初日にバラさんでもええやん……   作:匿名うゆ

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今回長め


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そして、運命の裁判の日が訪れた。

 

オレは何よりもまず、佐倉が登校しているかどうかを確認したかった。

昨日までの様子を見る限り、彼女が証言することへの不安はかなり大きい。

もし今日、恐怖に負けて学校を休んでしまえば、こちらの切り札の一つが消える。

 

教室に入ると、そんな心配は杞憂だったことが分かった。

 

教室に入ると、佐倉は沖谷と話していた。

 

「うう……本当に大丈夫かなあ」

 

「大丈夫だよ、リラックスリラックス。審議は放課後だし、落ち着かないと身が持たないよ」

 

沖谷は普段と変わらない穏やかな表情で、佐倉を励ましている。

 

「う、うん」

 

「佐倉さん、忘れないでね。誰かのためじゃない。自分の為に証言するんだって。そこまで責任を感じる必要はないよ」

 

「……うん。頑張る」

 

「おはよう。沖谷、佐倉。佐倉は大丈夫そうか?」

 

「あ、うん。なんとか平気だよ。こんな私でも、休んだら大変だと思って」

 

「あ、また佐倉さんが自分を卑下してる。前も言ったよね?自分に自信を持っていいんだよって」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「別に謝ることじゃないけどね……僕は佐倉さんの良いとこも知ってるしさ」

 

「……ありがとう、沖谷くん」

 

「いやいや、なんてことないよ」

 

いつの間にか、二人の距離はかなり縮まっていたようだ。

 

事件の証人として佐倉を説得するだけなら、ここまで関係を築く必要はなかった。

 

だが、結果的にそれが今日のためにもなっている。

 

佐倉が今日登校できているのは、沖谷の存在が大きいのだろう。

 

 

─────────‪──────────────

 

 

放課後を告げるチャイムが鳴ると同時に、オレと沖谷は席を立った。

 

須藤も少し遅れて席を立つ。

 

「行くぞ」

 

「……ああ」

 

須藤の表情は硬い。

無理もないだろう。

今日の審議で、自分の今後が決まるのだから。

 

「須藤」

 

「ん?」

 

「大丈夫だ。そこまで重い処罰にはならないだろう」

 

「……お前がそう言うなら、少し安心するぜ」

 

「ただし、余計なことは言うな。聞かれたことにだけ答えろ」

 

「分かってるって」

 

そう言って須藤は拳を握り直した。

 

「俺だって、もう前みたいに感情任せにはならねえよ」

 

「それなら問題ない」

 

審議が行われるのは、校舎内にある生徒会室だった。

 

扉の前まで来ると、須藤が足を止める。

 

「……なあ、綾小路」

 

「なんだ?」

 

「本当に、勝てるんだよな?」

 

「勝つというより、事実を明らかにするだけだ」

 

「それが一番難しそうなんだけどよ……」

 

沖谷が須藤の肩を軽く叩く。

 

「大丈夫。僕たちが集めた証拠はちゃんとあるよ」

 

「沖谷……」

 

「それに佐倉さんも来てくれる」

 

「……ああ」

 

須藤は小さく頷いた。

 

「行こうぜ」

 

扉が開かれる。

 

中には茶柱先生をはじめとした学校側の人間。

 

そして向かい側には、Cクラスの生徒たちが座っていた。

 

驚いたのは、生徒会長である堀北学と生徒副会長である南雲雅が両名とも参加していることだった。

 

「ではこれより、先日に起こった暴力事件について、生徒会及び事件の関係者、担任の先生を交え審議を執り行いたいと思います。進行は、生徒会書記、橘が務めます」

 

ショートカットの女性、橘がそう言い、軽く会釈した。

 

「まさかこの規模の揉め事に生徒会長、副会長が揃って足を運ぶとは。珍しいこともあるものだな」

 

「茶柱先生、そんなことはどうだっていいだろう?校内での揉め事に生徒会である俺たちが参加しない道理はないぜ」

 

「ああ、そうだな。南雲はまだしも、原則私は立ち会うことを理想とし、生徒会の任を任されておりますので」

 

茶柱先生の問いに堀北学と南雲先輩はそう返す。

 

「なるほどな。あくまでも偶然、ということか」

 

茶柱先生は肩をすくめる。

 

橘書記は事件の概要を双方に説明していく、これは今更説明するまでもないだろう。

 

「小宮くんたちバスケット部二名は、須藤くんに呼び出され、特別棟に行った。そこで一方的に喧嘩をふっかけられ、殴られたと主張していますが、それは本当ですか?」

 

「はい、本当です」

 

「では、須藤くんにお聞きします。事実を教えて頂けますか?」

 

「えっと、そいつらの言っている事は嘘です。俺はあの日、部活の練習を終えた後小宮と近藤に特別棟に呼び出されました」

 

須藤にはできるだけ丁寧に喋るように言ったが、まあ及第点と言ったところか。

 

「それが嘘です。僕たちが須藤くんに呼び出されて特別棟に行ったんです」

 

須藤は拳を握りしめて震わせている。

キレていないのは偉すぎるぞ。

以前の須藤なら怒鳴り散らして反論していただろう。

 

「双方ともに呼び出されたと主張しており、食い違っています。ですが、須藤くんと小宮くん、近藤くんとの間には揉め事があったんですね?」

 

「……はい、そうです」

 

ここで、オレはすっと手を挙げる。

 

「小宮くんと近藤くんに質問、よろしいでしょうか」

 

「はい、綾小路くん、どうぞ」

 

「呼び出されたのは小宮くんと近藤くんですよね?」

 

「……はい、それがどうかしましたか?」

 

「なぜ、石崎くんまでその場にいたんですか?」

 

「えぇと……それは、用心のためです。須藤くんが暴力的だと言うのは、噂で聞いたことがありましたから」

 

「では、須藤から呼び出された後、石崎くんを呼び出した、ということですか?」

 

「はい、そうです。」

 

「呼び出したのはメールやチャットですか?」

 

「ええ、はい、そうです」

 

「では、履歴が残っているはずではないですか?」

 

オレの予想だと、履歴など何もないだろう。

 

「あ、えぇと……」

 

「その日の放課後の履歴なら証拠になると思うので、端末を見せて貰えますか?」

 

「あ!そうだ!履歴は消したんです。喧嘩の記録など残したくありませんから」

 

苦しい言い訳だな。

 

「そうですか。では、みなさんにこの映像を見ていただきたい」

 

オレは事前に購入した、特別棟の入口に近い監視カメラの映像の入ったSDカードを取り出した。

 

それをPCに入れ、プロジェクターで映し出す。

 

「これは事件当日の映像です」

 

オレは動画を再生する。

石崎が特別棟に入り、その後、小宮、近藤、須藤が特別棟に入る動画だ。

 

「ほう?」

 

「石崎くんは、小宮くんと近藤くん、須藤くんが特別棟に入るおよそ10分前に特別棟に入っている。部活の練習が終わった後、メールやチャットで呼び出されたのなら後から合流するはずでは?これではどう考えても事前に起こることを知っており、待ち構えているように思えるのですが」

 

「……そ、それは」

 

石崎の顔から血の気が引いていく。

 

「生徒会長、どう思われますか?」

 

「ふむ。確かにこれは正確性の高い情報だな。Cクラスの情報が嘘である可能性が高いだろう」

 

「では次に、証人に入室してもらいます」

 

「しょ、証人!?」

 

Cクラスの連中が明らかに動揺する。

その反応を見れば、証人の存在を知らなかったことは明らかだった。

 

「では、Dクラスから報告のあった目撃者を入室させてください」

 

「1年Dクラス、佐倉愛里さんです。」

 

「目撃者がいると言うので何かと思いましたが、Dクラスの生徒ですか」

 

Cクラスの担任の坂上先生はそう言うが、額には冷や汗が流れている。

 

「何か問題でもあるでしょうか?」

 

「いえいえ、どうぞ進めてください」

 

「では、証言をお願いしてもよろしいでしょうか。佐倉さん」

 

「は、はい……あの、私は……」

 

言葉が止まる。

場は静寂に包まれる。

時が経つにつれ、佐倉の顔は青ざめていく。

 

その時、近くの席にいた沖谷が佐倉の手を取った。

 

「佐倉さん。落ち着いて。僕がついてるよ」

 

佐倉はハッと顔を上げた。

そのまま、言葉を紡いでいく。

 

「わ、私は確かに見ました。最初にCクラスの生徒が須藤くんに殴りかかったんです。間違いありません!……これが、その日私がそこにいた証拠です」

 

佐倉は石崎に殴り掛かる須藤の写った写真を提出する。

しかし、そこには意図していないものも映り込んでいた。

それは、眼鏡を外し、今の佐倉とは似ても似つかない愛くるしい表情を浮かべる佐倉だった。

 

中々オレに証拠の写真を見せてくれなかったのはそういうことだったのか……

沖谷が大丈夫だと保証してくれていたから信用はしていだが。

 

「なるほどな。確かにこの写真はその場にいたとという証拠になるだろう」

 

「私からもう一度発言させてもらいます、よろしいでしょうか?」

 

「許可する」

 

俺は立ち上がる。

 

「Cクラスは呼び出されたという虚言に加え、こちらには証人もいます。仕組まれた事件、とまでは言いませんが、Cクラス側の証言には不自然な点が多すぎる」

 

室内を見渡し、淡々と告げる。

 

「そのため、須藤が1週間の停学。Cクラスの三人が2週間の停学が妥当だと私は考えます」

 

「なっ!」

 

「ふむ。確かに、それが妥当な落としどころかもしれんな」

 

「そんな!横暴です!僕たちは須藤に怪我をさせられたんですよ?」

 

「ハッ。お前らにある証拠はそれだけか?じゃ、決まりだな」

 

南雲副会長はそう言って笑う。

 

 

「ああ、決まりだ。1年Dクラス須藤は1週間の停学、1年Cクラス小宮、近藤、石崎の3人は2週間の停学とする」

 

堀北学の言葉が、生徒会室に響いた。

 

Cクラスの三人は、まるで予想していなかった判決を聞かされたように顔を強張らせている。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

最初に声を上げたのは小宮だった。

 

「俺たちは須藤に殴られたんですよ!? なのに、なんで俺たちの方が重い処分なんですか!」

 

「理由は簡単だ」

 

堀北学は淡々と答える。

 

「須藤が暴力を振るった事実そのものは否定されていない。だから須藤にも処分を下す。しかし、お前たちは須藤から呼び出されたと証言した。その証言に疑義が生じた以上、虚偽の申告によって学校側の判断を誤らせようとした行為も考慮する必要がある」

 

「でも、あの映像だけじゃ……!」

 

「十分だ」

 

短い言葉だった。

 

「石崎が二人より先に特別棟へ向かっていた。その事実を、お前たちは説明できていない」

 

「……」

 

小宮が言葉を詰まらせる。

近藤も俯いたまま何も言わない。

そして石崎は、明らかに動揺していた。

 

オレはその様子を黙って観察する。

 

ここまで来れば、もう覆すのは難しいだろう。

 

「それに」

 

堀北学は続ける。

 

「証言だけなら双方の主張が食い違っているだけだった。だが、今回は映像と根拠のある証人という客観的な証拠がある。少なくとも、須藤が一方的に事件を起こしたという結論にはならない」

 

「……はい」

 

茶柱先生が小さく頷いた。

 

「妥当な判断だろう」

 

「これで今回の審議を終了する。当該の4名は、手続きをしに職員室へ向かうように」

 

その言葉を聞いて、須藤がゆっくりと息を吐いた。

 

「……終わったのか?」

 

「ああ」

 

「そっか……」

 

須藤は力が抜けたように椅子へ背を預ける。

 

「1週間の停学、か……」

 

悔しそうではある。

 

だが、それ以上に安堵しているようにも見えた。

 

「須藤」

 

オレが声をかける。

 

「なんだ?」

 

「これで終わりだ。少なくとも、退学や長期の停学になるような結果は避けられた」

 

「ああ……お前らのおかげだ」

 

須藤は沖谷、そして佐倉へ順番に視線を向ける。

 

最後にオレを見て、頭を下げた。

 

「本当に、ありがとな」

 

「礼はいい。それより、これからは二度と同じことを起こさないことだ」

 

「分かってる」

 

須藤は拳を握る。

 

「……もう、感情に任せて手を出したりしねぇ」

 

その言葉に、茶柱先生が僅かに目を細めた。

 

「ならば今回の件を無駄にするな。停学期間中、よく考えておけ」

 

「はい」

 

須藤が素直に返事をする。

 

そして、審議が終わりに近づいたところで、オレはふと坂上先生へ視線を向けた。

 

先ほどまで余裕を見せていた表情は、今では完全に消えている。

 

Cクラスにとっては、単なる敗北ではない。

 

自分たちが用意した筋書きを、Dクラスにひっくり返されたのだ。

 

「……清隆くん」

 

隣にいた沖谷が小さく呟く。

 

「何だ?」

 

「さすがだね。清隆くんのおかげで、須藤くんの処罰を軽くすることができたよ」

 

「そうかもしれないな。だが、お前が佐倉に寄り添ってくれたおかげでもあるぞ。少なくとも、オレだけの働きではない」

 

「ふふっ、そうかな。ありがとね。清隆くん」

 

これで、須藤の暴力事件は解決した。

 

だが、オレには一つだけ気になることがあった。

 

今回、Cクラスは明らかに須藤を嵌めようとしていた。

 

今回の裏にいるのは誰なのか。

 

そんな疑問が、頭の片隅に残っていた。

 

 

─────────‪──────────────

 

 

今日は審議があって疲れたから休もうと思ったのだが、沖谷がどうしてもというのでサッカー部の練習に参加することにした。

 

ひたすら練習をし、休憩に入った。

 

「ふー、疲れたね。清隆くん」

 

「そうか?オレはまだまだいけるぞ」

 

「清隆くん、もしかして体力上がった?」

 

「ホワイトルームではここまで続けて走ることはなかったからな。もしかしたら、上がっているかもしれない」

 

「だよね」

 

沖谷は笑いながら水分を取る。

 

その時、沖谷の端末が震えた。

 

「……ん?」

 

何気なく端末を確認した沖谷の表情が、一瞬で変わった。

 

さっきまでの笑顔が消える。

画面を見つめたまま、数秒固まった。

 

「……!」

 

そして突然、立ち上がった。

 

「清隆くん、僕行かなきゃ!」

 

そう言って走り去って行ってしまった。

 

沖谷が走り去った方向を見ながら、オレは立ち上がる。

 

「……何があった?」

 

あれほど慌てた沖谷を見るのは初めてだった。

 

普段の沖谷なら、多少のトラブルがあっても一度状況を確認してから動く。

それなのに今は、考えるより先に身体が動いていた。

 

何か緊急事態が起きたと考えるべきだろう。

 

「先輩、すみません。オレも少し行ってきます」

 

「あ、ああ。分かった」

 

オレも沖谷の後を追った。

 

 

─────────‪──────────────

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

僕は必死に走っていた。

 

端末に届いた佐倉さんからのメッセージ。

 

『たすけて』

 

たった一言。

それだけだった。

何が起こったのかは大体予測できる。

だからこそ、急ぐしかなかった。

端末の位置情報機能を使って佐倉さんの居場所を特定する。

 

そして─────

 

「……いた!」

 

路地裏に佐倉の姿が見えた。

その腕は、どこか見覚えのある男に掴まれている。

……あの電気屋の店員だ。

 

「おい!佐倉さんから手を離せ!」

 

「ああ?君も僕と雫ちゃんの愛を邪魔するの?」

 

これ以上は佐倉さんが危ない。

一気に間合いを詰めた。

 

「……っ!」

 

男が腕を振る。

 

それを最小限の動きでかわすと、相手の腕を掴む。

 

「ぐっ……!」

 

そして、男の体勢を崩し、そのまま地面へ押さえ込む。

 

 

***

 

 

オレは駆けつけ、その様子を見ていた。

 

「おい沖谷!大丈夫か!?」

 

「うん、僕は大丈夫だから、早く警備員さん呼んで!」

 

オレは端末を取り出して教師に連絡し、警備員を呼ぶ。

端末を操作しながら、もう一度沖谷たちへ視線を向ける。

 

沖谷は男を地面に押さえつけたまま、微動だにしていなかった。

 

「離せ!僕は雫ちゃんを愛しているだけだ!」

 

「愛してるなら、嫌がってる相手に無理やり近づいたりしないよ」

 

「お前には関係ないだろ!」

 

「関係あるよ。佐倉さんは僕の友達だから」

 

男が力任せに身体を起こそうとする。

 

しかし、沖谷はそれを許さない。

 

「っ……!」

 

「動かないで。下手に暴れたら怪我するよ」

 

「この……!」

 

「佐倉さんにこれ以上近づかないで」

 

その言葉には、普段の沖谷からは想像できないほどの怒気が含まれていた。

 

佐倉は少し離れた場所で、身体を震わせている。

 

「佐倉、大丈夫か?」

 

「……う、うん」

 

「怪我は?」

 

「大丈夫。でも……怖かった」

 

「そうか。もう大丈夫だ」

 

しばらくすると、遠くから大人たちの声が聞こえてきた。

やがて教員と警備員たちが路地裏へ入ってくる。

 

沖谷は力の抜けた男を解放し、警備員に引き渡す。

男は警備員に連行されていった。

 

「……沖谷くん」

 

佐倉が口を開く。

 

「ん?」

 

「本当にありがとう……」

 

「いいって。友達なんだから」

 

「でも……」

 

「じゃあ、これからも何かあったらちゃんと連絡して。それでいいよ」

 

「……うん」

 

佐倉は小さく笑った。

 

その表情を見て、沖谷もようやく安心したように笑う。

 

オレはそんな二人を少し離れた場所から眺めていた。




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