The Reversed Star――逆位置の星――   作:ほいみん

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FGO二次創作長編『The Reversed Star――逆位置の星――』第13話です。

※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。

詳しい注意事項・制作FAQ・設定資料はこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link


第13話 王宮は王を試す

 レイシフトの光が解けた時、藤丸立香は海底に立っていた。

 

 けれど、溺れなかった。

 

 足元には、古い石畳がある。

 頭上には、暗い海がある。

 周囲には、水が満ちているはずだった。

 

 だが、息はできる。

 

 冷たい水圧が身体を押し潰すこともない。

 髪も、衣服も、濡れていない。

 ただ、空気そのものが深い海の色をしているような、奇妙な感覚だけがあった。

 

 立香は、ゆっくりと息を吸う。

 

「息、できる」

 

 マシュがすぐ隣で盾を構え、周囲を確認していた。

 

「はい。周囲は水中環境のように見えますが、私たちの行動に支障はありません」

 

 通信に、ダ・ヴィンチの声が入る。

 

『こちらカルデア。

 レイシフト成功。全員、無事だね?』

 

「無事です」

 

 立香が答える。

 

 ロマニの声も続いた。

 

『環境データがかなりおかしい。

 周囲は海底相当の圧力と成分を示しているのに、君たちの周囲だけ位相がずれている。

 まるで、そこだけ水中じゃないみたいだ』

 

 アトラスが言った。

 

「宮廷内通路だ」

 

 マシュが振り返る。

 

「宮廷内……海底なのに、ですか」

 

「王宮がそう定義すれば、そうなる」

 

 アトラスの声は静かだった。

 

 彼女は紺碧の鎧を纏い、三叉槍を手に、沈んだ大路の先を見ている。

 

 その先に、王宮があった。

 

 巨大だった。

 

 崩れている。

 沈んでいる。

 柱は折れ、門は傾き、壁面には海藻のような黒い影が絡みついている。

 

 それでも、その王宮は死んでいなかった。

 

 青い光が、窓の奥で微かに灯っている。

 石畳の隙間には、星図のような文様が刻まれていた。

 遠くの塔には、かつて何かを掲げていたであろう支柱が残っている。

 

 海底都市の残骸というより、王宮そのものが深い海の底で呼吸しているようだった。

 

 ギルガメッシュが、周囲を一瞥して笑う。

 

「相変わらず傲慢な城だ」

 

 アトラスは彼を見ない。

 

「王宮とはそういうものだ」

 

「王宮を海底に沈めておいて言うか」

 

「沈んでも王宮は王宮だ」

 

「ほう。そこは揺らがぬか」

 

「当然だ」

 

 ギルガメッシュは赤い瞳を細めた。

 

「ならば、その王宮に試されるとは屈辱だな、大洋王」

 

「試されてなどいない」

 

 アトラスは即答した。

 

 その返答は、少しだけ早すぎた。

 

 エミヤが、周囲の石畳に視線を走らせながら言う。

 

「少なくとも、歓迎されてはいないようだ」

 

 沈んだ大路の左右に、何かが浮かんでいた。

 

 魚ではない。

 光だった。

 

 青白い粒子が、古い記録の残響のように、ゆっくりと水中を漂っている。

 それらは一行のそばを通り過ぎ、王宮の方へ向かっていった。

 

 ニトクリスが、静かに目を細める。

 

「葬列の灯にも似ています」

 

 立香が問う。

 

「葬列?」

 

「死者を送るための灯。

 あるいは、忘れぬために掲げられる火。

 ただし……ここにあるものは、祈りよりも命令に近い」

 

 アトラスは、王宮へ続く大路を進み始めた。

 

「行く」

 

「アトラス」

 

 立香が呼ぶと、アトラスは足を止めないまま答えた。

 

「王宮が王を呼んだ。

 ならば王は答える」

 

 立香はその隣へ並ぶ。

 

「うん。私も行く」

 

「沈むな」

 

「沈まない」

 

「知っている」

 

 アトラスは短く答えた。

 

 一行は沈んだ大路を進む。

 

 空はない。

 

 見上げれば、ただ暗い海がある。

 遠くの水面らしき場所から薄い光が落ちているが、それはここまで届く前に散り、王宮の壁へ青い影を落とすだけだった。

 

 石畳の星図は、歩くたびに微かに光った。

 

 立香は足元を見る。

 

 星。

 線。

 円。

 見慣れない文字。

 

 何かを示しているようだった。

 

 だが、まだ読めない。

 

 その時、耳の奥に、かすかな音が触れた。

 

 歌のような音。

 

 ほんの一瞬だった。

 

 言葉ではない。

 旋律とも呼べない。

 水の底で誰かが遠くから声を伸ばしたような、細い響き。

 

 立香は足を止める。

 

「今、歌みたいな音がしなかった?」

 

 アトラスの足も止まった。

 

 一拍遅れて、ギルガメッシュが目を細める。

 

「水圧にしては、律がある」

 

 アトラスは低く言った。

 

「水圧の軋みと区別する必要はない」

 

「区別できておるくせに」

 

「……開示しない」

 

「正直になったな」

 

 アトラスは答えなかった。

 

 立香は、その横顔を見る。

 

 何かを知っている顔だった。

 

 でも、今はまだ問わない。

 

 勝手に開けない。

 

 アトラスが開ける時に見る。

 

 そう決めている。

 

 やがて、大路の先に巨大な門が見えてきた。

 

 第一認証門。

 

 そう呼ぶべきものだと、誰に説明されずとも分かった。

 

 二本の柱が、海底から天へ向かって伸びている。

 その上部は崩れていたが、崩れたままでも門としての威圧を失っていない。

 

 門扉には、三叉槍の紋章。

 その周囲に、星図と波紋のような文様。

 そして中央には、玉座を示すような刻印があった。

 

 アトラスが門の前に立つ。

 

 鎧が、低く鳴る。

 

 門が応えた。

 

『帰還者、確認』

 

 水音混じりの声が、海底に響く。

 

『王名照合――アトラス』

 

 門の文様が青く光る。

 

『王名、一致』

 

 立香は息を詰めた。

 

 だが、次の言葉は予想できていた。

 

『個体名照合――不能』

 

 アトラスは動かない。

 

『王座代理記録――検出』

 

 門の文様が赤みを帯びる。

 

『第一認証門、開門保留』

 

 拒絶の色だ、と立香は直感した。

 

 アトラスが三叉槍を床へ突く。

 

「開け」

 

 門は答える。

 

『王命権限、照合中』

 

 沈黙。

 

『矛盾あり』

 

『再認証を要求』

 

 アトラスの瞳が、冷たく細まった。

 

「王宮が王命を保留するな」

 

 ギルガメッシュが低く笑う。

 

「早速試されているぞ、海よ」

 

「海ではない」

 

「では開けて見せろ、大洋王」

 

 その瞬間、門の左右に沈んでいた石像が動いた。

 

 いや、石像ではなかった。

 

 防衛機構。

 

 青銅色の鎧を纏った兵たちが、海底の砂を払うように立ち上がる。

 顔はない。

 兜の奥は暗い空洞で、そこに青い光だけが灯っている。

 

 槍。

 盾。

 剣。

 王宮の紋章。

 

 彼らは無言で隊列を組み、アトラスの前に立ちはだかった。

 

 認証ログが響く。

 

『王名一致』

 

『個体矛盾』

 

『王権汚染可能性』

 

『防衛試験を開始』

 

 マシュが前へ出る。

 

「王名が一致しているのに、攻撃してくるんですか!」

 

 防衛機構の槍が、一斉に振り下ろされた。

 

 マシュの盾がそれを受け止める。

 

 音が重い。

 

 ただの金属音ではない。

 何かを拒む音だった。

 

「くっ……!」

 

 マシュの足元の石畳がひび割れる。

 

「この攻撃、重いです……!

 物理的な衝撃だけではありません。認証拒絶のような圧力が混じっています!」

 

 エミヤが即座に弓を構えた。

 

「認証途中の王を、侵入者としても扱っている。厄介だな」

 

 矢が放たれる。

 

 防衛機構の一体の肩を貫き、青い光が散る。

 

 だが、兵は崩れない。

 

 肩の穴が、水の中で巻き戻るように塞がっていく。

 

 ニトクリスが杖を掲げた。

 

「これは排除ではありません。

 試問です」

 

 足元に冥界の気配が広がる。

 黒と金の術式が、海底の石畳へ走った。

 

「王を玉座へ通す前に、墓が名を問うている」

 

 アトラスは答える。

 

「墓ではない。防衛機構だ」

 

 ニトクリスは厳しく言った。

 

「ならばなおさら厄介です。

 墓守なら祈りを聞くこともある。

 装置は命令を繰り返すだけです」

 

 防衛機構の第二陣が動く。

 

 マシュが受ける。

 エミヤが射抜く。

 ニトクリスが術式で動きを縛る。

 

 だが、敵は減らない。

 

 王宮そのものが兵を再生している。

 

 エミヤが舌打ちした。

 

「アトラスを中心に敵の動きが変わっている。

 君が王権反応を強めるほど、相手の防衛優先度も上がる」

 

 アトラスが前へ出る。

 

「ならば、己(おれ)が制圧する」

 

 紺碧の鎧が光る。

 

 海底の圧力が、周囲へ満ちる。

 防衛機構の動きが一瞬鈍った。

 

 だが、門がすぐに反応する。

 

『大洋王権、検出』

 

『王権反応、過剰』

 

『火口封鎖状態、確認』

 

『王権再照合』

 

 門の奥で、赤い警告光が瞬いた。

 

 呼応するように、アトラスの足元へ昏い藍の燐光がにじむ。

 

 火天八紘の反応。

 

 立香が息を呑む。

 

 アトラスの声が低くなる。

 

「己の王権を検査するな」

 

 エミヤが鋭く言った。

 

「終わらせる力で門を開けるな」

 

 アトラスの視線が、エミヤへ動く。

 

「分かっている」

 

 藍の燐光は沈んだ。

 

 火は開かない。

 

 火天八紘は眠ったまま。

 

 アトラスは三叉槍を構え直す。

 

「終末は、門を開ける鍵ではない」

 

 ギルガメッシュが、少し離れた場所で見ていた。

 

 王の財は開いていない。

 宝具も撃たない。

 

 彼ならば、防衛機構ごと門を吹き飛ばすこともできるだろう。

 

 だが、そうしない。

 

 立香はそれを分かっていた。

 

 これはギルガメッシュが壊すべき門ではない。

 

 アトラスが答えるべき門だ。

 

 ギルガメッシュが言う。

 

「我が壊してもよいが、それでは門は開かぬぞ」

 

 アトラスは防衛機構を見据えたまま答えた。

 

「分かっている」

 

「ならば、王として答えろ」

 

「命令するな」

 

「命令ではない。見物人の助言だ」

 

「余計だ」

 

「ならば早く済ませろ」

 

 防衛機構の槍が迫る。

 

 アトラスはそれを避けない。

 

 紺碧の鎧が受け止めた。

 

 王宮への侵入と見なす防壁。

 攻撃を拒む城塞。

 

 だが、今はその城塞が、同じ王宮の防衛機構とぶつかっている。

 

 王宮が王宮を拒んでいる。

 

 アトラスは、そこに不快を覚えた。

 

 違う。

 

 これは王宮のあるべき姿ではない。

 

 王宮は王を縛るものではない。

 王宮は王へ命じるものではない。

 王宮は王を審査する機構ではない。

 

 王宮とは、王が裁定する場所だ。

 

 門が再び問う。

 

『帰還者よ』

 

『玉座へ帰還せよ』

 

『王宮命令に従い、再認証を受けよ』

 

 アトラスは、三叉槍を床へ突き立てた。

 

 深海が静止する。

 

「違う」

 

 門の光が揺れる。

 

『再入力を要求』

 

 アトラスは、一歩前へ出る。

 

「王宮が王を認証するのではない」

 

 防衛機構の兵たちが、動きを止めた。

 

 海底の大路に、アトラスの声が響く。

 

「王が、王宮を認証する」

 

 沈黙。

 

 青い門が、深く鳴った。

 

 まるで、長い眠りから覚めた獣が、初めて息を吸ったような音だった。

 

 認証ログが乱れる。

 

『王命入力、検出』

 

『命令権限、再照合』

 

『裁定入力、確認』

 

『王宮中枢、応答』

 

 アトラスは続けた。

 

「己はアトラス。

 王座が空いたゆえ、座った者だ。

 王宮が己を試すならば、己もまた王宮を試す」

 

 門の文様が明滅する。

 

「汝は、王宮か。

 墓か。

 それとも、王を沈めるだけの機構か」

 

 ニトクリスが息を呑む。

 

 王か、機構か。

 

 ギルガメッシュが笑った。

 

「言い直したな」

 

 アトラスは振り返らない。

 

「己の王宮だ」

 

 門は震えた。

 

 青い光が、赤を押し戻していく。

 

 防衛機構の兵たちが、膝をつくように動きを止めた。

 

『王命、受領』

 

『第一認証門、開門』

 

 重い音がした。

 

 門扉が、内側から開き始める。

 

 海底の砂が舞い上がる。

 青い光が割れ、奥の通路が露わになる。

 

 立香は、息を吸った。

 

 門が開いた。

 

 けれど、それは歓迎ではなかった。

 

 中から流れてきた空気は、さらに冷たい。

 

 海底の奥。

 王宮の内部。

 墓の中心へ向かう道。

 

 エミヤが周囲を確認する。

 

「防衛機構、停止。少なくとも第一門周辺は沈黙した」

 

 マシュが盾を下ろす。

 

「アトラスさんが、門を開いたんですね」

 

 アトラスは言う。

 

「王命を受領させただけだ」

 

 立香が微笑む。

 

「開いたよ」

 

「結果としてはな」

 

 ニトクリスは、開いた門の奥を見つめていた。

 

「ここから先は、墓の内側です。

 けれど、ただの墓ではありません」

 

「分かっている」

 

 アトラスは門をくぐろうとする。

 

 その時、王宮の声が再び響いた。

 

『第一認証、通過』

 

 アトラスの足が止まる。

 

『王命、受領』

 

 青い光が、門の奥で走った。

 

『第二認証――王統記録』

 

 海底の空気が変わる。

 

 遠くで、誰かの足音のようなものが聞こえた。

 

 水底を歩く音。

 

 あるいは、記録が起動する音。

 

『先代王アトラス、記録層起動』

 

 沈黙。

 

 立香はアトラスを見る。

 

「アトラス?」

 

 アトラスの冷たい血色の瞳が、わずかに揺れていた。

 

「……来る」

 

 ギルガメッシュが、赤い瞳で王宮の奥を見る。

 

「ようやくか」

 

 ニトクリスが低く言う。

 

「王統の墓が開きます」

 

 エミヤは弓を握り直した。

 

「防衛機構の次は、記録そのものか」

 

 マシュが盾を構える。

 

「先輩」

 

「うん」

 

 立香は頷いた。

 

 沈まない。

 

 そう決める。

 

 アトラスは、一歩踏み出した。

 

 門の内側へ。

 

 海底の王宮は、第一の門を開いた。

 

 だが、それは歓迎ではない。

 

 次の問いへ進めという、冷たい王命だった。

 

 沈んだ王統の奥から、兄王の記録が目を開く。

 




お読みいただきありがとうございます。
しばらくは毎日20時頃に更新予定です。

この作品の興味をもったところは?

  • アトラスのキャラクター性・内面
  • ギルガメッシュとの関係性
  • 王としての在り方・王権のテーマ
  • ストーリーの展開
  • その他
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