The Reversed Star――逆位置の星――   作:ほいみん

40 / 40
FGO二次創作長編『The Reversed Star――逆位置の星――』です。

※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。

詳しい注意事項・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link


第二節 城塞の一拍

 沈んだ。

 

 足元が崩れたわけではない。

 水面が割れたわけでもない。

 

 ただ、深さだけが増した。

 

 全員の身体が、黒い海の内側へ一段沈み込む。

 

「マシュ!」

 

「はい!」

 

 立香の声に、マシュが即座に盾を構えた。

 

 鈍い衝撃が響く。

 

 正面から来たものではない。

 

 黒い海の下から、細い棘のようなものが突き上がっていた。

 水でも、槍でも、触腕でもない。

 記録媒体に刻まれた線が、そのまま硬質化したような黒い針。

 

 マシュの盾がそれを受け止める。

 

「攻撃、来ます!」

 

「もう来てる!」

 

 ネモが叫び、端末を操作する。

 

「下だけじゃない。横も、後ろも、全部が接続口だ! この海、方向感覚を信用しないで!」

 

 黒い海の面に、無数の波紋が広がった。

 

 波紋は揺れない。

 

 円だけが、同じ深さで貼り付いたように広がっていく。

 

 その中心から、黒い針が次々と現れる。

 

 マシュが盾を動かす。

 立香が指示を飛ばす。

 ネモが航路を固定する。

 ボイジャーは息を詰め、歌わないまま星の光を小さく纏っている。

 

 アトラスは、一歩前へ出た。

 

「オレイカルコス・アダマンティノス」

 

 紺碧の光が、彼女の周囲に展開する。

 

 不可侵なりし紺碧の城塞。

 王宮外壁。

 沈めたものを閉じ、裁定し、外界から隔てる壁。

 

 本来なら、それは即座に立ち上がる。

 

 彼女が裁定した瞬間、海は城塞となる。

 敵意は門前で止まり、侵入は不許可となる。

 

 だが。

 

 遅れた。

 

 ほんの一拍。

 

 呼吸ひとつにも満たない時間。

 けれど、戦場では十分すぎる空白。

 

 紺碧の城壁が立ち上がる前に、黒い針の一本が、その空白へ滑り込んだ。

 

「アトラス!」

 

 立香が叫ぶ。

 

 針は鎧を貫かなかった。

 

 紺碧の外装に、傷はついていない。

 

 だが、アトラスの肩口から赤が散った。

 

 黒い海の上に、血が落ちる。

 

 落ちた血は、流れなかった。

 海に溶けることも、波に運ばれることもなかった。

 黒い面の上で、赤い一点として留まった。

 

 アトラスの瞳が、わずかに細くなる。

 

「展開速度、低下」

 

 声は平静だった。

 

「原因、外部海域干渉」

 

 紺碧の城塞が、遅れて立ち上がる。

 

 黒い針が、ようやく弾かれた。

 

「……不快」

 

 その一言に、ネモの顔が強張った。

 

「傷が浅くない。アトラス、動ける?」

 

「可動に支障なし」

 

「そうじゃなくて」

 

「戦闘継続可能」

 

 ネモは言い返そうとして、やめた。

 

 黒い海の奥で、レヴィアタン・ノクスが沈黙している。

 

 沈黙しているのに、意味だけが届く。

 

「王宮外壁と個体肉体の境界に継ぎ目を確認」

 

 それは声ではなかった。

 

 診断だった。

 

「補完可能」

 

 マシュが盾を握り直す。

 

「王宮外壁と、個体肉体……?」

 

 ダ・ヴィンチの通信がノイズ混じりに入る。

 

『やっぱりそこを見てる……! アトラス、城塞を展開し続けて。向こうは外壁そのものを破ろうとしているんじゃない。外壁と君自身の接合面を探っている!』

 

「接合面」

 

 アトラスは短く反復した。

 

「棄却する」

 

 黒い針がまた立ち上がる。

 

 今度は正面ではない。

 

 紺碧の城塞の外を迂回するように、黒い海の面を滑る。

 壁を破るのではなく、壁が立つ前の位置を探している。

 構築された防壁ではなく、構築される瞬間の隙間を照合している。

 

 ネモが歯を食いしばった。

 

「この海、流れない。時間も、魔力も、治癒も、全部が鈍ってる」

 

 端末上で、アトラスの霊基反応が赤く点滅する。

 

「城塞の展開だけじゃない。傷の修復も遅い。魔力循環も重くなってる。まるで、全部が水底で止められてるみたいだ」

 

「流れぬからだ」

 

 アトラスは槍を構える。

 

「海を名乗る資格がない」

 

 レヴィアタンの影が揺らぐ。

 

「流動は損耗を招く」

 

 初めて、言葉に近い形で返答があった。

 

「変奏は原型を損なう」

「移動は位置を失わせる」

「開放は散逸を生む」

「保管こそ完全である」

 

「ちがう」

 

 ボイジャーが小さく言った。

 

 全員が一瞬だけ彼を見る。

 

 ボイジャーは胸の前で手を握っていた。

 

「とおくへいくと、すこし、かわる」

 

 レヴィアタンの黒い影が、ボイジャーへ向く。

 

「変奏個体を確認」

 

 アトラスの城塞が、ボイジャーの前へ滑り込む。

 

 今度は間に合った。

 

 黒い針が紺碧の壁に弾かれる。

 

 だが、弾かれた針は砕けなかった。

 海面に戻り、また別の場所から立ち上がる。

 

「補完対象」

 

「汝の対象ではない」

 

 アトラスが言った。

 

 レヴィアタンは淡々と続ける。

 

「原型より逸脱した音階」

「伝達過程における欠損」

「記憶媒体の劣化」

「修正可能」

 

「修正じゃない!」

 

 立香の声が飛んだ。

 

「ボイジャーが歌ったんだよ。違う声で、違う場所で、ちゃんと歌ったんだよ!」

 

「差異を確認」

「欠落を確認」

 

「欠落じゃない!」

 

 マシュが盾を打ち込む。

 

 衝撃で黒い針が複数折れた。

 

 だが、折れた断面から黒い水が滲む。

 それは流れず、また同じ形へ戻っていく。

 

 ネモが舌打ちした。

 

「再生じゃない。巻き戻しだ。折れた状態を“異常”として、元の形へ戻してる」

 

「保管者の性質か」

 

 ギルガメッシュがここで一歩前に出た。

 

 黄金の鎖が黒い海面へ走る。

 

 天の鎖が、いくつもの黒い針を絡め取った。

 神性を縛る鎖ではなく、今は方向を固定する杭のように海へ刺さる。

 

 黒い面が、わずかに軋んだ。

 

「ほう」

 

 ギルガメッシュが目を細める。

 

「動かぬくせに、縛られるのは嫌うか」

 

 レヴィアタンの影が、ギルガメッシュへ向いた。

 

「観測者を確認」

 

「観測では足りぬな」

 

 ギルガメッシュは笑う。

 

「不敬を裁く者だ」

 

 アトラスが横目で見る。

 

「己(おれ)の裁定対象だ」

 

「ならば早く裁け」

 

「急かすな」

 

「一拍遅れているぞ、大洋王」

 

 その言葉に、アトラスの瞳が鋭くなる。

 

「認識している」

 

「ならばよい」

 

 そこに、保護の手つきはなかった。

 慰めもない。

 

 ギルガメッシュは、アトラスの傷を見ている。

 城塞の遅れも見ている。

 だが、彼女の代わりに前へ出て裁定する気はない。

 

 ただ、岸のように立っている。

 

 沈まぬ場所として。

 戻る方角として。

 それ以上は踏み込まない。

 

 アトラスは視線を戻した。

 

 分類は保留。

 だが、利用はできる。

 

「ネモ」

 

「何?」

 

「この海域で流路を作れるか」

 

「完全には無理。でも、短時間なら動かせる。君の城塞を固定点にして、僕の航路で外側を回す」

 

「実行しろ」

 

「了解!」

 

 ネモが端末を展開する。

 

「ノーチラス、仮想航路形成! この海に一本だけ流れを作る!」

 

 黒い海の上に、細い青白い線が走った。

 

 流路。

 

 それは弱い。

 今にも滞りに飲まれそうな細い航路だった。

 

 だが、黒い海の中で、初めて何かが動いた。

 

 ボイジャーがその線を見る。

 

「みち」

 

「そう。戻る道だよ」

 

 ネモが笑わずに答える。

 

「まだ細いけどね」

 

 アトラスは槍を構え直した。

 

 紺碧の城塞が、今度は壁としてだけではなく、流路の固定点として展開する。

 

 黒い針が殺到する。

 

 マシュが正面を受ける。

 ギルガメッシュの鎖が側面を縛る。

 ネモの航路が足元を繋ぐ。

 ボイジャーが歌わずに星の光を保つ。

 立香が魔力供給を整える。

 

 アトラスは、その中心で息を吸った。

 

 黒い針が、また城塞の一拍を狙う。

 

 展開の前。

 閉じる前。

 王宮が外界と己を分ける、その瞬間。

 

 そこへ入ってくる。

 

 ならば。

 

「一拍を、城門と定義する」

 

 アトラスの声が響いた。

 

 紺碧の光が、わずかに変質する。

 

 壁が立つ。

 

 その前の空白に、門が生まれる。

 

 黒い針が滑り込もうとした瞬間、空白そのものが閉じた。

 

 衝撃。

 

 黒い針が、初めて根元から砕ける。

 

 レヴィアタンの影が、わずかに揺らいだ。

 

「未整理境界に、定義を確認」

 

「己の境界だ」

 

 アトラスは言った。

 

「汝の照合対象ではない」

 

 だが、次の瞬間。

 

 黒い海が、さらに深く沈んだ。

 

 ネモの流路が軋む。

 

「まずい、海域圧が上がる!」

 

 レヴィアタンの王冠が、深淵の中でかすかに光る。

 

 珊瑚のような黒い王冠。

 そこに、小さな赤い光が灯った。

 

 立香が息を呑む。

 

「あれ……」

 

 アトラスの肩から落ちた血。

 

 黒い海の上に留まっていた赤い一点が、いつの間にか消えている。

 

 代わりに、王冠の内側で赤く瞬いていた。

 

 ネモが端末を見る。

 

「回収された……?」

 

 レヴィアタンの診断が響く。

 

「血液情報、取得」

「王宮外壁との接合反応を照合」

「補完精度、向上」

 

 アトラスの表情が冷える。

 

「返却しろ」

 

「欠落情報は保管される」

 

「それは己の血だ」

 

「保管対象である」

 

 黒い針が形を変えた。

 

 先ほどまでの棘ではない。

 細い線。

 針というより、縫合糸のような黒いもの。

 

 それらが、紺碧の城塞へ向かう。

 

 破るためではない。

 

 縫うために。

 整理するために。

 勝手に接合を定義し直すために。

 

 アトラスが槍を振るう。

 

 黒い糸が切断される。

 

 だが、切れた糸は流れず、空中で止まり、再び形を戻した。

 

 レヴィアタンが告げる。

 

「深淵回収、第一層開始」

 

 黒い海が、アトラスの足元に集まる。

 

 ネモが叫んだ。

 

「アトラス、足元!」

 

 マシュが盾を差し込もうとする。

 

 だが、黒い海は盾を避けた。

 

 防御の強い場所ではなく、城塞と身体の境界を探して回り込む。

 

 紺碧の外装の継ぎ目。

 王宮外壁と個体肉体の接合面。

 鎧ではなく、鎧であることそのもの。

 

 そこへ、黒い糸が触れた。

 

 アトラスの指が、槍の柄を強く握る。

 

「棄却する」

 

 黒い糸は止まらない。

 

「棄却は未整理境界の反応である」

 

 レヴィアタンの声なき声が、深く沈む。

 

「補完を継続する」

 

 紺碧の城塞が軋んだ。

 

 それは破壊音ではなかった。

 

 門の蝶番に、他人の手がかかった音だった。

 

 アトラスの肩から、再び赤が滲む。

 

 今度は針が刺さったからではない。

 

 城塞の内側から、境界をなぞられたからだ。

 

 立香の顔が青ざめる。

 

「アトラス……!」

 

 アトラスは答えた。

 

「問題ない」

 

 だが、その声は、ほんのわずかに遅れた。

 

 一拍。

 

 城塞と同じだけ、言葉も遅れた。

 

 ギルガメッシュの赤い目が細くなる。

 

 レヴィアタンの王冠に、もうひとつ、小さな紺碧の光が灯った。

 

 アトラスの城塞から剥がれた、まだ形にもならない一拍分の欠片だった。

 

 アトラスは、それを見た。

 

 定義されたものには、輪郭がある。

 輪郭のあるものは、測れる。

 

 黒い海は、流れない。

 

 流れないまま、奪ったものを王冠の内側へ留めていく。

 

 ネモの航路が軋む。

 マシュの盾が鳴る。

 ボイジャーが息を詰める。

 立香が拳を握る。

 

 アトラスは、深淵を見た。

 

 岸を持たぬ滞留。

 流れぬ保管庫。

 補完を名乗る侵入。

 

 そして、己の城塞にかけられた他者の手。

 

「汝の補完は」

 

 アトラスは低く言った。

 

「不快だ」

 

 レヴィアタンは答えた。

 

「苦痛は補完前の反応である」

 

 黒い糸が、さらに深く沈む。

 

 紺碧の外装が、静かに軋んだ。

 




前日譚の『The Reaching Shore――届かせるもの――』も連載中です。
https://syosetu.org/novel/420096/

この作品の興味をもったところは?

  • アトラスのキャラクター性・内面
  • ギルガメッシュとの関係性
  • 王としての在り方・王権のテーマ
  • ストーリーの展開
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

紙芝居をしただけなのに(作者:何処にでもある)(原作:Fate/)

 昔々、蛮族の集団で悠々自適に過ごす為の芸が巡り巡って無辜の怪物になった男がおったそうな。▼ その者腕っこきはからっきし、童話を紙芝居で読むのだけは上手く、ペラ回し一本で英霊に立ち向かわざる得なくなって途方に暮れたそうな。▼ この者の本名を亀男、英霊としての名前をカルメン。▼ 無辜の怪物で周囲から理想のタイプの女に見える、しがない一般サーヴァントである。


総合評価:5997/評価:7.86/完結:27話/更新日時:2026年07月01日(水) 23:00 小説情報

Fate/世界で超絶美形と魅了:EXになって転生したった(作者:プル山門左衛門)(原作:Fate/)

尚、転生先は神代ギリシャに加えて男にも女にもなれる身体な模様。▼そんな主人公が様々な冒険をしたり求婚を断ったり、女神に愛されたりする話。▼ボーイズラブ、ガールズラブのタグはギリシャ神話だから念の為入れてます。


総合評価:3529/評価:8.37/連載:5話/更新日時:2026年07月30日(木) 00:00 小説情報

いや、死神とか聞いてないし(作者:わお)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

死神少女にTS転生してしまった一般人。▼本人はただの下っ端役職だと思っている。▼だがそんなはずもなく。


総合評価:3590/評価:7.78/連載:11話/更新日時:2026年06月21日(日) 20:03 小説情報

厩所の安息処(ボクマダネムイヨ)(作者:Doro)(原作:HUNTER×HUNTER)

転生者アマチュアハンターが死亡フラグ満載の原作イベントに介入する話。▼続くかも▼08/03 続きました


総合評価:5160/評価:8.04/短編:2話/更新日時:2026年08月03日(月) 20:00 小説情報

ダンジョンに魔虚羅がいるのは絶対に間違っている(作者:パクチーダンス)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

深夜に思いついたネタ▼呪術廻戦とのマコラとは一部乖離がある。▼


総合評価:4870/評価:8.52/連載:4話/更新日時:2026年05月18日(月) 08:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>