初日にバラさんでもええやん…… 作:匿名うゆ
サッカー部に入部してから2週間。
最初は「青春という曖昧なものを体験してみたかった」「楽しかった」という単純な理由で入部したのだが、今では放課後の部活を何よりも楽しみにしている自分がいる。
ホワイトルームに居た時から考えると、人間は変わるものだな。
たまに来る南雲先輩に絡まれるのは正直とても鬱陶しいが、なんとか我慢してやっている。
「清隆くん!今日、紅白戦やるらしいよ!」
昼休み。
コンビニ弁当を食べていたオレに、沖谷が嬉しそうに話しかけてきた。
「紅白戦?」
「うん、部内で2チームを作って練習試合をするらしいよ」
「なるほど」
試合か。
そういえば、練習はしていても本格的な試合形式はまだほとんど経験していないな。
「楽しみじゃない?」
「まあ、少しはな」
「ふふっ。清隆くん、楽しみな時の顔してる」
「そうなのか?オレは表情にはあまり出ないタイプだと思っていたが」
「うん。少なくとも最初に会った頃よりずっと表情豊かになったと思う」
……そうなのだろうか。
自分ではよく分からないが、もしそうなら悪い変化ではない気がする。
「あ、でも練習のときも先輩たちは上手かったけど、試合での先輩たちって凄く強いらしいよ?僕たち活躍できるかな?」
「オレたちならきっと大丈夫だ」
心からそう思う。
部員の実力はもう把握しているしな。
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放課後。
着替えを終えたオレたちはグラウンドへ向かっていた。
「緊張してきたなぁ……」
沖谷がいつもの弱気な声を出す。
「お前、いっつも緊張してないか」
「そりゃするよ……相手、ほとんど先輩だよ?」
「実力ならお前も十分通用すると思うが」
「そうかなぁ?でも、清隆くんに言われたらそうかもって思えてくるな。清隆くんこそバンバン点を決めちゃったりして」
「どうだろうな」
実際、自分がどれくらい通用するのかは気になる。
サッカーを始めてまだ2週間。
確かに成長速度には自信がある。
だが、経験の差は簡単に埋まるものではない。
「よーし、集まれー!」
部長の声で全員が集まる。
「今日は紅白戦をやる。1年の実力もだいぶ分かってきたしな」
「チーム分けを発表するぞ」
周囲がざわつく。
「清隆くん」
「なんだ?」
「同じチームだといいね」
「そうだな」
オレもそう思う。
ただ単に友達と同じチームになりたいと思う気持ちもあるが、オレと沖谷のコンビネーションは抜群だ。
「綾小路、沖谷、お前らは白チームだ」
どうやら願いが通じたらしく、同じチームのようだ。
顧問の先生がホイッスルを鳴らす。
「それじゃあ、30分一本!始め!」
ピーッ!
ボールを持ったのは赤チーム。
オレはセンターフォワードに配置されていた。
試合開始直後。
オレはあえて積極的には動かなかった。
周囲の選手の癖、走る速度、パスの質、視野の広さ。
情報を集めることを優先する。
右サイドの先輩は利き足が右。左へ追い込めばクロスは上がらない。
センターバックは足は速いが反転が遅い。
キーパーは前に出る判断が少し遅いな。
開始五分。
大体把握できたな。
「沖谷」
「うん?」
「次から少し攻めるぞ」
「え?」
その瞬間だった。
相手のパスを読んでいたオレは、一歩だけ前へ出る。
パシッ!
「なっ!?」
インターセプト。
相手チームのパスを予測し、パスが届く前に守備側の選手がボールを途中で奪い取るプレーだ。
そのまま前へ運ぶ。
「止めろ!」
二年生が一人飛び出してくる。
重心が高いな。
軽く右へフェイント。
相手の足が流れる。
そのまま左へ切り返す。
「うわっ!」
簡単に抜けた。
さらに一人。
今度はパスコースを消してくる。
「沖谷!」
「はい!」
ワンツー。
沖谷はダイレクトで返してくる。
いい判断だ。
ボールを受けたオレはペナルティエリアへ侵入。
「打たれる!」
そう思わせて横へ流す。
「え?」
フリーになった一年生が慌てながらシュート。
ゴール。
「おおおお!」
白チームが歓声を上げる。
「綾小路、ナイスパス!」
「ああ、お前もナイスシュートだ」
思った以上に面白い。
一人で抜くより、味方を使った方が簡単だ。
サッカーとはそういう競技なのだろう。
「おいおい……」
「2週間前までボールを触ったことないやつとは思えないな……」
先輩たちがざわつく。
オレ自身も驚いていた。
試合になると、練習では見えなかったものまで自然と見えてくる。
相手の視線、味方の動き、空いているスペース。
頭で考えるより先に身体が動く。
ホワイトルームで培われた分析能力が、サッカーという競技にも応用できているらしい。
「清隆くん!」
沖谷が笑いながら親指を立てる。
「やっぱり清隆くんはすごいよ!」
「……そうでもない」
そう答えながらも、胸の奥は少し熱くなったような気がした。
勝つだけではない。
仲間とゴールを喜ぶ。
その感覚が、思っていた以上に心地よかったのだ。
前半も、残り5分ほどになった。
状況としては、オレたちのチームが押し込まれ気味で、なかなか決定機を生み出せない。
オレが動くとするか。
「清隆くん!」
沖谷がボールを預けてくる。
オレはワンタッチで受けると、前を見る。
相手はすぐに二人で挟みに来た。
なるほど、どうやら警戒され始めているらしい。
なら、無理に突破する必要はない。
左へ一度フェイントを入れ、右足のアウトサイドで軽く流す。
「うわっ!」
相手二人の間をボールだけが抜ける。
そこへ走り込んできた一年生が受けた。
「ナイス!」
さらにワンタッチで沖谷へ。
沖谷も迷わず前線へ送る。
リズムよくパスが繋がり、相手陣内へ押し込んでいく。
「なんか急に回るようになったぞ!」
二年生が驚く。
「あいつがボールを触ると全然違うな」
「テンポが速い……」
オレは特別なことはしていない。
相手より少しだけ早く先を考え、味方が一番動きやすい場所へボールを置いているだけだ。
「ナイスカット!」
守備でも同じだった。
相手が縦へ出そうとした瞬間、一歩だけ前へ出る。
ボールを奪う。
そのままターン。
カウンターが始まる。
「戻れ!」
相手が慌てて走る。
だが遅い。
沖谷へ預ける。
沖谷はそのままシュート。
キーパーが弾く。
「こぼれ玉!」
詰めていたオレが押し込んだ。
「ゴール!」
2点目が決まった。
「ナイス!」
「沖谷、いいシュートだったが惜しかったな」
「いや、清隆くんのおかげだよ!」
沖谷は満面の笑みでそう言う。
その後も流れは変わらない。
オレがボールを持ち、そこから流れが白チームに傾く。
もう試合の結果は決まったようなものだ。
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その後点を守りきり、オレのチームが勝利した。
「綾小路、お前すげえな。もしかしたら南雲の奴の1年の時より上手いんじゃねえの?」
2年の先輩が話しかけてきた。
「そうですかね」
「おい、お前そんなこと言って南雲に聞かれても知らねえぞ?」
別の先輩が注意するような口調で先輩に話しかける。
「いやでもなあ、こいつの活躍見てたら南雲の野郎にも勝てそうだなって思ってよ」
「おい、誰に勝てるって?」
「な、南雲!?お前いつから!」
「おいおい、そんなビビんなよ、まあいいさ。それより見てたぜ、綾小路。獅子奮迅の大活躍だったじゃねえか」
どうやらいつの間にか試合を見られていたようだ。
「そうですかね。先輩にそう言われるとは光栄です」
「微塵も思ってなさそうな顔で言うんじゃねえよ。ま、確かにオレの相手にはちょうどいいかもな。最近退屈してたんだ。次のゲームは俺を入れてくれよ」
その一言で、周囲の空気が変わった。
「え、本気ですか?」
今村先輩が驚いたように聞き返す。
「本気も何も、せっかく面白そうな一年がいるんだ。遊ばないともったいないだろ?」
南雲はそう言って笑う。
「綾小路、お前はどうだ?」
「オレは構いません」
「即答かよ。普通は南雲副会長相手はちょっと……とか遠慮するもんだぞ?」
「試合をするだけですよね?」
「ああ」
「なら問題ありません。」
「……ククッ」
南雲は楽しそうに肩を震わせた。
「いいじゃねえか。そういう奴は嫌いじゃない。」
急遽、もう一試合行われることになった。
部員たちも練習を中断し、自然と周りへ集まってくる。
「副会長が試合をするのか」
「久しぶりじゃないか?」
「相手は一年の綾小路だろ?」
「面白くなりそうだな」
ざわめきが広がる。
オレはその様子を眺めながら軽くストレッチをした。
ずいぶん大事になってきたな。
オレは平穏に部活を楽しみたかっただけなんだが。
「綾小路くん」
今村先輩が小さな声で近寄ってきた。
「無理はしないでいいからね。いくら綾小路くんでも南雲くん相手はちょっと厳しいかもね。でも、綾小路くんならきっといい勝負になると思う」
「買い被りすぎですよ」
「そうかなぁ」
「そうですよ」
そう返すと、今村先輩は苦笑した。
「よーし、チーム分けするぞ!」
部長が声を上げる。
南雲は迷わずオレのもとまで歩いてきた。
「味方同士で活躍した方が勝ちってのも面白いが、敵同士の方が面白いよな?」
「そうですね」
「決まりだ」
部長も苦笑しながら頷く。
「じゃあ南雲チーム対綾小路チームでいこう」
その一言で、周囲から歓声が上がる。
「始まるぞ……」
「副会長が本気出すの久々じゃないか?」
「一年がどこまでやれるか見ものだな」
南雲はニヤリと笑い、ボールを軽く蹴り上げた。
「綾小路」
「なんですか」
「今度は手を抜くなよ」
「……」
どうやら、この人はオレはPK勝負で手を抜いていたことをまだ覚えていたらしい。
「その言葉、そのままお返します」
一瞬だけ、南雲の笑みが深くなった。
「ハハッ、最高だ。今日は退屈しなくて済みそうだぜ」
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ホイッスルとともにボールを蹴り出し、試合が始まる。
開始10分、大きな動きは両チーム共に無い。
「おい綾小路、さっきの試合の勢いはどうした?」
「そうですね。少し厳しいかもしれません」
その原因は今話しかけてきた南雲先輩にあった。
彼はフォワードでありながら守備が上手く、味方のパスがことごとくカットされてしまうのだ。
まあ、それはオレにも言えることなのだが。
南雲先輩の動きはもう大分見切った。
オレが攻める番だ。
オレは中盤でボールを収め、前線の味方へパスをしようとする。
南雲先輩がブロックにきた。
視線で誘導し、パスを出す。
パシッ。
なんと、南雲先輩にパスをカットされてしまった。
「お前のそれはもう見え見えなんだよ」
「さすがですね、南雲先輩」
正直、オレもこのパスをカットされるとは思っていなかった。
南雲雅という男の評価を少し見誤っていたみたいだ。
「だろ?」
南雲先輩はそのまま笑いながらボールを前へ運ぶ。
速いな。
単純なスピードだけではなく、奪われないような足元の技術まである。
これは使えそうだな。
そのまま南雲先輩は一人でドリブルをし、シュートを打つ。
しかし、キーパーが好セーブを見せた。
「ナイスキー!」
「チッ。次は決める」
「「「キャー!!」」」
女子の黄色い歓声が聞こえた。
どうやら南雲先輩は人気があるらしく、試合をするとの事で見物人が結構来ているらしい。
オレがボールに触ると、今度も南雲先輩が距離を詰めてくる。
「また同じ手か?綾小路」
先ほどと同じようにパスコースを塞ぎに来る。
しかし今回は違う。
オレはパスを出すと見せかけ、ボールを足裏で止める。
南雲先輩が半歩だけ体勢を崩した。
ここだ。
オレは南雲先輩の足元の技術を参考にしたドリブルで南雲先輩の横を抜けていく。
「なにッ!」
そのままペナルティエリアに侵入し、右足を振り抜く。
ボールがネットに突き刺さる。
ゴール。
周囲がどよめく。
「おいあいつ、副会長を正面から抜いたぞ……」
「かっこいい!あの人名前なんて言うんだろう!」
「綾小路くんってサッカー上手いんだ……」
「チッ。綾小路、次は無いと思えよ」
「存じてます」
「生意気な野郎だな」
その後、オレに正面から抜かれた精神的ダメージがあったのかどうかは分からないが、南雲先輩の勢いが落ち、点差が覆ることはなく試合が終わった。
「お疲れ様です。いい試合でしたね」
「けっ。よく言うぜ綾小路。だが認めてやる。お前はオレが退屈を潰せるに値する存在だ」
「はあ……ありがとうございます?」
「喜べよ、お前は俺が潰してやる」
「同じ部活でもないのに潰すも何も無いと思いますが」
「ま、いずれ分かるさ」
そう言って南雲先輩は去っていった。
何やら意味深だな。
これから何かがあるのだろうか。
ちなみに、オレが帰る時には試合を見ていたであろう複数人の女子に話しかけられた。
正直嬉しい。
正直ワールドカップに影響されたとこあるよね。
あと非公開にしててごめんなさい。