The Reversed Star――逆位置の星―― 作:ほいみん
※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。
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黒い海が、全員の足元で沈んでいく。
レヴィアタン・ノクスは、深淵の奥から身を起こしていた。
蛇のように長く。
鯨のように重く。
王冠を戴く、岸なき滞留そのもののように。
その輪郭に、はっきりとした形はない。
見る角度によって、海そのものにも、巨大な獣にも、沈んだ王にも見える。
ただ、珊瑚の王冠だけが、黒い光を帯びて揺らがずに浮かんでいた。
そこに灯る光。
赤。
紺碧。
音のない星。
名になりきらない薄い光。
アトラスから奪われたもの。
星詠みの詩から回収されたもの。
城塞の内側から掬い取られたもの。
まだ、戻っていない。
アトラスは槍を構えたまま、それを見ていた。
肩から血が流れている。
胸元の外装には赤が滲んでいる。
王宮外壁は軋み、王名接合部には剥離の痕が残っている。
それでも、立っている。
完全ではない。
だが、立っている。
レヴィアタンの診断が、黒い海へ沈むように響いた。
「肉体損耗」
「王宮外壁破損」
「王名接合部、不安定」
「個体名断片、欠落」
「星詠みの詩、変奏」
「宝具、未開放」
「補完を推奨」
淡々とした列挙。
裁きではない。
嘲笑でもない。
ただ、診断。
それが、最も冷たかった。
立香が拳を握る。
「勝手に……」
「マスター」
アトラスが制した。
声は掠れている。
けれど、途切れない。
「事実を含む」
立香は息を呑む。
「アトラス」
「肉体は損耗した」
アトラスは言った。
「王宮外壁は破損した」
「王名接合部は不安定だ」
「個体名断片の一部は、未返還」
「星詠みの詩は原型と異なる」
「火天八紘は、開いていない」
レヴィアタンの王冠が、わずかに光を増す。
「損耗の自認を確認」
「補完受容の前段階」
「ほざけ」
ギルガメッシュが言った。
だが、アトラスは手を上げた。
「己(おれ)が答える」
ギルガメッシュは口を閉じた。
不満げではない。
ただ、岸のように立っている。
アトラスは黒い深淵を見据えた。
「それらは事実だ」
槍の穂先が、黒い海へ向く。
「だが、結論が違う」
レヴィアタンは沈黙する。
沈黙の形で、続きを促している。
「損耗は、否定理由ではない」
黒い海が、わずかに軋んだ。
「破損は、存在の取消ではない」
「変奏は、欠落と同義ではない」
「未開放は、未完成の証明ではない」
アトラスの声は大きくない。
血も止まっていない。
けれど、その言葉は、黒い水圧に沈まなかった。
ネモが端末を見て息を吐く。
「航路が……少し戻ってる」
マシュが盾を構えたまま頷く。
「アトラスさんの言葉に、流路が反応しています」
ボイジャーは胸の前で手を握り、アトラスを見ている。
レヴィアタンは答えた。
「不完全を確認」
「不完全は補完対象である」
「誰が決めた」
立香の声だった。
怒りを抑えた、人間の声。
「不完全だから直さなきゃいけないって、誰が決めたの」
レヴィアタンは、立香を見なかった。
黒い海の奥で、珊瑚の王冠だけが光る。
「完全であることは、保管の条件である」
「完全ならざるものは、保管に値しない」
「故に、補完する」
その論理は、破綻していなかった。
ただ、誰の許可も求めていなかった。
立香の目が、静かに怒りを帯びる。
「保管されたいなんて、誰も言ってない」
レヴィアタンは答えない。
ただ、診断を続ける。
「マスター個体」
「損傷歴あり」
「精神負荷あり」
「判断揺らぎあり」
「補完対象候補」
立香の目が細くなる。
「わたしまで、直すつもり?」
レヴィアタンは答えない。
黒い糸は、さらに広がる。
盾へ。
航路へ。
歌へ。
「防衛個体、疲弊を確認」
「航行個体、航路不安定」
「星間探査個体、原型逸脱」
「補完対象候補」
マシュが盾を構える。
ネモが歯を噛む。
ボイジャーの星の光が、一瞬だけ揺れた。
アトラスの城塞が、その前へ静かに滑り込む。
「汝の対象ではない」
レヴィアタンは答える。
「全ての欠落は補完対象である」
黒い海が広がる。
アトラスだけではない。
立香の足元へ。
マシュの盾の影へ。
ネモの航路へ。
ボイジャーの歌へ。
ギルガメッシュの鎖の固定点へ。
黒い糸が伸びる。
それぞれの傷、揺らぎ、不完全さ、終わっていない部分へ。
欠けているものを探す。
修正できるものを探す。
原型へ戻せるものを探す。
保管できるものを探す。
アトラスは、それを見た。
己だけではない。
この深淵は、誰の不完全も許さない。
変わった声も。
疲れた盾も。
揺らぐ航路も。
傷ついた人間も。
届かない鎖も。
すべてを欠落と呼ぶ。
それならば。
アトラスは、槍を握り直した。
「完成を名乗るな」
アトラスの声が、黒い海を渡った。
レヴィアタンの動きが止まる。
「照合不能」
「汝の保管は、完成ではない」
アトラスは槍を握り直す。
「停滞だ」
黒い海の底で、深淵が軋んだ。
アトラスの内側に、ひとつの記録が沈まずに残っていた。
黒い海ではない。
焼けた都市。
折れた城壁。
疲弊した兵。
終わりへ向かう人々。
ウルク。
終わる都市。
完全ではなかった。
傷ついていた。
欠けていた。
壊れていた。
多くを失い、戻らないものを抱えていた。
だが、都市だった。
終わる瞬間まで、都市だった。
人が走り、守り、笑い、叫び、働き、戦い、死んでいった。
壊れていた。
不完全だった。
だが、尊厳は失われていなかった。
沈めれば残らなかった。
保管すれば、終われなかった。
あれは、欠落ではなかった。
終わるものが、終わる瞬間まで己であった記録。
その記録が、今、刃になる。
アトラスは言った。
「かつて、己は終わる都市の記録を見た」
ギルガメッシュが目を細める。
その名は出さない。
それでも、彼には届いていた。
「傷つき、欠け、崩れていた」
「完全ではなかった」
「保管性も低かった」
「効率も悪かった」
「損耗は大きかった」
レヴィアタンの王冠が反応する。
「補完対象」
「違う」
アトラスは即座に否定した。
「それでも、否定されるべきものではなかった」
黒い海の水面に、割れた鏡のような線が走る。
「終わるものが、終わる瞬間までおのれであること」
「変わるものが、変わりながら届くこと」
「傷ついたものが、傷ついたまま立つこと」
アトラスの槍が、黒い海へ沈むことなく光った。
「それらを欠落と呼ぶなら」
彼女は、レヴィアタンを見据えた。
「汝は、存在を読めていない」
ギルガメッシュが低く笑った。
「よく宣ってみせる」
「記録の使用だ」
「よい。貴様の刃だ」
レヴィアタンの診断が乱れる。
「不完全」
「損耗」
「欠落」
「補完」
「保管」
「完全」
同じ語が、黒い海に何度も浮かび、沈み、また浮かぶ。
だが、それらは噛み合わない。
アトラスの言葉が、レヴィアタンの分類表に入らない。
「なぜ拒む」
初めて、診断ではない問いに近いものが届いた。
「欠けている」
「損なわれている」
「完全ではない」
黒い王冠が、深く光る。
「なぜ拒む」
アトラスは答えた。
「完全ではないものを、否定する理由にはならぬ」
その言葉に、ボイジャーが小さく息を呑む。
ネモの航路が一本、黒い海の上に伸びる。
マシュの盾に、紺碧の光が反射する。
立香が顔を上げる。
ギルガメッシュは黙っている。
アトラスは続けた。
「欠落は、王性の否定ではない」
「損耗は、名の取消ではない」
「変奏は、歌の死ではない」
「傷は、存在の失効ではない」
レヴィアタンの王冠に灯る光が揺らぐ。
赤。
紺碧。
音のない星。
名になりきらない薄い光。
それらを保管物として固定しようとする黒い珊瑚に、細い亀裂が走る。
「保管状態、不安定」
「補完経路、再構築」
「不完全状態、継続」
「継続してよい」
アトラスは言った。
レヴィアタンが沈黙する。
「不完全状態を、継続してよい」
その言葉は、アトラス自身にも向けられていた。
血が流れている。
城塞は軋んでいる。
王名接合部には剥離の痕がある。
取り戻せていない欠片がある。
星詠みの詩は原型のままではない。
火天八紘はまだ開いていない。
それでも。
今、完全である必要はない。
今、完全でないからといって、回収される理由にはならない。
黒い王冠が、再び光った。
先ほどとは違う光。
診断対象が変わる。
「星、反転状態」
「正常位置への補正、可能」
空気が、わずかに凍る。
その診断は、水底で光り続けた星の位置を、異常として読んだ。
逆位置の星。
水底で光る希望。
沈んだまま、消えなかったもの。
アトラスは、静かに槍を握り直した。
「棄却する」
声は低い。
だが、揺れない。
「己は、正位置ではない」
レヴィアタンの王冠が瞬く。
「反転状態」
「補正可能」
「逆位置は、欠落ではない」
黒い海の水面に、また亀裂が走った。
レヴィアタンは沈黙する。
理解した沈黙ではない。
照合できない沈黙。
「補正を棄却する」
アトラスは告げた。
「己は、逆位置の星のまま光る」
その言葉は、叫びではなかった。
宣言でも、願いでもない。
裁定だった。
アトラスは一歩進んだ。
黒い海が足元で沈もうとする。
だが、ネモの航路が支える。
「アトラス、右へ二歩! そこなら流路が保つ!」
「了解」
マシュが盾を構える。
「回収糸、来ます!」
「防げ」
「はい!」
ボイジャーが星詠みの詩を口ずさむ。
変奏した旋律。
黒い海がその音を欠落として捕えようとする。
アトラスの城塞が、その前へ立つ。
「補完対象ではない」
紺碧の壁が、黒い糸を弾いた。
ギルガメッシュの鎖が、王冠へ伸びる。
「大洋王」
「何だ」
「言ったな。不完全で構わぬと」
「正確には、不完全を否定理由にするな、だ」
「面倒な王だ」
「お前ほどではない」
ギルガメッシュが笑う。
「ならば証明してみせよ」
アトラスは答えない。
答える代わりに、槍を構えた。
レヴィアタンの王冠に灯る光。
取り戻すべき欠片。
だが、ただ奪い返すだけでは足りない。
レヴィアタンはまだ、完全という名の停滞を掲げている。
その王冠を砕かなければ、深淵はまた欠落を探す。
アトラスは息を吸った。
「レヴィアタン・ノクス」
裁定の相手として、その名を呼ぶ。
黒い深淵が応じるように揺れる。
「汝は、深淵の回収者を名乗るか」
「欠落を回収する」
「汝は、滞りの王を名乗るか」
「保管は完全である」
「ならば裁定する」
アトラスの瞳が、血を溶かした海の色に光る。
「汝は王ではない」
黒い海が大きく震えた。
「照合不能」
「王は、己の民を読む」
ギルガメッシュが動かない。
だが、その赤い目が、アトラスを見ている。
「王は、己が抱えるものの由来を読む」
「傷を傷として読む」
「変奏を変奏として読む」
「終わりを終わりとして読む」
アトラスの声が深くなる。
「汝は読まぬ」
「測るだけだ」
「数えるだけだ」
「戻すだけだ」
黒い王冠に、さらに亀裂が入る。
「読みもしないものを保管し、完成を名乗るな」
黒い海全体が、一度だけ完全に静止した。
レヴィアタンの影が、初めて明確に歪んだ。
怒りではない。
悲鳴でもない。
分類不能。
それに近い、深淵の軋み。
「不完全」
「不完全」
「不完全」
同じ語が繰り返される。
アトラスは静かに返した。
「そうだ」
レヴィアタンが止まる。
「己は不完全だ」
立香がアトラスを見る。
アトラスは目を逸らさない。
「肉体は損耗した」
「城塞は破損した」
「王名接合部は不安定だ」
「記録には欠落がある」
「星詠みの詩は変奏した」
「火天八紘は開いていない」
黒い海が、その列挙を喰らおうとする。
アトラスは続けた。
「それでも、己は回収対象ではない」
槍の穂先に、紺碧の光が集まる。
「己は保管物ではない」
光が、王冠へ伸びる。
「完成を名乗るな」
紺碧の一撃が、黒い王冠を打った。
割れる音がした。
それは珊瑚の砕ける音ではなかった。
保存され続けた記録に、初めて風が入る音だった。
赤い光が、王冠から零れる。
紺碧の欠片が、外へ流れる。
音のない星が、ボイジャーの歌に触れて震える。
名になりきらない薄い光が、アトラスの胸元へ戻ろうとする。
レヴィアタンが叫ばない。
ただ、診断を繰り返す。
「保管状態、不成立」
「補完経路、破損」
「欠落、流出」
「欠落、流出」
「欠落、流出」
「欠落ではない」
アトラスが言った。
戻る光へ、手を伸ばす。
すべては戻らない。
完全には戻らない。
だが、流れる。
流れて、届く。
それでいい。
今は、まだ。
レヴィアタンの影が、黒い海の奥で身をよじる。
王冠の亀裂から、さらに黒い糸が噴き出した。
ネモが叫ぶ。
「まだ来る! 王冠、壊れきってない!」
マシュが盾を構える。
「迎撃します!」
ギルガメッシュが黄金の門を開く。
「ようやく見苦しくなったな、保管庫」
レヴィアタンの診断が、低く沈む。
「完全性、損傷」
「回収条件、再設定」
「対象拡大」
黒い海全体が、震える。
ただアトラスを回収するのではない。
星詠みの詩の変奏。
ボイジャーの歌。
ネモの航路。
マシュの盾。
立香の指示。
ギルガメッシュの声。
アトラスの名。
この場に生じた、すべての流れ。
すべての変化。
すべての不完全な連携。
それらをまとめて欠落として回収しようとしている。
レヴィアタンの王冠が、割れたまま黒く輝く。
「深淵に還すもの」
その言葉が、黒い海に沈んだ。
沈んだはずだった。
だが、次の瞬間、海そのものが空へ落ちた。
上ではない。
下でもない。
空が、底になった。
頭上にあった黒い水面が、音もなく開く。
そこに星はなかった。
天井もない。
ただ、底だけがあった。
見上げているのに、沈んでいる。
立っているのに、落ちている。
息を吸えば、肺の内側に、冷たい水圧が満ちた。
声を出そうとすれば、言葉になる前に黒い海へ沈んだ。
足元の海は床ではなく、頭上の空は空ではない。
全方位が、深さになっていた。
ネモの顔色が変わる。
「宝具反応!」
端末の表示が一斉に反転する。
航路が上下を失う。
座標が深度だけになる。
距離が、時間ではなく沈降量で測られていく。
「まずい……これ、海域じゃない!」
ネモの声に、初めて焦りが混じった。
「深淵そのものが、宝具として展開されてる。岸も航路も、全部“底”に変換される!」
マシュが盾を構える。
けれど、盾の縁から黒い滴が上へ落ちた。
上へ。
落ちた。
「重力方向、反転……いえ、違います! 方向そのものが消えています!」
ボイジャーの歌が途切れかける。
小さな星の声が、黒い水圧に押され、音になる前に薄れていく。
立香が叫ぶ。
「ボイジャー!」
だが、自分の声もまた、半ば沈んだ。
届かない。
声が、届く前に回収されている。
ギルガメッシュの鎖が走る。
黄金の鎖は確かに伸びた。
伸びたはずだった。
だが、鎖の先端が距離を稼ぐより早く、黒い深度がそれを呑み込む。
届くという結果が、底へ落とされる。
ギルガメッシュの赤い目が細くなる。
「小癪な」
ダ・ヴィンチの通信がノイズ混じりに叫ぶ。
『全員、防御態勢! 来るよ、これは深淵領域そのものを開く宝具だ!』
黒い海が、空へ向かって沈み続ける。
マシュの盾も。
ネモの航路も。
ボイジャーの歌も。
立香の指示も。
ギルガメッシュの声も。
アトラスの名も。
すべてが、同じ深さへ落とされようとしていた。
違いをなくすために。
由来を読ませないために。
変化を止めるために。
未来へ届く前に、保管するために。
王冠の亀裂から、黒い糸が無数に噴き出す。
それは槍ではない。
刃でもない。
縫合糸ですらない。
目録だった。
ひとつひとつの声に番号を振り、
ひとつひとつの傷に名称を与え、
ひとつひとつの変奏を誤差として記録し、
ひとつひとつの名を、保管棚へ戻そうとする。
レヴィアタン・ノクスの声が、深淵の奥から響いた。
「Leviathan Recollection」
黒い海が、世界を閉じた。
岸も、航路も、声も、名も、歌も。
すべてを同じ深さへ落とすために。
アトラスは槍を構え直した。
完全ではない。
肩から血が流れている。
胸元の外装は赤く濡れている。
王宮外壁は軋み、取り戻せていない欠片が王冠に残っている。
それでも、裁定は終わっていない。
「不完全を否定理由にするな」
彼女は言った。
声は水圧に削られた。
だが、消えなかった。
「次は」
紺碧の城塞が、傷ついたまま開く。
閉じるためではない。
流すために。
「回収そのものを棄却する」
黒い深淵が、完成を名乗ろうとしていた。
この作品の興味をもったところは?
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アトラスのキャラクター性・内面
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ギルガメッシュとの関係性
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王としての在り方・王権のテーマ
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ストーリーの展開
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その他