初日にバラさんでもええやん…… 作:匿名うゆ
入学初日、ホワイトルームを脱出して外部からの干渉を受けない高度育成高等学校に入学することができたオレは、平穏に平凡な高校生活を過ごすと胸に決め、華々しいとは言えないかもしれないが、それなりのスタートを切るつもりだった。
だった、というのはつまり過去形だ。
察して欲しい。
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バスでの一件でツン系美少女に絡まれ、オレはこんなことで平穏な高校生活を守ることができるのかと幸先が不安になっていた。
指定されていたDクラスの教室に向かいながら、これからのことについて考える。
やはり、実力は隠しておいた方が良いだろうな。
目立つと争い事に巻き込まれる可能性もあがるだろうから、入試で取った点数のようにやはり平凡な生徒を装っておくのが良いだろう。
Dクラスの教室で席に着くと、隣の席に座っていたのはまさかのバスで隣に座っていたツン系美少女だった。
これは、運命というものだろうか?
いやいや、そんなものが実際にあるわけがないだろう。
どうやらオレはホワイトルームを脱出してから浮かれっぱなしのようだ。
「さっきからチラチラとこっちを見てなにかしら、バスの時もそうだったけれど、あなたは一度会った女性を気が済むまで見定めないと気が済まない主義なのかしら?」
ツン系美少女にとんでもない言いがかりをつけられてしまった。
平穏な生活のためになんとか挽回しなくては。
「すまない。見ていたのは事実だ。不快にさせたのなら謝る。まさか同じクラスで席も隣になるとは思わなかったからな」
「そうね。はあ、私はあなたとの再開にため息をつきたい気分だけれど」
「いや、もうついてるじゃないか」
「そう?自覚がなかったわ。ただ呼吸をしただけよ」
「それにしては大きな息だった気がするんだが……まあいいか、オレは綾小路清隆だ」
「急に名乗り出してどうしたのかしら」
「自己紹介くらいはしておいた方が良いだろう……」
「そう?私はそうは思わないけど。……まあいいわ、私は堀北鈴音よ」
『教えてくれるのかよ』という言葉は飲み込んでおいた。
なぜか分からないが尖ったもので刺される予感がしたのだ。
これから始まる薔薇色……違うな。白色……はさすがにあそこを連想してしまうし……まあとりあえず良い感じの生活を最初から怪我で始めたくはない。
高校生活への希望がしつこいようだが、あの部屋に何年もいたんだ。
これくらい望ませてくれ。
どうやら茶柱という先生が担任らしく、Sシステムとやらの説明や学校の仕組みについて説明をしていた。
説明から怪しい匂いがプンプンするな……と考えていると、周りは歓喜の渦に包まれていた。
どうやら10万ポイントというのは学生にとってとても魅力的なものらしい。
一体10万ポイントというのはどれぐらいの価値なのだろうか。
茶柱先生が教室から去ったその後、金髪の爽やかなイケメンが立ち上がって声を上げた。
「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、1日も早くみんなが友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」
自己紹介……失敗してしまうと平穏な生活に支障をきたしてしまいそうだ。
オレにも友達が欲しいという感情はある……いや、少し強がってしまったな。
訂正しよう、オレはとにかく初めての友達が欲しい。
ここが正念場だと思っていいだろう。
平田から始まり、井の頭という気弱そうな女子生徒や、冗談で和ませようとしたのであろう山内という生徒などの自己紹介を聞いていく。
そんな中、オレは必死に内容を考えていた。
やはり趣味は読書が定番か……?
特技と言えるものは……
そんなオレの状況が一変したのはある男子生徒が自己紹介をしているときだった。
「えと……沖谷京介です……」
男にしては可愛らしく、コミュニケーションが苦手で弱気そうな生徒というのが第一印象だった。
「し、趣味は漫画とか……あ、あと、散歩とかするのも好きです……よろしくお願いします」
たどたどしいところはあれど、シンプルで良い自己紹介だな、と単純にそう思った。
沖谷は自己紹介を終えようとした。
しかし、何気なく流した視線が、一番後ろの窓際の席で止まった。
そう、オレの席だ。
「え……?」
沖谷は小さく呟いて目を擦る。
「う、うそ……」
沖谷はその場で立ったまま少しの間固まる。
「お、沖谷くん?大丈夫かな?」
平田が様子のおかしい沖谷を見て声をかける。
沖谷は平田を気にもとめず、オレの方を向いて口を開いた。
「……え……もしかして……き……清隆くん?」
沖谷は驚くことにオレの名前を口に出してきた。
なぜこいつはオレの名前を知っている?
あの男が送り込んだ刺客か?いや、それにしては早すぎる。
「……そうだ。すまないが、オレはお前を知らないんだが、なぜオレの名前を知っているんだ?」
オレの言葉を聞き、沖谷は目を丸くして何かに気づいたような顔をする。
「あっ、そ、そうだよね……!ごめん、同じ四期生でも途中で脱落しちゃった僕のことは知らないよね……」
……は?
「四期生?お前らアイドルオーディションにでも参加してたのかー?」
池がヤジを飛ばし、笑いが起きる。
「あ、ち、違うよそういうのじゃなくて、ホワイトルームって言うのがあってね、そこで清隆くんと一緒だったんだけど、清隆くんって最高傑作って言われてる有名人でね、勉強でも運動でも何をやっても1番だったんだ!」
憧れのヒーローを語る子どものような口調で沖谷は爆弾発言を落とす。
こいつは何を言っている?
ホワイトルームのことを他言したら聞いた者にも危険に巻き込んでしまうのではないか?
だがしかし、ホワイトルーム解体を狙うのなら全体に暴露してしまうのもアリ、か。
いやいや、流石にダメじゃないか?
それ以前にオレの大切な素性がバラされてしまったのだが……
「ホワイトルーム?最高傑作?なんだそりゃ」
教室のほとんどは言っていることが理解できずにぽかんと口を開けている。
「でも、清隆くんが高校に通えるなんて本当に良かったよ……あの頃はずっと1人だったもんね……」
沖谷は涙を浮かべながら笑ってそう言う。
「……」
「あ、あれ……もしかして、い、言っちゃダメなこと言っちゃった……?」
今更気づいた沖谷の顔が一気に青ざめる。
「ご、ごめん!清隆くん!ホワイトルームから出てきて、きっと普通の生活がしたかったと思うのに、僕が余計なこと言っちゃったから……」
教室は静まり返っている。
そんな中、空気に耐えかねた平田が口を開いた。
「えっと……清隆くん、でいいかな?今のは本当のことなのかい?」
オレは選択を迫られる。
認めるか、否定するかだ。
否定をした方が良いのは分かっている。
非現実的なことを急に言われ、それを認めたクラスメイトとは距離ができるだろう。
しかし、沖谷から悪意は全く感じられない。
沖谷の笑った顔が脳裏に浮かんだ。
裏切れない、な。
「まあ、言っていることは概ね事実だな」
「そ、そうなんだね。じゃあ、この流れで自己紹介をお願いできるかな……?」
だいぶハードルが上がっていないか。
オレは席を立ち上がる。
注目を集めるのは慣れないな。
「えー……綾小路清隆です。沖谷くんの言う通り、ホワイトルームという施設出身です。特技は特にありませんが……勉強も運動も人並み以上にはできると思います。……よろしくお願いします」
パラパラとまばらな拍手が起こる。
なかなか良い自己紹介だったと思うんだが……
どうやらそこまで評価は高くなさそうだ。
「で、結局ホワイトルームってのはなんなんだ?」
周りの空気を読んでるのか読んでいないのか分からない山内が質問をしてきた。
「すまないが、あまり詳しくは話せない」
「なんだよー、ケチだな」
「こちらにも事情がある」
その後も全員が終わるまで自己紹介は続いた。
オレの印象を払拭してくれるような強烈な人物の自己紹介を待っていたのだが、期待も虚しく、少々盛り上がりに欠ける自己紹介が続いていくばかりだった。
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入学式を終え、周りはこの後カラオケにみんなで行こうやら、ゲームを買いに行こうやら話しているが、オレは誰からも誘われることはなかった。
どうやら、胡散臭い経歴を持つおかしな奴というレッテルを貼られてしまったのかもしれない。
そうだとしたら少し泣いてしまいそうだ。
仕方がないから興味のあるコンビニへ行こうかと教室の外へと足を進める。
「清隆くん!」
急に後ろから声を掛けられた。
この声は……沖谷だな。
「沖谷か、どうした?」
「えっと……さっきはほんとにごめんね!僕、あそこで清隆くんを見た瞬間に嬉しくて頭が真っ白になっちゃって……」
どうやら自己紹介での出来事を謝罪しに来たようだ。「お前のせいで友達ができなかったらどうするんだ!」などと言って沖谷を泣かせるのも良いが(鬼畜)、自分で認めてしまったものはしょうがないので、フォローしておこう。
「気にしてないといえば嘘になるが、別にいいぞ。遅かれ早かれバレることになるかもしれなかったしな。それなら広まるのは早い方がいいだろう」
オレの発言を聞いた沖谷の顔がぱっと明るくなる。
「そ、そう?それなら良かった。てっきり怒ってるかと思ったよ……」
「全く怒ってないぞ」
「良かったぁ……それでさ、清隆くんさえよかったらなんだけど、これから学校を見て回らない?」
「ああ、いいぞ」
ぼっちの俺にとって願ったり叶ったりの提案だ。
断る理由がない。
「それにしても、この学校はほんとに監視カメラが多いよね、ちょっとホワイトルームを思い出して緊張しちゃうかも……」
校内を歩いていると、気がついたように沖谷がそう言った。
正直、驚いた。
まさか沖谷が監視カメラの存在に気づいているとはな。
「よく気づいたな。確かに、防犯のためにしては多すぎると思っていたところだ。仮にも政府が運営する学校だ。あの場所のように、監視は厳しいのかもしれないな」
「うーん、こればっかりは慣れないとだね」
「だな」
一通り校内を回り、興味があったコンビニに行くと無料商品があることを発見した。
沖谷に聞くと、普通のコンビニに無料商品というものは無いらしい。
随分と甘い学校だと考えることもできるが、これは、何かがあるな。
「っせえな、ちょっと待てよ!今探してんだよ!」
沖谷とアイスのラインナップを見ていると、唐突に荒々しい大きな声が店内に響き渡った。
恐らく同じクラスの須藤というやつだろう。
ここは止めた方が良いか。
「なあ、学生証が無くて困っているのか?」
「あぁ?てめぇは……?自己紹介の時に訳わかんねえこと言ってた奴か?……まあ良いか。学生証がどっか行っちまったみたいでよぉ」
「そうか。良ければここはオレが立て替えてやろうか?」
「……そうだな。ここはお前の世話になっておくとするぜ」
須藤はオレが立て替えたカップラーメンにお湯を入れてコンビニの外へ去っていった。
どこで食べるのだろうか……
「清隆くんはやっぱりすごいね。あの怖そうな須藤って人にも物怖じせずに接せるんだ。僕は何も出来なかったや……」
沖谷はバツが悪そうにそういう。
別にオレが勝手にやった事だから良いんだけどな。
「そうか?あいつも悪いやつじゃなさそうだから、沖谷でも話せると思うぞ?」
「そうなのかな……」
沖谷はどうも気弱なとこがあるみたいだな。
ホワイトルームから脱落した過去が関係しているのだろうか。
観察対象としては、とても面白いな。
続くのかな