいのか? ひとりで俺たちの剣を受けきるつもりか? 大した自信だ」
「お前らには俺たちだけで十分だからな」
盗賊のボスの構えが堂に入っている。
どこかで剣を習ったのか、我流で磨いてきたのかは分からないが〈剣術〉の能力が高いのだろう。
ボスはあごひげを撫でることなく、嗜虐的な笑みを浮かべた。
「いいねえ。若さ故の――過信ってやつがさ!」
男の踏み込み――来る!
男が咆吼する。
「オオオッ!」
俺の採る選択肢はひとつだけ。
武装もほぼ同じ相手に対して……一刀両断の大技を放つことだ!
脳がスキルをフルに使おうとする感覚。
スキルに、身体に刻まれた技。何千何万回と練習した技が、流れるように放たれていく。
剣が淡い青い光を放ち――その軌道は高速で孤を描く。
「〈スラッシュエッジ〉――!」
キン、と短く高い音が鳴る。
盗賊のボスの振り下ろた剣と、彼の首ごと切り落とした音だった。
俺が一撃で盗賊のボスを倒したことに、バノッサは全身を震わせて剣を取り落とす。
「なっ……! なんでお前が、お前ごときが――!」
「もう逃げ場はないぞ」
「ヒ、ヒイッ、助け――ガッ――!」
バノッサは愛剣を捨てたまま逃げだそうとするが、そうはいかない。
瞬時に俺はやつの首をはねた。
見張りの人がやられている。
おそらく怪我人だって出ている。
俺が気に入らない、外に出たい。
そんな我欲で村を危険にさらした男を生かしておくわけにはいかない。
怒号飛び交う緊迫した戦場が――一瞬にして静けさを取り戻す。
ボスとバノッサの末路を見ていた盗賊たちは、時が凍ったように動きを止める。
盗賊のひとりが信じられないものを見るように俺を見て、わなわなと震えた。
その男がぼそりと呟く。
「親分がやられた……」
「お、親分がやられた!」
「逃げろ! 勝てねえ!」
「雑魚は置いていけ!」
生き残った敵たちが口々にそう叫び、村から逃げ出していく。
俺は勝利の雄叫びを上げる面々に言い含める。
「追撃をかけるな! 深追いはするな! 怪我人は村長の屋敷に連れていってフィーネの魔法と薬での治療を! いいな、追撃はするなよ!」
ここで非常に気が利くのがフィーネだ。
風の魔法で俺の声を増幅させて村全体に届けてくれていた。
それでも初陣を圧倒的な勝利で飾ったため、タガが外れていてはいけない。
ちゃんと集合をかけて人数確認をせねば。
やるべきことはたくさんだ。
けど、今はさすがに疲れた……。
俺はその場にへたり込んでしまい、大きく息をついた。
フィーネが俺になにかあったのかと慌てて駆け寄り、傷がないかをチェックし始める。
クラウスさんは回復魔法によって癒えた傷を一通りさわり、こちらに寄ってぽんと俺の肩を叩いた。
「ありがとう、ハイセ。盗賊団のボスを一蹴するなんて……。ずっとお前は牙を磨いていたもんな。すごいやつだよ、お前は」
クラウスさんはどこか遠い目をしてこちらを褒めた。
どこか寂しさや羨望を感じるのは気のせいだろうか。
その後、燃料をかき集めて襲撃者の遺体を火葬。その後、火葬や怪我人の手当にどれだけの資材がかかったか、誰かが勝手に食べた保存食の損害を計算するべく管理表と格闘。
月が昇り始めたころ、くたくたになって家に帰り着いた。
帰ってきた俺とハイセにはとびきりのごちそうを作って待ってくれていて、父さんと母さんは俺たちを抱いて「よく無事に帰ってきてくれた」と絞るような声で呟いたのだった。
◆
翌日。
久しぶりに俺は寝坊をした。
青年団の団長が寝坊をしていては示しがつかない。
急いで支度をして外に出ると、なにやら通りが騒がしい。
クラウスさんは俺をみかけるなり、こちらの腕を掴んで騒ぎの中心地へと向かっていく。
……村の人だけじゃない。武装をした男たちと、それらに囲まれた、一目で良い生地を使っていると分かる服装の男性。
――貴族だ。
貴族の男の人は、こちらをじっと見つめてこう質問する。
「君があの盗賊団を討伐した青年団のリーダーだね?」