The Reversed Star――逆位置の星――   作:ほいみん

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FGO二次創作長編『The Reversed Star――逆位置の星――』です。

※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。

詳しい注意事項・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link


第四節 己を、分けるな

 王名接合部、照合可能。

 

 その診断が、黒い海の底で反響した。

 

 音ではなかった。

 声でもない。

 だが、意味だけが、骨の内側へ沈むように届いた。

 

 アトラスは槍を構えたまま、深淵を睨んでいる。

 

 肩口から血が流れていた。

 脇腹にも、胸元にも、赤が滲んでいる。

 紺碧の外装は砕けていない。

 

 砕けていないのに、傷ついている。

 

 それだけで、立香には十分すぎるほど異常だった。

 

 けれど、レヴィアタン・ノクスは止まらない。

 

 黒い海の底から、沈んだ王宮の輪郭が浮かび上がる。

 

 壁。

 柱。

 階段。

 玉座。

 

 かつて沈められたものたちが、影の形で立ち上がる。

 だが、それはアトラスの王宮ではなかった。

 

 似ている。

 

 あまりにも似ている。

 

 けれど、違う。

 

 流れない黒い海の中で、王宮は墓標のように固定されている。

 波に削られることもなく、星の光を受けることもなく、ただ正しい形として保存された模型のように。

 

 アトラスの瞳が細くなる。

 

「模倣か」

 

 レヴィアタンは答えた。

 

「記録構造を参照」

「王宮概念を再現」

「接合部抽出に最適化」

 

「汝の王宮ではない」

 

「所有定義、不要」

「構造利用に移行」

 

 黒い王宮の奥に、玉座が見えた。

 

 そこに、誰も座っていない。

 

 座っていないはずなのに、王冠だけが浮かんでいる。

 

 アトラスのものではない。

 だが、アトラスの王名を模した輪郭をしている。

 

 ギルガメッシュの目が冷える。

 

「紛い物の玉座を持ち出すか」

 

 レヴィアタンの診断が返る。

 

「玉座は王名抽出の補助構造である」

 

「だから貴様は読めぬと言っている」

 

 ギルガメッシュの鎖が黒い王宮へ走る。

 

 しかし、黒い海が深く沈み、鎖の速度を奪った。

 

 ネモが叫ぶ。

 

「海域圧、さらに上昇! 航路が沈められる!」

 

「維持して!」

 

 立香が指示を飛ばす。

 

「マシュ、ギルの鎖の固定点を守って! ボイジャーは星の光を切らさないで!」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

 マシュの盾が黒い針を弾く。

 ボイジャーの周囲に、小さな星の光が浮かぶ。

 

 ネモは歯を食いしばって端末を操作していた。

 

「だめだ、この海、こっちの流路を“未確定”として塗りつぶしてくる。進んだ分を、進んでいない状態に戻そうとしてる!」

 

「巻き戻しではなく、保管だな」

 

 ギルガメッシュが言った。

 

「航路すら、未使用の形に戻すか」

 

 黒い王宮の玉座から、黒い糸が伸びる。

 

 それは今までの糸とは違った。

 

 細い。

 

 あまりにも細い。

 

 けれど、見た瞬間、立香の背筋が冷えた。

 

 あれは肉体を狙っていない。

 

 城塞の接合面でもない。

 

 もっと内側。

 

 呼ばれる前の名。

 名乗る前の沈黙。

 王冠を戴く前の、ひとりの存在。

 

 そこへ伸びている。

 

 レヴィアタンが告げる。

 

「王名アトラス」

「個体名エウメロス」

 

 アトラスの肩が、ぴくりと動いた。

 

「接合不全」

 

 黒い糸が、アトラスの足元へ触れる。

 

「分離し、補完する」

 

 瞬間、黒い海が消えた。

 

 いや、消えたのではない。

 

 アトラスの内側へ沈んだ。

 

 立香の視界が暗くなる。

 

 深海の底に、王宮があった。

 

 紺碧ではない。

 黒い。

 

 王宮の中央には玉座がある。

 

 玉座の上には、王冠がある。

 

 その前に、ひとりの影が立っている。

 

 幼いわけではない。

 弱いわけでもない。

 だが、鎧を纏っていない。

 

 エウメロス。

 

 そう呼ぶべき影。

 

 その背後に、巨大な王名があった。

 

 アトラス。

 

 海を沈め、王宮を閉じ、国を抱え、終末を裁定した名。

 

 二つは、もう分離していない。

 

 分離していないはずだった。

 

 けれど、黒い糸がその間に入る。

 

「アトラスさんの霊基反応が二重化しています!」

 

 マシュの声が響く。

 

 現実の黒い海と、王宮の幻視が重なっていた。

 

 ネモが端末を見ながら叫ぶ。

 

「王名側と個体名側に反応が割れてる! こんなの、サーヴァントの霊基を内側から分解してるのと同じだ!」

 

 ダ・ヴィンチの通信が途切れ途切れに入る。

 

『アトラス、応答して! 王名と個体名のリンク値が乱れてる! 自分の名を固定して!』

 

 アトラスは立っていた。

 

 だが、その姿が揺れている。

 

 紺碧の外装を纏う大洋王アトラス。

 

 血を流す個体名エウメロス。

 

 沈んだ王宮を背負う王。

 

 王宮に背を向けて立とうとするひとり。

 

 その輪郭が、黒い海の中でずれていく。

 

「分離対象ではない」

 

 アトラスが言った。

 

 声は低い。

 

 だが、わずかに掠れている。

 

「王名と個体名は、欠落関係にない」

 

 レヴィアタンは返す。

 

「王名、過大」

「個体名、脆弱」

「接合に歪み」

「補完可能」

 

「棄却する」

 

「棄却は未整理境界の反応である」

 

 黒い糸が、王冠へ伸びた。

 

 幻視の中の黒い王冠が、エウメロスの影へ向かって傾く。

 

 王冠を被せるためではない。

 

 押し潰すためでもない。

 

 測るために。

 

 王名に足りないもの。

 個体名に余るもの。

 どちらへ何を移せば“完全”になるか。

 

 そういう手つきだった。

 

 立香は歯を食いしばる。

 

「ふざけないで……!」

 

 今度は懇願ではなかった。

 

 怒りだった。

 

「その名前は、そういうものじゃない!」

 

 レヴィアタンは立香を見ない。

 

 診断はアトラスだけを向いている。

 

「個体名エウメロス」

「王名アトラス」

「継承記録、不安定」

「兄弟名義接続、残存」

「沈没王宮記録、過負荷」

「補完により安定化可能」

 

 ギルガメッシュの表情が変わった。

 

 わずかに。

 

 だが、その場の空気が凍るほどの変化だった。

 

「その領域に触れるな」

 

 レヴィアタンは淡々と答える。

 

「観測者の命令権限、照合不能」

 

「命令ではない」

 

 ギルガメッシュの背後に、黄金の門が開く。

 

「裁きだ」

 

 宝具の影が黒い海へ放たれる。

 

 剣。

 槍。

 鎖。

 王の蔵から放たれる原典の光。

 

 それらは黒い王宮へ殺到した。

 

 だが、レヴィアタンは避けない。

 

 黒い海が沈む。

 

 深さが増す。

 

 宝具の到達までの距離が、無限に引き伸ばされる。

 

 届かないのではない。

 届くという結果が、保管されている。

 

 ネモが叫ぶ。

 

「まずい、攻撃の“到達”を止めてる!」

 

「ちっ」

 

 ギルガメッシュが舌打ちする。

 

「不愉快な海だ」

 

「海ではない」

 

 アトラスが言った。

 

 その声は、まだ戻っている。

 

「岸を持たぬ滞留だ」

 

「ならば戻れ、大洋王」

 

 ギルガメッシュの声が飛ぶ。

 

「おのれの名ごと、戻れ」

 

 アトラスは答えようとした。

 

 だが、黒い糸が先に動いた。

 

 玉座と影の間に入り込み、アトラスとエウメロスの輪郭を引き離す。

 

 その瞬間、アトラスの口から声が消えた。

 

 血が落ちる。

 

 落ちた血は流れない。

 

 黒い王冠へ吸い寄せられ、赤い光として灯る。

 

 続けて、紺碧の光。

 

 城塞の欠片。

 

 その次に、白い光。

 

 星図の反射。

 

 そして、さらに薄い光。

 

 名の輪郭。

 

 ネモの端末が警告を鳴らす。

 

「個体名データが抜かれてる!」

 

 立香の顔から血の気が引く。

 

「個体名って……」

 

「エウメロスの方だ!」

 

 黒い王冠の内側で、小さな文字にもならない光が瞬いた。

 

 レヴィアタンが告げる。

 

「個体名断片、取得」

「王名補完に利用可能」

 

「ちがう!」

 

 ボイジャーが叫んだ。

 

 いつもの柔らかさが、声から少し消えていた。

 

「なまえは、うめるものじゃない!」

 

 レヴィアタンの影が、ボイジャーへ向く。

 

「発話内容、照合不能」

 

「よぶものだよ!」

 

 ボイジャーの星の光が強くなる。

 

「とおくからでも、よぶもの!」

 

 黒い糸がボイジャーへ向かう。

 

 マシュが盾を叩き込む。

 

「させません!」

 

 衝撃が黒い糸を潰す。

 

 ギルガメッシュの鎖がその残滓を縛る。

 

 立香が叫ぶ。

 

「アトラス! 聞こえてる!?」

 

 アトラスは動かない。

 

 動けないのではない。

 

 動く基準を奪われている。

 

 王宮の幻視の中で、アトラスという王名が玉座へ引かれていく。

 エウメロスという個体名が、黒い海へ沈められていく。

 

 どちらも彼女だ。

 

 どちらも彼女であるはずだ。

 

 だが、レヴィアタンはそれを許さない。

 

 王名は王名として補完しようとする。

 個体名は個体名として保管しようとする。

 継承を接合不全と呼び、統合を未整理と診断し、裂いて、整えようとする。

 

 アトラスの手から、槍がわずかに滑る。

 

 マシュが目を見開く。

 

「槍が……!」

 

 アトラスは握り直そうとする。

 

 だが、指が遅れた。

 

 一拍ではない。

 

 もっと長い。

 

 黒い海が、思考と身体の間にも入り込んでいる。

 

 レヴィアタンの診断が沈む。

 

「王名アトラス、抽出準備」

「個体名エウメロス、保管準備」

「分離後、安定化」

「補完完了予測、上昇」

 

 ギルガメッシュが一歩踏み出す。

 

 その足元の黒い海が、深く沈む。

 

 岸が、海へ沈められようとしている。

 

 ギルガメッシュは止まらなかった。

 

 黄金の光が黒い水圧を押し返す。

 

「雑種が」

 

 低い声。

 

「王の名を札のように扱うか」

 

 レヴィアタンは答える。

 

「名は識別情報である」

「識別情報は保管可能である」

 

「違う」

 

 ギルガメッシュが言った。

 

「名は来歴の器だ」

 

 その声は、アトラスへ届いた。

 

 ほんの一瞬。

 

 黒い海の奥で、アトラスの瞳が揺れる。

 

 来歴。

 

 それは、単なる記録ではない。

 

 兄の名。

 継いだ王名。

 沈めた国。

 残した歌。

 呼ばれた声。

 己で選び直した裁定。

 

 それらは、欠落を埋めるための部品ではない。

 

 だが、言葉にならない。

 

 黒い糸が、王名と個体名の間へさらに深く沈む。

 

 痛みではない。

 

 いや、痛みでもある。

 

 けれど、それ以上に、方向が消える。

 

 どちらへ戻ればいいのか。

 王宮か。

 生身か。

 王名か。

 個体名か。

 

 どちらも己だ。

 

 なのに、どちらかを選ばなければ存在できないように、深淵が圧をかけてくる。

 

 アトラスの唇が動く。

 

「王名と、個体名は」

 

 声が途切れる。

 

 黒い糸が胸元から喉へ、見えない形で伸びた。

 

 言葉の出口を測るように。

 

「分離、対象では」

 

 再び、途切れる。

 

 立香は叫びたいのを堪えた。

 

 懇願ではなく、指示を出す。

 

「ネモ、航路を声に寄せて! ボイジャー、歌える?」

 

「うたう」

 

 ボイジャーは即答した。

 

 アトラスの命令を待つべきだった。

 

 けれど、今は立香が命じた。

 

「歌って! ただし短く、止められたらすぐ退いて!」

 

「うん!」

 

 ボイジャーが息を吸う。

 

 星詠みの詩。

 

 原型ではない。

 

 カルデアの廊下で歌った、少し変わった旋律。

 

 終わるはずの音が、少しだけ長い。

 沈むはずの音が、浮いて揺れる。

 終止部が違う。

 

 それでも、歌。

 

 ボイジャーの声が黒い海に落ちる。

 

 黒い海はその音を保管しようとする。

 

 だが、音は流れた。

 

 ネモの航路に乗って、細い光の線になる。

 

 マシュの盾がその周囲を守る。

 

 ギルガメッシュの鎖が流路を固定する。

 

 立香が魔力を繋ぐ。

 

 歌が、アトラスの足元まで届く。

 

 アトラスの指が槍を握り直した。

 

「……星詠みの詩」

 

 彼女は言った。

 

 かすかな声だった。

 

 それでも、声だった。

 

 レヴィアタンの王冠が反応する。

 

「変奏音源を確認」

「欠落を再確認」

「補完対象」

 

「ちがう!」

 

 ボイジャーが叫ぶ。

 

「まちがってない!」

 

 黒い糸が一斉にボイジャーへ向かう。

 

 マシュが盾を構えて前へ出る。

 

「通しません!」

 

 盾と糸が衝突する。

 

 衝撃で、黒い海に波が立つ。

 

 小さい。

 

 だが、確かに流れた。

 

 アトラスはその音を聞いた。

 

 歌われた歌。

 変わった歌。

 それでも届いた歌。

 

 欠落ではない。

 

 損耗か継承か、まだ分類は完全ではない。

 

 だが、少なくとも。

 

 回収対象ではない。

 

「レヴィアタン」

 

 アトラスが言った。

 

 初めて、敵へ向かって名を呼んだ。

 

 黒い影が、彼女へ向く。

 

「汝は、読まぬ」

 

 アトラスの声は掠れている。

 

 だが、言葉が戻っている。

 

「由来を、読まぬ」

「継承を、読まぬ」

「変奏を、読まぬ」

 

 黒い糸が震える。

 

「照合を継続」

 

「読む気がないなら」

 

 アトラスの瞳が、海水に血を溶かしたように光る。

 

「己(おれ)に触れるな」

 

 紺碧の城塞が、内側から再び展開する。

 

 完全ではない。

 

 傷ついている。

 遅れている。

 剥離の痕が残っている。

 

 それでも、立ち上がる。

 

 王宮外壁が、黒い糸を押し返す。

 

 王名と個体名の間に入り込んだ糸が、一瞬だけ浮く。

 

 アトラスは槍を振るった。

 

 紺碧の刃が、幻視の黒い玉座を裂く。

 

 王冠が揺れる。

 

 黒い王宮の輪郭が崩れる。

 

 立香が叫ぶ。

 

「今!」

 

 マシュが盾を打ち込む。

 ネモの航路が押し上げる。

 ギルガメッシュの鎖が黒い王冠を縛る。

 ボイジャーの歌が一音、強くなる。

 

 アトラスは、その一瞬に己の名を掴もうとした。

 

 アトラス。

 

 エウメロス。

 

 どちらも己。

 

 そう言おうとした。

 

 だが。

 

 レヴィアタンの王冠が、黒く光った。

 

「深淵回収、第三層へ移行」

「王名抽出を優先」

「個体名保管を並行」

 

 黒い海が爆ぜた。

 

 流れではない。

 

 圧力。

 

 深さそのものが、上から落ちてくる。

 

 マシュの盾が弾かれる。

 

「くっ……!」

 

 ネモの航路が折れる。

 

「航路、維持できない!」

 

 ボイジャーの歌が途切れる。

 

「……っ」

 

 ギルガメッシュの鎖が黒い水圧に沈む。

 

 それでも、彼は膝をつかない。

 

 だが、届かない。

 

 黒い糸が、アトラスの胸元へ集中する。

 

 王宮外壁の剥離痕。

 王名接合部。

 個体名の輪郭。

 

 すべてが、一点で重なる。

 

 アトラスの口から、息が漏れた。

 

 槍の柄が、血に濡れた手から滑る。

 

 今度は、握り直せなかった。

 

 三叉槍が黒い海へ落ちる。

 

 音はなかった。

 

 落下音すら、保管された。

 

 立香の呼吸が止まる。

 

「アトラス!」

 

 アトラスの膝が、黒い海に触れた。

 

 初めて。

 

 完全ではない。

 片膝だけ。

 だが、膝をついた。

 

 黒い王冠に、赤い光が灯る。

 紺碧の光が灯る。

 音のない光が灯る。

 

 そして。

 

 もうひとつ。

 

 名になりきらない、薄い光が灯った。

 

 レヴィアタンが告げる。

 

「個体名断片、追加取得」

「王名アトラス、補完準備」

「エウメロス、保管準備」

 

 ギルガメッシュの瞳が、怒りに細くなる。

 

 立香は喉の奥で声を殺した。

 

 マシュが立ち上がろうとする。

 

 ネモが航路を再形成しようとする。

 

 ボイジャーが震える声で、歌の続きを探す。

 

 黒い海は、全てを同じ深さへ沈めようとしていた。

 

 王名も。

 個体名も。

 血も。

 城塞も。

 歌も。

 

 その中心で、アトラスは膝をついている。

 

 海水に血を溶かしたような瞳から、星の反射が薄れていた。

 

 黒い糸が、彼女の内側で何かを裂こうとしている。

 

 アトラスの唇が動いた。

 

 最初の音は、言葉にならなかった。

 

 次の音も、裁定にはならなかった。

 

 それでも、彼女は声を出した。

 

「己を」

 

 黒い糸が締まる。

 

「分けるな」

 

 その声は、王の命令ではなかった。

 

 裁定としては、まだ足りない。

 

 分類としても、未完成だった。

 

 けれど、本人の声だった。

 

 エウメロスでもあり。

 

 アトラスでもある者の。

 

 分けられかけたまま、それでも分けられることを拒む声。

 

 レヴィアタンは答える。

 

「拒絶を確認」

「未整理境界の反応である」

「補完を継続する」

 

 黒い王冠が、さらに深く輝いた。

 

 アトラスの背後で、玉座の影が開く。

 

 エウメロスの輪郭が、黒い海へ沈む。

 

 アトラスの王名が、王冠へ引かれる。

 

 その時。

 

 岸から、黄金の声が響く。

 

「――」

 

 まだ名は届かない。

 

 届く寸前で、黒い海がその声を押し潰そうとしている。

 

 だが、ギルガメッシュは口を開いていた。

 

 深淵の底で。

 

 岸のない海の上で。

 

 沈まぬ王が、その名を呼ぼうとしていた。




前日譚の『The Reaching Shore――届かせるもの――』も連載中です。
https://syosetu.org/novel/420096/

この作品の興味をもったところは?

  • アトラスのキャラクター性・内面
  • ギルガメッシュとの関係性
  • 王としての在り方・王権のテーマ
  • ストーリーの展開
  • その他
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