初日にバラさんでもええやん……   作:匿名うゆ

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「お、戻ってきた!」

 

オレたちの姿を見つけた池が大きく手を振る。

 

「お疲れ様、綾小路くん。それで、スポットはどうだった?」

 

堀北が問いかけてくる。

 

「予定していたスポットは大体確保できた。いくつか他クラスに取られていた場所もあったが、問題ない」

 

「本当?さすが綾小路くんね」

 

「おお、素直に褒めてくれるんだな」

 

「いや、これは素直に褒めない方が難しいでしょう……」

 

「まあ、そう言われるとそうだな」

 

「それで、ベースキャンプはどこに決まったの?」

 

「そのことだが、川の付近のスポットにしようと思う」

 

「川!いいじゃん!」

 

クラスメイトから色良い返事が返ってくる。

 

「そうだろう?川遊びもできるし、何より水に困らない。これがサバイバルにおいて一番大切だからな」

 

川の水を飲めるかと言う心配はあるが……煮沸すれば大丈夫だろう。

 

「じゃあ、みんなでベースキャンプに向かうぞ」

 

「「「おう!」」」

 

 

そうして、オレたちはベースキャンプに到着した。

 

「おー、結構良いとこじゃん!」

 

「だな!幸先いいぜ!」

 

全員で荷物を整理し、テントを設営していく。

 

最初は慣れない作業に戸惑う生徒も多かったが、平田とオレが中心になって指示を出すと、少しずつ形になっていった。

 

 

─────────‪──────────────

 

 

「うおおおおおお!海!最高だあああああああ」

 

池の叫び声だと思いましたか?

残念、オレの叫び声でした。

 

ベースキャンプでテントやトイレの設営を終えた後、オレたちは海に遊びに来ていた。

 

「き、清隆くんテンション高すぎじゃない?」

 

「いや沖谷、オレにとってこれが初めての海だぞ、テンションが高くならないわけが無いだろう」

 

「清隆くんがそんな大きな声出すの初めて見たかも……」

 

「確かにな。しかし、ここは海だ。叫ばないのはマナー違反というものだろう」

 

「そ、そうなのかな?」

 

「とにかく、海に入ってみるぞ」

 

オレは波打ち際まで歩き、海に入る。

思ったより冷たいな。

火照った身体に冷たい海水が気持ちいい。

 

パシャパシャと沖谷も水しぶきを立て入ってきた。

 

「おりゃ!」

 

オレは沖谷に海水をかける。

 

「ちょっとー、やめてよ清隆くん」

 

「やめないぞ」

 

「じゃあ僕もやってやる!」

 

オレたちは海水をかけ合う。

……なんかカップルみたいだな

 

 

「ハハハッ。森の中で輝く私も良いが、海に映る私も実にビューティフルだねえ」

 

高円寺も海で楽しそう(?)にしている。

……良い事を思いついた。

オレは沖谷の元を離れ、高円寺の所まで歩み寄る。

 

「高円寺、今から泳ぎで競争しないか?」

 

「なんだ、綾小路ボーイかい?競争か、私はバカンスでは争わない主義なのだけどねえ」

 

「そんな主義初めて聞いたぞ。前、水泳の授業ではオレが負けただろ。そのリベンジがしたいんだ」

 

「フフフッ。リベンジ、ねぇ。その心意気に答えないようでは男が廃るというものだろうねえ」

 

「ということは?」

 

「言わせないでほしいね。その勝負、受けると言ったのだよ」

 

「勝負ということで、何か賭けるか?」

 

せっかくの勝負なのだ。何かを賭けなければつまらないだろう。

 

「ふむ、私的には何でもいいのだけどねえ。なにしろ、負けることがないのだから」

 

「じゃあ、相手に良識の範囲内で何でも1つ言う事を聞いてもらうでどうだ?」

 

「なるほど。それで良いだろう。勝負のレギュレーションは私が決めるが、いいかな?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「では、ここからあの大きな岩に先にタッチした方が勝ちでいいかな?」

 

高円寺はそう言って200mほど離れた岩を指さす。

 

「……中々遠いな」

 

「おや、怖気付いたかい?綾小路ボーイ」

 

「いや、距離的には十分だ」

 

「では、始めようか」

 

高円寺が海面に視線を落とす。

 

その表情には、いつもの余裕があった。

 

「カウントはどうする?」

 

「君がやりたまえ。私は公平な勝負を好むからねえ」

 

「分かった。もちろんフライングは無しだぞ」

 

オレは軽く身体を伸ばす。

 

海水に身体を慣らしながら、目標の岩までの距離を確認する。

 

約200メートル。

 

水泳の授業で泳いだ距離と比べればかなり長い。

だが、不思議と身体が軽い。

こういう開放的な場所で全力を出すのは初めてだった。

なんというか……楽しみだ。

 

「それじゃあ、いくぞ」

 

「いつでも構わないよ」

 

オレは身体を少しだけ前傾させる。

 

「3.2.1、GO!」

 

勢いよく海へ飛び込んだ。

 

水を掻き分け、身体を前へ進ませる。

 

「おおっ!」

 

後ろから誰かの声が聞こえた。

 

どうやら数人のクラスメイトたちも見ているらしい。

 

「綾小路くん、頑張れー!」

 

「高円寺に負けんなよ!」

 

「ちょっど、二人とも速すぎない!?」

 

この距離、少し前のオレならばスピードが落ちていたかもしれない。

だが、今のオレはサッカー部での走り込みで体力が着いている。

トップスピードで泳ぎ続けることだって可能だ。

 

クラスメイトの声援に、高揚感を感じて自然と口角が上がる。

 

……なんだこれ、楽しすぎる。

 

いやいや、今は無駄なことを考えずに泳げ。

 

腕を大きく動かし、足も使って速度を上げる。

普段なら無意識に最適化してしまう部分を、今日は少しだけ無視した。

多少フォームが崩れても構わない。

ただ速く。目の前の岩へ。

ほら、もっと加速するぞ。

 

 

岩に手が着く。

 

先に水面から顔を上げたのは……

 

 

オレだった。

 

 

「よし!」

 

遅れて高円寺が顔を上げる。

 

「フフフッ。綾小路ボーイ。今回は私の負けのようだ。いやはや、私が負けるとは、君はどんな訓練を受けてきたんだろうねえ」

 

「まあ、ホワイトルームの訓練は確かに過酷ではあったがな」

 

「ホワイトルーム……俄然興味が湧いたよ」

 

「そうか……そこまで良い所でも無いけどな。決して悪い所では無いが」

 

「それで、君は私に何を望むんだい?」

 

「そうだな……この試験、全力を尽くしてもらえることはできるか?もちろんリタイアはもってのほかだ」

 

「フフフッ。しょうがないねえ。私は敗者だ。今回は君に従うとするよ」

 

「そうか、助かる」

 

正直、自由人の高円寺はリタイアするのでは無いかと思っていた。だがしかし、ここで30ポイントを失う訳にはいかないからな。

 

「なに、礼を言う必要は無いよ。私は君との約束を果たすまでだ」

 

「そうか」

 

高円寺との勝負はホワイトルームを出てから1、2を争うぐらい白熱し、とても胸が踊るものだった。

海、やっぱり最高だな。

 

 

─────────‪──────────────

 

 

ベースキャンプに戻ると、見覚えのない生徒がそこにはいた。

 

さっきまで海で遊んでいたせいか、頭の中まで少し緩んでいた。

そのせいか、ベースキャンプに戻った瞬間に見慣れない生徒がいるという状況に、少しだけ現実へ引き戻された気分になる。

そういえば、今は特別試験の真っ最中だった。

遊びに来たわけではない。

 

……まあ、かなり遊んでいたのは事実だが

 

「堀北、あの女子生徒は誰だ?」

 

「Cクラスの伊吹さんよ……山内くんたちが連れてきて、クラスを追い出されたらしいわ」

 

確かに、伊吹という生徒の頬は殴られたように腫れている。

 

以前までのオレならスパイを警戒して追い出していたかもしれないが……今のオレは気分が良い。

それに、オレがリーダーなのだ。オレがバレるような不注意をするはずがないし、スパイだとしても大丈夫だろう。

 

まあ、一応確認しておくか。

オレは伊吹の元に歩み寄る。

 

「伊吹と言ったか、クラスを追い出されたというのは本当なのか?」

 

「別に。何?やっぱり私を追い出しに来たの?」

 

「いや、追い出しに来た訳では無いが……クラスを追い出されたならリタイアはしないのか?」

 

「リタイアして船に戻ったら何されるか分からないし……それなら島にいた方がよっぽどマシ」

 

「そうか。なら気の済むまでうちのベースキャンプに居ていいぞ。食料を分けれるかは分からないが、まあ、最低限の暮らしはできるだろう」

 

もちろん、こちらにも余裕があるわけではない。

食料も何もかも限られている。

これから何日もこの島で過ごす以上、無駄遣いはできない。

だからといって、目の前で困っている人間を追い出すほど困窮しているわけでもない。

 

「……ほんと、お人好しの集まりだな」

 

「まあな」

 

堀北もオレも丸くなったものだ。

堀北も前ならすぐに追い出そうとしていただろう。

これは、たぶんいい変化だ。

 

とにかく、次は川でも遊ぶとするか。

遊ばなきゃ損だ。




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