初日にバラさんでもええやん…… 作:匿名うゆ
7月1日。
オレは一人で寮から登校していると、後ろから聞き慣れた声が飛んできた。
「よう、綾小路、おはよう!」
振り返ると、須藤がこちらへ駆け寄ってくる。
「ああ、須藤か。おはよう」
「なあ、綾小路、次のテストも勉強会やるんだろ?」
「必要ならな」
次のテストが近づけば、また勉強会を開くことになるだろう。
前回は赤点組を中心に教えていたが、今では須藤たちも以前ほど勉強を嫌がらなくなっている。
特に須藤は、最後の方になると自分から問題を解こうとしていた。
「なら俺、次も最初から参加するわ」
「……そうか」
「なんだよ、その顔」
「いや。少しは成長したんだなと思ってな」
「うるせえ!……もちろん、堀北も参加してくれるよな?」
「そりゃ頼めば参加してくれると思うが、どうしてだ?」
「いやよ、俺、堀北に惚れちまったみてえなんだ……!」
驚いた。
堀北と須藤は相性が悪そうと思っていたが。
思い返してみると、勉強会の最後の方の須藤の態度は惚れている人間に対しての態度だったかもしれないな。
「そうなのか。応援するぞ」
「本当か?もしかすると、お前が堀北と付き合ってんじゃねえのかよって思ったんだけどよ。それなら安心したぜ!」
「そんな事実はない。それで、堀北のどこに惚れたんだ?」
「お、おう、結構聞いてくるんだな。まあ、なんて言うか、最初こそ腹立ったけどよ、俺みたいなダメな人間に丁寧に教えてくれるところとか、あとは見た目だな。……って恥ずかしいこと言わせんなよな」
「そうか」
「いや反応薄くねえか!?それでよ綾小路、堀北の好きなタイプとか知らねえか?」
「さあ、全く知らないな。……いや、少し心当たりがあるかもしれない」
確か、堀北は兄に憧れているんだったよな。
「まじか、教えてくれ!」
「須藤は堀北会長を知っているか?」
「あー、生徒会長だろ?何となく知ってるぜ」
「多分、そいつみたいなやつがタイプだと思う」
「おお、まじか!ありがとうな!綾小路!」
須藤は一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに表情を曇らせる。
「って、俺とは結構逆なタイプじゃねえか……」
「……まあ、頑張れ」
可能性は0ではないだろう。
たぶん。
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登校すると、教室はいつもよりも騒がしかった。
原因は分かる。
今日は月初めだ。
初めてポイントを貰える日がやってきたかもしれないからだろう。
しかし、ポイントは端末には振り込まれていない。
茶柱先生がやって来て、今月のクラスポイントを発表した。
Dクラスは90ポイントだった。
「えー、じゃあなんでポイントが支給されてないんですか?」
9000ポイント貰えるところが0なのだ、池の疑問も最もだろう。
「今回、少しトラブルがあってな。1年生のポイント支給が遅れている。お前たちには悪いがもう少しまってくれ」
生徒たちから不平不満の声が上がる。
トラブル?
何があったのだろうか。
普通に考えるなら機材トラブルなどだが。
しかし、1年生だけ、ということは何かあるな。
「堀北、なんだと思う?」
「さあ、全く見当もつかないわ」
堀北も腕を組み、考え込んでいる。
「だよな」
放課後、須藤が茶柱先生に呼び出されていった。
これはなにか不穏な気配を感じるな。
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「綾小路!助けてくれ!」
夕食を終え部屋でくつろいでいると、血相を変えた須藤が扉から入ってきた。
あれ、オレ戸締りをしていなかったか?
「おい待て須藤。お前、どうやって入ってきたんだ」
オレは思わず立ち上がった。
「あ?合鍵だよ。ここは俺たちのグループの集まる場所だろ?池たちもみんな持ってるぜ」
初耳だった。
どうやら、いつの間にかオレの部屋はグループの集合場所として扱われていたらしい。
おい、嘘だろ。
オレのプライバシーはどこへ行ってしまったんだ。
「……まあいいか。それで、どうしたんだ?茶柱先生に呼び出されていたのと何か関係があるのか?」
須藤の表情からして、ただ事ではないことは分かる。
「それがよお……俺、もしかしたら停学になるかもしれないんだ」
「停学、か。一体何をしたんだ?」
「実は俺、先週Cクラスの連中を殴っちまってよ。それで、さっき停学にするかもって言われてよ……。今、その処分待ちらしいんだ」
予想通り、トラブルには須藤が関与していたらしい。
しかし、須藤も少しは成長の兆しを見せていたのに、こんな事件を起こすだろうか?
「それは事実なのか?」
「いや、俺は悪くねえんだよ、あいつら俺がレギュラーに選ばれそうだからって嫉妬してんだ。そいつらが殴りかかってきたから、俺が返り討ちにしただけなんだ。そしたらあいつらが俺が喧嘩を売ったことにしやがった。虚偽申告ってやつだぜ」
須藤の言っていることは理解できるが、いまいち全貌が理解できない。
「すまない。少し分かりにくいから5W1Hで説明してくれるか?」
「5W1H……ああ、そういえば英語でお前が教えてくれたやつだな」
「そうだ。分かりやすく教えてくれ」
須藤は少し考えてから、順番に話し始めた。
「えっと……いつは先週だな。どこでは特別棟だ。あいつらに呼び出されたんだよ」
「誰が?」
「俺とCクラスの小宮、近藤、あとは石崎ってやつだ」
「何をした?」
「そこで喧嘩を吹っかけられたんだよ。『痛い目みたくなけりゃバスケ部をやめろ』ってな。断ったら殴りかかってきやがったから、やられる前にやったんだ」
「なぜ?」
「あいつらが、俺がレギュラーに選ばれそうなのが我慢ならなかったんだと」
「なるほど、大体理解した」
だが、重要なのはここからだ。
須藤の証言だけでは、事件の真相は分からない。
「その場に監視カメラは?」
「……分からねえ。でも、特別棟だからなかったような気がする」
「そうか」
それなら、なおさら厄介だ。
須藤の言い分を裏付ける物証が存在しない可能性が高い。
「目撃者は?」
「そういえば、人の気配を感じたような……」
「しかし、証人が見つかったとしても最初から見ていないと意味がないしな。お前が殴っているところだけ見られていたら、証人は悪い方向に働くだろう」
「……どうすんだよ」
須藤の顔から、少しずつ余裕が消えていく。
「……なあ、綾小路、俺はどうすればいいんだ?頼む、バスケ部のレギュラーがかかってんだよ」
「……率直に言って、罰を受けないようにするのは難しいだろうな」
「ああ?なんでだ!?俺悪くねえだろ!」
「過程がどうであれ、お前は人を殴ってしまっている。いくら正当防衛でも、校内で揉め事を起こしたら罰を受けるのは当然だ。それに、お前も自分の評判は理解しているだろう」
「まじかよ……確かに、俺の日頃の行いは悪かったけどよ」
「お前が変わり始めているのはオレもわかっているが……手を出したのはまずかったな」
須藤の顔が曇る。
「まあ、方法は3つある」
オレは指を一本立てた。
「1つ目は、このまま大人しく罰を受ける」
二本目。
「2つ目は、目撃者や証言を探して、監視カメラなども含めて状況を整理する。場合によっては、学校側に再調査を求めて、できるだけ処罰を軽くする」
そして三本目。
「3つ目は、オレたちも同じ方法を取る」
「同じ方法ってなんだ?」
「Cクラスの奴らを呼び出して暴力を振るわせるんだ。そうしたら、Cクラスも訴えを取り下げるかもしれない」
須藤は目を丸くした。
「お前、結構怖いこと考えるな……」
「ただの報復だな。証拠も残るかもしれないし、何より話が余計にこじれる。オススメはしない」
「だよな……」
「さて、どれにする?」
須藤は少し考え込む。
「俺的には、2つ目で行きてえ。このまま諦めるのは嫌なんだ。綾小路、頼めるか?」
「友達の頼みだからな、もちろん受けるぞ」
「おお、まじか!恩に着るぜ!綾小路!」
「これからの事なんだが、まずはクラスに謝罪をした方がいいかもな」
「……確かにそうだな。俺のせいでみんなに迷惑かけちまってるもんな」
「目撃者探し等はオレがやる。須藤はとりあえずできるだけ印象が上がるように生活をしていてくれ」
「俺にできることってそれだけか……?」
「ああ、少なくとも今はな。当事者が動いても逆効果だ。更に問題が大きくなる可能性がある」
「分かったぜ、ほんとにすまねえな、綾小路」
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翌朝のホームルーム、茶柱先生から事件の概要が通達された。
Cクラスの生徒三名との間でトラブルが発生したこと。
須藤が相手に暴力を振るったこと。
そして現在、学校側が事実確認と処分について検討していること。
教室の空気が、少しずつ重くなっていく。
何人かの生徒が須藤を見る。
その視線には、驚きや困惑だけではない。
明らかな非難も混じっていた。
刺すような視線が須藤に突き刺さる中、須藤は立ち上がった。
オレ以外の誰しもが、須藤を責める雰囲気に耐えかねて暴言を吐き散らすと思っただろう。
しかし、須藤の行動は違った。
「みんな、すまねえ!オレのせいでみんなに迷惑かけちまった!どうか許してくれ」
須藤の行動は謝罪だった。
続いて、オレも立ち上がる。
「みんな、聞いてくれ。須藤の事件のことだが、須藤はそこまで悪くないんだ。Cクラスは虚偽の申告をしている。須藤の疑いを晴らすために、どうか力を貸してくれないか?具体的には、事件を目撃した人や、事件のことをなにか知っている人を見つけて欲しい。もちろん、実際に目撃した人がいるならオレに教えてくれ。頼む」
しばらくの沈黙。
やがて、一人の女子が口を開いた。
「須藤くんも謝ったし、綾小路くんがそこまで言うなら……」
「だね、協力するよ」
「先輩にも聞いてみるよ」
感触はなかなか良さそうだ。
須藤が先に謝罪したことも大きかったのだろう。
クラス全体が須藤を完全に見放しているわけではないらしい。
「みんなありがとう。少しでも手がかりがあれば教えてくれ」
そう言ってオレは席に戻る。
「驚いたわ。あなたがあの男のためにそこまでするなんてね」
堀北が小声で話しかけてくる。
「そうか?オレは友達思いだぞ?」
「……まあ確かにそうね。とにかく、私も協力するわ。目撃者には心当たりがあるし」
オレは思わず堀北を見る。
「嘘だろ?それは誰なんだ?」
事件が起きたのは監視カメラのない場所。
そんな場所で目撃者に心当たりがあるというのなら、かなり重要な情報だ。
「それは後で伝えるわ」
「今教えてくれてもいいんじゃないか?」
「教室で話す内容ではないでしょう?」
「……それもそうか」
どうやら、オレが思っていた以上に事件の手がかりは早く見つかるかもしれない。
もっとも、その目撃者が、今回の事件をどこまで見ていたのか。
それを確認するまでは、まだ何も決めつけられない。
事件の真相を証明するなら、まずはその人物から話を聞く必要がありそうだ。
解決編どうしよう……
一応考えてはいるけど、書くのが難しいですね。