消えた遺体
あの後、どうやってトレセン学園まで戻ってきたのか正直よく覚えていません。
気がついたら私は寮の部屋の前に立っていました。
扉の前で立ち止まる。
足が重い。
中に入れば、きっと――
そんな考えが頭をよぎる。
でも。
そんな奇跡起こるはずありませんでした。
震える手でゆっくりとドアノブを握る。
金属の冷たさが妙にはっきりと伝わってくる。
扉を開ける。
部屋の中は静かでした。
「……あ」
思わず、声が漏れる。
スズカさんの気配はどこにもない。
ただの部屋。
ただの空間。
それだけでした。
私はふらふらと自分のベッドへ歩いていきました。
靴も脱がずそのままベットに入る。
毛布で全身をくるむ。
寒いわけじゃないのに。
体の震えが止まらなかった。
あの騎士。
あの光景。
記憶が何度も蘇る。
「……うっ」
息がうまくできない。
目をつむり耳を塞ぐ。
でも意味なんてなかった。
頭の中でずっと繰り返される。
閉じた瞼の裏にまであの光景が浮かび上がってくる。
どうして。
どうしてこんなことになったんだろう。
何度考えても答えは出ませんでした。
時計の針が静かに時を刻んでいく。
その音が妙に大きく聞こえる。
どれくらいそうしていたのか分からない。
気づけば外は少し暗くなっていました。
夕食の時間。
行かなきゃ。
そう思う。
でも、体が動かない。
行きたくない。
人のいる場所に。
思い出してしまうから。
それでも。
このまま部屋にいても何も変わらない。
そう自分に言い聞かせ、無理やり体を起こした。
ふらつきながら食堂へ向かう。
食堂はあの事件の話で持ちきりでした。
私はトレーを取って適当に料理を乗せる。
席に座る。
でも。
食べられない。
箸を持ったまま動けない。
手が震える。
料理の匂いを嗅いだだけで気持ち悪くなる。
それに喉も料理を受け付けない。
顔を上げる。
逃げるように視線を逸らす。
その時。
食堂のテレビが目に入った。
ニュースが流れていた。
『本日、東京競馬場で発生した大規模な事件について――』
震えが止まる。
体が固まる。
画面に映るのは見覚えのある場所。
さっきまでいた場所。
『現場には自衛隊が出動し、謎の騎士の制圧作戦が行われましたが自衛隊が到着した頃には確認されていた謎の騎士はすでに現場から消えていたとのことです。』
私はその言葉が妙に引っかかりました。
あの騎士が消えた?
いや。
絶対、どこかにいる。
根拠なんてない。
でも本能がそう警鐘を鳴らしていました。
ニュースは続きます。
『また、現場に残されていたはずの多数の遺体はすべて消失していることが確認されています。』
「えっ?」
思わず声が出た。
そんなはずない。
だってあんなに。
あんなにたくさん。
「……なんで……?」
誰に向けたのか分からない言葉が漏れる。
誰かがテレビの音量を上げる。
『現在、警察および自衛隊は原因の究明を急いでいますが――』
私は考える。
なぜ遺体は消えたのか。
そもそもあの騎士は人を殺すことだけが目的だったのか。
それとも私たちには理解できない別の目的があったのだろうか。
もしそうだとしたら。
あれは本当に終わったと言えるのだろうか。
その夜、私は一睡もすることができませんでした。
そんな夜を過ごした翌朝。
私はとある二人の部屋へ向かうことにしました。