The Reversed Star――逆位置の星―― 作:ほいみん
※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。
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https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link
星は沈み、王は立つ
星は沈み、王は立つ
カルデアの記録室は、いつも静かだった。
ただし、それは沈黙ではない。
稼働音がある。
端末の光がある。
誰かが残した記録が、誰かに読まれるのを待っている。
アトラスは、その静けさを嫌いではなかった。
記録は、閉じるためだけのものではない。
届く余地を残すものでもある。
そう分類を改めてから、彼女は以前より少しだけ、記録室へ足を運ぶようになっていた。
その日、立香とマシュは、ダ・ヴィンチの指示で第七特異点の補完ログを確認していた。
人理修復の記録。
特異点ごとの戦闘記録。
サーヴァントの出撃履歴。
作戦上の判断。
現地で取得された映像と音声。
すべてが、薄い光の中に並んでいる。
立香が端末を操作する。
画面には、古代メソポタミアの大地が映し出されていた。
ウルク。
その名が表示された瞬間、室内の空気が少しだけ変わった。
アトラスは、入り口に立ったまま画面を見ていた。
「第七特異点の記録か」
立香が振り向く。
「アトラス」
「確認中か」
「うん。補完ログの整理。必要なところだけ見返してる」
マシュが軽く会釈する。
「アトラスさんも、ご覧になりますか?」
アトラスはしばらく画面を見ていた。
そこに己の姿はない。
当然だ。
この記録の時、己はそこにいなかった。
「確認する」
アトラスは言った。
「第七特異点において、己(おれ)は戦力候補に挙がっていたのか」
立香の手が、端末の上で一瞬止まった。
マシュも、言葉を探すように目を伏せる。
「候補には……ありました」
マシュが答えた。
「対海域戦、広域防衛、対大型神性存在を想定した場合、アトラスさんの霊基は戦力候補として挙げられています」
「ならば、なぜ除外された」
責める声ではなかった。
ただの確認だった。
けれど、立香はすぐには答えなかった。
その沈黙へ、別の声が入った。
「我が止めた」
金色の気配が、記録室の奥から現れる。
ギルガメッシュだった。
いつからいたのか、誰も気づいていなかった。
気づかせるつもりがなかったのだろう。
アトラスは振り返る。
「英雄王」
ギルガメッシュは、記録端末の光を横目で見た。
「貴様は、あの海と相性が悪い」
「海であるならば、己の権能は有効だ」
「海だからこそだ」
ギルガメッシュの声は短い。
アトラスは目を細めた。
「説明を要求する」
「見れば分かる」
「見ても分からぬ可能性がある」
「ならば、なおさら見ろ」
立香は二人を見比べた。
「……再生するね」
端末が光を強める。
記録映像が、空間に展開された。
最初に映ったのは、空だった。
古代の空。
熱を含んだ風。
土と石と人の匂いが、記録の向こうから滲むようだった。
そして、都市。
ウルク。
神代の都市。
王の都市。
人が働き、兵が走り、声が交わされる場所。
アトラスは黙って見ていた。
記録の中の人々は、己を知らない。
己も彼らを知らない。
だが、都市が都市であることは分かった。
門がある。
道がある。
市場がある。
命令系統がある。
笑い声がある。
疲労がある。
死の気配がある。
それでも、都市だった。
次に映像が切り替わる。
黒い泥。
アトラスの視線が止まった。
泥は、海のように広がっていた。
だが、違う。
波ではない。
潮ではない。
深さでもない。
それは、形をほどくものだった。
人の形。
獣の形。
意味の形。
名の形。
すべてが、戻されていく。
生まれる前へ。
分かたれる前へ。
名づけられる前へ。
アトラスは低く言った。
「海ではない」
マシュが振り向く。
「アトラスさん?」
「少なくとも、己の海ではない」
ギルガメッシュが、わずかに口元を上げる。
「分かったか」
「王宮ではない」
アトラスは画面を見たまま言う。
「墓でもない。裁定された終末でもない。沈めたものを保持する場所でもない」
黒い泥の中から、ラフムの影が生まれる。
その動きに、立香の表情が硬くなった。
マシュも息を呑む。
アトラスは、その反応を見逃さなかった。
だが、問いはしなかった。
「これは」
彼女は言葉を選んだ。
「母の名を被った、帰還の泥」
ギルガメッシュが言う。
「その通りだ」
アトラスは彼を見た。
「お前は、これを見ていた」
「見ていた」
「己が同行していれば」
「沈めようとしただろうな」
ギルガメッシュは即答した。
室内が静かになる。
立香が小さく言う。
「ギル」
「事実だ」
ギルガメッシュは立香を見ない。
アトラスも、怒らなかった。
「否定しない」
彼女は言った。
「己なら、沈めた」
記録の中で、黒い泥が都市へ迫る。
「汚染を止めるために。冒涜を断つために。都市が都市でなくなる前に。名がほどける前に。終末を外へ出さぬために」
アトラスの声は硬い。
「己なら、海ごと沈めた」
「だから連れていかなかった」
ギルガメッシュは言った。
アトラスは黙る。
立香は、何か言おうとして、やめた。
マシュも、盾を持たない手を胸元で握ったまま、記録を見つめている。
ギルガメッシュは続けた。
「貴様が弱かったからではない」
「分かっている」
「分かっておらぬ顔だ」
「顔で判断するな」
「我が見たのは顔ではない。結果だ」
アトラスは、反論しなかった。
ギルガメッシュの赤い目が、記録映像を射抜く。
「あの地で必要だったのは、沈める王ではない」
アトラスは言葉を受けた。
「では」
「立たせる王だ」
記録が進む。
防衛線が崩れる。
兵が倒れる。
声が乱れる。
それでも、命令は止まらなかった。
王の声が響く。
記録越しでも分かる。
その声は、死を知らぬ声ではない。
滅びを見ない声でもない。
むしろ、すべてを見ている声だった。
見たうえで、命じている。
見たうえで、笑っている。
見たうえで、立っている。
ウルクは終わりへ向かっていた。
だが、沈んではいなかった。
市民は市民として動き、兵は兵として戦い、王は王として命じていた。
終わる都市が、終わる瞬間まで都市であろうとしている。
アトラスは、その記録から目を離せなかった。
「終わる」
彼女は言った。
「この都市は、終わる」
立香が静かに頷く。
「うん」
「だが、機能を放棄していない」
「うん」
「沈めれば」
アトラスは、言葉を切った。
沈めれば、守れるものもある。
汚染を止められるものもある。
冒涜から遠ざけられるものもある。
だが。
「沈めれば、これは残らぬ」
ギルガメッシュが、横目で彼女を見た。
アトラスは続ける。
「都市として終わる権利を、奪うことになる」
「理解したか」
ギルガメッシュの声に、嘲りはなかった。
アトラスは答えない。
記録の中で、ウルクの人々が走っている。
逃げる者もいる。
戦う者もいる。
叫ぶ者もいる。
笑う者もいる。
完全ではない。
整然としてもいない。
崩れている。
傷ついている。
失われていく。
それでも、そこには人の営みがあった。
それを、何と呼ぶべきか。
アトラスは、すぐには分類しなかった。
ただ、記録から目を逸らさなかった。
記録はさらに進む。
ギルガメッシュが、王として立っている。
その姿は、アトラスの知る英雄王とは少し違って見えた。
黄金の王。
傲岸な王。
財を蔵に収める王。
己を見届ける王。
それらはすべて、同じ男の姿だった。
だが、ここにいるのは、都市の終わりを背負いながら、その都市を沈めない王だった。
アトラスは言った。
「酷薄だ」
ギルガメッシュが笑う。
「そうだ」
「だが、侮辱ではない」
「当然だ。死ぬ者を死なぬものとして扱う方が侮辱よ」
アトラスは沈黙した。
その言葉は、彼女の内側のどこかに触れた。
死ぬ者を死なぬものとして扱う。
終わるものを終わらぬものとして閉じる。
変わるものを変わらぬ形で保持する。
それは守ることか。
分類は保留した。
ただ、保留したまま、記録から目を逸らさなかった。
やがて、映像は終盤へ進んだ。
ティアマト。
黒い海。
絶望的な戦力差。
それでも退かない者たち。
立香の呼吸が、少し浅くなった。
マシュが静かに寄り添う。
アトラスは、その二人の様子も記録した。
彼女たちは、そこにいた。
己はいなかった。
その不在は、失策ではない。
そう理解し始めている。
それでも、何も感じないわけではなかった。
不快か。
否。
悔悟か。
判定不能。
己がそこにいなかったことよりも、己がそこにいれば災害になり得たという事実の方が、重かった。
記録が終わる。
映像が消え、記録室には端末の光だけが残った。
誰もすぐには話さなかった。
沈黙の中で、アトラスは口を開いた。
「己が同行していれば、災害になった」
立香が顔を上げる。
「アトラス」
「可能性ではない。高確率の結果だ」
アトラスはギルガメッシュを見る。
「英雄王。お前は、それを見た」
「見た」
「だから止めた」
「そうだ」
「己の王性を否定するか」
その問いに、ギルガメッシュは笑わなかった。
「否定はせぬ」
アトラスの目が、わずかに動く。
ギルガメッシュは続けた。
「貴様の海にも、貴様の裁定があった」
その言葉は、軽くなかった。
許しではない。
慰めでもない。
判決でもない。
境界線だった。
「だが、ウルクは貴様の海ではない」
アトラスは、黙ってその言葉を受けた。
その線は、彼女を責めなかった。
同時に、許しすぎもしなかった。
己の裁定は、どこにでも適用されるものではない。
己の王性は、常に正解ではない。
だが、否定されるべきものでもない。
王性にも、場がある。
アトラスは目を伏せた。
「記録した」
「それだけか」
「否」
彼女は、消えた記録映像の空白を見る。
「お前は、沈めなかった」
ギルガメッシュは片眉を上げる。
「我が、何をだ」
「都市を」
アトラスは答えた。
「終わる都市を、終わる瞬間まで都市として立たせた」
立香は息を呑んだ。
マシュも、静かに目を伏せる。
ギルガメッシュは、わずかに笑った。
「当然だ」
アトラスは彼を見る。
ギルガメッシュは、何でもないことのように言った。
「ウルクは我の都市だ。終わる時まで、我の都市であらねばならぬ」
アトラスは何も言わなかった。
その「当然」は、彼女にはまだ当然ではなかった。
終わると知ってなお、沈めない。
汚染される前に閉じるのではなく、崩れるまで立たせる。
不完全になっていくものを、不完全のまま都市として扱う。
それは、己の裁定ではない。
だが、否定できない。
「英雄王」
「何だ」
「お前の王性は、不合理だ」
ギルガメッシュは笑った。
「今さらか」
「効率も悪い。損耗も大きい。保管性も低い」
「都市とはそういうものだ」
「だが」
アトラスは言葉を切る。
答えが出たわけではない。
己が同じことをできるとも思わない。
するべきだとも思わない。
ただ、見た。
終わるものが、補完されず、保管されず、それでも立っている姿を。
「尊厳は失われていなかった」
ギルガメッシュの赤い目が、アトラスを見た。
「ほう」
「完全ではなかった。傷つき、欠け、崩れていた。だが、否定されるべきものではなかった」
アトラスは、ゆっくりと続ける。
「不完全は、存在の否定理由ではない」
その言葉は、まだ誰かへ向けた反論ではなかった。
だが、アトラスの中で、確かに記録された。
立香は、アトラスの横顔を見た。
責められている顔ではない。
救われた顔でもない。
分類を改める王の顔だった。
「アトラス」
「何だ」
「見てくれて、ありがとう」
アトラスは立香を見た。
「礼を言われる理由が不明だ」
「でも、言いたかった」
「そうか」
アトラスは短く答えた。
それから、少しだけ視線を逸らす。
「不快ではない」
ギルガメッシュが笑う。
「便利な語だな、大洋王」
「お前に言われたくはない」
「不満か」
「不満ではない」
記録室の空気が、少しだけ緩んだ。
マシュが端末を確認する。
「補完ログの保存、完了しました。第七特異点記録、閲覧履歴を更新します」
「更新」
アトラスがその言葉に反応する。
マシュは頷いた。
「はい。誰が、いつ、どの記録を見たかも、履歴として残ります」
「では、己が見たことも残る」
「はい」
アトラスはしばらく黙っていた。
それから言った。
「ならば、これも届く余地を持つ」
立香は微笑んだ。
「うん」
ギルガメッシュが言う。
「見ただけで分かったつもりになるなよ、大洋王」
「分かっている」
「分かっておらぬ顔だ」
「顔で判断するな」
「ならば態度で判断してやろう」
「不快だ」
「不満か」
アトラスは答えなかった。
かわりに、端末へ視線を戻した。
「ダ・ヴィンチ」
通信端末が応答する。
『はいはい、聞こえているよ。どうしたのかな、アトラス』
「第七特異点の関連記録を追加で要求する」
『関連記録?』
「都市機能の維持記録。避難経路。防衛線の変遷。現地兵の指揮系統。王命の更新履歴。民間活動の記録」
ダ・ヴィンチが少しだけ黙った。
それから、柔らかい声で答える。
『了解。すぐ出せるようにしておくよ』
「頼む」
通信が切れる。
立香がアトラスを見る。
「まだ見るの?」
「見る」
「つらくない?」
「快ではない」
「そっか」
「だが、見ない理由にはならぬ」
ギルガメッシュは、満足そうに目を細めた。
「よい」
「評価は不要だ」
「評価ではない。観測だ」
「なお不要だ」
「却下だ」
アトラスは小さく息を吐いた。
その時、端末の隅に微かなノイズが走った。
ほんの一瞬だった。
星詠みの詩の記録ファイル。
夏季海洋特異点後に更新された、変奏混じりの音声ログ。
そこに、深い海の底のような黒い波形が重なる。
立香が眉をひそめる。
「今の、何?」
マシュが端末を操作する。
「確認します。……異常値、微弱。外部干渉か、記録ノイズか、判定できません」
アトラスは画面を見た。
星詠みの詩。
原型から、わずかにずれた一音。
誰かが歌い、誰かが覚え、誰かの声を通った音。
それは損耗か。
継承か。
アトラスは、まだ分類できない。
「原型と異なる」
ギルガメッシュが視線を向ける。
「ほう」
「損耗か、継承か、判定不能」
端末のノイズは、すぐに消えた。
だが、消える直前、アトラスには何かが聞こえた気がした。
声ではない。
命令でもない。
診断に似ていた。
欠落を確認。
アトラスの瞳が、わずかに細くなる。
「……不快だ」
立香が問う。
「アトラス?」
「何でもない」
アトラスは端末から手を離した。
「記録を続ける」
ギルガメッシュは、その横顔を見ていた。
王が、王の記録に向き合う姿を。
星は、その時、沈んでいた。
第七特異点の戦場にはなく、水底の記録の中にいた。
だが、王は立っていた。
終わる都市を、終わる瞬間まで都市として立たせた王がいた。
そして今、沈んでいた星もまた、その記録を見ていた。
沈むことと、立たぬことは同義ではない。
それをまだ、アトラスは言葉にしなかった。
ただ記録した。
不完全で、終わりゆくものが、それでもなお尊厳を失わずに立っていたことを。
いつか、その記録は刃になる。
この作品の興味をもったところは?
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アトラスのキャラクター性・内面
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ギルガメッシュとの関係性
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王としての在り方・王権のテーマ
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ストーリーの展開
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その他