初日にバラさんでもええやん…… 作:匿名うゆ
結果的に、中間試験の平均点はDクラスは2位だった。ちなみに、1位はBクラスである。
過去問があったとはいえ、平均的な学力の低いDクラスにとってこれは快挙だ
坂柳なら過去問を確実に入手しているはずだが、どうしてAクラスより上という結果になったのだろうか。
「なんだ、そんなことですか」
中間試験の結果発表の日の放課後、たまたま坂柳と図書館で出会ったオレは、その旨の質問を投げかけてみた。
「求心力を高めるためには、必要なことですよ」
「求心力……まさか、Aクラスには派閥があると聞いたが、そういうことか?」
坂柳は答えずに笑う。
坂柳、なかなか怖いやつだ。
「綾小路くん、この後予定等はありますか?」
「一応祝勝会をする予定だ」
「あら、残念です。今からチェスでもどうかと思ったのですが」
坂柳とはたまにチェスをしたりする仲だ。
勝率は引き分けを除くと、オレが6割で坂柳が4割くらいだ。
「いや、2、3局ならできる時間はあるぞ」
「そうなのですね。なら、やりましょうか」
チェス駒を規則正しく並べ、勝負が始まる。
…………
「これで、チェックメイトだな」
「ふふっ、負けてしまいましたか。一体、綾小路くんに勝ち越せるのはいつになるのでしょうか」
「さあな。だが、オレもお前との勝負で成長しているんだ。そう簡単にはいかないと思うぞ」
「そうですね。私も鍛錬を積むことにします。さて、もう1局やりましょうか」
そう言って坂柳は駒を並べ始める。
チェスを打っている時にはいつも思っているが、坂柳は一つ一つの所作が様になるんだよな。
「あれ、清隆くん?」
二局目を始めようとした、その時だった。
聞き慣れた声が図書館の静寂を少しだけ揺らした。
「ああ、沖谷か」
駒を並べていると、本を脇に抱えた沖谷が話しかけてきたようだ。
「もしかして、チェスしてるの?」
「まあな、見ての通りだ」
「おや、あなたはDクラスの沖谷さんですか。」
「えっと……あなたは?」
「申し遅れましたね、坂柳有栖と申します。沖谷さんのことは存じておりますよ?」
「えぇ、どうして僕のことを?」
「綾小路くんからも話を聞きますし……私と綾小路くんの秘密をバラしたのはあなたなんですからね」
「え、ごめんなさい……秘密って?」
「ホワイトルームのことです」
「あ、それは……」
「まあ坂柳、許してやってくれ。それに、お前には特に関係ないだろう。1番被害を被ったのはオレだ」
「そうですが……分かりました。沖谷さん、私とチェスで勝負をしてください」
「しょ、勝負?分かったよ。僕も久しぶりにチェスしたかったから」
「ええ、最高傑作に及ばなかったあなたの実力、測らせてもらいますよ」
なんか、オレを置いて勝負が始まってしまったぞ。
しかし、これは良い機会だな。沖谷の実力はオレも気になっていた。
「さあ、どちらの手にしますか?」
「じゃあ、左で」
「……私が先手ですね」
「うん、よろしくお願いします」
駒が動き始める。
序盤は互いに定石通り。
静かな図書館には、駒を置く乾いた音だけが響いていた。
沖谷もやはり強いな。オレは盤面を見ながらそう思った。
中盤に差し掛かる頃、沖谷には少し迷いが見られたが、終盤に差し掛かるにつれ迷いなく指していった。
どちらかが優勢というより、均衡したまま駒だけが減っていく。
三十分ほど経った頃、沖谷が小さく息を吐いた。
「……負けました」
「ありがとうございました」
坂柳は穏やかに一礼する。
最後は坂柳の勝利になった。
しかし、その差はほんのわずかだったと思う。
「強かったですよ、沖谷くん。私がここまで考えさせられた相手は久しぶりです。と、綾小路くんがいなければ言っていたところでした」
「ありがとう。まだ清隆くんには届かなかったか……」
「ええ。やはり、綾小路くんは別格です」
「いや、2人とも十分に強かったと思うが」
「そう?ありがとう、清隆くん。慰めでも嬉しいよ」
決して慰めではなく、本心から思ったのだが……
「次はお二人で指されてはどうですか?」
「そうだね。清隆くん、今からする?」
時計で時間を確認する。
時刻は5時半、祝勝会の時間までもうすぐだ。
「ああ……すまない、もうすぐ祝勝会の時間になってしまった。また今度だな」
「そうですか。……勝利を祝える今のうちに祝っていてくださいね?」
「いや、これからも負けるつもりはないけどな」
「そうだよ、坂柳さん。うちのクラスはAクラスにも負けないよ?」
「ふふっ。そうですか。確かに、Dクラスとは思えない人材が少なくとも2人ここにいますもんね」
「へへ。ありがとう。坂柳さん。」
「沖谷、あまり坂柳に絆されるんじゃないぞ。こいつは仲良くなったと思ったら急に刺してくるタイプだ」
「あら、そんなこと……ありませんよ?」
その間はそんなことある間だろ。
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「それじゃ、赤点全員回避と平均点2位を記念して、乾杯!」
池が缶ジュースを持ってそう言う。
オレ達の勉強会のメンバーだけで行われる祝勝会は、オレの部屋で行われていた。
テーブルの上にはコンビニで買った菓子やジュースが並んでいる。
部屋に友達を招くのが初めてだから、少し緊張もあり、嬉しさもある。
部屋の中はいつもより少し騒がしい。
机の上にはジュースや菓子が並び、池と山内は勝手に盛り上がっている。
……少しうるさすぎるな。
それなのに、不思議と追い返したいとは思わなかった。
「いやー、それにしても綾小路、よく過去問なんて貰ってきてくれたよな〜」
「だよな!まじ神様仏様綾小路様だぜ!」
「そこまで言ってくれるな。照れるだろ」
「ええ、今回ばかりはこの男が役に立ったわね」
堀北はそう言う。
堀北にしては素直(?)に褒めてくれたな。
「しかし、堀北ちゃんも勉強教えてくれてサンキュな!分かりやすかったしよ」
「ああ、すげえ助かったぜ、堀北」
「そんな……大したことはしてないわ。私は私のために行動しただけよ」
ツンデレだな。
刺されるのが怖くて言葉には出さないが。
「ひゅー、ツンデレってやつか?」
あ、山内それは。
グサッ
「っ痛っぁ!」
言わんこっちゃない。コンパスで刺されてしまった。
「堀北ちゃんひでえよー」
「そんな低俗な言葉で私を表さないでちょうだい」
「はいはい、すんませーん」
山内、全く反省していないな。
すぐにへこたれないのは山内の数少ない長所でもあるが。
「オレ達こんだけ頑張ったんだから、来月はポイント貰えねえかなー」
「50000ポイントは貰っていいよなー」
「さすがにそこまでは貰えないと思うが、貰ってもいいと思えるぐらいお前たちは頑張っていたしな」
「綾小路〜、お前良い奴だな」
そんなことを言われる資格が自分にあるとは思えない。
全く不快ではないが。
「初日にホワイトルーム?みたいなの沖谷が言い出した時はすげえ変なやつだと思ってごめんな」
「いや、気にしてないから大丈夫だ」
「そういえばそんなのもあったな。結局それってなんだったん?」
「そうだな、概要だけいえば、日本で最も厳しくて質の高い教育施設と言ったところか」
「えぇ!お前そんな所行ってたのかよ!でも確かに、それなら納得だな」
池も山内も須藤も、以前なら「嘘だろ」と笑っていたにちがいないだろう。
しかし、オレの能力を実際に見てきたからこそ、誰も疑うことはなかった。
「俺の得意な運動でも勝てる気しねえし……綾小路がいるならAクラスもすぐかもな!」
「えぇ、そうね。悔しいけどこの男の能力の高さは認めなければならないわ」
「あ、もちろんうちのクラスには堀北ちゃんもいるからな!」
「……ええ」
「ああ、みんなでAクラスを目指そう」
皆が「おう!」と返事をする。
部屋の空気が少しだけ熱を帯びた。
……悪くない。
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その日の晩、祝勝会の熱が冷めず、オレは中々寝付けなかった。
夜風にでも当たりに行くかと思い、外に出ることにした。
エレベーターから降りて、外に出る。
夜の敷地内は静まり返っていた。
遠くで風に揺れる木々の音だけが耳に届く。
そんな静寂を破るように、人の話し声が聞こえてきた。
この時間に外で話し込んでいる生徒は珍しいな。
「……必ずたどり着きます、Aクラスに」
「無理だ。お前は何も変わっていない」
どうやら女子生徒と男子生徒が話しているようだ。
聞き覚えのある、どこか張り詰めた声だった。
この声は……堀北か?
「違います。もう兄さんの知っている頃のダメな私とは違うんです」
兄さん……相手は生徒会長の堀北学か?
「中間試験、Dクラスの平均点は2位だと聞いたが……それもお前の力ではないんだろう?」
「っそれは……」
「なんども言わせるな、お前にはAクラスに上がることは無理だ。お前のことが周囲に知られれば、恥をかくのはこの俺だ。今すぐこの学校を去れ」
「……出来ません、私は絶対にAクラスに上がってみせます」
「お前には上を目指す力も資格もない。それを知れ」
堀北は体を捕まれ、宙に浮く。
オレはとっさに飛び出し、堀北学の腕を掴む。
「……何だ?お前は?」
「あんた、今堀北を投げ飛ばそうとしただろ、ここの下はコンクリだぞ?どんな怪我をするか分かったもんじゃない」
「盗み聞きとは感心しないな」
「あと、1つ訂正だ。Dクラスの平均点が上がったのは堀北の力でもある。赤点組の連中に懇切丁寧に勉強を教えていたからな」
「ほう?鈴音にこんな友人がいるとはな。鈴音、それは本当か?」
「……はい、そうです」
「そうか、お前も少しは変わったのかもな。お前、名前は?」
「綾小路だ」
「そうか、お前が……」
次の瞬間、凄い勢いで裏拳が飛んできた。
体を半身にしてのけぞるようにして避ける。
次の瞬間、急所を狙った蹴りが飛んだくる。
「あっぶね!」
物凄い威力だ。
まともに食らってしまったら、俺でも意識を失ってしまうだろう。
「やるな、今のを避けるか」
「いや、なんで今の流れで襲いかかってくるんだ……」
「いやなに、鈴音の友人の実力を試したくなってな。それに、南雲が目をかけてるやつとはお前のことだろう?綾小路」
「まあ、不本意ながらだが。一応、サッカー部だからな」
「そうか、鈴音、お前が少しは変わったのは認める。Aクラスに上がりたかったら、死に物狂いで足掻け。それしか方法はない」
堀北学はそう言って去っていった。
夜の静けさが戻る。
「あなた……いつから聞いていたの?」
「いつからって言われてもな。思わず助けに入ったが、良かったか?」
「……ええ。不本意だけれど、あなたという友人のおかげで兄さんに少しは認めて貰えたもの」
どうやら、オレのことを友人として認めてくれているらしい。
堀北の顔に、いつものような警戒心は見られない。
「だな。オレから見ても、お前は少し変わったと思うぞ?」
「そうかしら……あなたの方こそ、少し変わったと思うけどね」
「……そうか。さ、帰るとするか」
実際、ホワイトルームにいた時から価値観は大きく変わったと思う。
それの要因はサッカー部での活動だったり、友人だったりする。
少なくとも、良い方向に変わっていると信じたい
評価50件突破ありがとうございます!
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