初日にバラさんでもええやん…… 作:匿名うゆ
放課後、サッカー部の練習、勉強会の関係で最近はあまり参加できていなかったが、ずっと参加しなくて体が鈍るのも嫌なので参加することにした。
それに、もう1つの目的もあるしな。
グラウンドへ向かうと、既に何人もの部員が準備を始めていた。
「お、綾小路くん!」
二年の今村先輩が手を振る。
「ちょっと久しぶりじゃない?。最近見なかったけど何してたの?」
「クラスの勉強会を少し手伝っていました」
「おお、綾小路くん勉強もできるんだ。凄いね」
「まあ、誰にも負けないくらいの自身はあります」
「えぇ!そんなに?」
「そうですね。心配なのは教えてるクラスメイトですよ。何せ、Dクラスなものですから」
「あぁ……それは大変だね」
今村先輩は困ったように笑う。
「とりあえず来てくれて良かった。今日は久々だし、軽めに体動かしていってね」
「そうですね、ありがとうございます」
軽くランニングを済ませ、ボールを蹴る。
足に伝わる感覚は悪くない。
四日ほど空いただけで鈍るほど、この1ヶ月の練習は甘くなかったということか。
一通り練習を済ませ、もう1つの目的を果たすことにする。
「今村先輩、1年の最初の中間テストの過去問って持ってますか?」
「えっ、もう気づいたんだ……持ってるけど、どうしたの?」
「譲って欲しいなと思いまして、もちろん、ポイントは払います」
「そうだなー、ちなみに何ポイントを払う予定?」
「3万ポイントで小テストの過去問まで貰えたら嬉しいですね」
「そっかぁ」
今村先輩は悩み始める。
その時、今最も聞きたくない声が聞こえてきた。
「おいおい、俺抜きで面白そうな話してんじゃねえかよ」
「南雲先輩、どうしたんですか?」
「過去問の存在にもう気付いたのか?綾小路」
「まあ、あれば便利かなと思った程度ですが」
「ほう?お前、頭の方も結構回るんだな。綾小路、そうだ、お前生徒会入れよ」
「いや、生徒会はちょっと……」
せっかくサッカー部が楽しいのに。
こんな提案はお断りだ。
「なんだ?俺の誘いを断るのか?」
「そうなりますね。今はサッカー部が楽しいと思えてきたので」
「まあいいさ、気が向いたらいつでも来いよ。俺が直々に教育してやるからよ」
「それに、俺はDクラスですし、対外的にも良くないかと」
「ま、確かにそうだな。早くAクラスまで上がってこいよ?Dクラスにどうにか出来るかは疑問だがな」
「はい……」
「過去問は俺が無料でやるよ。後輩に対してのサービスだ。優しいだろ?スマホ出せ、データで送ってやる」
「おお、ありがとうございます」
なんだ、南雲先輩にも良い所があるじゃないか。
それを持ってあまりある悪い所には目を伏せておこう。
「ただし、一つだけ条件がある」
「条件ですか」
「これからの学校生活で結果を出せ」
「……それだけですか?」
「ああ。せっかく面白い奴を見つけたんだ。口だけじゃつまらねえだろ」
「分かりました」
「それと」
南雲先輩は少しだけ声の調子を変えた。
「この学校はな、勉強だけできても意味がねえ。運動だけできても意味がねえ。人を動かせる奴が最後に勝つ」
「人を動かす、ですか」
「ああ。お前は最近クラスで勉強会なんて開いてるらしいじゃねえか」
そこまで知っているのか。
「耳が早いですね」
「生徒会を舐めんな。校内のことなら大体入ってくる」
それだけ言って、南雲先輩は笑う。
「まあ、そのまま続けろ。今のお前がどこまでやれるのか見てみたい」
「ありがとうございます」
「礼なんざいらねえ。どうせ俺が損するわけじゃないしな。それに、どうせお前はいつか俺に潰されるんだからな」
「じゃ、俺は生徒会があるから行くぜ」
南雲先輩は片手を上げ、そのまま校舎の方へ歩いていく。
「綾小路くん」
今村先輩が苦笑いを浮かべる。
「君、本当に気に入られちゃったね」
「そうなんですか?」
「南雲が一年を直接勧誘するなんて、私は見たことないよ」
「断ってしまいましたが」
「だから余計に面白がられてるんじゃないかな」
なるほど。
あの人ならあり得そうだな。
「それじゃ、俺も戻ります」
「うん。また部活来てね」
「はい」
目的は果たした。
これで勉強会も、もう少し効率よく進められるだろう。
……ただ。
『人を動かせる奴が最後に勝つ』
南雲先輩の言葉だけが、妙に頭の中へ残り続けていた。
俺はクラスの連中を仲間だと認識し始めている。
しかし、俺の元々の考えはそうでは無い。
人は皆、俺の駒であり、俺がそれを動かす。
さて、どっちが正しいのだろうか。
まだ俺には分かりそうもない。
寮へ戻る途中、オレは端末を取り出した。
画面には、南雲先輩から送られてきたファイルが表示されている。
『一年・5月小テスト。一年・5月中間試験』
小テストの方を見てみると、驚くべきことにオレたちが受けたテストと完全に一致していた。
最後の難易度の違う3問から薄々察してはいたが、まさか完全に一致しているとはな。
もう1つ気付いたことがある。
テスト範囲がオレたちの勉強している範囲と違うのだ。
これは、中間試験の問題も完全に一致していると考えた方が良いのかどうだろうか。
配布するのは……範囲の変更も考えて3日前でいいか。
勉強の意欲を削いでも良いことはないしな。
それにしても、無料でここまで役立つ資料を手に入れられたのは幸運だった。
……もっとも、南雲先輩が見返りを何も求めない人間だとは思っていない。
結果を出せとは言われたが、いずれ何かしらの形で返すことになるのかもしれないな。
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翌日、HRが終わったあとにオレは茶柱先生に質問に行くことにした。
「茶柱先生、少しお時間良いでしょうか」
「ああ、なんだ?綾小路」
「中間テストの範囲が、去年とは違うようなのですが、範囲の変更などはあるのでしょうか?」
「ほう?過去問でも手に入れたのか?」
「はい。そうです。で、質問の答えはどうなのですか?」
「答えられない。とだけ言っておく。それで十分だろう?」
暗に変更はある、という事だな。
「はい。参考になりました。ありがとうございます」
その数日後、試験範囲変更が通達された。
教室は、「今更変わるのかよ」「昨日まで勉強してたのが無駄になった」などと少しざわついているが問題は無い。
オレは端末を開き、新しい範囲を確認する。
……予想通りだ。
追加されたのは、過去問で頻出だった単元と一致している。
過去問を分析した意味は十分あったようだ。
「綾小路くん」
隣から堀北が声を潜める。
「あなた、驚いていないのね」
「少し予想していただけだ」
「予想?」
「ああ。だから勉強会でも、範囲外だが重点的にやっていた」
「……そういうことだったの」
堀北は納得したように頷く。
「あなた、最初からそこまで考えていたのね」
「ま、タネはあるがな」
「ふぅん。私にはそのタネは教えてくれないの?」
小さく呆れたように息をつく堀北。
「堀北には教えても良いか。過去問を貰ったんだよ」
「!そんな方法があったのね……私には思いつかなかったわ」
「まあな。オレは悪知恵が働く方なんだ」
「今回ばかりは貴方に助けられたわね……」
堀北、なぜ悔しそうなんだ。
その日の放課後。
図書館へ行くと、池たちは青ざめた表情で駆け寄ってきた。
「綾小路!試験範囲変わったぞ!」
「いや、知ってるぞ」
「どうすんだよ!俺たちもう終わりじゃねえか!」
「落ち着け」
オレは鞄からノートを取り出し、机へ置く。
「変更後の範囲も含めて、既にまとめてある」
「……え?」
「う、嘘だろ?」
「いや、本当だ」
ページを開くと、変更された単元に赤線が引かれ、重要なポイントまで書き込まれている。
「今日からは予定を変更する。この範囲を優先してやるぞ」
池が口を開けたまま呟く。
「お前……未来でも見えてんの?」
「見えていたら、宝くじでも買うさ。理由はもちろんある」
そう返すと、図書館に困惑と小さな笑いが広がった。
堀北はそんなやり取りを見ながら、小さく微笑む。
「ふふ……」
「何だ?」
「いいえ。あなたがいると、問題が起きても不思議と何とかなる気がしてきただけよ」
「買い被りすぎだ」
「そうかしら」
そう言いながらも、堀北の表情にはいつもの棘が少しだけ薄れていた。
オレはノートを開き、三人へ視線を向ける。
「それじゃあ始めるぞ。残された時間は多くない」
「「「おう!」」」
先日までとは違う。
三人の返事には、焦りだけでなく、少しだけ自信も混じっていた。
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「みんな、少し時間を貰って良いか?」
中間試験3日前の放課後、オレは立ち上がってクラス全体に向かってそう言った。
「えー、何?綾小路くん」
「勉強しなきゃ行けないから早くしてよね」
「中間試験の事なんだが、これを見て欲しい」
オレは印刷した過去問を配り始める。
紙が机の上を渡っていくにつれ、教室の空気が少しずつざわめき始めた。
「これって……過去問?」
「ああ、そうだ。ちなみに、オレは小テストの過去問も貰ったんだが、その問題は一言一句1年前と同じ問題だった。つまり、今回の中間試験ではこれと同じ問題が出る可能性が高い。そうじゃなくても、勉強には役立つだろうから解いてきてくれ」
「ええ!凄いじゃん!」
「こんなのあるんだったら勉強そんなに頑張らなくても良かったかもなー」
「綾小路、まじナイス!」
教室のあちこちから驚きの声が上がる。
紙を食い入るように見る者、隣同士で問題を見比べる者、感心したようにこちらを見る者。
あちこちから礼を言われ、少しだけ居心地が悪くなる。
感謝されるという経験自体がほとんどなかったからだ。
礼を言われるほど大したことをしたつもりはない。
ただ、手に入れた情報を共有しただけだんだがな。
「みんな、一つだけ勘違いしないでくれ」
教室が静かになる。
「これは去年の問題だ。今年も全く同じものが出る保証はない。だから答えを丸暗記するんじゃなくて、どうしてその答えになるのかを理解してほしい。それに、期末試験でも同じ手法が使えるとは思えないからな」
「そっか……」
「なるほどな」
「そこまで考えてなかったわ」
納得したように頷く者もいれば、バツが悪そうに苦笑いを浮かべる者もいる。
すると、平田が席を立った。
「綾小路くん、ありがとう。みんなも、せっかくの機会だからこの過去問を活用しよう。分からないところがあったら、今日の勉強会で教え合えばいい」
「賛成!」
「今日も勉強会行くわ!」
平田の一言で、教室の雰囲気はさらに前向きなものへ変わっていく。
その様子を見ていた櫛田が、嬉しそうに笑った。
「綾小路くんって、本当に優しいよね」
「そうか?」
「うん。普通だったら、自分だけで持っておこうって思う人もいると思うもん」
「一人だけ点数を取っても意味はないからな」
それが本音だった。
一人で高得点を取るより、クラス全体の平均点が上がる方が、結果として得られるものは大きい。
……もちろん、それだけが理由ではない。
気付けば、このクラスが退学者を出す光景を見たくないと思うようになっていた。
「あなたらしい考えね」
隣から堀北が静かに口を開く。
「でも、少し意外だったわ」
「何がだ?」
「あなたなら、自分からクラス全員の前で話すような真似はしないと思っていたもの」
「まあな。心境の変化ってやつだ」
3日後。
ついに中間試験当日を迎えた。
教室にはいつもの騒がしさはなく、問題集を開く者、参考書を見返す者、静かに目を閉じている者。
池たちでさえ最後までノートを見返している。
数週間前のあいつらからは考えられない光景だった。
そして迎えた結果発表、オレたちのクラスは全員が赤点を回避した。
エタりそうよね
それを防ぐためにも高評価よろしくお願いします!