初日にバラさんでもええやん…… 作:匿名うゆ
「僕、Bクラスのリーダー分かっちゃったかも」
……まじか。
それな本当ならかなり試験を優位に進めることができるが。
「それは本当なのか?」
「うん。確率的には9割以上かな」
「そうなのか。それで、誰がリーダーだと思うんだ?」
「それはね、白波さんだよ」
それは意外な名前だった。
白波……聞いたことがあるようなないような。
Bクラスには一之瀬や神崎を始めとして、それなりに顔と名前が一致する生徒もいる。
しかし、白波という名前にはこれといった印象が残っていなかった。
だからこそ、沖谷がなぜその生徒を選んだのかが気になるというものだ。
「白波?なぜそう思ったんだ?」
「うーん。僕たちが来てから明らかに態度がビクビクしてたって言うのかな。それも演技だったら凄いけど、何かを隠してる感じがしたんだよね」
「そうなのか。それは中々信憑性があるな。沖谷は人を見るのが得意なのか?」
「うん。……僕、いつも人を観察して生活してるから」
驚いた。
沖谷にそんな特技があるとはな。
人の懐に入るのが上手いとは思っていたが、その裏には人を観察する癖があったのか。
しかし、沖谷を疑う訳では無いがこの情報だけで指名するのはリスクが高すぎる。
白波という生徒をオレ自身も観察するなり他の方法を使うなりして特定しよう。
「とにかく、まだその情報だけでは判断しかねるからな。次に偵察に行った時には確かめに行こう」
「うん、そうだね」
沖谷は素直に頷く。
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オレたちはベースキャンプに戻る。
ベースキャンプは妙に騒がしかった。
見ると、高円寺の周りに人が集まっている。
どうやらまた高円寺が大量に食料を取ってきたらしい。
高円寺一人でこの島の生態系は崩れてしまうのではないだろうか……
「高円寺、今度は何を取ってきたんだ?」
「ふむ。これを見たまえ綾小路ボーイ」
高円寺は大きな袋から何かを取り出す。
一瞬、それが何だか分からなかった。
「トウモロコシ、か?」
「そうとも。大量に取ってきたよ」
「……そんなのどこにあったんだ」
「少し森の奥へ進んだところに、それなりの量が自生していてねえ。せっかくだから取ってきたのだよ」
「自生……?」
本当に何でも見つけてくるな。
それに、トウモロコシが自生しているというところも気になる。
「食べられるのか?」
「もちろんさ。試しに一本食べてみたが、中々に美味だったよ」
「……もう食べたのか。それじゃあ、焼いてみるとするか」
オレが提案すると、何人かの女子が準備を始める。
火を起こし、トウモロコシを串に指し、焚き火の上の網へ乗せる。
しばらくすると、香ばしい匂いが漂い始めた。
「うわ……美味そう」
自然と声が出る。
「綾小路くん、そんなに楽しみなの?」
佐藤が笑いながら聞いてくる。
「当然だろ。トウモロコシを焚き火で焼いて食べるなんて、こういう場所でしかできないからな」
平田が焼けたトウモロコシを配ってくれる。
オレは受け取ったトウモロコシにかぶりつく。
それは驚くほど甘く、少し焦げた香ばしさが妙に美味しく感じられた。
「……美味い」
思わず笑みがこぼれる。
「これは高円寺に感謝だな」
「フフフッ。ようやく私の偉大さを理解したようだねえ」
どうやら近くに居たようで、高円寺は高らかに笑う。
「それは本当にそうだな。高円寺様々だ」
オレの隣では池がものすごい勢いでトウモロコシを食べていた。
「おい池、そんなに急いで食べなくてもなくならないぞ」
「いや、早く食わないと須藤に取られる!」
「お前、俺をなんだと思ってんだ」
「食い物の敵!」
「おい、誰が敵だ!」
「だってお前、誰よりも食ってんじゃねえかよ!」
「そ、それはすまねえ」
須藤が少しだけ気まずそうに頭を掻く。
その光景を見ていると、なんだか学校にいる時と変わらない気分になってくる。
「綾小路くん、今笑ってた?」
隣にいた佐藤が話しかけてくる。
「確かに笑っていたかもしれないが……オレが笑うのってそこまで珍しいか?」
「え!自覚ないの?綾小路くんが笑うのって超レアだよ?」
どうやらオレの笑顔はスーパーレアらしい。
「そうなのか。まあ、笑うのが苦手ではあるかもしれないな」
「だよね。でも、笑ってる綾小路くんもギャップで超良いかも」
ギャップというものはよく分からないが、オレの笑顔も悪くないらしい。
「……そうか。じゃあ、今度からはもっと笑えるように努力するか」
「笑うのに努力って、ウケる」
ウケてしまった。
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翌日
今日は、Aクラスの偵察にしに行くことにした。
しかし、夜中にもスポット更新をしなければならないのは中々大変だ。
着いてきてくれている男子たちには感謝しなければならない。
堀北と沖谷を連れ、Aクラスのベースキャンプである洞窟へと向かう。
「綾小路くん、眠そうね」
「そう見えるか?」
「ええ、見えるわ。スポットが大切なのは分かるけど……。睡眠時間はちゃんと取ってちょうだいね?あなたが倒れたら本末転倒だもの」
「いや、オレの体力は気にしないでくれ。全然ピンピンしてるからな」
「そう、それなら良いけど……。それとあなた、歩みに迷いがないようだけれど、Aクラスのベースキャンプがどこだか知っているの?」
「ああ、最初にスポットを占有する時にな」
「そうなのね。Aクラスも中々不用心なのかしら」
「かもな」
そんなことを話しながら洞窟の近くへと到着する。
洞窟の内部にはビニールを繋ぎ合わせた巨大な目隠しが広げられていて、中は見てないようになっていた。
しかし、入口の傍には仮設トイレが2つ、シャワー室が1つ置かれていた。
仮設トイレが2つ……
さすがに余裕がありすぎる。やはり、Cクラスから物資を取引したのはAクラスなのだろうか?
Aクラスのベースキャンプ周辺には、Dクラスのキャンプのような騒がしさがない。
代わりに、何人かの生徒が周囲を警戒しているのが見える。
「……やっぱり警戒しているな」
「当然でしょう。ここはAクラスの拠点なんだから」
「そうなんだけどな」
Aクラスは自分たちの情報をかなり厳重に守っているらしい。
Dクラスなんて、ベースキャンプに来れば大体の様子が分かるのだが。
我ながら、うちのセキュリティ意識は終わってるな……
とりあえず、コソコソしても始まらないため、身を潜める堀北と沖谷を追い越し俺は洞窟へ繋がる道を歩く。
「ちょ、ちょっと、行くの?」
「ああ、行かないと情報は得られないぞ?」
「……確かにそうね」
洞窟の入口まで辿り着くと、当然のことだがオレたちはその近くにいたAクラスの生徒に見つかる。
「お、お前はDクラスの綾小路か。何しに来たんだ!」
こいつは……
Aクラスのリーダーである可能性が極めて高い弥彦という生徒だったな。
「偵察だ。何か問題があるか?」
「無いわけないだろ!中には入るんじゃねえぞ!」
「そうか。では、中に入らせてもらうぞ」
「お前、話聞いてたか!?おい!待てって!勝手なことすんな!」
弥彦は立ち塞がるように回り込んでくる。
「まあ、そんなに慌てるなって。手土産もあるんだぞ?食べるか?」
オレはカバンから容器に入った焼きとうもろこしを取り出す。
「お、お前の渡すものなんて毒が入ってるかも知れねえだろ!お断りだ!」
単純にお土産として持ってきたのだが……
オレへの信頼の無さが地味にショックだ。
オレたち(弥彦のみ)が洞窟の前で騒いでいると、
「何をしている。客人を呼んでいいと許可した覚えは無いぞ」
オレの背後から、高身長で髪のない男───葛城が歩みを進めてきた。
「葛城さん!こいつら、俺達の寝床を偵察に来たんですよ!汚い連中です!」
「いや、全くもって汚くは無いと思うが……。葛城、中を見せてもらうことは可能か?」
葛城は少し考え、そして発言する。
「遠慮なく見てもいい。その代わり覚悟はしておくことだ。指1本でも触れた瞬間俺は他クラスへの妨害行為として学校側に通達する。その結果Dクラスがどうなるかは保証しない」
葛城の言葉は恐らくハッタリだ。
物に触れたくらいで妨害行為になる訳が無い。
「分かった。なら、ビニールを開けてもらえるか?中を見たい」
葛城はオレを見つめる。
「本当に良いのか?1つのスポットを1つのクラスが押さえた。そしてそれを試験終了まで守り通しポイントを得続ける。この暗黙のルールに踏み込めば大混乱が起きるぞ。当然、Aクラスも報復としてDクラスのベースキャンプに踏み込むことになる。面倒は避けるべきだ」
「確かに一理あるな。だが、オレ的には、Aクラスがオレたちのスポットに来て川遊びをしてもいいぐらいなんだけどな。大人数で遊んだ方が楽しいだろうし」
「とにかく。理解できたならこの洞窟からは去れ」
「分かった。じゃあな、葛城。あ、これは手土産だが、いるか?」
オレは焼きとうもろこしを渡そうとする。
「他クラスからの施しは受けない」
「……そうか」
オレたちはベースキャンプへの帰路に着く。
オレは受け取って貰えなかった焼きとうもろこしを齧りながら歩く。
こんなに美味しいのに、どうして受け取って貰えなかったんだ……