初日にバラさんでもええやん…… 作:匿名うゆ
茶柱先生から事件の詳細が伝えられた放課後、オレは部屋に事件を解決するためのメンバーを集めていた。
メンバーは、オレ、須藤、堀北、沖谷の4人だ。
ここにはいないが、一応、他クラスに顔の広い櫛田と平田には目撃者の調査を頼んでいる。
「清隆くんがこうやって集めるのって珍しいね……大体分かるけどそれで、話って?」
沖谷が話を切り出す。
普段はオレが誰かを集めること自体、ほとんどない。
だからこそ、今回の事態がそれだけ普通ではないことを、沖谷も理解しているのだろう。
「ああ、今回みんなに集まって貰ったのは他でもない。須藤の事件を解決するためだ。まずは堀北、目撃者に心当たりがあると言っていたが、それは誰だ?」
「同じクラスの佐倉さんよ」
「あ、僕も同じこと思ってた」
「佐倉ぁ?誰だそいつ?」
どうやら沖谷も佐倉という生徒が目撃者だと思っていたらしい。
そして、須藤と同じようにオレも佐倉という生徒がパッと頭に浮かばない。
佐倉……そんな生徒いたか?
ああ、あの胸の大きい生徒か。
……我ながら最低な思い出し方だな。
「とにかくこの事件、目撃者は彼女よ」
「どうしてそう言えるんだ?」
「綾小路くんが目撃者の話をしていた時、彼女だけ目を伏せていたわ。無関係なら、そんな反応するはずが無いもの」
なるほど。
堀北の観察力は目を見張るものがあるな。
普通なら見逃してしまいそうな小さな違和感をしっかりと捉えている。
「なるほどな。じゃあ、佐倉への接触は沖谷、頼めるか?」
「え、僕?」
「そうだ。お前はなにか佐倉と親和性がある気がするんだ。少なくとも、堀北よりは適任だろう」
「あなた、私に対して失礼じゃないかしら?」
堀北の目が細くなる。
「そんなことはない。適材適所というやつだ。」
「とりあえず、できるだけやってみるね!」
「ああ、よろしく頼む。堀北は今からオレと調査に行くぞ」
「調査?」
「ああ、特別棟の様子を調査することは必須だろう。ないとは思うが、監視カメラでもあれば一発で決まるしな」
「ええ、確かにそうね」
「じゃ、行くとするか」
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「……にしても、ここは暑いな」
「そうね。私でもさすがにこの暑さは堪えるわ」
オレたちは特別棟で調査をしていた。
まだ夕方だというのに、校舎内には人の気配がほとんどない。
窓から差し込む日差しのせいか、廊下には熱気がこもっていた。
オレたちは事件が起きたとされる場所を一通り確認していく。
床、壁、周囲の教室。
何か争った痕跡が残っていないか。
しかし、目立ったものは何も見つからない。
「残念ながら、監視カメラは無さそうだな」
「……そうね。ここで問題を起こしたということは、須藤くんの事件は狙って起こされた、ということかしら」
「やはり、その可能性が高そうだな」
監視カメラがない。
人通りも少ない。
須藤を呼び出して揉め事を起こす場所としては、あまりにも都合が良すぎる。
そんなことを話していると。
「あら、綾小路くん。こんなところで何をしているんですか?」
振り返ると、銀髪のベレー帽を被った美少女──坂柳がそこにはいた。
その傍らには神室が控えている。
「坂柳か。お前こそ何をしてるんだ。オレたちは例の事件の調査だが」
「綾小路くん、坂柳さんと知り合いなの?それと、情報をすぐに話すのはやめてもらえるかしら」
堀北が呆れたように言う。
「ああ、すまない。坂柳とは友達だな。たまにチェスをする仲なんだ」
「おや、私のことをご存知なのですね」
「ええ、風の噂でね。Aクラスのとても優秀な生徒だと聞いているわ。綾小路くんに他クラスに友達と呼べる存在がいるなんて……信じ難いわ。坂柳さん、それは事実なのかしら?」
「ええ、本当のことですよ?ね、綾小路くん」
「そうだぞ。なんだ堀北、嫉妬か?」
堀北の眼光が鋭くなる。
良かった、今はコンパスを持っていないみたいだ。
「で、結局お前は何をしているんだ?」
「私もあなた達と同じ理由ですよ?事件の詳細が気になったものですから」
「そうなのか。それで、お前はどちらの味方なんだ?」
「もちろん、友達の綾小路くんがいるDクラスです。と言いたいところですが、今回は静観します。CクラスとDクラスの実力も測りたいですしね」
「なるほどな。できれば手伝って欲しかったんだが……」
「手伝うと言っても、私たちAクラスにできることはほとんどないでしょう。それとも、証人でも欲しいですか?」
坂柳は悪魔の笑みを浮かべながらそう言う。
堂々と虚偽の申告の提案をしてくる坂柳、やはり恐ろしい。
「……いや、やめておく」
「ふふっ。賢明な判断です」
悪い手ではない。
むしろ、今回の状況ならかなり有効な手段になる可能性すらある。
だが、それをやってしまえばこちらもCクラスと同じだ。
少なくとも、オレはその方法を取りたくなかった
「ねえ君たち、そこで何してるの?」
唐突にオレたちに声をかけたのは、薄ピンクの髪の美少女……確か、一之瀬だったか。
「あら、一之瀬さん」
「あれ、坂柳さんもいるの?」
「ええ、そうですよ。一之瀬さんも事件の調査に来たのですか?」
「いやー、まあね。そっちの2人はえっと……Dクラスの人かな?」
「ああそうだ。オレが綾小路で、こっちが堀北だ」
「綾小路くん、勝手に人の名前を名乗るのはやめてくれかしら」
「にゃはは、2人は仲がいいんだね。私は一之瀬帆波。よろしくね」
「一之瀬さん。今すぐこの男と仲が良いと言った事を訂正してくれるかしら」
「いや、オレは仲が良いと思ってるぞ?」
「そ、そうなの?ま、まあ一旦許してあげるわ」
「ふふっ。妬けてしまいますね」
「そ、そうだねぇ」
「コホン、それで、一之瀬さんも事件の調査に来たのね?」
「うん、そうだよ。ちょっと気になってね。良かったら、事件の詳細を教えてくれない?」
「ええ、いいわよ」
堀北は事件の詳細を語りだした。
「えぇ……そんなことがあったんだね。良かったら、私たちBクラスも協力しようか?」
「それは魅力的な提案だけれど……あなた達に何の利があるのかしら?」
「利がどうとか関係ないよ。こういう事件はいつ誰に起こるか分からないよね。嘘をついた方が勝っちゃったら大問題だし、そんな話を聞いちゃった以上、個人的にも見過ごせないな」
「これが理由だけど、どうかな?」
「なるほど、あなたはとても良い人なのね」
「そ、そんなことないよ」
「いえ、私がそう思ったからにはそうなのよ。一之瀬さん。協力をお願いするわ」
「うん、よろしくね」
Bクラスという大きな味方をつけることができた。
監視カメラがなかった時点で収穫は0かと思ったが、Bクラスを仲間に引き入れることができたならお釣りがくるレベルだろう。
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次の日の放課後、沖谷が佐倉と話しているのを横目にサッカー部の練習へと向かう。
沖谷は佐倉から情報を聞き出すことができるだろうか……
サッカー部の練習を終え、端末を確認すると、沖谷からメールが届いていた。
『佐倉さんが目撃者だったよ!』
おお、本当か。
正直、最初に名乗り出なかった時点で認めてもらうには時間を要するものだと思っていたが、沖谷は会話の能力も高いらしい。
『それは本当か。証言はしてくれそうなのか?』
とメールを送る。
すると、すぐに返信が返ってきた。
『それはまだわかんない(´・ω・`)佐倉さんって人の前に喋るのとかが苦手そうだから。僕、頑張って説得するね。佐倉さんとは仲良くなれそうだし!後、カメラに証拠の写真も入ってるらしいよ!』
なんと、証拠の写真まであるらしい。
これは大きな一歩になりそうだぞ。
しかし、この顔文字はなんなんだ。
『助かる(*´︶`*)』
オレも真似をしてみることにした。
これ、結構面白いな。
『笑笑笑。清隆くんも顔文字とか使うんだね』
笑われてしまったようだ。
何故だ。
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翌週、校舎の階段の踊り場に情報提供者を求める張り紙があることに気がついた。
オレたちはこんなことをしていないし、もしかして、Bクラスがやってくれたのか?
「おはよう、綾小路くん」
「ああ、一之瀬か。今ちょうど張り紙を見ていたんだが、これは一之瀬が?」
「ううん、これはうちのクラスの神崎くんがやってくれたんだ」
「神崎?」
「うん。私たちも事件のことを聞いて、何かできないかなって話してたんだけど……神崎くんが『まずは情報を集めるべきだ』って言ってね」
一之瀬は張り紙を見上げながら、少しだけ誇らしそうに笑う。
「それで、学校中に協力を呼びかけることにしたんだ」
「なるほどな……」
張り紙には、事件の詳細を必要以上に書くことなく、特別棟付近で何かを見た生徒がいれば情報を提供してほしい、という旨だけが簡潔に記されている。
これなら、事件を知らない生徒からも情報を集められる。
「あ、いたいた。おはよう、神崎くん」
そう言って一之瀬が呼び止めた生徒は、真面目そうなイケメンの生徒だった。
こいつが神崎か。
「神崎か。俺はDクラスの綾小路だ。Dクラスのために協力してくれて感謝する」
「綾小路か。よろしく」
神崎から有益な情報が集まったかどうかを聞くが、使い物になりそうな情報はなかったらしい。
「じゃあこっちは例の掲示板を見てみるね」
「掲示板?」
「綾小路くんは知らない?学校のホームページに掲示板があるんだ。そこで情報提供を呼びかけたんだ」
「そうなのか。何から何まで助かるな」
そして、一之瀬から石崎という生徒が中学時代相当な悪で喧嘩の腕も立つ人物だったという情報を貰うことができた。
これは有益な情報だな。
「それにしても、ポイントは大丈夫なのか?」
「ううん、気にしないで、これは私たちが勝手にやってることだから」
「悪いな。必ずこの礼は返す」
「そこまでしなくてもいいんだけどなあ……」
「オレの気持ちの問題だ」
「それなら、何かあった時よろしくね?」
「ああ、よろしく頼む」
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教室に着くと、沖谷が話しかけてきた。
「清隆くん。佐倉さんが証言してくれるって!」
「そうか。ナイスだ沖谷。佐倉はそういうの苦手そうだが、どうやって説得したんだ?」
「それがね、説得したっていうより、仲良くなったり相談を受けたりしてたんだけど……佐倉さん自身が決心してくれたんだ」
「決心?」
「うん。最初はやっぱり、人前で話すのが怖いって言ってたんだけどね」
沖谷は少しだけ表情を曇らせる。
「でも、須藤くんが悪者にされているのを見て、このまま黙ってるのは違うと思ったみたい」
「……そうか」
佐倉らしい、と言えばいいのだろうか。
積極的に前へ出るタイプではない。
それでも、自分が見たものを伝える必要があると判断したのだろう。
「それで、何を見たんだ?」
「事件の現場を見てたっていうのは前に話した通りなんだけど……須藤くんが喧嘩を売られたところから見てたらしいよ」
「最初からか」
「うん。ただ、全部を近くで見ていたわけじゃないみたい。少し離れたところから見てたんだって」
「それでも十分だ。重要なのは、須藤が先に喧嘩を仕掛けたのか、それとも相手から仕掛けられたのかだからな」
「そうだね。それと……写真も見せてもらったよ」
「写真?ああ、証拠の写真か」
「うん。佐倉さん、事件の時の写真を撮ってたみたいでね、それは証拠として使えると思うよ」
これは大きな証拠になりそうだな。
Dクラスからの証言というところがネックだが、これで良いところまで持って行けるだろう。
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