初日にバラさんでもええやん…… 作:匿名うゆ
「うおおおおおお!最高だあああああああああ」
池の声が海上に響き渡る。
そう、今日からオレたちはバカンスに出かけるのだ。今、オレたちは豪華客船の上で海を眺めている。
『ふっ。バカンス……な。精々頑張れよ』
南雲先輩がなんだか意味ありげなことを言っていたような気がするが……
まあ、気のせいだろう。そういうことにしておきたい。
本当は何かがあるということは察しているが……
まだ何も無くバカンスを楽しめる可能性に掛けたっていいだろう。
「清隆くん!凄い景色だね!」
沖谷が話しかけてくる。
「ああ、そうだな。こんな景色を見るのは初めてだ」
「だよね!僕も初めてだよ!」
沖谷は初めて見る景色にかなり興奮しているようだ。
……それはオレも同じだが。
いやなに、この景色を見て興奮するなと言う方が難しいだろう。
しかも、この豪華客船では景色が凄いだけではない。どの施設も無料で利用することができるのだ。
まさに至れり尽くせりというやつだろう。
ふと、近くにいた佐藤がこちらを見た。
「ねえ、綾小路くん……良かったら、一緒にご飯食べに行かない?」
「ああ、もちろんいいぞ」
「ほんと?やった!」
大海と青空をバックにした佐藤のいつもより輝いて見える笑顔に胸が高鳴る。
オレもこの豪華客船の雰囲気に当てられているようだ。
佐藤と食事を取り終えると、突如アナウンスが流れた。
『生徒の皆様にお知らせします、お時間がありましたら、是非デッキにお集まりください、まもなく島が見えてまいります、しばらくの間、非常に意義のある景色をご覧いただけるでしょう』
……何やら意味深だな。
「佐藤、島を見に行こう」
「え?もう行くの?もうちょっとゆっくりしない?」
「ああ、これは行く必要があるかもしれない」
そう言って、オレは佐藤と共に展望デッキへと向かう。
「あ、清隆くんも来たんだ」
沖谷たちは先に来ていたようだ。
ナイスだ。ベストポジションを取っている。
海を眺めていると数分後、その島は姿を現した。
周りから歓声が上がる中、オレは島をつぶさに観察する。
そんな時、オレたちを押しのけ、隣で見ていた沖谷の肩を突き飛ばす横暴な男子生徒たちが現れた。
「おい、何をするんだ。オレたちが先にここに居ただろ」
そう言うと、Aクラスであろう生徒が言い返してくる。
「お前らもこの学校の仕組みは理解してるだろ。ここは実力主義の学校だ。Dクラスに人権なんてない。不良品は不良品らしく、大人しくしてろ。こっちはAクラス様なんだよ」
こいつ、沖谷を突き飛ばした挙句、Dクラスというオレの仲間たちを馬鹿にするとは……
「……あのな、クラスの差なんていつひっくり返るか、分からないだろ?Aクラスだからといって驕らない方が良いと思うぞ?それに、クラスで人を差別するなんて、人間性まではAクラスじゃないみたいだな」
「て、てめえ!Dクラスのくせに生意気だぞ!名前はなんてんだ!」
「綾小路だ」
「お、お前が綾小路か!やっぱり、坂柳の知り合いにはろくな奴がいねえな」
どうやら、少なくともこいつは坂柳の派閥ではないらしいな。
それに、オレのことを知っているのか。
そんな言い合いをしていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あら、私がどうかしましたか?」
「さ、坂柳!」
騒ぎを聞きつけてきたのか、坂柳が取り巻きを連れてやってきたようだ。
「坂柳か。一体、Aクラスのやつはどうなってるんだ?」
「ふふっ。すみませんね。そちらの方は私の管轄外ですので」
「おい弥彦、ここは引け」
髪の無い大きな男子生徒……葛城だったか。
がAクラスの弥彦という生徒に注意をする。
「で、でも葛城さん……こいつら俺たちを馬鹿にしてきましたよ」
「そうだとしても、ここで揉め事は起こすべきではない」
「は、はい……葛城さん」
そう言って、Aクラスの連中は離れていった。
それにしても、少し感情的になってしまったな。
これはあまり須藤のことを言えないぞ……
今度からは控えよう。
船はそのまま島をぐるっと一周する。
……おかしいな。
事前に聞いていた話では、この島にはペンションがあるはずだった。
しかし、どこを見てもそれらしい建物は見当たらない。
『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定のカバンと荷物しっかり確認した後、携帯を忘れず持ち、デッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫く早くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』
そんなアナウンスが流れる。
どうやら、上陸が近いらしい。
船が島に着き、Aクラスの生徒たちから順番に船を降りていく。
その中に坂柳の姿はない。
キョロキョロと坂柳の姿を探すと、後ろから声をかけられた。
「綾小路くん、もしかして私を探していますか?」
「おお、驚いた。ちょうど探していたところだ。Aクラスの集団にいなかったからな」
「ふふっ。それは嬉しいですね。……しかし残念です。私は無人島の方には参加できませんので」
「そうなのか、それは残念だな」
「綾小路くん、頑張ってくださいね?」
「ああ、流石に何かあることは分かっているからな。坂柳はもう知っているのか?」
「ええ」
坂柳はそう言って微笑む。
憂鬱な気分が坂柳の笑顔を見て少し晴れた。
───────────────────────
「ではこれより⎯⎯⎯本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
突如として発せられた一言に、ほぼ全てのクラスがざわつき始めた。
特別試験のルールが説明される。
簡単に説明するとこうだ。
最初に300ポイントが配られ、それで物資を購入することができる。
リーダーを1人決め、スポットをキーカードで占有することができる。効力は8時間で、1回の占有につき、ボーナスポイントを1ポイント獲得できる。
最終日の点呼の時に、リーダー当てをする権利があり、指名を成功させたら50ポイント、失敗したらマイナス50ポイント。
指名されたらマイナス50ポイントであり、ボーナスポイントは無効。
他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、対象者の所属するクラスは即失格となる。
リタイアはマイナス30ポイント。
環境汚染はマイナス20ポイント。
毎日午前8時、午後8時にある点呼不参加で1人あたりマイナス5ポイント
こんなところだろうか。
試験のルールも重要だが、オレが気になったのはこの試験のテーマが「自由」だと言うことだ。
いや、特に深い意味ではない。
ただ、自由に海とかで遊んだりみんなでキャンプファイヤーをしたりするのが楽しみなのである。
海……ヤドカリとかいるのかな。
「ダンボールになんて!無理無理!絶対無理!」
「なんだよ、ちょっと我慢するだけじゃねえか」
ルールを確認し、この試験の楽しみに思いを馳せていると、どうやら仮設トイレを購入するかで揉め始めてしまったらしい。
「ちょっと待てよ!20ポイントだぜ!?たかがトイレに!」
「トイレくらい良いじゃん。今は節約しないとまずいっしょ!」
「あんたが決めないでよね。意見をまとめてるのは平田くんなんだから。ね、平田くん」
「あ、ああ、そうだね」
平田も男子と女子の板挟みで決めかねているようだ。
「綾小路くんはどう思う?」
平田がこちらへ話を振ってきた。
「そうだな。結論としては仮設トイレは購入するべきだと思う。40人で1つのトイレは流石に問題が生じる可能性が高い。それに、衛生観念的にも問題があると思う。まあ、1番良い方法は多数決だと思うが」
何故ここまで意見を言ったかって?
仲間内でこれ以上を揉め事を起こして欲しくないし、面倒くさいことは早く終わらせて海で遊びたいからである。
しかし、まさか無人島に来て最初に議論することがトイレになるとは思わなかった。
もう少しこう……どうやってご飯を調達するとか、どの植物が美味しいだとか夢のある話し合いをしたいものだ。
「おお!綾小路くん良い事言うじゃん!」
「多数決……そうだね。そうしようか」
多数決という方法には池や幸村も異論は無いようで、多数決が始まる。
結果として、男子数人と女子の大多数が仮設トイレ賛成派に投票したことから、仮説トイレは購入されることとなった。
「次に、リーダーを決めた方が良いと思う。複数のスポットには目星がついているからな」
オレのスポットに目星がついているという発言に周囲がどよめく。
「あ、綾小路くんはもうスポットを見つけてるのかい?」
「船が島を1周している時にな。リーダーは島を回る都合上、運動能力の高いオレか平田か沖谷が良いと思う」
「ああ?俺はダメなのか?運動能力は高えぞ?」
「須藤はシンプルに目立ちすぎるからな」
なるほどと言った顔で須藤は下がる。
随分聞き分けが良くなったものだ。
「リーダーは綾小路くんが良いんじゃない?スポットももう見つけてるっていうくらいだし!」
「うん!私もそう思う!」
軽井沢と佐藤からオレをリーダーに推挙する声が上がる。
……まあ、オレがやるのが手っ取り早いか。
「じゃあオレがリーダーをやる。それに当たって、他のクラスに先立ってスポットを占有しに向かいたい。ベースキャンプが決まるまで、オレが指定する人以外は木陰で待機してもらえるか?みんなが早く遊べるようにできるだけ急ぐ」
クラスメイトから了承の声が返ってくる。
オレは茶柱先生の元へ向かい、キーカードを発行してもらう。
「じゃあ、平田と沖谷、それと須藤と三宅は同行してもらえるか?」
「え、俺もか?」
三宅から疑問の声が上がる。
「ああ、三宅の運動能力の高さは知っているからな」
「おお……ありがとよ」
高円寺を同行させるのは流石にリスキーすぎるのでやめておいた。
そうして、オレたちはスポットを占有しながら島を回る。
川の付近や、森の真ん中、小屋などのスポットを巡っていく。
次に近くにあるのは……あの洞窟だな。
目星をつけていた洞窟にたどり着くと、洞窟から2人の生徒が出てくるのを目撃した。
葛城と弥彦という生徒だ。
オレは同行している皆に静かにするように指示を出す。
「葛城さん!良いスポットを押さえられましたね!運が良かったです。こんな早くになんて」
「運?お前は何を見ていた。この洞窟は船から見えていた。見つかるのは必然だったというわけだ。そして、言動には気をつけろ、どこで誰が聞き耳を立てているか分からないんだ。俺にはリーダーとしての監督責任があるんだからな」
葛城がキーカード持っている。
……なるほど。リーダーは弥彦か。
Aクラスの2人はオレたちとは逆の方向へ去っていった。
「ねえ、清隆くん」
沖谷が小声で話しかけてくる。
もうあいつらは去ったのだから小声の必要はないと思うが。
「あの、弥彦っていう人がリーダーだよね」
「ああ、オレもそう思っていたところだ。葛城がキーカードを持っていのはおそらくフェイクだろう。葛城がそんなミスをするとは思えない」
「おお、お前ら……すげえな」
「だよな。俺はてっきりあのハゲがリーダーかと……」
いや、ハゲ呼ばわりは失礼じゃないか?
「おい、あまり人の身体的特徴をいじるのは良くないぞ……しかし、あの洞窟は先に取られてしまったな。この先には塔のスポットがあるはずだ。そこはまだ取られてないと思うから、先を急ごう」
「うん、そうだね。先を急ごうか」
塔のスポットに向かい、スポットを占有する。
目星をつけたスポットはだいたい占有できたため、一旦クラスメイトの待つ初期位置へ戻ることにした。
……早く海で遊びたい。