初日にバラさんでもええやん…… 作:匿名うゆ
「どうしたんだ?急に呼び出して」
「あんたに会いたいって人がいるのよ」
紅白戦で南雲先輩と勝負をした次の日の放課後、オレはサイドテールのツンとした雰囲気の女子に呼び出され、特別棟まで来ていた。
サイドテールの女子生徒はそれ以上何も言わず、静かな廊下を歩いて去っていく。
特別棟は普段あまり来ることのない場所だけあって、人の気配がほとんどない。
呼び出されるような心当たりは特に無いのだが……
もしかして、告白か?
カツン、カツン
そこに現れたのは、銀髪のベレー帽を被った杖を持った女子生徒だった。客観的に見て文句無しに美少女と言えるだろう。
「あんたがオレを?」
「綾小路くん、昨日の試合では大活躍でしたね」
「ああ、見ていてくれたのか」
「ええ、お久しぶりです、綾小路くん。坂柳有栖と申します。8年と82日ぶりですね」
オレは記憶を探る。
ホワイトルーム時代に会った人間は数えるほどではないが、少なくとも目の前の少女に見覚えはない。
沖谷の時もそうだが、自分だけ覚えていないというのは相手に対して失礼ではないだろうか。
今度からは気をつけよう。
「すまない。お前の事は記憶にないな」
「ホワイトルーム」
「なんだ?噂でも聞いたのか?それなら詳細は話せないぞ」
「え?」
「?」
「ど、どういうことですか?ホワイトルームの事を誰かに話しているんですか?」
坂柳の余裕そうな表情が崩れた。
どうやらこの少女はホワイトルームについて知っているらしい。
沖谷という前例がいる以上もう驚くべきことではないが。
「ああ、同じホワイトルーム生の沖谷ってやつに初日にバラされてな」
「え、嘘ですよね。私と綾小路くんとの秘密が……」
何やらボソボソ言っているが、あまり聞き取れない。
「コ、コホン。私は貴方がホワイトルームで作られた最高傑作だということも知っていますよ?」
「それもバラされたな」
「これもですか!?」
「ああ、残念なことにな」
「と、とにかく、偽りの天才を葬る役目は私にこそふさわしいですから、それが言いたかったんです」
「葬るも何も物騒だな、仲良くすればいいじゃないか。敵になるより友好的な関係の方が良いと思うが……そうだ、友達にならないか?」
「……友達」
坂柳は目を丸くしたまま動かない。
どうやら予想外の返答だったらしい。
少し積極的すぎたか?
新しい友達ができるチャンスだと思ったのだが……
「……しょうがないですね。なってあげますよ、友達に。でも、勝負はしてくださいね?」
良かった、友達になってくれるみたいだ。
他クラスの女子の友達ができるなんて、もしかしてオレは一般的に言うリア充なのではないだろうか。
「ああ、分かった。勝負と言っても何をするんだ?」
「チェスはいかがでしょうか?」
「ああ、いいぞ。チェスは得意なんだ」
「私もですよ。では、図書館に行きましょうか」
「図書館?なぜ図書館なんだ?」
「おや、ご存知ないですか?図書館にはチェスのセットがあるんですよ」
「そうなのか。それは有益な情報だな」
オレたちは図書館に着く。
盤面が整えられ、白と黒の駒が規則正しく並ぶ。
久しぶりに触れるチェス盤だったが、不思議と手は覚えていた。
ホワイトルームでは嫌というほど叩き込まれた競技の一つだからな。
「では、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」
…………
「……リザイン。私の負けですね。想像以上です、綾小路くん」
「いや、それはオレのセリフだ。まさかここまで追い詰められるとは思わなかった」
坂柳のチェスの実力は想像以上で、何度かヒヤリとさせられる場面があったのは事実だ。
「そうですか。しかし、綾小路くんに認められるのはとても嬉しいですね。私、貴方に影響されてチェスを始めたんですよ?」
「オレがチェスのカリキュラムを受けているところを見ていたのか?」
「ええ、そうです」
まさか、部外者に見られているとはな。
「綾小路くん。今回は負けてしまいましたが。これからの勝負で負けるつもりはありませんからね」
「これからの勝負?」
「あら、綾小路くんはこの学校のシステムにはまだ気づいておられないのですか?」
「いや、何となくは把握しているが、完全には理解していないな」
Sシステムの説明や、先輩等の発言から何かがあることは理解しているが、まだ全貌は把握できていない。
「それは意外ですね。綾小路くんのことですからこの学校の事を完璧に把握しているものかと」
「買い被りすぎだ。オレはそこまで凄い人間ではない」
「ふふっ。あのサッカーで見せた運動能力に加え、私にチェスで勝っておいてその言い草は面白いですね。それに、綾小路くんのことですから実力は隠すものかと思っていましたが」
驚いた。
坂柳はオレが何事もなければ実力を隠していた事を予測していたのだ。
「まあそれはそうだ。誰かのおかげで実力を隠すことによって不都合が起こるようになったからな」
「沖谷くんのことですよね?彼のことは私は見たことがありませんが……優秀なので?」
「ああ、沖谷は優秀だぞ。少なくともオレのクラスではオレの次に優秀だな。……高円寺という未知数なやつはいるが」
「願わくば沖谷くんともチェスの手合わせをしてみたいですね」
確かに、沖谷のチェスの実力は気になるな。
今度やってみるとするか。
「それじゃあ、帰るとするか」
一通り話した所で、オレは帰りを切り出すことにした。
すると、坂柳がオレの両手を2回りも小さな手で包み込んできた。
「綾小路くん、覚えていてください。人は触れ合うことで温かさを知ることができる。それはとても大切なもの。人肌のぬくもりも、けして悪いものではありません」
「そういうものなのか」
「そういうものなのです。私からの、遅くなったメッセージです。さあ、帰りましょうか」
オレたちはとりとめのない話をしながら寮まで帰った。
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「おはようっ綾小路くん」
入学して3週間。
友達の少ないオレにそう挨拶してきたのは佐藤という女子生徒だ。
どうやらオレと南雲先輩との勝負の試合を見ていたらしく、オレに興味を持ったらしい。
オレの勘違いでなければ、相当な好意を持たれていそうだ。
坂柳といい佐藤といい、本当にモテ期が来てるんじゃないか?
「おーい、あ、綾小路くん……?」
「ああ、すまない。おはよう佐藤。少し考え事をしていた」
「ちょ、ちょっとー。びっくりさせないでよ!」
「すまないな」
「えっと……綾小路くんさ、今日良かったら一緒に遊びに行かない?」
「今日か?今日は部活もないし、いいぞ」
「え!?ほんと?やったー!じゃあ放課後ケヤキモール行こうね!」
「ああ」
これは放課後デートの約束というやつだろうか。
青春成分が多すぎるな。
嬉しい。
「何よそんなにニマニマして、気持ち悪い。佐藤さんとのデートがそんなに楽しみなの?」
隣の堀北がいつものように罵倒しながら話しかけてきた。
あれ、オレのモテ期どこいった?
さっきまでの青春の空気がどっかに行ってしまったぞ。
「ニマニマなんかしてないぞ。楽しみなのはそうだが」
「そう?ま、ご機嫌なのはいいけど問題は起こさないようにね」
「はいはい……」
こいつはオレの事をなんだと思っているんだ。
いつものように授業を受けていると、茶柱先生の授業の時間になった。
「今日は授業を真面目に受けてもらうぞ、今から小テストを行う」
聞いてないぞ、と池や山内たちがぶうぶう文句を言っている。
小テストが配られると、驚いた。
ほとんどが拍子抜けするほど簡単な問題だ。
解き進めていると、最後の3問が桁違いに難しいことに気づいた。このクラスでも解ける生徒はかなり限られるだろう。
これ、このテストに乗ってるのがミスじゃないのか?
ま、オレが解けない問題など出るはずもないのだが。
一般常識やサブカルチャーとかの問題を出されたら解けずに泡吹いて倒れるんじゃないかって?
イヤーなんのことだか……
ペンを置く音が教室中で鳴り、先生が答案を集めていく。
難問に苦戦した者も多いのか、ため息があちこちから聞こえてきた。
テストが回収された後、堀北に話しかける。
堀北はどれくらいできたのだろうか。
「堀北、最後の問題解けたか?」
「いや、私には解けなかったわ、綾小路くんよりは点数を取れた自信があるけれど」
「堀北、悪いがオレは100点だぞ?」
「冗談でしょ?部活と遊びに呆けてる貴方に最後の問題が解けるはずないわ」
「堀北、あまりホワイトルームの教育を舐めないでもらいたいな」
これでケアレスミスで100点以外だったら超恥ずかしいな。
「だから、それはなんなのよ……教えてくれない癖に気になることを言うのはやめてちょうだい」
「悪いな」
「はあ……」
堀北、これ見よがしにため息を着くのはやめてくれ。
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「綾小路くん、じゃあ行こっか!」
放課後、佐藤はそう言うと、オレに腕を絡めてきた。
柔らかな感触が腕に伝わる。
当たってますよ、佐藤さん。
「ああ、行こうか。だが佐藤……これはさすがに近くないか?」
「え、そ、そうかな。ごめん」
佐藤はしおらしくそう言う。
そう、佐藤はイケイケのギャル系に見えて実は普通の乙女なのだ。
「いや、特に問題は無いから気にする事はないぞ。有り体にいえば、少し周りの視線が気になるがな」
「そう?ありがとう、綾小路くん。確かに、目線は気になるね……」
佐藤は周りをキョロキョロ見回して、オレたちを見る視線(池や山内の殺気の籠った視線も含む)に気づいたらしい。
「じゃ、行くか」
「うん!」
ケヤキモールに着くと、放課後の割にはそこそこの人が居て賑わっていた。
服屋や雑貨店を見て回り、佐藤に勧められるままクレープを買う。
「はい、あーん……は恥ずかしいから自分で食べてね!」
あーん?なんだそれは?
「?……当然自分で食べるぞ」
「そこは少しくらい照れてよ!」
照れるべきだったらしい。
難しいな……
そんなたわいも無いやり取りをしてるいると───
「おや?」
聞き覚えのある声がした。
振り返ると、見覚えのあるベレー帽を被った少女がいた。
「坂柳か」
「こんにちは、綾小路くん。奇遇ですね」
その隣には神室が立っている。
「ああ、奇遇だな」
「あんたも面倒なのに捕まるね」
神室が心底そう思っていそうな声でそう言う。
「真澄さん。それは失礼ですよ」
「事実だし」
「コホン、ところで……そのお方は?」
どうやら、オレの隣に立っている佐藤が気になるらしい。
「同じクラスの佐藤だ」
「佐藤麻耶です」
少し緊張した様子で佐藤が頭を下げる。
「初めまして。私はAクラスの坂柳有栖と申します」
優雅に一礼する坂柳。
「綾小路くん、お買い物ですか?」
「ああ」
「お二人で?」
「そうだ」
「なるほど」
坂柳は意味ありげに微笑む。
「青春、というやつですね」
「……そういうことになるのかもしれないな」
「ふふっ」
坂柳は満足そうに笑った。
一方で佐藤は、何故か少しだけ落ち着かない様子だった。
「あ、あの、綾小路くん」
「どうした?」
「坂柳さんって、綾小路くんと仲良いの?」
「ああ、先週あたりに友達になった」
「そうですが……言うなれば、幼なじみのようなものですよ」
「お、幼なじみ……そうなの?」
「いや、こいつがオレのことを勝手に認識してただけだ。幼なじみとは少し違う気がするな」
「ふふっ。つれないですね綾小路くん。」
坂柳は杖を軽く鳴らし、一歩下がる。
「それでは、私たちは失礼します。今日はお友達との時間を大切になさってください」
「ああ」
「また近いうちに、お会いしましょう。綾小路くん」
そう言い残し、坂柳と神室は人混みの中へ消えていった。
二人の姿が見えなくなると、佐藤が小さく息を吐く。
「凄く可愛くて綺麗な人だったね……」
「確かにそうだな」
「他クラスのそんな人と友達なんだ……」
「この前なったばかりだけどな」
「私も負けないように仲良くならないと」
「オレはもう佐藤とは仲がいいと思ってるけどな」
「綾小路くんって、たまにそういうこと普通に言うよね……」
佐藤は顔を赤くしてそう言う。
「何か変なことを言ったか?」
「ううん、何でもない!」
そう言って佐藤は照れ隠しをするようにオレの少し前を歩き始めた。
その後の佐藤とのデートは思っていたより楽しいものだった。
良ければ高評価よろしくお願いします!