The Reversed Star――逆位置の星―― 作:ほいみん
※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。
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深海王権特異点から帰還した後も、藤丸立香の耳には、しばらく星の歌が残っていた。
王宮の奥で聞いた歌。
沈めなかった歌。
外へ渡った歌。
カルデアの記録領域に保存された星詠みの詩の外部記録は、ダ・ヴィンチによって保護処理を受けている。
それはもう、沈んだ王宮の中だけにあるものではない。
けれど、立香にはまだ、あの海底の静けさが残っていた。
赤ではなく、青。
空ではなく、水底。
そして、そこに沈んだまま光る星。
カルデアの一室で、ニトクリスは卓上に札を並べていた。
一枚一枚を、驚くほど丁寧に置いていく。
指先の動きには、儀式めいた正確さがあった。
「ニトクリス、それって占い?」
立香が尋ねると、ニトクリスはすぐに顔を上げた。
「占いではありません。王として、象徴を読むだけです」
きっぱりとした声だった。
けれど、札を並べる手つきはどこか誇らしげで、立香は少しだけ笑った。
「ちょっと楽しそう」
「た、楽しんでなどいません!」
ニトクリスは、わずかに声を上ずらせた。
「これは厳粛な象徴解釈です。
ただし、正しく札を扱える者が少ない以上、私が手本を示すのは当然のことです」
マシュが小さく微笑む。
「はい。とても美しい手つきです、ニトクリスさん」
「当然です。
王たるもの、札の一枚であっても雑に扱うわけにはいきません」
そう言ってから、ニトクリスは咳払いをした。
「……では、始めます。
札は命令ではありません。未来を縛るものでもありません。
ただ、今見えているものを映す鏡です」
部屋には、立香とマシュ、ニトクリス、そしてアトラスがいた。
少し離れたところにはギルガメッシュもいる。
呼んだ覚えはない。
けれど、いる。
立香はもう、そのことにあまり驚かなくなっていた。
アトラスは卓上の札を見下ろしている。
紺碧の鎧はいつも通り重く、冷たい血色の瞳にも大きな感情は浮かんでいない。
それでも、深海王権特異点へ向かう前とは、ほんの少し違う。
王宮の奥へ沈んだままではない。
閉じている。
けれど、開いたことを知っている。
ニトクリスは一枚の札を示した。
「星です」
札には、水辺に立つ人物と、空に輝く星が描かれていた。
立香はそれを見つめる。
「星……」
「正位置の星は、希望、導き、癒やし、未来への信頼を示します。
旅人にとっての目印。
王であれば、民へ道を示す灯とも言えるでしょう」
マシュがそっと頷いた。
「希望のカードなのですね」
「はい。
絶望の後に見える光。
傷ついた者が、もう一度空を見上げるための星です」
立香は、ふと思った。
「アルトリアみたい」
ギルガメッシュの眉が、ほんのわずかに動いた。
何も言わない。
ただ、ほんのわずかに動いただけだった。
ニトクリスは札を見つめる。
「騎士王は、たしかに正位置の星に近い在り方を持つでしょう。
遥か遠くにあっても、人が道を見失わぬための光。
王として、とてもまっすぐな象徴です」
立香は頷いた。
空にある星。
見上げれば、そこにある光。
暗い夜に道を教えてくれるもの。
けれど、立香の中に残っている星は、少し違った。
空にはなかった。
水底にあった。
ニトクリスは、札をゆっくりと反転させた。
星が、逆さまになる。
「逆位置の星」
部屋の空気が、少しだけ静かになった。
ニトクリスの声から、先ほどの照れは消えている。
王として、死者を弔う者として、彼女は札を読む。
「希望が見えにくい。
未来への信頼が揺らぐ。
癒やしが届かない。
星はそこにあるのに、見上げる者の目に届かない」
アトラスは黙っている。
ギルガメッシュも、何も言わない。
ニトクリスは続けた。
「ですが、逆位置は失敗の烙印ではありません。
札の向きが変わっただけ。
星そのものが消えるわけではない」
立香は、逆さまになった星の札を見つめた。
水辺に描かれた星。
反転したことで、それはまるで水の中へ沈んだように見えた。
「逆さまになると、星が水の中に沈んでるみたいだね」
アトラスの瞳が、わずかに動いた。
立香は、札から目を離さずに言う。
「アトラスの星は、水底にあるんだと思う」
マシュが立香を見る。
ニトクリスは黙って聞いている。
「沈んでる。
でも、消えてない」
それは、深海王権特異点で見たものだった。
沈んだ王宮。
墓でもある王宮。
兄の名。
空いた玉座。
沈めた夜。
沈めなかった歌。
立香は思う。
アトラスは正位置の星ではない。
誰かを明るく導く灯ではない。
痛みを癒やす光でもない。
空に輝いて旅人へ道を示す星でもない。
それでも、消えてはいない。
沈んだまま、光っている。
「無理に空へ戻さなくてもいいのかも」
立香はそう言った。
アトラスは、答えない。
代わりに、ギルガメッシュが笑った。
「星が逆さまになったところで、星は星だ。
空にあろうと水底にあろうと、光るならば同じことよ」
ニトクリスがちらりとギルガメッシュを見る。
「英雄王らしい解釈ですね」
「不服か」
「いいえ。
王の象徴読みとしては、乱暴ですが間違ってはいません」
立香は思わず少し笑った。
ギルガメッシュも、愉快そうに目を細める。
「沈んでも消えぬ星など、むしろ面白いではないか」
アトラスが低く言う。
「面白がるな」
「では、つまらぬと評せば満足か」
「否」
「ならば黙って受け取れ、大洋王」
アトラスは不快そうに目を細めた。
だが、否定はしなかった。
ニトクリスは、逆位置の星を見つめる。
「逆位置の星は、固定された不幸ではありません。
希望が届きにくい場所にある。
あるいは、希望を見るために、見上げる以外の方法が必要になる」
その言葉に、立香は深く頷いた。
見上げるだけでは見えない星。
水底に沈んだ星。
ならば、見るためには潜らなければならない。
あるいは、沈んだもののそばに立たなければならない。
ニトクリスはアトラスを見る。
「あなたの王宮は、墓でした。
墓は、忘れぬための場所でもあります」
アトラスは沈黙している。
「水底にある星を、無理に空へ戻す必要はないでしょう。
ただ、そこにあると知る者がいれば、星は消えたことにはなりません」
立香は、アトラスへ視線を向けた。
「星、見える?」
アトラスは、少しだけ卓上の札を見た。
逆位置の星。
水底に沈んだような星。
それから、静かに答える。
「見えている」
短い返答だった。
けれど、それで十分だった。
立香は微笑む。
「そっか」
マシュも、少し安心したように息を吐く。
ニトクリスは札をそっと卓上に置いた。
「では、この札はこのままにしておきましょう」
立香が首を傾げる。
「戻さないの?」
「戻しません」
ニトクリスはきっぱりと言った。
「無理に向きを変えればよいというものではありません。
今は、この向きで見えていることに意味があります」
アトラスは、逆位置の星を見下ろす。
「不吉ではないのか」
「不吉と決めるのは早計です」
ニトクリスは少しだけ胸を張った。
「象徴を読む者として、断言します。
この星は、沈んでいても消えていません」
そして、ほんの少しだけ得意げに付け加える。
「私の読みは、正確です」
立香が笑う。
「うん。信じる」
「当然です」
ニトクリスは満足そうに頷いた。
けれど、その目はすぐに静かな祈りの色へ戻る。
「沈んだものを忘れぬこと。
その場所に星があると知ること。
それもまた、弔いであり、未来への道です」
アトラスは何も言わない。
だが、視線は札から逸らさなかった。
ギルガメッシュが、静かに笑う。
「よいではないか、大洋王。
逆さまの星とは、貴様に似合いだ」
「褒めているのか」
「無論だ」
「信用し難い」
「では、信用せずに受け取れ」
アトラスは沈黙した。
そして、小さく言う。
「不快だ」
ギルガメッシュは笑う。
立香も、少しだけ笑った。
その笑い声は、王宮の重さを消すものではなかった。
沈めた夜を軽くするものでもない。
けれど、水底にある星を見つめる時、ほんの少し息ができるような音だった。
卓上には、逆位置の星が置かれている。
誰も、それを戻さない。
誰も、それを失敗とは呼ばない。
アトラスは、その札を見ていた。
空にはない星。
けれど、見えている星。
逆位置の星は、逆位置のまま、卓上に置かれていた。
水底で光るもののように。
誰も、それを消えたとは言わなかった。
お読みいただきありがとうございます。
しばらくは毎日20時頃に更新予定です。
この作品の興味をもったところは?
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アトラスのキャラクター性・内面
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ギルガメッシュとの関係性
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王としての在り方・王権のテーマ
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ストーリーの展開
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その他