初日にバラさんでもええやん…… 作:匿名うゆ
須藤の事件に加え、佐倉の件も無事に解決した。
入学してからまだそれほど時間が経っていないというのに、変な先輩に絡まれたり、クラス同士の揉め事に関わったり、挙げ句の果てには警察沙汰まで経験してしまった。
平穏な高校生活を望んでいたはずなのだが、どうにも思い通りにはいかないらしい
普通の高校生なら、もう少し平穏な生活を送っているのではないだろうか。
……まあ、オレも普通の高校生がどんな生活をしているのか知らないのでアレだが。
そんな騒がしい日々も一段落し、夏休みに入った。
そんな夏休みに入ってすぐのある日。
『清隆くん、明日暇?』
端末に沖谷からメッセージが届いた。
その答えはYESだ。
めちゃくちゃ暇である。
『暇だ』
そう返信すると、ほとんど間を置かずに返事が来る。
『じゃあ遊びに行こうよ!』
「……急だな」
しかし、夏休みに入ったとはいえ、特別やりたいことがあるわけでもない。
暇を持て余しているところに遊びの誘いが来たのだから、断る理由を探す方が難しかった。
少し考えた後、
『分かった』
と返した。
すると、
『やった!(*^^*)平田くんも誘ってるから、3人で行こう!』
と返ってきた。
平田も一緒なのか。
サッカー部では普段から顔を合わせているが、部活以外で3人で出掛けるというのは初めてだった。
こうして、オレはケヤキモールに行くことになった。
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夏の朝らしく、日差しは強い。
待ち合わせ場所には同じように誰かを待ってい生徒や、買い物に向かう学生の姿がちらほらと見える。
待ち合わせ時刻の少し前に来たつもりだったのだが、それでも二人は既に到着していた。
こういうところだけ見ると、二人とも意外と真面目である。
「おはよう、綾小路くん」
「おはよう、平田」
「清隆くん、おはよう!」
沖谷がこちらに向かって大きく手を振っている。
朝から元気だな。
手を振るという行為にここまで大きな動作をするのは無駄だと思うが……
「早いな」
「僕、楽しみで昨日寝られなかったよ!」
「遠足前の小学生か?オレたちはもう高校生だぞ」
「酷くない!?」
沖谷が頬を膨らませる。
冗談を言ったつもりだったのだが、本気で不満そうだ。
しかし、頬を膨らませている沖谷……中々可愛いと思ってしまった。
その様子を見て平田が笑う。
「でも、僕も結構楽しみにしてたよ」
「平田もか?」
「うん。最近は部活や勉強会にあの件で忙しかったからね」
平田の言う「あの件」が何を指しているのかは、わざわざ確認する必要もなかった。
平田は人脈の広さを活かして須藤の件では他クラスや他学年に目撃者がいないか探すなどしてくれたからな。たしかに忙しかっただろう。
「じゃあ、まずどこに行くんだ?」
オレが尋ねると、沖谷がなんて事ないように言う。
「全く決めてないよ」
「……」
「いや、そんな顔しないでよ!」
「お前、昨日誘った時点で何か考えていたんじゃないのか?」
「考えてたよ?」
「何をだ?」
「ケヤキモールに行くこと」
「……それだけか」
「うん!」
平田が苦笑する。
「まあまあ、いいじゃないか。行き当たりばったりも楽しいと思うよ」
「平田は優しいな」
「いや、僕も特に予定を決めてなかっただけだけどね」
「……」
どうやら今日は、オレが一番まともな計画性を持っているらしい。
もっとも、オレ自身もケヤキモールで何をするかなど考えていないがな。
……あれ、オレも同じレベルじゃね?
「じゃあ、とりあえず中に入ろう!」
沖谷を先頭に、オレたちはケヤキモールへ入っていった。
夏休みということもあり、モール内はかなりの人で賑わっていた。
学生はもちろん、家族連れや買い物袋を抱えた人たちが行き交っている。
普段、学校と寮を往復しているだけではあまり見ることのない光景だった。
「まずはご飯だね」
入って数分もしないうちに、沖谷がフードコートを指差した。
「朝飯は食べてきたんだけどな」
「もうお昼近いからいいじゃん」
「確かにそうだね」
三人で店を眺める。
色々な店があってこれは迷いそうだ……
「二人は何食べる?」
「僕はこれにしようかな」
平田がメニューを指差す。
「じゃあ僕は……これ!」
沖谷が選んだのは、かなり量の多いセットだった。
「多くないか?」
「サッカー部だよ? これくらい余裕!」
「昨日も同じようなこと言って走り込みをして、練習後に動けなくなってなかった?」
「平田くん、それは言わない約束だよ!」
「ははっ。事実だからね」
平田は意外と容赦がないな。
二人の会話を聞きながら、オレも注文を決める。
店の前で悩んでいると沖谷に問いかけられた。
「そういえば、清隆くんって好きな食べ物とかあるの?」
好きな食べ物……
ああ、あれがあるじゃないか。
「そうだな。強いて言うならヨーグルトか」
「うーん、ヨーグルトのお店はさすがにないね」
ヨーグルト専門店は無いのか……
あったら手持ちのポイントを総動員していたところだったのだが。
「嫌いな食べ物はあるの?」
「特にはないな」
「じゃあ、ラーメンとかオススメだよ」
「ラーメンか。あまり食べたことがないな」
「僕も入学する前はあんまり食べたこと無かったんだけど、食べてみたら美味しいよ!」
「そうなのか。じゃあ、それにしよう」
注文を済ませ、三人で席を探す。
ようやく空いている席を見つけると、そこへ腰を下ろした。
「いただきます」
3人で食事を始める。
普段なら教室や部活で交わす程度の会話も、今日は時間を気にする必要がない。
自然と話題は広がっていった。
「清隆くんってさ、こうやって遊ぶことってあるの?」
「失礼だな。それぐらい……あるぞ」
「無さそうな間じゃなかった?」
「いや、そんなことはない。そうだ。前に2回ほど佐藤と遊びに行ったな」
沖谷と平田が同時にこちらを見る。
「なんだ?」
「え、もしかしてそれってデート?」
デート……
定義としては特別な好意や目的を持って二人きりで過ごす時間のことだな。
オレに恋愛感情はまだ分からないが、デートということになるのか?
「……そうかもしれない」
「そうなんだー!清隆くんもやるじゃん」
「そうだね。少し意外だったよ」
「意外なのか……沖谷こそ、佐倉とはどうなんだ?最近かなり仲が良さそうに見えるが」
オレだけ聞かれるのは不公平だろう。意趣返しとして沖谷にも聞いてみることにした。
最近、佐倉と沖谷の距離感が近いような気がしていたからな。
「え、えぇ!佐倉さんとは何もないよ。ただの友達!」
「ははっ。まだそういう時期なんだね」
「もー、やめてよ……じゃ、じゃあ、清隆くんは友達と遊んだりはあるの?」
強引に話を変えてきたな。
……まあ良いか。
「部活終わりにお前達と遊ぶことはあったが……こういう風に集まるのは今までほとんどなかったな」
「そうなの?」
「ああ」
「じゃあ、今日が初めてに近いってこと?」
「そうなるな」
沖谷は一瞬黙った。
そして、ニヤッと笑う。
「じゃあ今日は記念日だね!」
「何の記念日だ」
「清隆くんの初めての休日友達遊び記念日!」
「いや、長すぎるだろ」
今日の日付を覚えておく必要があるのだろうか。
……いや、絶対にないな。
「そこ!?」
平田が吹き出す。
食事をしながら、三人で他愛もない話をする。
部活の話、クラスの話、授業の話。
普段なら教室やグラウンドでは話さないようなことまで、自然と話題に上がった。
「そういえば綾小路くん」
平田がこちらを見る。
「最近、サッカーがさらに上手くなったよね」
「そうか?」
「うん。特にパスの精度とか。最初の頃より明らかに安定してる気がするよ」
「確かに!」
沖谷も頷く。
「最初から上手かったけど、なんか変だったもんね」
「変?」
「機械的すぎるっていうか……」
沖谷は少し考える。
「サッカーをやったことがない人の動きじゃないんだけど、経験者とも違う感じ?」
周りから見るとそういうふうに見えていたのか。
「身体能力で何となくやっていただけだ」
「それにしては上達が早すぎるけどね。僕なんかすぐに追い越されちゃったよ」
平田が笑う。
「まあ、努力の成果だ。ホワイトルームで努力の方法は学べたからな」
「ホワイトルーム?そこで学んだのかい?」
「ああ、そういえば平田にはあまり詳細を話してなかったな。気になるか?」
「話せるなら是非聞きたいよ」
「人工的に天才を作る施設ってやつだ。日本一厳しくて、日本一質が高い教育を受けさせられた。オレと沖谷はそこの出身なんだ」
平田にはこれくらいは話しても良いだろう。
「へえ、そんな施設があるだなんて少し信じ難いけど……どうりで2人は勉強も運動もそんなに凄いわけだね」
「いやいや、僕なんか清隆くんには遠く及ばないよ……」
「そんなことは無いと思うぞ?」
「えぇ、そうかな?」
「ああ、少なくとも、オレには持っていない良い所もあるしな」
「ふふっ。ありがとう」
オレには佐倉とあの短期間で仲を深めることは難しかっただろう。
その点では、沖谷はオレにない能力を持っていると言える。
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その後ゲームセンターへ行き、今度はスポーツショップへ向かった。
「サッカー用品見る?」
「いいんじゃない?」
3人で店内を歩く。
スパイク、ボール、ウェア。
様々な商品が並んでいる。
「新しいスパイク欲しいなあ」
沖谷が商品を眺める。
「今のやつ、まだ使えるだろ」
「使えるけど、新しいのって欲しくならない?」
「分からなくもないな」
平田が手に取ったスパイクを眺める。
「僕は今のやつが気に入ってるから、しばらくはいいかな」
「2人とも真面目だねぇ。まあでも、どうせポイントがないんだけどね……」
沖谷が複雑そうに笑う。
「綾小路くんは?」
「オレも特に買う予定はない」
「つまんないよー」
「なぜだ」
そんなやり取りをしながら店内を見て回る。
結局、誰も何も買わなかった。
店員からすれば、三人で長々と商品を眺めた挙句、何も買わずに帰っていく客だったな。
少し申し訳ない気もするが……楽しかったから良いだろう。
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気がつけば夕方になっていた。
「結構遊んだね」
オレは時計を見る。
「もうこんな時間か」
「結構早かったね」
沖谷が少し名残惜しそうに呟く。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「……うん」
3人で出口へ向かう。
「今日は楽しかったね」
平田が言う。
「ああ」
「また遊ぼうよ!」
沖谷がこちらを見る。
「今度はちゃんと予定を決めてだな」
「もう、それは忘れてよ!」
平田が笑う。
「僕もまたこの3人で遊びたいな」
「そうだな」
自然と口から出た。
「また3人で来よう」
沖谷が目を丸くする。
「……今の清隆くんが言った?」
「何か問題あるか?」
「いや、全然!」
沖谷は嬉しそうに笑った。
「じゃあ決まりだね!」
オレたちは帰路につく。
少し歩いたところで、平田がふと思い出したように言った。
「そういえば、次の部活の練習試合っていつだったっけ?」
「来週の火曜じゃなかった?」
沖谷が答える。
「確かそうだね」
初めての練習試合。
自分の今の実力がどこまで通用するか、興味がある。
「試合、楽しみだな」
「清隆くんが自分から楽しみって言うのって珍しいね」
「そうか?オレは今日の集まりも結構楽しみにしてたぞ?」
「ふふっ。そうなんだ」
沖谷と平田が顔を見合せて笑う。
特別なことをした訳じゃないが、友達と遊ぶのは中々楽しかったな。
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それから数日後。
オレたちは他校との練習試合に臨んでいた。
試合開始のホイッスルが鳴る。
序盤こそ互いに譲らない展開だったが、時間が経つにつれてこちらが試合の主導権を握っていく。
そして前半終了間際。
「綾小路くん!」
平田からボールが来る。
オレは周囲を確認し、前線へ走り込んでいた沖谷へパスを出した。
「ナイス、清隆くん!」
沖谷がそのままゴールへ流し込み、先制点。
後半に入ってからも勢いは止まらなかった。
平田が追加点を決め、さらに終盤には沖谷がもう一度ゴールを奪う。
試合終了。
3-0
オレたちの勝利だった。
「よっしゃあ!勝ったぞ!」
Bクラスの柴田が両手を上げて喜んでいる。
「やったね!」
沖谷も平田と嬉しそうに笑っている。
「二人ともお疲れ様だ。平田、ナイスゴールと最後のはナイスディフェンスだった。沖谷も、2ゴールは凄いな」
「ありがとう。綾小路くんも良かったよ」
「確かに、今日の清隆くん、かなり良かったと思うよ」
「そうか。それは素直に嬉しいな」
3人の連携は以前よりもかなり良くなっていた。
平田が中盤でボールを繋ぎ、沖谷が前線で仕掛ける。
そしてオレは、その二人の動きを見ながら最適な位置へ移動する。
まだ練習試合ではある。
それでも、勝利という結果は素直に嬉しかった。
「次も勝とうね」
「もちろん!」
「そうだな」
3人で拳を軽く合わせる。
こうして、初めての他校との練習試合は、3-0という快勝で幕を閉じた。