初日にバラさんでもええやん…… 作:匿名うゆ
試験2日目
朝の点呼を終え、今日は他クラスの偵察にでも行こうかと考えていると、ベースキャンプに叫び声が響き渡った。
「何だよおまえら!」
どうやら、Cクラスの連中が2人来ているらしい。
偵察ついでに挑発でもしに来たのだろうか。
オレは叫び声の主である池の元へと向かう。
「いやー随分と質素な生活してんだなDクラスは。さすが不良品クラス」
ポテトチップスを頬張りながらCクラスの2人──小宮と近藤は話す。
ポテトチップス、食べたのは祝勝会での1度だけだが、かなり美味しかったのを覚えている。
そんなポテトチップスを見せつけるように食べているのは少し羨ましいが、彼らの言葉には誤りがある。
「なあ、良いか?」
「げっ!あ、綾小路かよ。なんか文句あんのか?」
「Dクラスは質素な生活をしていると言ったが、それは違うぞ?」
オレは後方に向け指を指す。
そこには、山菜の山や、大量の魚が燻製されている様子があった。
「な!なんでDクラスがこんなに食料を持ってるんだよ!」
「高円寺ってやつがな。モリで魚を突きまくりだ。山菜もものすごい量を1度に取ってくるからな。お前らの期待していた質素な暮らしとは程遠いぞ?」
ちなみに、オレも高円寺にコツを教えて貰ったりしてモリで魚を突きまくっている。
最初に高円寺が魚を突いているのを見た時は、正直本当にそんな簡単に捕れるのか?と思っていた。
ところが、実際にやってみると意外と面白い。
魚の動きを読んで、タイミングを合わせてモリを突き出す。
一匹捕まえるたびに、妙な達成感まである。
……まさか無人島に来て、魚突きにハマるとは思わなかった。
そして、2日目にして食料は飽和状態になってしまったため、燻製にして保存できるようにしているほどだ。
懸念していた伊吹に飯を与える余裕まである。
「ぐっ。もういいさ。龍園さんからの伝言だ。うちのベースキャンプに来たら最高のバカンスを満喫させてやるってよ。この生活が嫌になるほどの夢の時間を共有させてやるよ」
そう捨て台詞を吐いてCクラスの2人は帰って行った。
「堀北、龍園って誰だか知ってるか?」
「あなた、知らないの?Cクラスで王を名乗っている生徒らしいけど、私も詳しくは知らないわ」
王……か。なかなかかっこいいじゃないか。
「へえ、そうなのか。まあとにかく、せっかく招待を貰ったんだ。偵察に行くとするか」
「ええ、そうね。他クラスの偵察は私も必要だと思っていたもの」
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オレは堀北と共にCクラスのベースキャンプへと向かう。
Cクラスのベースキャンプは浜辺にあった。
「これは……信じられないわ」
Cクラスの衝撃的な光景に、堀北は何度も有り得ないと口にする。
そう、Cクラスは仮設トイレやシャワー室はもちろん。快適に過ごすためや遊ぶためのありとあらゆる用具が揃えられていた。
ここまで来ると、設備の良いリゾート地にしか見えない。
「なるほどな」
「綾小路くん、こんなことって有り得るかしら?」
「そうか?オレは中々合理的な作戦だと思うけどな」
「綾小路くん、何を言って……」
その時、1人の男子生徒がオレたちの方に駆け寄ってきた。
「あの、龍園さんが呼んでます……」
その生徒は、何かに怯えたように声をかけてくる。
「堀北、せっかく歓迎してくれるらしいんだ。行こう」
「ええ、そうね」
オレは龍園の元へと向かう。
「よう。こそこそ嗅ぎ回ってると思ったらお前だったか。俺になんか用か?」
おい、小宮と近藤、話が違うぞ。
歓迎してくれるんじゃなかったのか。
「いや、呼ばれたからきただけなんだが。それにしても、Cクラスは随分と羽振りがいいんだな」
「ああ?そうかよ。俺たちはただ夏のバカンスって奴を楽しんでるだけだぜ?」
「これは試験なのよ?これは試験を放棄したと同然よ?それがどう言う意味か分かってるの?」
堀北はまるで理解できないと言った態度で龍園に接する。
「ハッ。こんな試験で100だか200だかのクラスポイントを取ったところで何になる。お前らはそんな小さなクラスポイントを取るために地獄みてえな環境で生活すんのか?」
「地獄というほど苦しくはないけどな」
「ククッ、強がるのもほどほどにしとけよ。お前ら、名前は?」
「Dクラスの綾小路だ」
「同じくDクラスの堀北よ」
「お前がサッカー部の綾小路か。どんな奴かと思ったら、しけたツラしてやがる」
「おい、失礼だな」
「ま、お前は俺の相手ぐらいにはなると思ってる。精々頑張れよ」
「私を無視しないでもらえるかしら」
「ああ?お前は生徒会長の妹だったか?そこそこ有能みたいだが、どうせ綾小路の腰巾着だろ?」
「それは違うわ。私と綾小路くんはあくまで対等な関係よ」
「ハッ。そうかよ。ま、お前も顔はいいからな。俺が今から可愛がってやろうか?専用のテントくらい用意してやるよ」
「お断りするわ」
「そうかよ。チッ。もうぬるくなってやがる。おい石崎。キンキンに冷えた水を持ってこい」
堀北の返答を気にしないどころか、まるで挑発するようにペットボトルに半分ほど残った水をそのまま地面へ注いだ。
「用件がもう1つあったわ。あなたは、当然伊吹さんを知っているわよね?」
「ああ。うちのクラスの人間だ。それがどうかしたか?」
「彼女、頬を腫らしていたわよ。あれは何?誰がやったの?」
「ハッ。あいつ、クラスを出ていったかと思えば他クラスに逃げ込んでたのかよ。とんだ腰抜けだぜ」
呆れたように龍園は鼻で笑う。
「龍園、お前が手を上げたのか?」
オレは龍園に問いかける。
「ああ。それがどうした?逆らうやつはこうでもしねえと聞かねえからな。支配者の命令に背く手下は俺にはいらねえ。もう1人男が逆らったからそいつも追い出してやったぜ」
「そうか。オレには仲間に暴力を振るう考えは理解できないが……他クラスの事情に口を出すのも野暮か。とにかく、伊吹はうちで保護しているからな」
「そうかよ。お前らもよくやるぜ。あんな女なんざ追い出しときゃいいものをよ」
「堀北。戻るぞ。これ以上ここに居ても得られるものはない」
「ええ、戻りましょう。綾小路くん」
「おいおい、もう帰るのか?お前らがお願いするなら歓迎してやってもいいんだぜ?」
堀北は龍園の言葉を無視し、踵を返す。
「またな、龍園」
流石に何も言わずに帰るのも失礼かと思ったので一応挨拶はしておくことにした。
それに、嫌でもまた会うことになるだろうからな。
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「綾小路くん、龍園くんの方針は私には理解できないわ。あなたが言っていた、合理的な作戦とはどういう意味?」
堀北は歩きながら、先ほど見たCクラスのベースキャンプを思い返しているようだった。
表情こそいつも通り冷静に見えるが、納得できていないことは明らかだ。
まあ、無理もない。
普通に考えれば、龍園のやり方はあまりにも無謀に見える。
試験開始からまだ二日目だというのに、ポイントを使い切り、快適な生活を送っている。
このまま何事もなく試験が終われば、Cクラスは大きくポイント差をつけられることになるだろう。
「そうだな、言わば0ポイント作戦か。お前も、龍園がポイントを使い切ってるのは流石に理解しているだろ?」
「ええ。伊吹さんともう1人が点呼に参加しないのを気にしない時点で自分たちは0ポイントだと言ってるようなものだもの。でも、分からないわ……あんな使い方じゃ、終盤に困ることは明白よ」
「そして、この試験は0ポイントからはマイナスにならない。この意味が分かるか?」
堀北の顔を見る。
まだ完全には理解できていないようだ。
「……分からないわ。どういうこと?」
「食料や水が足りなくなったら。リタイアすればいいんだ」
「リタイア……なるほど、そういう事ね」
「そうだ。もちろんリーダーだけが残って、他のクラスのリーダー当てをすることも出来るしな。」
「でも、それだと最大でも150ポイントとボーナスポイントしか稼げないことになるんじゃないかしら?」
堀北の指摘はもっともだ。
リーダーを最後まで残し、見つからないようにスポットを占有しつつ、他クラスのリーダーを当てる。
理論上、それだけでもある程度のポイントは確保できる。
だが、それでも普通に試験を攻略する場合と比べれば少ない。
「まあ、それでもこの環境で生活するよりはマシだと考えたのかもしれない。が、1つ引っかかることがあるんだよな」
「何なの?」
「マニュアルを読み込んだから分かるんだが、ポイントを使い切ったにしては、Cクラスの物資は少なくなかったか?」
「そうなの?……確かに、食料も水も2日分しか買ってないと考えたら少ないかもしれないわね」
「だから、龍園は物資を取引した可能性が高いとオレは推測している」
「取引……他クラスと!」
「そうだな。そのプライベートポイントとリーダー当てで十分だと龍園は考えているのだろう。でだ、あそこにいたリーダー以外全員がリタイアしてもリーダーを当てる方法、これは分かるか?」
「……スパイ」
「そうだ。これらのことから推察するに、伊吹はスパイの可能性が高いだろう」
「……そうなのね。私もその可能性は高いと思っていたけれど、ここまで論理立てされて説明されると伊吹さんはスパイとしか思えないわね」
「ただ、これは推察でしかない。伊吹が本当に暴力を振るわれて追い出された可能性がある以上、追い出さずに保護はしようと思う」
仮にスパイだったとしてもむしろ、スパイだと疑っていることを悟られずに泳がせておいた方が、得られる情報は多いだろう。
「でも、それじゃあ……」
「大丈夫だ。オレがリーダーだとバレる不注意をするはずがないからな」
「確かに、説得力があるわね」
そんな会話をしながら、オレたちはベースキャンプに帰ってくる。
ベースキャンプには、Bクラスの生徒である神崎が来ていた。
「よう。神崎。偵察か?」
「おお、綾小路か。確かに、今俺は偵察をしようとしていたが……ダメか?」
神崎は少しバツが悪そうにそう言う。
オレ的には、Bクラスには恩もあるし全然OKだ。
「いや、全然いいぞ。むしろ歓迎する。魚でも食べるか?オレがモリで突いてきたアカハタ、結構美味いぞ」
「それは流石に遠慮しておく、DクラスとBクラスの連中に悪いからな」
こういう所はつくづく律儀なやつだ思う。
「そうか。遠慮しなくても良いんだけどな。Bクラスと比べてDクラスはどうだ?」
「正直、オレたちのクラスは食料面では負けているな……良かったら、うちのベースキャンプにも来るか?」
「良いのか?じゃあ、遠慮なくお邪魔させてもらうぞ」
「ああ、案内する」
オレは今度は沖谷を一緒に連れていくことにした。
オレたちは倒れている大木を目印にBクラスのベースキャンプまで向かう。
「ここが、Bクラスのキャンプ地だ」
「おお……なんというか、全体的にDクラスより優れている感じがするな」
「そうだね、ちょっとこれは負けてるかも……」
「そうか?Dクラスも中々にいい暮らしをしていると思うが」
そんな会話をしていると、一之瀬が話しかけてきた。
「お!綾小路くんと沖谷くんじゃん。何しに来たの?」
「偵察だ。一応、お土産も持ってきたぞ」
オレは容器に入れた魚の燻製をカバンから出す。
「えぇ、悪いよ。貰っちゃっていいの?」
「もちろんだ。偵察させてもらう料金だと思ってもらえばいい」
「にゃはは、そういう事なら頂いておこうかな。じゃあ、遠慮なく見ていってね!」
オレはBクラスのベースキャンプを観察する。
沖谷はリーダーらしき人物を探しているのか人を眺めている。
それにしても、ウォーターシャワーだったり、無制限に貰えるビニールを重ねてクッション代わりにしたりと参考にできるものが多くあるな。
一通り見たところで、オレたちはBクラスのベースキャンプを後にする。
どうやら、Cクラスと取引をしたのはBクラスでは無さそうだ。
必然的に、取引をしたのはAクラスということになるが……
そんな事を考えながらDクラスのベースキャンプへ帰っていると、沖谷が驚くような発言をした。
「僕、Bクラスのリーダー分かっちゃったかも」